土木学会論文集B3(海洋開発)
Online ISSN : 2185-4688
ISSN-L : 2185-4688
68 巻, 2 号
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海洋開発論文集 Vol.28
  • 田中 翔一, 武若 聡, 野戸 秀晶
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_900-I_904
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     気柱振動型波力発電装置の空気室に発生する気流を計算する方法を検討した.波浪場の計算にはCADMAS-SURFを用い,空気室内の圧力変動を波の伝播の計算に反映させる拡張を行った.空気室内の流れの解析には,空気室内のエネルギー保存式を用い,空気室内の水面変動による体積と圧力の変化により空気室のノズルを通じて空気流が流入出する状況を求めた.計算された水面変動と圧力変動の関係,空気室内水位と圧力の計算値と実験データの比較,入射波の周期と空気室の反射率の関係などを調べた.計算結果は実現象を概ね良好に再現しており,空気室に設けられたノズルの寸法,入射波の周期による反射率の変化などを再現できた.
  • 永井 紀彦, 川口 浩二, 吉村 豊, 鷲尾 朝昭, 谷川 亮一, 青木 功
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_905-I_910
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     海洋構造物への外力条件として重要となる洋上風の乱れについて,大水深沖合観測点で波浪と洋上風の同時観測を実施しているGPS波浪計による観測データをとりまとめ,洋上風の乱れ強度の出現特性を検討した.すなわち,青森東岸沖、三重尾鷲沖、和歌山南西沖および高知西部沖の各GPS波浪計による観測データに関して,2008年における20分間単位の年間上位500観測の有義波高を記録した高波浪時を抽出し,洋上風の平均風速・乱れ強度および有義波高・周期との関係を整理した.各種波浪パラメータと洋上風の乱れ強度との相関性は必ずしも高くなかったが,強風時に乱れ強度が比較的大きな値を示す出現頻度は,北方向のフェッチが大きい観測点ほど,大きくなる傾向が見られた.
  • 楳田 真也, 大貝 秀司, 石田 啓
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_911-I_916
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     波エネルギーを利用して港湾や水産施設等における水質改善のためのエアレーション等に使用可能な圧縮空気を直接的に生産するために,振動浮体型の波エネルギー吸収装置,波力水車ギア機構及びリニアクランク式コンプレッサを組み合わせた圧縮空気生産システムを開発した.波浪条件の違いによる空気出力の変動特性や浮体挙動の変化,及びそれらに及ぼすシステム負荷や不規則波の影響を実験的に調べた.その結果,波パワーが同じでも周期が異なると空気出力は大きく変化すること,出力効率がピークになる波の周期は浮体全体が重複波の腹部に位置する条件とほぼ一致すること,波パワーがある程度以上になると浮体の存在によって波の反射率を1/2~1/3程度に減少できること等が分かった.本実験で得られた最大効率は20%を超え,従来の大規模な波力発電と同程度の総合効率であり,既存の海岸護岸や堤防に低コストで容易に設置できる小型装置としての利用が期待される.
  • 宮武 誠, 阿部 翔太, 吉江 祐人
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_917-I_922
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     自律駆動型水素吸蔵合金アクチュエータ(A-MHA)による海水交換装置の現地適用に向け,低温度差条件に適した水素吸蔵合金の組成を検討とするとともに,その検討で得た合金を搭載したA-MHA実機を用いて函館港西埠頭前面海域で送水実験を実施した.その結果,ミッシュメタルを用いた合金は従来のランタン系合金に比べ,水素吸放出及び耐久性能が2倍程度向上することを解明している.また,現地実験では,A-MHA実機による海水送水量が予め推定した量の50%程度に低下するが,港奥下層海域での貧酸素水塊の形成を抑制できることを明らかにしている.最後に,準3次元多層流動モデルによる粒子追跡解析により,港奥海域の海水交換に要するA-MHAによる海水送水量を推定した結果,60m3/hr程度になることを示している.
  • 藤田 勇, 松崎 義孝, 永井 紀彦
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_923-I_928
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     沿岸および洋上の精緻な風況把握は,風力エネルギーの有効活用のためには,極めて重要である.風杯式風速計は風況観測用の機器として広く用いられているが,機械的な回転系を有するために,変動する風に対する応答特性には注意が必要である.
     本研究では,風杯式風速計のダイナミクスを考察し,変動風中での応答特性を改善する手法を提案する.風杯式風速計と超音波風速計による同時計測結果をスペクトル解析により比較し,提案した手法の妥当性を検証する.
  • 前川 雅俊, 重松 孝昌, 遠藤 徹
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_929-I_934
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     閉鎖的な浅海域において水温の鉛直分布を10分毎に数ヶ月間にわたって計測し,水温の鉛直分布に及ぼす気象要因について検討した.特に,水面下0.5mの範囲内は0.1mごとに水温を計測し,気液界面における熱輸送機構,および温度躍層の消滅・形成過程について検討した.計測データからは,温度躍層の再形成過程,季節の変化に伴う温度躍層の消滅過程が明瞭に観測され,水面下水温の分布から,顕熱フラックス・潜熱フラックス,さらには,海水面への下層水塊からの熱供給量を定量的に評価した.
