土木学会論文集
Online ISSN : 2436-6021
特集号: 土木学会論文集
79 巻, 17 号
特集号(海岸工学)
選択された号の論文の152件中101~150を表示しています
特集号(海岸工学)論文
  • 神田 泰成, 酒井 大樹, 増田 和輝, 山野 貴司, 小塚 海奈里, 金澤 剛
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17134
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     近年,働き方改革に伴う作業の効率化が課題となっており,捨石均しにおいては重錘式捨石均しが採用されている.しかし,重錘落下に伴う捨石マウンド上の流れによって,天端面の小さな捨石が飛散するなど,作業効率の低下が懸念されている.その対策として,重錘に孔を設けることで発生流速の低減に着目した.本研究では,改良型重錘による重錘式捨石均し時の発生流速に対し,模型実験,数値計算および現地実証で検討し,現象を明らかにすることを目的とした.模型実験による発生流速の計測と,数値計算による検討結果から,重錘底板に設けた孔から上向きに抜ける流れ,水平方向の流れ,透過構造物に浸透する流れに分散されることで,発生流速が低減できることがわかった.また,実施工の現地実証試験においても発生流速が低減することが確認できた.

  • 原田 一宏, 増永 英治, 内山 雄介
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17135
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     海洋における物質輸送について把握することは海洋ゴミの分布や海洋環境の形成を把握する上で重要である.日本海における物質輸送特性を把握するために,領域海洋モデリングシステムと3次元Lagrange粒子追跡を統合し数値実験を行った.粒子は放出地点を対馬海峡とし,放出時期を季節毎に300日間の追跡を実施した.また,粒子追跡結果を公開されている表層ドリフターデータと比較・検証を行った.粒子追跡結果は観測値と同様の輸送時間スケールと水平分布を示し,粒子追跡モデルの適切な再現性が確認できた.冬季と秋季に放出した粒子は広範囲に拡散したが,春季と夏季に放出した粒子は陸地沿いに分布した.粒子は冬季に発達するサブメソスケール渦によって広範囲に輸送されることが分かった.

  • 乳原 材, 内山 雄介, 小硲 大地, 細川 真也
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17136
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     瀬戸内海全域における広域的なアマモ(Zostera marina)生息域の保全に向けて,高解像度海洋流動モデルと浮遊アマモシュート(種子)輸送モデルを用いた長期数値再解析を行った.Lagrange確率密度関数解析を行い,アマモの繁茂状況を考慮したアマモ場間コネクティビティを定量的に評価するとともに,マルコフ連鎖を用いた多世代間コネクティビティ評価モデルを構築し,瀬戸内海の多年生アマモの9年間(9世代)にわたる広域交流特性を解析した.単年(1世代)では湾・灘の内部でのself recruitmentが卓越するものの,世代をまたぐことでアマモシュートは海峡を通過し,遠方へと生息範囲を拡大することを示した.また,来島海峡はシュート輸送に対してpivotのように作用し,瀬戸内海のアマモ生息域を東西に2分することなどを明らかにした.

  • 竹安 希実香, 内山 雄介, 御手洗 哲司
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17137
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     近年,世界的に深刻化するサンゴの白化問題は本邦南西諸島でも顕在化しており,2016年には沖縄本島を含む琉球諸島の多くで大規模白化現象が生じた.これに対して,水温が比較的安定で低温な水深30m〜150mのmesophotic zone(MPZ)のサンゴ生態系は,水温変化が大きく白化が顕著な浅海域のサンゴ遺伝子型の避難域として期待されている.しかしながら,浅海域−MPZ間の生態系リンク構造は十分に解明されていない.そこで本研究では,沖縄本島沿岸のサンゴ礁を対象に多段ネスト高解像度海洋モデルとサンゴ幼生を模したオフラインLagrange粒子追跡モデルを用いた数値解析を行い,浅海域−MPZ間のコネクティビティ評価,幼生放卵期における混合層の鉛直効果と3次元輸送との関係の解明,MPZサンゴ生態系が確認されている沖縄本島西海岸の瀬底島海域におけるサンゴ幼生加入および幼生供給過程の把握を試みた.

  • 出口 博之, 鹿島 千尋, 中谷 祐介
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17138
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     貧酸素水塊の挙動解析には数値モデルを用いた流動・水質計算が有効であるが,波浪が引き起こす鉛直混合を陽的に計算する流動-水質-波浪カップリングモデルが用いられた例はほとんどない.本研究では,大阪湾奥部に位置する神戸港波浪観測塔を対象に,観測結果の分析と流動-水質-波浪カップリングモデルを用いた数値計算を実施し,波浪が溶存酸素(DO)濃度に及ぼす影響を調べた.観測結果の分析からDO濃度の変動特性を把握し,波浪とDO濃度の変動の関連を見出した.数値計算においては,砕波境界層を考慮し,乱流長さスケールの海面境界条件を有義波高から与えることで,DO濃度の再現精度が向上した.また,表層から下層への熱およびDO輸送量が増加したことから,波浪は鉛直混合を強めることで貧酸素化の低減に寄与している可能性が示唆された.

  • 比嘉 紘士, 中村 聖美, 林 宏樹, 岡田 輝久, 中村 由行, 井上 徹教, 鈴木 崇之
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17143
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,閉鎖性水域である東京湾を対象に,硫化物・鉄・マンガン循環に着目して流域河川及び湾内における現地観測及び3次元浮遊系−底生系結合モデルによる数値解析を行った.河川の負荷量調査により,荒川,多摩川におけるFe,Mnの形態別にL-Q式を作成すると共に,それぞれの河川の負荷量を算出した.また,湾内における水中・堆積物分析の結果からは,H2Sが存在する底層無酸素下において,P-Feの増加が確認され,H2SとFe2+との反応による硫化鉄の生成が原因と示唆された.一方でD-MnはORP<-200mVの無酸素下において底泥からの溶出により高濃度化していたことが確認された.3次元浮遊系−底生系結合モデルの解析では,堆積物中のH2Sの過大評価や水中のD-Mnの過小評価といった課題はあるものの,水中のDO,D-Fe,H2S,堆積物中のD-Fe,D-Mnの鉛直分布を概ね再現することができた.

