日本輸血細胞治療学会誌
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最新号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 酒井 和哉, 松本 雅則
    2024 年 70 巻 4 号 p. 485-491
    発行日: 2024/08/26
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー

    血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)は稀な致死的血栓症である.後天性TTPはADAMTS13自己抗体の産生によって発症する.新鮮凍結血漿(Fresh Frozen Plasma:FFP)を置換液とした血漿交換およびコルチコステロイドの併用は標準治療として,患者の生命予後改善に大きく貢献した.von Willebrand factor(VWF)A1ドメインに対するナノボディ製剤であるカプラシズマブは血小板GPIbとVWF A1の結合を阻害するTTP治療薬である.標準療法との併用で速やかな血小板数の改善のみならず,急性期血栓イベントの予防効果をPhase II/III統合解析で示した.患者の中には,宗教上の理由での輸血の拒否,FFPによるアナフィラキシー症状などを理由に血漿交換を実施できない場合がある.これらの事例において,カプラシズマブと免疫抑制療法の併用によって,治療の根幹と考えられている血漿交換を行うことなく寛解に到達した症例が報告されている.現在血漿交換を行わない後天性TTP治療について国際共同試験が実施中である.

  • 大戸 斉, 内川 誠, 安田 広康
    2024 年 70 巻 4 号 p. 492-498
    発行日: 2024/08/26
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー

    赤血球膜上に極少数のD抗原が表出しているDELのうち,full length D抗原を保持するアジア人型DEL(RHD*DEL1,c.1227G>A)について知見が東アジアで集積している.D陰性者へアジア人型DEL赤血球輸血すると稀に抗Dが産生されることがある.逆にアジア人型DEL者がD陽性血輸血を受けても抗Dは産生されず,DEL妊産婦では抗Dは原則産生されない.

    D陰性と暫定判定された輸血予定者では緊急時を除き,日本では抗D反応後にD陰性確認試験(間接抗グロブリン試験)を実施し,可能な限り抗D吸着解離試験(anti-D adsorption and elution test)も行っている.以下を提案する.1.C抗原検査を導入し,D-C-(dccee,dccEE,dccEe)の妊婦および将来妊孕可能女性には,「真のD陰性」(抗D吸着解離試験陰性あるいはRHD*DEL1遺伝子陰性),またはD-C-輸血製剤を準備する.2.D陰性確認試験と抗D吸着解離試験が未実施でも,緊急時は暫定D陰性の妊産婦と妊孕可能女性,抗D保有患者には「真のD陰性」,またはD-C-輸血製剤を用意する.3.抗Dを保有していない暫定D陰性の男性と閉経後女性には通常のD陰性製剤(C抗原陽性も可)を準備するのが現実的である.4.妊娠女性のD抗原感作予防に用いられるRhIGは「真のD陰性」,またはD-C-女性に限定すべきである.この方針によって,D抗原感作を予防すべき将来妊孕可能と妊娠女性に「真のD陰性」製剤とRhIGを優先供給が保持できる.

短報
  • 山崎 理絵, 越川 翠, 藤沼 優樹, 稲垣 利紗, 上岡 天湖, 坂井 聖子, 大石 知, 伊藤 太助, 平林 則行, 松橋 博子, 五十 ...
    2024 年 70 巻 4 号 p. 499-501
    発行日: 2024/08/26
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー

    採取ポート内血小板凝集により十分なリンパ球が採取出来ず再アフェレーシスとなった1例を経験したため報告する.症例は74歳女性.びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対してキムリア実施の方針となり,リンパ球採取目的で入院となった.ブラッドアクセスカテーテルを挿入し,スペクトラ オプティア,CMNCモードでリンパ球を採取した.採取後1時間で採取中間産物の細胞数を測定したところ,ANC:2,350/μl,CD3陽性リンパ球:603/μlと採取不良が判明した.終了後回路を確認すると,凝集塊を採取ポートに認め,これによる部分閉塞が原因と考えられた.翌日AC比を変更して再採取を実施し,十分量のリンパ球が採取出来た.リンパ球採取においては,インターフェイスを注意深く観察し,通常と異なる動きがある場合には,凝集塊発生の可能性を念頭に採血AC比を調整し迅速に対応する.中間産物の細胞数の確認は,適切に採取が進行していることを確認する手段として有効である.

症例報告
  • 蓮沼 秀和, 石田 智子, 大滝 皓生, 岩下 洋一, 町田 保, 中尾 三四郎, 野中 みづき, 鈴木 沙耶香, 高島 明子, 川瀬 泰浩 ...
    2024 年 70 巻 4 号 p. 502-508
    発行日: 2024/08/26
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー

    不規則抗体による胎児新生児溶血性疾患(Hemolytic Disease of the Fetus and Newborn:HDFN)では抗体価とIgGサブクラスの違いにより重症度は異なる.今回当院では抗E:128倍の妊婦より出生した児について,遅発性に溶血性貧血が進行し,生後11日目に赤血球輸血が施行され一度はHb値の改善を認めたものの51日目までに再び貧血が進行した症例を経験した.本症例について母児のIgGサブクラス解析と単球貪食試験,輸血後の児の赤血球量を経時的に測定し病態との関係について検討を行った.

    解析結果から母児共にIgG1型の抗Eが検出され,単球の貪食率については低値を示していた.輸血直後の児の赤血球量は全体の約28%まで低下していたが,51日目では約50%まで増加していた.

    本症例において遅発性に溶血が進行した理由として,IgG1型の抗Eであり単球の貪食率が低値であった事が考えられた.また輸血後に再度貧血を生じたのは産生された児の赤血球に対し残存していた抗Eが反応した事などが考えられた.

    高力価IgG1型の抗体によるHDFNでは長期的な経過観察の必要性があり,不規則抗体のIgGサブクラス解析はHDFNの病態推察の一助となる可能性が示唆された.

  • 山口 公平, 間山 恒, 石黒 陽, 鎌田 耕輔, 櫻庭 裕丈, 久保 恒明, 玉井 佳子
    2024 年 70 巻 4 号 p. 509-514
    発行日: 2024/08/26
    公開日: 2024/09/06
    ジャーナル フリー

    免疫学的機序による血小板輸血不応状態(platelet transfusion refractory:PTR)はヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)に対する同種抗体が主要因で血小板特異抗原(human platelet antigen:HPA)への同種抗体の関与は稀である.今回,抗HPA-5a抗体によるPTR合併急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)を経験した.症例は38歳女性.初回輸血時から血小板輸血に反応不良で,抗HLA抗体は認めず抗HPA-5a抗体のみ検出され同抗体によるPTRと診断.PTR合併造血器腫瘍は予後不良であるがHPA抗原は本人がHPA-5b/b,HLA一致同胞はHPA-5a/aであり第一寛解期での造血幹細胞移植は見合わせた.寛解導入療法2回で完全寛解となり,その後HPA適合血小板輸血とガンマグロブリン静注療法を施行し出血合併症なく治療を完遂した.極めて稀な抗体を保有するPTRでは適合血小板輸血の供給が難しく治療方針にも影響を及ぼす.将来的なiPS細胞由来適合血小板製剤等の開発が望まれる.

温故知新
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