日本環境感染学会誌
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38 巻, 1 号
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総説
  • 清水 潤三
    2023 年 38 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    手術部位感染(Surgical Site Infections:以下SSI)は一旦発生すると患者の手術に対する満足度が低下するだけでなく,医療資源を消費し病院経営だけでなく国全体の医療費に影響を及ぼす可能性がある.できるだけSSIを発生させないように防止策をとることが重要であるが,科学的根拠のある対策であるだけでなく費用対効果も求められている.SSIに関する論文は年間3000件以上と大量に公表されており,医療者が個人的に学習することは物理的に不可能である.そこで診療ガイドラインを参考に対策を立てることとなるが,ガイドラインも複数発行されており,どのようなガイドラインを参照するかも課題となる.

    手術前の対策として問題となるのはMRSAの鼻腔保菌の確認と除菌についてや大腸手術の腸管処置について議論があると考えられる.手術時の対策として,手術部位の皮膚消毒に使用する消毒薬,予防的抗菌薬の術中追加投与,手術時手袋の二重装着,抗菌縫合糸の使用,予防的ドレーンについてはガイドラインでの推奨を臨床に適応していない施設もあり,改善の余地がある領域と考えられる.

    本稿では,ガイドラインというものの有用性と限界をまず確認し,様々なガイドラインの相違点を検証し,日常診療にどのように取り込んでいくかを解説する.

原著
  • 澤田 仁, 垣根 美幸, 関根 和弘, 平出 敦
    2023 年 38 巻 1 号 p. 7-15
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    【目的】救急隊員の感染防止対策の実態を調査し,消防機関特有の課題を明らかにすることを目的とした.

    【対象】本研究への協力を依頼し,同意を得られた3市町消防本部の救急隊員30人.

    【方法】対象の消防本部で研究対象者から直接聞き取りを行うとともに施設内を調査した.加えて,N95マスクの装着手順評価と定量的フィットテストを行った.

    【結果】救急隊員が着用する個人防護具には,消防機関特有の特徴と取り扱いがあった.施設内のゾーニングは設定されているが,現実には境界が曖昧であった.N95マスクは所持している形状とサイズが限られ,救急隊員が個人の顔にフィットするN95マスクを選択できる環境が十分ではなかった.N95マスクの装着は,ユーザーシールチェックを行っていない救急隊員が20人いた.定量的フィットテストは,総合フィットファクター100以上の合格者が3人であった.定量的フィットテストの合否は,所属との関連が認められた(p<0.05)が,救急救命士資格の有無,装着手順の評価との関連は認められなかった.

    【結論】救急隊員を感染から防護することは,消防機関の危機管理の重要な任務と言えるが,現在の消防機関には感染防止対策の点で特有の問題や課題がある.救急隊員が現場で安全に任務を遂行するためには,消防機関が抱えるこれらの課題を整理し,感染防止対策に対する組織的な取り組みを継続的にサポートする必要性が示唆された.

  • 松屋 翔太, 川端 俊介
    2023 年 38 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    近年,バンコマイシン(VCM)とタゾバクタム/ピペラシリン(TAZ/PIPC)の併用投与は急性腎障害(AKI)の発現率が上昇するという調査結果が多数報告されている.しかし,VCMの類薬であるテイコプラニン(TEIC)とTAZ/PIPCの併用投与に関する報告は少ない.今回,TEICとTAZ/PIPCの併用投与における腎機能への影響に関して調査を行った.

    TEIC,TAZ/PIPC併用群(TT群)と比較対象としてTEIC,メロペネム併用群(TM群)を2018年1月~2022年1月の期間内で抽出し,腎機能の変化等について後方視的に調査した.

    TT群75件,TM群95件が抽出された.AKIの発現率はTT群で16.0%(12件),TM群で14.7%(14件)であった.背景因子を調整するため逆確率重み付け法を用いた傾向スコア分析で比較すると有意差はみられなかった(P =0.56).AKIの発現までの日数にも差はみられなかった.また,AKIの発現に関わるリスク因子の探索のため,多変量解析を行ったところ併用期間,昇圧薬の投与,ループ利尿薬の投与がリスク因子として抽出された.