  • 岡田 輝久, 入江 政安
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17144
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     沿岸海域の物質循環解析において,流動水質モデルの物質量の保存は重要な拘束条件である.再現性向上を目的にデータ同化手法を導入する場合,アンサンブル近似による逐次法は導入し易いものの保存性を確保できない一方で,変分法はAdjointコードの作成が必要なことから,頻繁に改良される低次生態系モデルに対してはほとんど適用されていない.そこで本研究では物質保存性を確保しつつ導入のし易いアンサンブル近似による汎用的な手法として,4次元アンサンブル変分法(4DEnVar)を領域海洋モデルROMSに実装し,東京湾を対象に気象観測衛星ひまわり8号による海面水温および定点観測された水温・塩分・クロロフィルa・溶存酸素データの同化実験を通じて4DEnVarの有用性を評価した.今後は各格子点や時間軸に拡張された大次元パラメータの修正に関する検討を進める.

  • 江幡 恵吾, 梶 海聖, 松岡 翠, 袖山 研一, 馬庭 秀士, 瀬戸口 眞治
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17145
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     漂着軽石を固化させた軽石ブロックの海藻類付着特性を明らかにすることを目的とした.高炉セメント,水道水,漂着軽石を重量比1:0.5:2.2で混ぜて軽石ブロックを製作し,2022年11月4日に海面と海底に60個ずつ設置した.浸漬13,27,39,67,88,109日後に軽石ブロックを10個ずつ回収して表面に付着している海藻類の湿重量を測定した.海面に浮かべた軽石ブロックでは浸漬13~39日後でアオノリ属Enteromorpha sp.,浸漬67~109日後ではアオサ属Ulva sp.の付着が確認され,浸漬88日後,109日後の海藻類付着量は海底よりも海面の方が有意に多かった.従来,藻場礁は海底に設置されてきたが,本研究で開発した軽石ブロックのように海面に設置することで,海藻類着生の阻害要因である砂の被覆を回避し,海底に比べて光量の多い海面で海藻類の成長を促進できると考えられた.

  • 大谷 壮介, 中西 美桜, 中西 敬, 斉藤 祐一, 上月 康則
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17146
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究は兵庫運河において,海面のCO2フラックスの24時間調査を実施するとともに,運河に生育する底生微細藻類,植物プランクトン,アマモなどの一次生産者の炭素固定量を定量化し,運河が有する炭素固定機能を評価することを目的とした.4回の24時間調査の結果,CO2は海面において大気から水中に吸収されていた.1日あたりのCO2吸収速度は260~736mgCO2/m2/dayと推定され,植物プランクトンの炭素固定速度とほぼ同程度であった.当該海域における一次生産者である植物プランクトン,底生微細藻類およびアマモの中で,現存量はアマモが最も多く,1日あたりの炭素固定量は植物プランクトンが最も大きかった.一方で,海面のCO2フラックスに及ぼすpHや塩分等の1日の水質変動は小さく,植物プランクトンの光合成に伴う水質変動が顕著に表れなかったことから,運河が有する炭素固定機能が運河内外の海水交換によって維持されていることが示唆された.

  • 大谷 壮介, 山里 輝
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17147
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では汽水域湿地帯における大気(湿地生態系)と水面のCO2フラックスを同時に連続観測することで,日中・夜間を考慮した両CO2フラックスの時間変動を明らかにすることを目的に観測を行った.湿地生態系のCO2フラックスは水面のCO2フラックスと比べて変動が大きく,春から夏にかけて大きな吸収を示した.水面のCO2フラックスは時間変動が小さく,冬を除いてほとんどの時間帯で放出を示した.湿地生態系のCO2フラックスの変動要因は日中において日射量,夜間において鉛直風速が寄与しており,水面のCO2フラックスの変動要因は日中・夜間ともに水温,潮位および堰からの放流量が寄与していた.以上のことより,汽水域湿地帯の湿地生態系と水面のCO2フラックスについて,季節別の日中・夜間における変動特性を気象条件と関連付けて明らかにした.

  • 瀬戸 雅文, 巻口 範人
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17148
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     北海道胆振海岸の白老と苫小牧に整備された人工リーフを対象として,カンムリゴカイ科多毛類による礁が成長する白老地先と,本種が確認されない苫小牧地先で,底質性状を比較したところ,苫小牧地先のシルト・粘土含有率は,白老地先の2.8倍高い値をとった.室内実験を実施して,本種の棲管が底質へ埋没した状態と浮遊砂内における,棲管形成能力と生残率を調べたところ,本種の生残率は,シルト・粘土含有率,埋没深度の増加により有意に低下した.棲管の内部への底質の堆積速度が棲管の伸長速度を上回ると,本種は棲管内で埋没し斃死するものと推測された.砕波帯内における浮遊砂濃度推定式より,本種の生息限界を推定し,苫小牧地先は生息が困難な環境である可能性が示された.

  • 吉田 芽生, 白井 知輝, 榎本 容太, 有川 太郎
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17149
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     マングローブ等の沿岸植生の津波や波浪に対する減衰効果について,種々の波浪条件や地形条件に対して実用的なモデルを構築するには,砕波や乱流などを扱える三次元モデルの開発が重要となるが,計算コストを抑えたモデリング手法の確立が必須となる.吉田ら(2022)は,マングローブを対象とし,Dupuit-Forchheimer則(以下DF則)を用いて,抵抗係数を適切に設定することで,マングローブ樹林の4倍程度の格子サイズでも妥当な計算結果が得られる可能性があることを示した.そこで本研究では,複数の実験ケースを対象に,DF則を適用する際の抵抗係数と数値モデルの格子解像度の違いが波高減衰の再現精度に与える影響について検討することを目的とした.結果,DF則を用いた場合に,マングローブによる波高減衰効果を再現することができた.

