本研究では,スフィンゴシン鎖とアシル鎖の鎖長が著しく非対称の
N-リグノセロイルスフィンゴミエリン(C24:0-SM)のサブゲル-ゲル(
TS)およびゲル-液晶(
TM)相転移挙動をミクロ示差走査熱量測定(DSC)によって検討した。ゲル相温度で調製したC24:0-SMベシクル懸濁液のDSCを連続的に昇降温を繰り返して行ったところ,
TM転移エンタルピーは36.0から32.6kJ(mol lipid)
-1までの,僅かな減少であったが,TS転移エンタルピーは,25.9から16.9kJ(mol lipid)
-1まで,約40%も減少した。この
TS転移エンタルピーの大きな減少の原因を明らかにするために,ゲル相温度で調製したC24:0-SMベシクル懸濁液を異なる温度で15時間の期間にわたって熱処理を施した。その結果,
TS転移は可逆的相転移であるのに対して,
TM転移は可逆的相転移ではないこと,すなわち,
TM転移温度での熱処理時間の増大に伴って,
TS転移エンタルピーは著しく減少することが明らかになった。さらに,C24:0-SM2分子膜の低温サブゲル相での集合形態を電子顕微鏡観察によって検討した。その結果,
TM転移温度での熱処理時間の増大に伴って,C24:0-SMのサブゲル相の集合形態は,平板状の多重層構造から,大きいサイズの多重膜ベシクルを経て,最終的には比較的小さいサイズの1重膜ベシクルまで,膜表面の曲率を増大させる方向に,著しく変化することが明らかとなった。
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