  • 山口 正隆, 畑田 佳男, 野中 浩一, 日野 幹雄
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_935-I_940
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     東京湾,伊勢湾,瀬戸内海を囲む陸上部の気象官署で取得されたSDP風資料を用いて推定した長期の海上風分布資料に基づいて,各海域の沿岸・海上観測地点における個々のストーム時の推算風速・風向(沿岸風,海上風)時系列に対する観測値との比較を行い,誤差を風速・風向に関する相関係数,原点を通る相関直線の勾配値,2乗平均平方根誤差と最大風速比の7つの指標で表した.多くの地点で多数のストームについて求めた各誤差指標の頻度分布や統計的特性を海域別に検討した.上記の海上風分布を入力条件として得た波高推算資料に対しても4つの誤差指標を用いる同様の解析を行った。沿岸風,海上風,波高の推算値は地域的な差異をもつものの,全体として有意な精度を有することを明示した.
  • 山口 正隆, 畑田 佳男, 野中 浩一
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_941-I_946
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     東京湾と伊勢湾を対象として1961~2005年の45年間における強い台風や低気圧に伴うそれぞれ100ケース前後のストームに対して浅海波浪推算を実施した.入力条件とする海上風分布は両湾の周辺に位置する陸上気象官署において取得された観測風(SDP風)資料と湾内・湾岸の観測風資料の相関を利用して推定している。極値解析には母数の推定を最小2乗法によるモデルを用い,候補分布をGumbel分布,Weibull分布,FT-II型分布として50年確率波高等を推定した.複数地点の波高の推算結果と観測結果の比較は,ストーム時の時系列のみならずピーク値,さらに50年確率波高について両者の対応が全般的に良好であることを示した.50年確率波高は東京湾では広い範囲で3mをとり,最大4mに達する.伊勢湾では広範に4m域を形成し,最大5.5mに上る.
  • 松浦 邦明, 佐藤 淑子, 三嶋 宣明, 小林 充, 加納 敏幸, 大津 皓平, 庄司 るり, 高嶋 恭子
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_947-I_952
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     従来,内航海運では,常用航路を航行し,早めに到着して沖待ちをする航海計画がしばしば用いられてきた.しかし,高精度の気象海象の予測情報を考慮した航路計画,予測の不確実性を考慮して定時運航を実現した船速計画(減速航行)を行えば,経済的な運航(環境調和型の運航)が可能になる.このような最適な航海計画を作成するシステムを実用化し,内航船舶7隻を対象として実証航海実験を実施し,その省エネ効果を評価した.その結果,航路計画で平均4%の省エネ効果を確認した.また,不定期船については船速計画(減速航海)と合わせてシミュレーションベースで15%以上の削減効果を確認した.
  • 横田 華奈子, 伊藤 一教, 織田 幸伸
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_953-I_958
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     海運分野で開発された気象・海象条件から最適経路を探索するウェザールーティングを海洋工事に適用した運航シミュレーション技術を開発した.本技術は,船舶位置情報,気象・海象情報,船舶数,運搬量,船速,航行可能限界波高および風速,避泊地,積込・積下の作業時間および作業の開始・終了時刻を考慮した上で,最適経路を探索し,運航計画の最適化を可能にするものである.経路探索の際には,あらかじめ候補となりうる経路をデータベース化しておくメモリー型アルゴリズムと言うべき手法を採用することで,経路探索にかかる所要時間の短縮を達成した.ケーススタディから,本技術を用いることで,最も効率的な船団の計画,経験的判断に依存した運航を行った場合と比較して運搬増量の確保,および稼働率の季節変動の見積もりが可能になることが分かった.
  • 琴浦 毅, 森屋 陽一, 関本 恒浩
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_959-I_964
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     海上作業を伴う海洋工事では,高度化されつつある気象モデル,波浪推算モデルを用いた予測結果が作業可否判断に利用され始めている.しかし,波浪推算モデルの推算精度に関しては,外洋部での高波浪に着目して検討されたものが多く,海上作業の可否判断である波高1m程度の精度の検討は多くない.また,瀬戸内海は多くの島嶼が存在し,波周期が短いことから高精度モデルでの検討が望まれるが,高精度モデルは計算時間が多くかかり,作業可否判断予測に活用するには実務的とは言えない.
     本研究では瀬戸内海を対象として,気象庁GPV海上風データを入力とし,波浪推算モデルとしてWAMモデルを用いた波浪予測を実施するとともに,海上作業可否に着目して風・波浪の予測精度を検討し,実務的に妥当な予測精度を得るために必要な条件を明らかにした.
  • 関 克己, 河合 弘泰, 川口 浩二, 猪股 勉
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_965-I_970
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     全国港湾海洋波浪情報網(NOWPHAS)は,1970年に5地点で波浪観測を開始し,現在では20地点以上で30年以上のデータを蓄積している.このデータから気候変動の検出も試みられてきたが,地点毎の解析では統計的なバラツキが大きいこともあって気候変動指標との明確な相関性を捉えられなかった.そこで本研究では,日本海側を3海域,太平洋側を4海域にまとめ,季節毎に気候変動指標との相関性を調べた.その結果,(1)平均有義波高と最も相関性の高い気候変動指標は海水温である,(2)平均有義波周期は平均有義波高に比べて気候変動指標との相関が高く,特にNPIとの相関性は全海域を通じて高い,(3)最大有義波高と最大有義波周期は台風上陸個数との相関が最も高い,(4)高波擾乱回数は台風上陸個数やSOIとの相関が高い,ことが分かった.