  • 中下 慎也, Kyeongmin KIM , 下方 幹治, 溝口 幹太, 日比野 忠史
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17150
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     広島湾奥部における養殖マガキは,近年斃死率が高い状態が続いている.カキの斃死要因としては,高水温・低塩分・餌料不足・競合生物・底泥による酸素消費や硫化水素の発生など様々な要因が検討されているが未だ明確な斃死要因は分かっていない.本研究では,現地実験として5年間継続して深さ方向のカキ斃死率を計測するとともに,1988年から2020年までの広島湾における水温・塩分データ,カキの斃死率等のデータを用いてカキの斃死要因を検討した.

     その結果,水深10m付近では溶存酸素濃度の低下,水深0.5m,5mでは高水温による産卵回数の増加に伴う養殖マガキの体力低下が主な斃死要因であることを明らかにした.また,2000年以降は表層積算水温が高い年には斃死率が高くなることがわかった.

  • 神野 威, 上月 康則, 大谷 壮介, 山中 亮一, 松重 摩耶
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17151
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     緩傾斜石積み護岸に日陰が少なく,生物の分布範囲が小さいという課題に対処する方法を見出すために,夏期に吉野川汽水域の緩傾斜護岸において,日射と潮間帯生物の分布の関係について調査を行った.調査地の南向き護岸の日射量は北向き護岸の約1.4倍で,南向き護岸は日射の影響を強く受け,乾燥しやすく,表面温度が高くなる環境であることがわかった.それに応じて,護岸表面の生物は北向きに比べて南向きでは種数が少なく被度も低かった.一方,護岸隙間では湿潤環境が維持されるため,南向きの護岸であっても表面よりも生物の種数が多く被度も高い上,海藻(イソダンツウ)の生育も可能となっていた.緩傾斜護岸の日射の影響を低減させ,生物多様性を高めるためには,湿潤環境が保持できる隙間構造を適切に設けることが重要であることが示された.

  • 古川 桃子アンナ, 相馬 明郎
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17153
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     播磨灘で漁業被害を引き起こす溶存無態窒素(DIN)濃度の低下対策として,河川からのDIN流入量増加,隣接海域である大阪湾のDIN濃度上昇,二枚貝増加が水質環境に与える効果を春夏秋冬に渡って解析した.本解析は,植物プランクトン4種の生活環を考慮した底生系-浮遊系結合生態系モデルで行った.解析の結果,年間窒素収支でみると,河川からのDIN流入量増加と大阪湾のDIN濃度上昇は,灘外へ流出するDIN量と,灘内で消費するDIN量を増加させた.一方,二枚貝増加は,湾内から灘外へ流出するDIN量と,灘内で生成されるDIN量を増加させた.また,3つの対策はすべて四季を通じてDIN濃度を上昇させ,河川からのDIN流入量増加は,特に兵庫県沿岸表層の夏季DIN濃度を上昇させること,また,二枚貝増加は特に夏・秋季の赤潮軽減の効果が期待されることが明らかになった.

  • 大町 佳史, 相馬 明郎
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17154
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     気候変動緩和機能は,海洋による大気CO2の吸収,吸収した炭素の生物生産による固定,固定した炭素の堆積物深部への貯留の3機能からなり,これら3機能は,大気-水-堆積物に渡る一連の物理・生物・化学過程に支配される.また,生物過程をつかさどる海洋生物は,酸性化により影響を受ける.本研究では,これらを機構的に把握し予測・評価する生態系モデルを東京湾に適用し,都市沿岸域において、RCP8.5シナリオの水温・大気CO2変化に基づき,現代から将来(2000~2100 A.D.)に渡る気候変動緩和機能の経年変化とその要因を解析した.その結果,(1)吸収は全アルカリ度(TA)の増加に伴い2040 A.D.以降増加,(2)固定は動物プランクトンの増加に伴い増加,(3)貯留は炭酸カルシウムの溶解に伴い2060 A.D.以降減少することが明らかとなった.

  • 木村 裕行, Anawat SUPPASRI , 今村 文彦, 高橋 宏樹
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17157
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,未だ確立されていない津波後のアマモ場の回復予測手法について,機械学習を活用した回復予測モデル構築を検討し,対策検討における有用性を調べている.予測モデルは,津波の1~7年後のアマモ場面積の変化率を目的変数とし,津波前及び津波直後のアマモ場面積,海域環境情報などを説明変数とした.松島湾における2011年東日本大震災以降のアマモ場分布情報から,ニューラルネットワークでの回帰により回復傾向を表現する予測モデルを構築できることが分かった.また,そのモデルを三重県英虞湾へ適用した結果,将来想定される津波に対し,場所ごとの相対的なアマモ場の回復可能性の大小を把握できることから,回復予測が津波前後の効果的・戦略的な対策検討において有用な情報になり得ることが示された.

  • 赤塚 真依子, 飯村 浩太郎, 高山 百合子, 源 利文
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17158
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     環境DNAを活用した水生生物モニタリングは経時的な生物情報の収集手段として期待されている.他方,海域では流れの変化が大きく,環境DNA量は採水地点や時刻により変わるため,流れの影響を把握してサンプリングすることが重要である.本研究では固着生物であるアマモを対象に,藻場における環境DNAの時空間分布特性の把握を試みた.海域調査では環境DNAの岸沖方向の分布と藻場内の時間変化を捉えることができ,これにより藻場の環境DNAは藻場分布に依存して藻場より数100m広い範囲に分布が形成され,流れによりその分布形状が変化することが示唆された.また環境DNAを物質濃度に模擬した移流拡散計算により時空間分布を定性的に再現し,流れの条件を変えたケーススタディによって最適な採水範囲を選定する方法について提案した.