    本研究ではTT群はTM群と比較してAKIの発現率を上昇させなかった.感染症治療においてTAZ/PIPCに抗MRSA薬を追加する場合,VCMよりもTEICの方が腎機能の面でより安全に使用できると考えられる.

短報
  • 佐々木 裕太, 尼崎 正路
    2023 年 38 巻 1 号 p. 22-25
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    日本国内では,2021年12月より新型コロナワクチンの3回目接種が実施されている.

    今回は,綜合病院山口赤十字病院の職員539名を対象に2回目接種後及び3回目接種後の副反応についてのアンケート調査を実施した.アンケート調査の結果より,全身症状(発熱(37.5℃以上),けん怠感,頭痛,寒気,嘔吐・嘔気,下痢,筋肉痛,関節痛),局所反応(注射部位の疼痛,発赤,腫脹,硬結,掻痒感,熱感)ともに2回目接種後に副反応があった場合に,3回目接種後の副反応が有意に高いことが分かった.このことより,医療従事者は副反応の発生頻度の情報提供をする場合,初回接種時の副反応の発生状況を確認する必要がある.

報告
  • 鈴木 久美子, 森岡 慎一郎, 松永 展明, 早川 佳代子, 元木 由美, 武久 洋三, 大曲 貴夫
    2023 年 38 巻 1 号 p. 26-32
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    医療機関における薬剤耐性菌の疫学,感染管理体制の現状把握は,患者予後の改善および薬剤耐性菌対策に寄与する.本調査では,療養病床を有する医療機関における感染管理体制の現状,任意調査日調査時点における抗菌薬使用者の薬剤耐性菌状況などを明らかにした.

    有効回収率は7.8%だった.全体の90.0%が医療および生活介助の必要度が高い患者が多い「療養病棟入院料1」を算定し,患者の42.0%は自宅・介護施設へ退院していた.感染防止対策加算の算定施設は63.3%で,感染対策チームも組織化されていた.手指衛生の実施状況確認で,施設間の乖離がみられた.点有病率調査日の抗菌薬使用率は9.4%で,過去1年以内に薬剤耐性菌を保菌していたのは33.3%だった.

    超高齢社会の深化で,医療機関と地域を行き来する高齢者の増加が見込まれる.療養病床においても,薬剤耐性菌の発生・拡大防止策が適切に行われなければ,医療機関から地域の高齢者へと薬剤耐性菌が広がる可能性が危惧された.また,人的・物的・経済的リソースに限界のある療養病床では,患者ケア・介護に関わる全職員が標準予防策を徹底することの有益性が示唆された.

  • 今西 亮, 操 華子
    2023 年 38 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2023/01/25
    公開日: 2023/07/25
    ジャーナル フリー

    BNT162b2ワクチンを接種した対象病院スタッフの抗体価の推移を調査した.当該病院で1回目ワクチンを接種した599名のうち176名を対象に血液を採取し,CLEIA法を用いて抗体価を測定した.2回目ワクチン接種直前の平均抗体価(標準偏差)は17.5(14.58) u/μL,2回目接種2週間後の平均抗体価(標準偏差)は233.6(161.49) u/μLであり,13.2倍上昇していた.しかし,3回目ワクチン接種直前の平均抗体価(標準偏差)は,15.3(21.50) u/μLと,2回目ワクチン接種直前の抗体価よりも低下していた.これらの結果より,国内外の先行研究と同様に,接種後時間経過に伴い,抗体価の減少が見られた.今回の抗体価測定では,抗体価の推移に個人差が見られたが,対象者の基礎疾患,生活習慣などの,抗体価に影響を及ぼす可能性がある因子などの調査までは実施していない.これらの因子の影響についての検討は今後の課題である.

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