  • 嶋田 陽一, 高橋 桂子, 塩谷 茂明
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_971-I_976
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     北太平洋の航海に関する中長期の波浪状態を総観的に把握するために,代表的な気候変動指数である北太平洋指数を用いて有義波高の中長期変動を調べた. NPI海域(北緯30度から45度,東経160度から西経140度)の付近の海域おいて,全データ期間中の有義波高とNPIの相関が著しく高い.NPI海域において領域平均した有義波高とNPIの相関も著しく高い.冬季では北西部を除いたNPI海域付近で相関が高い.春季では北太平洋全域で相関が低い.夏季ではNPI海域の北半分及びアリューシャン列島からカナダ沖合にかけて相関が高い.秋季ではNPI海域付近及び日本の東沖合で相関が高い.NPI海域の周辺で区分した海域において領域平均した有義波高とNPIの相関は,春季では低く,秋季では高い傾向を示すが,冬季及び夏季では各海域でばらつきが大きい.
  • 宇都宮 好博, 松藤 絵理子, 冨田 雄一郎, 松浦 邦明, 窪田 和彦, 内田 洋平, 相中 健吾, 三嶋 宣明
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_977-I_982
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     従来の波浪推算システムを概説すると共に,改良WAMモデルを用いた新たな波浪推算モデルの構築を行った.次いで,新たな波浪推算データベースを構築すると共に,波浪観測結果との比較検証を行い,波浪推算データベースの精度の把握を行った.また,波浪推算データベースの活用について,一例として洋上風力発電施設適地選定のための基礎資料を作成した.
  • 畑田 佳男, 山口 正隆, 野中 浩一
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_983-I_988
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     本論文では瀬戸内海の東部・中部・西部海域で1918~2005年の間に抽出した26ケースの巨大台風(1918年7月台風から台風0418号まで)を対象とした浅海波浪推算の結果に基づいて,各台風時の最大波高と波向の空間分布の特性を検討する.入力条件とした海上風分布は対象海域周辺の陸上気象官署で取得されたSDP風の沿岸・海上観測風への変換とそれらの空間補間による.波高は,太平洋に接続する豊後水道や紀伊水道の奥に向かって減少するが,例外的に水道内の強風により波高が水道内で維持されたり,増加する場合もある.内湾部では,波高の最大域は台風経路に依存する強風の風向に対応して系統的に変化する.この傾向は周囲をほぼ陸地で囲まれた中部海域で顕著である.
  • 横田 雅紀, 橋本 典明, 山根 知洋, 児玉 充由
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_989-I_994
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     日本沿岸域については温暖化に伴う海水面の上昇に加え,台風の強大化に伴う高波,高潮災害の甚大化が懸念されている.本研究では温暖化の影響が先行すると予想される九州沿岸の災害外力の変化特性について,温暖化を考慮した将来の気候予測値(MRI-AGCM3.2S)に基づき検討を行った.その結果,日本に接近する台風の数は現在よりも減少するものの,強大な台風の個数は増える結果となっていることが確認された.また,風データを基にした波浪推算の結果,常時波浪を含む全データを対象とした比較では波高,波向ともに現在との差はみられないこと,年最大波高について比較すると平均値や中央値では同程度であるものの,最大波高の小さい年と大きい年の差が大きくなる傾向にあり,発生しうる最大波高は将来で大きくなることがうかがえた.
  • 河合 弘泰, 森屋 陽一, 水谷 法美, 横田 弘
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_995-I_1000
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     IPCCの報告書は平均海面上昇や台風強大化の可能性を指摘しており,海岸保全施設の計画・設計・維持管理にそれを考慮する具体的方法の検討が必要である.本論文では,現行の設計潮位・設計沖波の考え方を生起確率という観点で述べる.その上で,過去・将来の潮位・波浪の変動について得られている科学的知見を整理するとともに,現在の設計潮位・設計沖波に対応する将来の各年の潮位・沖波(目標潮位・目標沖波)を設定する方法を例示する.設計潮位・設計沖波には設計供用期間中のある年の目標潮位・目標沖波を用いることになり,その年の設定についても若干の考察を加える.また,レベル2高潮潮位の設定や現地観測の継続の必要性についても述べる.
  • 鈴木 靖, 佐藤 嘉展, 道広 有理, Sergey M. Varlamov
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1001-I_1006
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     河川から沿岸部までの流域圏を統合的に環境管理を行うことを目標に,河川モデルと三次元海洋循環モデルを結合し,河川源流域から沿岸部までの流域圏の水と物質循環を統合的に評価するモデルの開発を行った.本モデルは,分布型流出モデル・河口部の不定流モデル・海洋循環モデル・物質の移流拡散モデルの4つのモデルを境界条件によって結合している.木曽三川流域から伊勢湾を対象として2003年4月の大雨事例の計算を行った.その結果,河川下流部の不定流モデルによる水位計算の再現性を確認することができた.また,拡散モデルによる伊勢湾内への浮遊土砂流出拡散計算結果が,MODIS衛星観測による濁度の拡がりをよく再現していることがわかった.
  • 入江 政安, 辻 陽平, 岡田 輝久, 西田 修三
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1007-I_1012
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     淡水の影響を受ける海域における流動や水質のシミュレーションは,密度分布の再現性に依然として問題が残されている.一方,閉鎖性海域において,水質定点観測塔(ブイ)が設置され,水温や塩分の他,DOなどの水質項目が常時計測されることが多くなった.そこで,本研究では,従来,データ同化が困難であった水温および塩分の鉛直分布を含む3次元データを対象に,4次元変分法(4d-var)を用いたデータ同化を行い,それらの空間分布,中でも密度躍層の再現性向上を試み,本同化法を水温・塩分データに対して安定的に適用するための計算条件およびパラメータの検討を行った.基礎方程式を満たすように同化する4次元変分法は,人工的な流速や分布の歪みを生じさせずに,塩分の空間分布を良好に再現し,塩分躍層の水深の修正が可能であることが示された.