  • 内藤 了二, 秋山 吉寛, 西村 恵美, 有田 駿, 岡田 知也
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17159
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     浚渫土砂を造成干潟の基盤材として封じ込めることは,浚渫土砂中の有機物を貯留する効果があると考えられる.干潟内の潮間帯と潮下帯の4地点で鉛直コア試料(長さ3m,直径10cm)を採取し,検土杖を用いて22地点の浚渫土砂層の試料を採取した.鉛直試料の有機物(IL300,IL600,TOC)および含水比,粒度組成を分析した.有機物中の難分解性有機物の割合を示すと考えられる(IL600−IL300)/IL600は含水比との相関は泥深・平面方向ともになく,ほぼ同じ値であった.このことから,有機物の残存率の空間分布に対して,泥深方向や潮間帯・潮下帯の違い,中仕切堤からの距離の影響が無いことが判った.本干潟に活用された浚渫土砂中の有機炭素の残存率は82.5±11.6%と推定された.

  • 菅原 弘貴, 片山 裕之, 鵜飼 亮行, 望月 幸司, 竹内 和則, 山下 聡
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17160
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     表層型メタンハイドレート(MH)の採掘計画では,海水と共に掘削したMHと泥を船上で揚収し,船上のガス化処理設備にてメタンガスのみ回収後,不要な海水と泥を掘削跡窪地へ海中排出することを計画している.この際,周辺環境への濁りの影響の把握や,窪地への効率的な排出方法が重要な課題となる.

     本研究では,不要泥水の海中排出時の濁り把握のため,模擬深海泥を用いた泥水投入試験を実施して泥水排出時の沈降特性の把握を行った.その結果,泥水投入初期は密度流的であるが,全体的には移流拡散挙動が支配的であること,濁度の広がりは海底着水後の泥水運動が水平方向に転化し,水槽壁に衝突後の上向き乱れによって広がることがわかった.また3次元流動モデルによる数値解析により投入泥水の挙動を定性的に表現できた.

  • 坂井 友亮, 古川 大登, Kyeongmin KIM , 日比野 忠史
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17161
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     有機泥へ固定される有機物量の測定方法である燃焼法では,燃焼温度(300℃)を指標として易分解性と難分解性有機物に分けられる.金属イオンへの有機物の配位(有機物の難分解性化)や脱離(易分解性化)には多くの場合,電子の受授を伴うため,溶液内の電位変動は有機物の酸化還元反応を誘発する.本研究では電池反応(電子の回収,挿入過程の有機泥の酸化還元反応)により生成される有機泥の分解性を燃焼特性により検討し,電池反応による有機物の易分解性化,難分解性化を評価した.この結果,易分解性有機物に電子挿入(高いエネルギー準位を付与)すると難分解性化(錯体を生成)すること,電子回収すると易分解性化を明らかにした.

  • 土居田 祐希, 池田 翔紀, 林 雄介, 岡田 知也, 日比野 忠史
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17162
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     干潟造成材料である浚渫泥は海水に拡散させないことを前提とするため,浚渫泥の有機性状の分析は実施されていない.本研究では,浚渫泥投入の経過時間の異なる2つの造成干潟から浚渫泥を柱状採取,分析して各々の浚渫泥の有機特性,栄養塩の溶出特性を検討した.覆砂完了後,数年と数10年経過した干潟浚渫泥では,含有される栄養塩量の差は小さいが,浚渫泥が海水に露出すると栄養塩の有機泥への結合状態が変化して,表層浚渫泥から栄養塩が溶出し易くなること等を明らかにした.

  • 西田 悠太, 牛木 賢司, 寺尾 直樹, 渡邊 国広
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17164
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     d4PDFの膨大な計算結果から抽出した台風を対象に波浪シミュレーションを実施し,過去実験,2℃上昇実験,4℃上昇実験それぞれの確率波高を算定することで,気候変動による波浪の将来変化を定量的に評価することができるが,膨大なケースの台風について波浪シミュレーションを実施するのは困難な場合が多い.そこで,本研究では一部の波浪シミュレーション結果から構築した波浪推定式を用いて最大有義波高を推定する手法を提案する.波浪推定式は,波浪の発達に重要な面的な風場が考慮できるように構築した.また,波浪推定式の精度検証と構築に必要な波浪シミュレーションケース数を確認した.

  • 茂呂 陽真人, 豊田 将也, 加藤 茂, 吉野 純
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17165
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     既存の高潮浸水想定においては,最大風速半径(Rw)やスケーリングパラメータ(SP)を決定する半径比(Rp/Rw)は,歴史的顕著な事例の値をそのまま運用するなどの課題が挙げられる.本研究では,日本に上陸した台風49事例を対象に再現計算結果を詳細に解析することで,Rwおよび最大気圧半径(Rp)に関する時空間的な変化傾向を調査した.解析の結果,Rpは時間に依らず一定の値をとり続ける傾向にあり,RwRpの値に比べ変動が大きい傾向がみられた.また半径比はピーク時には1付近,上陸時には0.4-1.0の範囲に幅広く分布しており,台風のライフタイムに応じて値が変動することが明らかとなった.Rwのばらつき要因の解析では,最大風速出現位置が台風の構造崩壊に伴い,台風中心周辺から遠い場所に現れるようになることが明らかとなり,空間的なばらつきが起因しているといえる.

  • 吉野 純, 栗野 優真, 小林 智尚
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17166
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     本研究では,力学的な気象-高潮結合モデルを用いて,2022年台風14号の擬似温暖化進路アンサンブル実験を行い,台風14号の強度や高潮に対して,台風の進路の違いの影響,台風の上陸の影響,および,温暖化の影響を定量化した.その結果,台風14号が九州を縦断することにより,地形の影響を受けて約+20hPa中心気圧が上昇し(減衰し),約-0.62m可能最大高潮を抑制し,その影響は無視できない規模であることが定量的に示された.また,将来気候下の同様の規模の台風が九州の西側の海上を北上する場合には,1) 温暖化の海水温上昇による強化,2) 上陸による減衰効果の抑制,3) 湾軸に沿う強い南風による吹き寄せ効果の卓越,により高潮の危険度が一層高まることが明らかとなった.

  • 岡田 智晴, 志村 智也, 森 信人, 宮下 卓也, 水田 亮
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17168
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     気象庁気象研究所の全球大気気候モデル(MRI-AGCM)にスラブ海洋モデルを結合したモデルにより独自の気候計算を実施し,顕著台風発生条件における台風の強度特性を評価した.70年間の9月平均海面水温分布に対してのクラスター分析を通じて,平均的な9月条件を想定した気候実験を行い,顕著台風発生条件と平均的9月条件での気候実験の比較を行った.また,将来の温暖化を想定した顕著台風発生条件における気候予測実験を実施した.台風の統計的特性について評価を行い,2018年Jebiが関西圏に被害をもたらした2018年9月条件では,自然変動を考慮しても強い台風が多く日本に接近及び上陸し,強い台風が発生しやすい条件であることを確認した.また,気候変動がもたらす台風の強度特性の変化として,強い台風の増加の傾向を得た.

  • 田中 桃果, 二宮 順一, 竹見 哲也, 森 信人
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17169
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     大気循環場の将来変化量に着目して全球気候モデルを選択し,大気モデル(WRF)および大気海洋結合モデル(WRF-ROMS)を用いて2018年台風21号を対象に擬似温暖化実験(PGW)を行った.台風の強度や経路,海洋の応答,災害ハザードの変化について過去再現,PGW間で比較,評価した.PGWで台風強度は大きくなり,台風経路がずれる結果を得た.また,大気上層の風速の将来変化と経路,移動速度の変化に相関があった.WRFでは移動速度の低下に伴って台風強度が上昇する傾向があった一方で,WRF-ROMSでは台風強度が低下する傾向があった.これは台風の強化によってSSTが低下する影響を受けたためだと考えられる.1時間および12時間降水量に着目してハザードを評価した結果,PGWで台風経路の変化によるハザードを受ける地域に変化はあるが,平均的にハザードの強化が確認された.

  • 伊藤 駿, 森 信人, 志村 智也, 宮下 卓也
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17171
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     海洋結合の有無を考慮した高解像度全球気候モデル群であるHighResMIP実験を対象に,熱帯低気圧(TC)の可能最大強度理論(MPI)を用いて,気候モデル毎に評価が大きく異なるTC強度の精度を評価し,さらに全球における海域毎の最大クラスのTC強度の将来変化予測を行った.HighResMIP実験のうち,MPIが計算可能な全30モデルの気候予測データを用いてTC強度を解析した.再解析値とHighResMIP実験の現在気候のMPIの空間パターンの一致を確認し,空間的平均誤差RMSEの逆数を重みとし,海域毎にモデル群のアンサンブル平均を施した結果,北西太平洋(WNP)及び北大西洋(NA)では,2050年までに最大940hPa程度にまでTC強度が強化されることがわかった.WNPでは多くのモデルで将来までに1~3hPa程度,TC強度が強化される一方,NAではその将来変化量がWNPと比較し約2倍となるモデルが47%存在することがわかった.

  • 榎本 容太, 菊池 政男, 片山 猛, 有川 太郎
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17172
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     モノパイル式洋上風力発電機の海洋展開に向けて,その基部における局所洗掘に対する対策は必須となる.その対策工法として袋型根固め材や砕石を用いた検討は行われているが,施工上の利便さや経済性を追求する上で他工法での検討が必要である.本検討では,石かごの洗掘防止工としての適用性を,水理模型実験により検証した.石かごは,袋型根固め材に比べて重量を確保しやすく,特に強い流れ場において優位性がある.実験では,流れ場を対象として石かごの設置範囲,配置時の間隔,フィルター層の有無を変えて実施した.その結果,フィルター層を設置した場合,袋型根固め材や砕石を用いた際と同様の洗掘防止効果を示した.一方で,石かご同士の隙間を変えながら検証を行った結果,石かご同士の隙間に比例して最大洗掘深は増加した.加えて,石かご同士の隙間があることで一つ一つの石かご周辺で局所洗掘が発生したことから,施行時に石かご同士の隙間を考慮する必要性を示した.

  • 坪川 晃太朗, 三澤 弘季, 中本 詩瑶, 谷 和夫, 池谷 毅
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17173
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     着床式洋上風力発電設備のモノパイル基礎周辺の洗掘防止工の一つに,多数の丸型の袋型根固め材により海底面を被覆する方法が提案されている.しかし,袋材の移動や袋材とモノパイルとの隙間からの土砂の吸出しが発生する可能性が指摘されている.そこで, 本研究ではそれらの現象を効率的に防止することのできる環状の袋型根固め材を提案し,基本的な製作・施工可能性, 洗掘防止性能を検証することを目的とした模型実験を実施した.製作・施工については型枠,形状保持ロープの使用,適切な石材量等を選択することで可能となると判断された.洗掘防止性能については,環状袋材により3DD:モノパイル基礎の直径)の範囲を被覆することでモノパイル近傍の吸出しが防げることが確認され,丸型袋材やアスファルトマットとの併用により効果が増大することも明らかとなった.

  • 犬飼 直之, 篠田 旺志
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17174
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     洋上風力発電は欧州を中心に導入が拡大しており,国内でも洋上風力発電事業開始に向けた取り組みが進められている.このうち新潟県北部の村上市・胎内市促進区域は季節風や地形の影響を強く受けると考えられることから,季節変化や建設場所の違いによる発電能力の違いを把握する必要がある.また新潟県は広大な沿岸域を有しており,促進区域以外での発電能力を把握する必要があると考えられる.更に,日本国内での他の促進区域との違いも把握しておくことも必要かと考えられる.本研究ではまず促進区域内での海上風の季節や場所の違いによる特性を把握した.次に新潟県内での海域や他促進区域との特性を比較した.海上風情報は気象庁のメソ数値予報情報の5年間の地表面データを風車位置の地上高100mに換算して使用した.