  • 丸谷 靖幸, 吉江 祐人, 中山 恵介, 新谷 哲也, 木下 直貴, 駒井 克昭, 小窪 一毅, 加藤 淳子
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1013-I_1018
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     東京湾は周辺に膨大な人口を抱える閉鎖性内湾であり,夏季には強い日射や淡水流入により成層が発達し,鉛直混合が抑制され,ヘドロ状の底泥が酸素を消費することで,底層に貧酸素水塊が発生する.風などの外力により貧酸素水塊が湧昇し,水生生物に影響を与えてしまうため,貧酸素水塊の発生・輸送・消費過程を理解することは重要である.しかし,過去の研究ではデカルト座標の使用による階段状の地形の発生による再現性の問題などが示されている.これらの問題を解決するために,Partial Cellが提案されている.本研究では,Partial Cellを3次元数値モデルに導入し,東京湾に対するPartial Cellの適用性の検討を行った.その結果,Partial Cellを適用することで,再現性が向上することが分かった.
  • 中村 倫明, 和田 明, 落合 実
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1019-I_1024
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     地球温暖化対策として、発電所から分離・回収したCO2を海洋へ隔離する技術は,海洋酸性化に対する懸念から,現在までに実施されていない.
     そこで,海洋へCO2を高速で噴流することによる放出点近傍域の初期希釈過程を考慮したCO2濃度予測によって,濃度低減が可能であることを把握し,著者らがこれまでに展開してきた太平洋におけるCO2拡散予測モデルによって大陸棚からのCO2挙動を予測およびpHを算出することによって,海洋生物への影響評価を検討した.
     その結果,初期希釈の効果を受け,海洋生物への影響は22種類のCO2暴露試験結果と比較し4種類に対し産卵の低下や成長の悪化,生存率の低下が生じることへの影響にとどまる可能性が示唆された.
  • 佐藤 徹, 萩原 博美, 北澤 健二, 白木 喜章, 柴木 秀之
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1025-I_1030
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     潮汐流が弱く平均流が卓越し,副振動による1時間程度の短周期振動流が頻発する舞鶴湾において,数値シミュレーションによる流況再現を試みる.開境界におよそ1~2時間の複数の周期を有する水位変動を与えることで,流速観測値にみられるような短周期振動流を表現することができることを示す.
     さらに,海域を浮遊する物質を想定した移流・拡散シミュレーションをおこない,副振動を考慮する場合と考慮しない場合の物質の広がりの違いについて検討する.その結果,副振動による振動流が弱い湾奥部では両者に違いがないものの,振動流の強い湾口部において,物質の分布に違いが生じることを示す.
  • 土門 明, 泉宮 尊司, 石橋 邦彦
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1031-I_1036
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     本研究では,風洞水槽を用いて漂流物の漂流速度および抗力係数比に関する実験を行っている.12種類の漂流物に対して,波浪のみによる漂流実験,風圧力と風波による漂流実験を行っている.その結果,波浪のみによる漂流速度は,喫水深でのStokes driftにほぼ一致することが示された.後者の実験では,抗力係数比が水中および水面上の投影面積比の関数として与えられることが分った.また,その比例係数は漂流速度を用いたRaynolds数に対して増加する関係を示していた.現地海洋での漂流型海洋気象ブイの漂流予測も行われた.海流およびMSMの風速データを用い,抗力係数比に関しては本研究で得られた結果を用いて漂流予測を行ったところ,吹送流成分に10度の偏角を考慮した場合,前半12時間の漂流方向は一致していたが,偏角を考慮しない場合の方が最終的な漂流位置は実測値に近い結果が得られた.
  • 森谷 拓実, 村上 和男
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1037-I_1042
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     海域の漂流ゴミは経済活動,環境への悪影響をもたらす.したがって,効率的な早期回収が課題であり,流入源・輸送経路の把握が重要である.本研究では東京湾内の漂流ゴミについて,沿岸に設置された海洋短波レーダー(HFレーダー)による観測結果と漂流ゴミ回収船「べいくりん」の回収記録を用いて分析を行った.漂流ゴミの輸送を移流拡散現象として,計算上で仮想ゴミ(質量がゼロの粒子)を用いて算定した.計算結果と「べいくりん」の回収記録の整合性を確認し,仮想ゴミが回収エリアに到達する放流日時より各流入源からの流入期間を算出した.漂流ゴミの輸送経路・流入期間が推定でき,回収記録との整合性も概ね良好であった.HFレーダーの表層流況データによる,漂流ゴミの輸送経路の予測,及び予測結果の漂流ゴミ回収への利用の可能性が示唆された.
  • 加藤 一行
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1043-I_1048
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     氷海構造物の設計に際して,ある再現期間に対応する荷重を算定する必要がある.その氷荷重は,例えばモンテカルロ法などの,確率論的手法で算定する必要がある.その精度に大きく影響するのが氷荷重推定式である.本研究では,これまでに提案された多くの垂直構造物に対する氷荷重推定式を,大型構造物(Molikpaq)での北極海における実測値と比較して評価した.氷の圧縮強度の情報がなかったので,加藤の提案した方法を用いて強度データを発生させたモンテカルロ法で,各氷荷重推定式よる氷荷重の50%超過値を求め,実測値を平均±3x標準偏差の極値と考えた時のそれぞれの50%超過荷重と比較して評価した.その結果,単純なKorzavin型の式で,係数を0.35~0.45としたものが氷荷重推定式としてふさわしいと結論された.