  • 作野 裕司, 丹羽 廣海
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17176
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     本研究の目的は,衛星合成開口レーダー(SAR)データを活用して2023年2月6日に発生したトルコ・マラッシュ震災における沿岸域の被害分布の初期把握を行うことである.使用されたSARデータは,30m解像度にリサンプリングされた欧州の衛星Sentinel-1が撮影した2023年1月29日(地震前)と2023年2月10日(地震後)の2画像である.これらの地震前後の後方散乱断面積(NRCS)の差分画像から,地面の粗さの変動が大きかった地域と建物被害地域および周辺地質との関係を調べた.その結果,NRCS差分が大きい地域とMw7以上の強震域がよく一致していた.さらに今回のSARデータの差分画像では雪や雨の影響は小さく,地質的には未固結堆積物分布域で正の差分が増大した(地面が粗くなった)ことが分かった.

  • 有働 恵子, 浅野 仁作, 越村 俊一
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17177
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,利用面の価値を評価するにあたっての基礎的知見を得るため,2019~2022年の4年間の1時間毎のモバイル空間統計を用いて全国の砂浜における人口動態を解析した.全国の対象海岸における砂浜メッシュの出現人口の月平均値の経時変化の特徴より,トレンドや変動において,季節変化やCovid-19の影響が認められる砂浜とそうでない砂浜が存在し,また,居住地についても全国からの来訪が見込める砂浜と同一自治体のみからの来訪が見込める砂浜が存在していた.一方で,個人情報保護に係る利用可能データの制約によるデータ欠損により,来訪者数の少ない場所においては実態の把握が困難になる等の課題が明らかになった.

  • 宇野 宏司
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17178
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     わが国の沿岸域には多くの有形・無形の文化財や観光資源,地域資源が点在しており,それらは地域経済や文化活動を支える重要な資産となっている.東日本大震災や西日本豪雨災害などでも見られたように,近年,沿岸域での大規模災害によってこうした伝統的文化財や観光資源が損なわれる機会が増加している.伝統的文化財はひとたび被災すると代償しがたく,観光資源や地域資源の損失についてもその後の復興過程にも大きな影響を及ぼすことが予想される.本研究では,大阪湾圏域沿岸自治体を対象に,国土数値情報等を活用した空間情報解析を実施し,文化財・観光資源・地域資源の被災リスクを検証した.その結果,大阪湾圏域には多くの地域資源・観光資源・指定文化財が存在することや,観光資源や指定文化財が地域資源よりも沿岸域に分布する割合が高いことなどが明らかにされた.

  • 武井 亮太, 門廻 充侍, Anawat SUPPASRI , 今村 文彦
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17179
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     東日本大震災で確認された大規模な津波火災は,今後発生が予想される津波災害においても発生が想定されており,それに伴う焼死リスクも懸念されている.津波火災の発生メカニズムやリスク評価に着目した研究が行われてきたが,津波火災と人的被害の関係は明らかとなっておらず,対策を講じる上での課題となっている.そこで本研究では,郵便番号地区ごとに記録された犠牲者情報に基づいて焼死犠牲者について分析した.その結果,焼死が確認されたのは局所的な6つの郵便番号地区のみであったことが分かった.また,津波火災の規模が大きい地区ほど焼死犠牲者率が高く,そのうち2つの地区では焼死が溺死よりも支配的な死因であった.これらの地区について考察すると,二次避難のしやすさが焼死犠牲者率に影響を与える要因の一つであることが示唆された.

  • 戸口 陽生, 石川 仁憲, 島田 良, 小峯 力
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17181
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     わが国の海水浴場では,毎シーズン2,000~3,000件の溺水事故が発生している.事故防止には,海岸利用者自身が海の危険性を正しく認識し,危険回避することが求められ,この方法として海水浴場では,その日の遊泳に関する危険度を三色の遊泳条件フラッグにより海岸利用者に知らせている.遊泳条件は主観的,経験的に決定されていることから,筆者らは,溺水事故発生確率を高い精度で予測できるAIモデルを構築し,予測結果から遊泳条件を客観的に判断するための新たな手法を開発した.一方,構築したAIモデルをポケットビーチの東西に位置する2つの海水浴場に対して適用した結果,予測精度が下がった.本研究は,御宿海岸に位置する3つの海水浴場を対象に,予測精度が下がった原因を定量的に分析した.その結果,地形的な特徴を考慮していないことが精度低下の原因であると考えられた.

  • 川合 将矢, 佐藤 翔輔, Erick MAS , 新家 杏奈, 今村 文彦
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17182
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     津波からの避難は原則徒歩とされているものの,近年は車で避難する人が多く,それに伴う渋滞発生が深刻な問題となっている.本研究では,津波からの徒歩避難を促進することを目的とし,個人と地域全体の避難行動を再現・評価する簡易的なシミュレーターを整備し,石巻市民を対象にその利用を実践した.その結果,1)自身が車避難で渋滞に遭遇し,津波到達予想時間までに安全な場所に到達できないことが提示されることで,2)自身は車避難でも津波到達予想時間までに安全な場所に避難できるものの,地域全体をみたときに渋滞が多数発生し,多数の人が危険にさらされる実態を把握したことで,徒歩避難へと意向を変える人が存在することが確認され,すべての利用者でないものの,同手法によって車から徒歩の手段変更の意向を促進できる可能性が示された.

  • 佐藤 翔輔, 遠藤 匡範, 岩崎 雅宏, 皆川 満洋, 高橋 里佳, 南城 真佐英, 今村 文彦
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17183
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     東日本大震災で被災した地域の一部には,2016年11月福島県沖地震,2021年3月宮城県沖地震,2022年3月福島県沖地震といった津波注意報や津波警報の発表を伴う地震が断続的に発生している.著者らは,宮城県亘理町において,同エリアの沿岸部の住民に対して,一貫したサンプリング手法によって継続的な質問紙調査を実施してきた.そこで本稿では,2011年東日本大震災を含め,これら4つのイベントにおける避難行動の実態を比較分析することで,住民の避難行動の経年的な変化,地震が発生した時間やハザードの規模と津波避難行動との関連性を考察した.4つのイベントにおける対応の違いは,1)発生する地震・津波の規模,2)地震が発生する時間帯の異なり,3)東日本大震災や以後のイベントでの経験,4)ライフスタイルの変化に関係するものであった.