  • 木岡 信治, 遠藤 強, 竹内 貴弘
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1049-I_1054
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     海氷の作用による鋼構造物表面の劣化特性を調べるため,人工海氷と金属材料(主に炭素鋼)とのすべり摩耗試験を実施した.金属供試体を,適当な圧力[0.12 - 1.62 MPa]で氷に接触させ,往復運動により摩擦させた.摩耗率(mm/km)は,圧力とともに増大するが,0.5MPa以上では,大きな増加は見られず,凝着摩耗特性を表すHolmの式に適合しなかった.また,TiとSUSの損耗率は,ほぼゼロであり,SSとの硬さ(ビッカース硬さ)の違いのみでは説明がつかなかった.結局,SSの損耗は,機械的摩耗(凝着)より腐食による寄与が遙かに大きいと推察され,これはまた,損耗率(時間あたりの損耗量)は摩擦速度にほぼ比例して増大し,材料表面の活性化あるいは酸素供給の増減に関係している事からも,裏付けられた.
  • 竹内 貴弘, 木岡 信治
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1055-I_1060
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     著者らが以前,能取湖で実施した中規模野外試験時に取得した解像度の高い圧力データに画像解析のラベリング処理を施すことにより,これまでに系統的な報告がない比較的高い氷圧力領域(hpz)のランダムな特性について検討してみた.hpzの面積と荷重は直線的な関係を示し,その勾配である強度は閾値により変化する.hpzの面積を氷厚の二乗で無次元化した値や隣接するhpz間の間隔を氷厚で無次元化した値は,ほぼ対数正規分布に従う.hpzの横幅や縦幅の頻度分布はともに右肩下がりとなる.以上の統計量に基づいた乱数(荷重)を複数領域で発生させるモンテカルロシミュレーションにより,氷圧力と貫入面積との関係を試算したところその包絡線(上限)の勾配は-0.24程度と推定された.
  • 中村 友昭, 根笹 裕太, 水谷 法美
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1061-I_1066
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     人工浅場の地形変化特性を浅場表面の底面流速と浅場表層の間隙水圧に着目して水理実験により検討した.その結果,浅場に地形変化が生じる範囲は入射波波高や入射波周期の増大に伴って広がることを確認した.また,浅場を構成する底質粒子が細粒径の場合には,Shields数と相対鉛直有効応力比の間に負の相関があり,底面流速が岸向きの位相では相対鉛直有効応力比が減少し,逆に底面流速が沖向きの位相では相対鉛直有効応力比が増加することを明らかにし,そのために沖向きの底質移動は底質粒子間の拘束力が弱まることで助長される可能性を示唆した.さらに,そのような条件下では,間隙水圧の影響を考慮した修正Shields数により底質移動をより適切に評価できる可能性を示し,底質移動とそれに伴う地形変化を検討する際における底質表層の間隙水圧の重要性を示した.
  • 樋野 和俊, 齊藤 直, 宮國 幸介, 柳楽 俊之, 吉岡 一郎
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1067-I_1072
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     これまで干拓などの埋め立てや港湾整備等による沿岸域の開発において,多くの沿岸域の自然干潟が消失し,潮干狩りなどの人と海との触れ合う機会が減少し,また多様な生物の生息場・産卵場,育成場も減少している.このような背景のもと,干潟や藻場の再生機運が高まってきているが,天然材料の枯渇および人工干潟再生に係る科学的知見も不足している.
     本研究は,人工干潟材に石炭灰造粒物を用い実海域で2年間の実証試験を行い,主にアサリ育成基盤への適用性を検証した.
  • 菊原 紀子, 熊谷 隆宏, 土田 孝, 杉原 広晃
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1073-I_1078
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     干潟地盤中にスラリー化した浚渫土(以下,スラリー粘土)を圧入して地盤を隆起させる工法(以下,圧入工法)は,周辺環境への負荷が少ない地盤高修復方法として既往の研究で提案されている.本研究では圧入工法の確立に向けて,干潟地盤を広範囲かつ緩やかに隆起させるための付帯技術の有効性について検討を実施した.地盤を緩やかに隆起させるためには,スラリー粘土圧入位置周辺で,事前に水平に広く軟化させることが有効であることを確認した.また,原地盤を広範囲にわたって軟化させる技術として,従来の高圧噴射撹拌工法における噴流切削技術を援用するとともに,噴射ノズルの形態等を工夫する提案を行う.さらに,これらの実験結果を踏まえた実海域での施工方法を提案する.
  • 上野 一彦, 菊原 紀子, 山田 耕一, 渡部 要一
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1079-I_1084
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     近年,浚渫粘性土を利用した人工干潟の造成が各地で試みられている.軟弱な浚渫粘性土を揚土し,表層を覆砂する構造であり,地盤改良も施さないことから,干潟造成時には地盤の安定性に配慮した施工技術が要求される.また,施工後においては圧密沈下が生じる.
     本研究では徳山下松港内に整備が進められている大島人工干潟を対象に施工方法を紹介するとともに,干潟造成後から約3年間にわたり人工干潟の地盤環境の変化について調査した結果について,圧密沈下解析結果と合わせて報告する.
  • 川崎 大輔, 土田 孝, 森 宏美
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1085-I_1090
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     地盤内圧入方式による人工干潟造成技術を実験的に検討した.実験室内で1/25スケールの模型実験を実施した結果,圧入管の先端付近を水供給装置と攪拌棒によって水平に攪乱すること,圧入パイプの地表面周辺に一定の重量を持つ隆起抑制板を設置することにより,水平方向により広範囲に圧入した粘土が広がり左右均等に圧入を行うことができることがわかった.この方法により圧入管を中心に直径50~80cmの範囲に粘土は圧入され,最大約14,000cm3(実スケール換算約220m3)の粘土の圧入が可能であった.1haの人工干潟において本工法を採用すると圧入管を14.0m間隔で正方形配置して合計約50箇所で圧入を行えば,1回の圧入で約220m3を圧入し,約1.4m程度嵩上げして約11,000m3の浚渫土を活用できる.
  • 東 和之, 大田 直友, 河井 崇, 山本 龍兵, 丸岡 篤史, 橋本 温, 上月 康則
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1091-I_1096
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     代償措置として創出された人工干潟と模倣した自然干潟においてマクロベントスの定量調査を行い,干潟中下部生態系を再現できているかを検討した.マクロベントスの個体数は,自然干潟の方が人工干潟を大きく上回っており,種数についても自然干潟の方が多い傾向であった.干潟へ流入してくる栄養塩や底生珪藻量も自然干潟の方が高く,自然干潟の豊富な生物量はこれらの栄養塩や一次生産に支えられているようであった.両干潟の決定的な違いは,ホソウミニナの有無であったが,直達発生により分散能力が乏しいため,人工干潟にはほとんど加入していないこと,安定した自然干潟では爆発的な増加力を発揮していることが示唆された.以上のように,造成から約5年が経過した人工干潟であるが,潮間帯中下部の干潟生態系は模倣した干潟とは全く異なっていた.
  • 猿渡 亜由未, 長塚 雄介
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1097-I_1102
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     波浪下の砂質底面では陸側から沖側に向かい汀線近傍で地下から水中へと湧き出す局所的な地下浸透流が発生する.この浸透流は栄養塩等様々な物質の陸から海への輸送過程の中で最終的な溶出現象を支配する流れ場となっている一方,地下水流の測定方法が限られている事から浸透速度や物質の拡散係数については十分解明されていない.本研究では塩分濃度計を用いて汀線近傍の地下水流の移流拡散過程を測定すると共に,測定結果を一次元移流拡散方程式の解にフィッティングさせる事により移流・拡散速度を求める方法を提案する.本実験を通して塩水の浸透過程における移流速度や拡散係数の波浪条件との関係について特徴化され,波浪条件が底面下の物質の移流拡散過程に影響を与える事が示される.
  • 宇野 宏司, 中西 宏彰, 辻本 剛三, 柿木 哲哉
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1103-I_1108
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     自然砂浜の後浜付近には海浜植生群落が認められることがあるが,その動態が表層砂の移動や地形変化に与える影響は十分に検討されていない.本研究では,淡路島・成ヶ島での現地調査ならびに擬似植生を用いた室内実験により,海浜植生群落が表層砂の移動や局所的な地形変化に及ぼす影響について検討した.現地調査では,後浜付近において,夏季に細砂が堆積し,冬季に粗粒化する傾向が見られ,この付近に生育するハマゴウ等の植生の繁茂・枯死に対応した底質の動態が見られた.一方,室内実験では擬似植生を設置した場合に飛砂量は低減され,植生の捕捉効果が確認された.また植生密度によって飛砂量に差異がみられた.
  • 菊原 紀子, 上野 一彦, 小笠原 哲也, 山田 耕一, 阿波 稔, 藤田 大介
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1109-I_1114
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     水産系副産物として発生するホタテ貝殻は年間約20万トンにおよび,その多くは産地周辺に野積みされて保管されている.本研究では,貝殻を破砕して骨材に用いた貝殻混じりセメント固化体(以下,SC固化体)の開発の一環として材料試験,現地での施工実験,海域設置実験を実施した.さらに実用化に向け,藻場造成事業を想定したコストやCO2排出量の試算を実施し,一般的な藻礁ブロック(以下,普通固化体)との比較を行った.その結果,貝殻を混合したSC固化体でも一定の強度が確保され,現地施工も実施可能であることが確認された.また,海域設置実験では普通固化体と同等に海藻の着生が認められた.コスト試算ではSC固化体の方が4%程度コスト増である一方,CO2はSC固化体内に貝殻を封じ込めることにより排出量がほぼ0となるため,普通固化体よりもCO2固定効果が高いことがわかった.
  • 中西 敬, 高瀬 博文, 中谷 明泰, 今井 一郎
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1115-I_1120
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     大阪湾奥部では依然として富栄養状態が改善されず,水質・底質の悪化,底層の貧酸素化などが問題となっている.一方,淡路島東岸では貧栄養状態が生じており,栄養塩の偏在という新たな問題が起こっている.貧栄養状態の典型的な現象として「のり」の色落ちが挙げられる.兵庫県下では,このような栄養塩の偏在を緩和すべく「海底耕耘」が試行されている.本調査研究では,兵庫県姫路市家島町地先の水深35mの海域における海底耕耘時に現地調査を行い,海中の溶存態窒素濃度の上昇,底質中に埋在する休眠期細胞並びにシストの再懸濁を確認した.海底耕耘が海中の栄養塩を高め,偏在を緩和する手法の一つとして有効であることを明らかにした.
  • 赤松 良久, 宮良 工, 神谷 大介, 竹林 洋史, 二瓶 泰雄, 興 克樹, 竹村 紫苑, 高村 紀彰
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1121-I_1126
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     2010年10月20日の奄美大島豪雨による大量の水と土砂の流出は奄美大島の重要な観光資源でもあるマングローブ・サンゴ生態系にも大きなダメージを与えたと考えられる.