  • 成田 峻之輔, 佐藤 翔輔, 今村 文彦
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17184
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,津波発生時における指定緊急避難場所への避難誘導手法としてバルーン型標識(従来のアドバルーン)の活用を提唱し,その視認性を評価する実験を仙台市若林区にて実施した.得られた結果は主に次の通りである.1)バルーン型標識は,掲揚地点(指定緊急避難場所)から最大約1.5kmの範囲までのエリアを対象として津波避難を誘導できる可能性がある.2)掲揚高度が高いほどバルーン型標識自体は気づかれやすくなる一方,表記内容は判読されづらくなるため,掲揚意図の事前周知が重要となる.3)掲揚地点から500m以内であれば,掲揚高度やバルーン本体の直径によるバルーン型標識自体の気づかれやすさへの影響は小さい.これらの視認性の分析に基づいてバルーン型標識の有用性を評価し,新たな避難誘導ツールとしての導入方法について検討した.

  • 石河 雅典, 芹沢 真澄, 横田 拓也, 石川 仁憲, 橋中 秀典, 村田 昌樹, 野志 保仁, 古池 鋼, 三波 俊郎
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17185
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     都市近郊の人工海浜として東京都城南島海浜公園内のつばさ浜を対象に,現地調査および地形変化予測計算を実施するとともに,風の作用が支配的である環境での人工ビーチの設計上の留意点について調べた.現地調査では,つばさ浜の背後に位置する遊歩道上に海浜からの飛砂が堆積し,利用の障害となり得る状況であることが観察された.地形変化計算では,つばさ浜の現況地形を再現した上で飛砂を考慮した計算を実施した.その結果,飛砂により海浜背後へと海浜砂が運ばれ堆積する一方,海浜部においては侵食傾向を示し,海浜背後への飛砂が海浜部の砂の損失になり得ることがわかった.また,これらの結果より,風の作用が支配的である環境での人工ビーチの設計では,風波による地形変化とともに飛砂による砂移動を十分に考慮する必要があることが示された.

  • 茅沼 耕平, 有働 恵子
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17186
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     本研究では,全国の砂浜周辺に存在するホテルの宿泊価格にヘドニック法を適用し,砂浜への近接性がホテルの宿泊価格に与える限界効果を測定した.回帰分析手法として,通常最小二乗法(OLS)に加えて地理的加重回帰(GWR)を行うことで,限界効果の地理的な分布を調査した.その結果,砂浜への近接性がホテルの宿泊価格に正の影響を与えることが分かったものの,統計的に有意な範囲は沖縄県周辺に限られることが分かった.これらの地域では砂浜への近接性が宿泊価格を13%~28%程度引き上げることが示された.一方で,様々な社会経済的影響下においても成立する推計式を得るためには,宿泊価格を説明する変数の設定方法に課題が残されており,今後更なる検討が必要とされる.

  • 宇多 高明, 大中 晋, 森 智弘, 伊達 文美
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17187
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     Java島北岸に位置するPekalongan沿岸を例として,地下水汲み上げによる著しい地盤沈下と偏東風下での風波に起因する地形変化が同時に進む海岸での地形変化について調べた.調査域東端のPekalonganから西向きにComal川の河口デルタを挟んで9地区を設定し,各区域の海岸線の変化を衛星画像より調べた.また,2022年8月10日にはPekalongan周辺で海岸の現地調査を行い,地盤沈下状況を調べた.この結果,Pekalonganでは地下水汲み上げに起因する地盤沈下量が約1.6mに達し,海没地が急激に拡大していることが分かった.一方,Comal川の河口デルタの東側区域では,東寄りの方向からの入射波の波向角が右回りに平均で22°と大きく,また西側区域では最大42°と著しく斜め方向から入射するため,汀線の不安定的発達が起こり得ることが分かった.

  • 島田 良, 石川 仁憲, 戸口 陽生, 小峯 力
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17188
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     砂浜における波の遡上を調べることは,砂浜の保全に加えて,海岸保全施設の機能評価や背後地の防災の観点からも重要である.波の遡上について筆者らは現地海岸で撮影された画像データから波の遡上高の時間的変化を数値化する新たな手法を提案したが,長期的な観測等に課題が残されていた.本研究では,茅ヶ崎海岸で撮影された2020年~2022年の画像データを用いて,期間中の波の遡上高の解析を行うとともに,改良仮想勾配法による算出結果との違いや,対象海岸における波の遡上高と波浪,潮位の関係について調べた.この結果,画像解析と改良仮想勾配法で求めた波の遡上高には決定係数0.63程度の相関があり,画像解析による遡上高の方が約1.7倍大きい数値となった.波高の値が大きくなるほど遡上高も高くなる傾向にあり,潮位が期間中の平均より高い場合は,その傾向がより強いことが確認された.

  • 桑田 拓真, 武若 聡, 伴野 雅之
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17189
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     沿岸流は長期的な砂浜変動を差配する一つの要因であり,これを知ることが砂浜の変化の理解,予測精度などの向上につながる.沿岸流速を測る方法の一つが海中に設置した流速計による計測であるが,機器を長期間にわたり保持するには多大な労力を要する.本研究では,波崎海洋研究施設・観測桟橋HORSに電波式流速計を設置し,空中からのリモート計測で沿岸流速を約5ヶ月にわたり連測的に推定した結果を報告する.計測結果を波浪観測結果,フロート観測結果と比較し,その妥当性を検証した.沿岸流速の向きは入射波浪の波下方向に向き,入射角の変動に応じて向きが変わった.沿岸流速の大きさは波パワーに比例して増加したが,波パワーがある大きさを超えると飽和した.これは,高波浪時には砕波帯が発達し,流速計の設置位置が砕波点から遠くなることによると考えられる.