     そこで,本研究ではサンゴ礁域への土砂堆積状況とサンゴの死滅状況の調査を行うとともに,河口域のマングローブ林の倒壊状況やマングローブ林内への土砂堆積状況の調査を行った.その結果,沿岸域に流出した土砂は湾内に分布していたサンゴ群集の被度を大幅に減少させたことが明らかとなった.しかし,台風の接近や季節風による高波によって,内湾以外の地点では大部分の堆積泥土が洗い流されたため,サンゴへの影響は軽減されたと考えられる.また,マングローブ林の流出は川沿いのごく一部に限られており,林内での急激な土砂堆積は確認されなかった.
  • 日高 正康, 東 政能, 内山 正樹, 福田 隆二, 西 隆一郎
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1127-I_1132
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     鹿児島湾は九州南部に位置し, 湾奥(姶良カルデラ), 湾央(阿多カルデラ)および湾口で構成されている.湾口と湾央は水深100mの水道で結ばれ, 湾奥部は西桜島水道と呼ばれる水深40mの狭い水道でのみ接続されていて、すり鉢状となっているため, 非常に閉鎖的な海域となっている.湾内で盛んに行われている養殖業や河川から供給される生活排水等による排水に含まれるリンの影響下による富栄養化や, 近年ではDOが悪化傾向にあることが報告されている.本研究では鹿児島湾全域で採取した海底表層堆積物試料について分析を行い, 底質汚濁の化学的指標の一つである硫化物含量と有機物含量および粒度組成の分析結果から鹿児島湾内の海底表層堆積物の特性を明らかにする.
  • 村上 智一, 鵜飼 亮行, 河野 裕美, 水谷 晃, 下川 信也, 中瀬 浩太, 野口 幸太, 安田 孝志
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1133-I_1138
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     本研究では,西表島網取湾の造礁サンゴの分布特性とそれに関わる物理環境を明らかにするために,湾内26地点の詳細なサンゴ分布調査,CTDなどを用いた海洋観測および湾奥の2河川の流量観測を行った.また,得られた観測データを初期・境界値とした数値シミュレーションを行い,網取湾の流動,水温,波浪および土砂の数値解析を実施した.
     その結果,小さな湾であるものの河川からの土砂流入や波浪などの影響が湾内の場所によって大きく異なり,それに伴ってサンゴの被度分布も大きく異なることが明らかとなった.特にサンゴの被度分布と波浪は大きな関係を持ち,波浪が発達しやすい場所で卓状サンゴは被度が大きくなる一方で,枝状サンゴは被度が小さくなることが示された.
  • 徳永 貴久, 岡村 和麿, 木元 克則, 柴原 芳一
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1139-I_1144
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     有明海湾奥西部海域の夏季における短期的な底質変動を明らかにするために,2011年夏季に水質および底質調査を週1回行った.貧酸素水塊は,淡水流入,低水温・高塩分水の貫入,気象条件によって形成と消滅を繰り返した.硫化水素は貧酸素水塊が形成することによって生成し,台風の影響による時化によって低濃度化した.また,酸化還元電位(Eh)が-180mV程度の領域と高い硫化水素濃度が見られた領域とは対応していた.高い硫化水素濃度が見られた堆積物のpHは7.2程度であったことから7月下旬のサルボウの斃死要因は,貧酸素水塊の形成と硫化水素の生成であることが示唆された.
  • 玉井 和久, 西野 博史, 出路 康夫, 日比野 忠史, 首藤 啓, 西土井 誠
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1145-I_1150
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     石炭灰造粒物の海底被覆の現地実験は,2010年6月から広島湾奥の海田湾で実施している.底質の改善効果を検証するために,実験開始から主に夏季と冬季にモニタリング調査を行い約1年半が経過した.現地実験は,被覆厚さを5cm,10cm,20cmの3区画で行い周辺地点を含めて比較検討した.その結果,浮泥の捕捉,底質改善,海生生物の定着などの環境改善が認められ,効果が継続していることが分かった.
     一方,被覆層内に浮泥が堆積し,被覆層の間隙が少なくなることにより,底質改善効果が減じることも認められた.本研究は,石炭灰造粒物の海底被覆による底質改善効果を明らかにすると共に,その効果持続性に関する考察を加え,今後,事業化を検討するうえで必要な知見を整理したものである.
  • 濱田 泰広, 田辺 弘雄, 清水 直樹, 吉岡 一郎, 三戸 勇吾, 齊藤 直, 日比野 忠史
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1151-I_1156
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     福山内港で発生しているスカムの発生機構を解明し,石炭灰造粒物による底質改善技術を現地に適用するための設計法の提案を行った.底泥の有機物含有量は20%を超え,表層泥の含水比は1000%以上である.水面表層を漂うスカム(浮遊泥)が異臭を発するなど,他の海域では見られない現象が起こっている.本研究によりスカムは底泥に比較して多くの有機物を含有しており,密度が小さいことが確認された.石炭灰造粒物撒布時のめり込み量は,含水比だけでなく泥の流動特性にも依存していることが明らかとなり,泥の液性・塑性限界試験からめり込み量を推定する手法が提案された.
  • 清野 聡子, 宇多 高明, 伊藤 良弘, 南雲 吉久, 秋山 桂, 五十嵐 崇博, 酒井 和也
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1157-I_1162
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     国土交通大学校では,2003年より国と自治体の海岸行政職員を対象とした「海岸研修」のプログラムの下,座学のみならず現地海岸における各種現象を実地に即して集中的に観察し,現場で判断する能力の向上を図る教育法を導入している.このため,毎年千葉県九十九里浜で巡検を行い,海岸行政職員による調査の立案,実施,事業や管理へ活用可能な知識の修得を目指している.本論文では,このような現地に根ざした巡検により海岸にかかわる技術者の海岸への理解を深める教育手法について,現場での実践例を基に述べる.
  • 梅崎 康浩, 中島 謙二郎, 小島 治幸, 齋藤 潮, 上島 顕司, 白井 博己, 石本 健治, 安藤 義宗
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1163-I_1168
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     国土交通省九州地方整備局は,別府港において直轄の海岸保全施設整備事業(高潮対策)として「上人ヶ浜地区」「餅ヶ浜地区」「北浜地区2」「北浜地区1」の4地区,延長約2.2kmについて事業に着手し,防護機能と海岸の利用及び自然環境に配慮した「別府港海岸の里浜づくり」を進めている.
     別府港海岸(北浜地区1)は,既設護岸の防護基準不足と老朽化が課題であり,平成22年度から,官民が連携し利用と環境に配慮した海岸保全施設の整備計画の検討を進めており,平成23年度に整備計画の策定を行い,平成24年度から工事着手を目指している.
     地域との協働の結果,護岸構造形式は「二重パラペット護岸」とし,透水層の設置,防護ラインを背後パラペットとし,飛沫防止帯を設置することで,利用と景観に配慮した整備計画の策定を行った.
     検討を進める上での技術検討として,波浪変形計算の他,護岸構造形式が二重パラペットと透水層構造の断面精査では数値波動水路と水理模型実験による検証を行い,護岸高さと透水層の幅の決定を行った.
  • 瀬間 基広, 赤倉 康寛
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1169-I_1174
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     世界有数の自動車生産・輸出大国である我が国にとって,世界の自動車輸送の動向を把握することは重要である.ところが,完成自動車の海上輸送を担う自動車専用船の世界の動向について詳細な分析を行った資料は少ない.そこで,本研究では,自動車輸送に関する港湾政策の企画・立案に資することを目的とし,世界の完成自動車の海上輸送の動向及び自動車専用船の船型について,データにより分析を行った.
     具体的には,完成自動車輸送の動向については,自動車専用船輸送能力と自動車生産・販売台数の関係や自動車の積み換えの状況を分析した.また,自動車専用船の船型については,運航船社や就航地域の違いに着目し分析を行った.
  • 赤倉 康寛, 安藤 和也
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1175-I_1180
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     国際海上コンテナ輸送量が伸び続けてきた中で,積み替えの容易なコンテナ貨物を巡る港湾間競争は,激しさを増してきた.我が国においても,釜山等に伍するサービスを提供し東アジア主要港として選択される港湾を目指した国際コンテナ戦略港湾政策が進展中である.
     港湾間競争を勝ち抜くためには,ターミナル運営の効率化のため,稼働率を向上させる必要がある.そこで,本研究では,コンテナターミナルの稼働率を測る方法の一つとして,バース・ウィンドウの作成手法を構築し,主要ターミナルのバース占有率を比較分析した.
  • 井山 繁, 渡部 富博, 後藤 修一
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1181-I_1186
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     東アジア地域を主とする急速な経済発展や国内における各種の港湾物流に関わる施策により,国際海上コンテナ物流を取り巻く環境は大きく変化している.本研究では,効果的な施策の企画立案等のため,北米,欧州やアジア地域などの主要地域と我が国の国際海上コンテナ貨物について,最新の貨物・料金等のデータを反映するとともに,国内外のフィーダー輸送を含む詳細な輸送ルートの分析を可能とし,アジア地域については近年の経済発展が著しいASEAN全域を含む地域との貨物流動の分析を可能とする犠牲量モデルを用いたモデル構築を行った.本モデルにより,社会資本整備の時間短縮効果の算定の際などに重要となる主要航路別の貨物の時間価値が算出され,得られた時間価値に基づいて国際コンテナ戦略港湾施策の実施による主要港湾の背後圏貨物の変化等について分析を行った.
  • 柳 馨竹, 塩谷 茂明, 牧野 秀成
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1187-I_1192
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     航行船舶の安全性確保が目的の航海情報は重要である.航海中の船舶は,常に海難防止に努めることが要求されている.海難は,沿岸海域の中でも,比較的狭隘で,船舶の輻輳度が高い浅水域で多発している.このような海域を航行する際には,海難防止に役立てるために,様々な効果的な航海情報の提示が重要である.特に,航行船舶に影響を与える気象・海象の情報は重要である.
     本研究では,気象・海象に関する航海情報,特に風,波浪,潮流の効果的な表示法を提案した.航海情報の提示はGISを用いて行った.特に,航海シミュレーションによるこれらの航海情報の提示が有効的であることを示した.
  • 塩谷 茂明, 牧野 秀成, 柳 馨竹
    2012 年 68 巻 2 号 p. I_1193-I_1198
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/09/18
    ジャーナル フリー
     様々な航海情報は,航海の安全性確保に非常に重要である.航行船舶の安全性は常時海難防止のために要求されている.海難発生要因の第一位は衝突,第二位は乗り揚,等と続く.特に,海難発生海域は陸地に近い沿岸海域であり,特に浅瀬部分に多い.これらの海域では,海難防止に役立つような様々な航海情報の効果的な提示が,極めて重要である.また,航行船舶の海難防止に有益な航海情報の有効な表示も重要である.
     このような背景から,本研究の目的は,沿岸域航行船舶の海難防止に有益な航海情報の表示について,GISを用いて提案すること,さらに道路交通では既に多数利用されているカーナビゲーションの海上航行船舶での利用の適用性について論じることである.
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