  • 遠藤 徹, 上村 健太, 小倉 一輝
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17190
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     水中のCO2濃度を炭酸系の平衡関係を基にDIC,TA,pHの観測変数から推定する場合,観測変数の組み合わせにより複数ある推定パターンから対象水域に対して適切なものを選択する必要がある.本研究は,大阪湾の異なる水域で採水調査を実施し,独自に構築した分析手法によるCO2の実測値と観測変数から計算した推定値を比較することで,各推定パターンの推定誤差を確認するとともに感度解析により観測変数の測定精度がCO2の計算結果に及ぼす影響を検討した.その結果,河川と河口域では観測変数にpHを用いるパターンの誤差が小さく,外洋に近い海域ではDIC-TAによる推定パターンの誤差が小さかった.また,各観測変数の測定誤差に対する推定結果の変化率を比較した結果,pHの影響度がTA,DICに比べて大きく,pHの観測には特に注意が必要であることが明らかとなった.

  • 篠原 優太, 比嘉 紘士, 岡田 輝久, 鈴木 崇之
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17191
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     沿岸域を対象に係留系による水質測定値やHFレーダー観測値を用いたデータ同化による数値モデルの高精度化が進められているが,衛星データについては時空間分解能の不足が原因となり活用事例は乏しい.しかし近年では衛星データの時空間分解能が著しく向上し,閉鎖性水域におけるデータ同化への活用が期待される.本研究では,閉鎖性内湾である東京湾を対象とし,データ同化手法である再利用グリーン関数法を用いて,衛星観測の海面水温(Sea Surface Temperature: SST)を拘束条件とするデータ同化を行うことで3次元流動モデル内の熱収支に関連するパラメータ値を最適化し,水温の再現性に及ぼす影響を検討した.その結果,衛星観測SSTと数値モデルの水温計算値のRMSE(Root Mean Square Error)が最大で約26%減少し,閉鎖性内湾を対象にした衛星データの数値モデルへのデータ同化の有効性が示唆された.

  • 松本 浩幸, 荒木 英一郎, 横引 貴史, 有吉 慶介, 高橋 成実
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17192
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     光ファイバセンシング技術のひとつである分布型音響センシング(DAS: Distributed Acoustic Sensing)は,光ファイバに沿ったひずみ変化を連続的かつ高感度に観測できる.著者らは,高知県室戸岬沖の海底ケーブルを利用して,ファイバ長120kmのDASの連続観測を実施している.本研究では,台風接近時のDASと海底ケーブル近傍の海底圧力計の観測データを精査して,長周期の海底圧力変動に対するDASの検知性能について考察した.台風T2214接近時には海底圧力計と同様に,DASでも脈動に加えて周期が概ね100sの長周期重力波が観測された一方,台風T2215接近時には信号検出のしきい値を超えなかった.DASの応答特性についてはさらに検証が必要であるが,本研究の観測は,DASが高潮や津波に関連する海底圧力変動も検知できることを示唆する.

  • 大沢 朋也, 吴 連慧, 稲津 大祐, 鈴木 樹, 小野 天椰, 佐々木 信和, 池谷 毅, 岡安 章夫
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17193
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     現在,SAR (Synthetic Aperture Radar)画像を用いた機械学習による海岸線観測手法の研究が進められているが,教師データ取得のため,SAR衛星観測と同時刻の海岸線位置データを大量に取得する必要がある.本研究では,UAV (Unmanned Aerial Vehicle)による海岸の空中画像から,海岸線位置の正解データを効率的かつ高精度に生成する手法の開発を目的とした.2海岸8地点でUAVによる撮影とHandyGPSによるほぼ同時刻の汀線位置測量を行い,精度検証を行った.抽出した海岸線位置は,砕波領域の小さい海岸を除き,HandyGPSによる観測値と平均差3m以内であった.また,SAR画像への投影も行い,抽出した海岸線がSAR画像内の海岸線位置の目安である,後方散乱強度の高い陸と低い海の境界線とほぼ一致しており,十分機械学習に使用できるデータであることを確認した.

  • 三戸部 佑太, 飯山 侑, 渡部 靖憲
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17195
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
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     カメラ2台とプロジェクターを用いた三眼視による面的水面形状計測法を開発した.多数のカラードットを有するカラーパターン画像をプロジェクターから照射する.水を白濁させておき,各カラードットの水面近傍における散乱光をカメラ2台で撮影する.予めキャリブレーションにより取得するプロジェクターおよびカメラ座標系のパラメータと各画像座標から水面の3次元座標を計測する.本研究では座標の計算に必要となるカラードットのマッチングについて,色差ベクトルを用いた自動マッチング手法を提案した.また,水面近傍における散乱光を撮影することに伴い,撮影位置に生じるずれを補正する方法を検討した.小型平面水槽による計測実験により,本研究で検討した手法により概ね安定して良好な精度で面的に波浪形状を取得可能であることを示した.

  • 渡邊 国広, 加藤 史訓
    2023 年 79 巻 17 号 論文ID: 23-17197
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/11/01
    ジャーナル フリー

     排他的経済水域の基点となる重要な岩礁地形の多くは離島にあるため,頻繁に現地調査を行うことが難しく,衛星画像の活用が期待される.本研究では複雑な立体形状を有する岩礁地形を,衛星画像を活用してモニタリングする手法を確立するため,犬吠埼沖(千葉県)及び梵天の鼻(神奈川県)に位置する岩礁地形を対象に,4種類の手法による衛星画像からの岩礁の抽出及びドローン搭載グリーンレーザによる現地計測を実施した.現地計測結果を元に作成した三次元モデルを用いて衛星画像の撮影時の潮位と太陽から予測した岩礁の外縁形状は,実際の観測結果と概ね一致し,衛星画像によるモニタリングの際の比較データとして有効であることが分かった.これらの結果を踏まえて,衛星画像と三次元モデルの組合せによる岩礁地形のモニタリング方法を実務で利用するうえでの留意点を考察した.

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