日本環境感染学会誌
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35 巻, 1 号
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総説
  • 時松 一成
    2020 年 35 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    カンジダ血症は真菌感染症のなかで最も高い頻度で発生し,死亡率も高く,適正な診断・治療が必要な疾患である.

    カンジダ症に対するバンドルとして,血液培養2セット採取,疑い例でのβ-D-グルカン測定,24時間以内の中心静脈カテーテル抜去,適切な初期治療の開始,眼病変の有無の確認,症状の改善と血液培養の陰性化を確認した後2週間の抗真菌薬投与,などが提案され,これらを遵守することにより良好な成績が得られた事が報告されている.実践されるべき抗真菌薬適正使用支援プログラムとして,カンジダ血症では少なくとも発症早期と1週間後に眼科で眼病変の有無の診察,無菌検体から酵母様真菌が検出された場合の治療開始,病態が安定した治療が必要な長期例では経口薬へのstep-down治療があげられる.

    本稿では,カンジダ症のバンドルやガイドラインで述べられている基本的事項の意義と解説,多職種の視点からみたカンジダ血症マネージメントについて述べる.

  • 大久保 憲
    2020 年 35 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    厚生労働省は平成29年7月31日付で単回使用医療機器(single use device:SUD)の再製造に関する新たな仕組みを創設した.それに伴い「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下,医薬品医療機器法と略す)」の一部を改正する省令に基づき,「再製造単回使用医療機器基準」(厚労省医薬・生活衛生局長 告示第261号)が制定されたことを示す通知が発出された(薬生発0731第7号).ディスポーザブル製品として広く使用されているSUDを,承認を受けた医療機器製造業者の責任において収集し,使用時の汚染を有効に除去できるように分解・洗浄して再組立てを行うことで,原型医療機器と同等の品質,有効性及び安全性を備えたSUDとして再流通させる再製造単回使用医療機器(re-manufacturing single use device:R-SUD)システムを構築するものである.

    SUDの再製造は資源の有効活用や医療廃棄物の削減,さらには医療費の低減の可能性などから注目されている.

proceedings
原著
  • 松木 祥彦, 佐古 兼一, 矢嶋 美樹, 松田 佳和, 渡部 多真紀, 渡辺 茂和
    2020 年 35 巻 1 号 p. 22-30
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    アミノグリコシド系抗菌薬のアミカシン硫酸塩(amikacin sulfate:AMK)は,抗菌活性を最大限に引き出すために最高血中濃度(ピーク値)を一定以上に保つ必要があるが,腎機能が低下した患者では腎機能障害の発生割合と相関する最低血中濃度(トラフ値)が上昇するため注意が必要である.投与間隔の調整によって最適な投与法を選択できない症例では,腎機能障害の発生頻度を抑える方策に関して議論の余地が残されている.本研究の目的は腎機能障害との因果関係が強いトラフ値と腎機能障害発生割合との関係性について解析を行い,AMK適正使用の指針を提示することである.対象は,細菌性肺炎,尿路感染症等の治療を目的としてAMK投与を受けた患者のうち235例のデータを使用した.閾値となるトラフ値の候補はCART分析より2.55 μg/mL及び6.85 μg/mLとなった.抗菌薬TDMガイドラインが基準値として定める4.0 μg/mLと合わせ3値をロジスティック回帰分析により得られた回帰曲線にあてはめた.その結果,腎機能障害発生割合の平均値(95%信頼区間)はそれぞれ2.7%(1.2-5.9),3.6%(1.8-7.1),6.0%(3.3-10.8)であった.AMKを検討する際に問題となるトラフ値に関して,一律のカットオフ値でなく腎機能障害発生割合との兼ね合いから患者状況に応じて柔軟な判断ができるものと考えられた.

  • 丹羽 隆, 伊藤 朱里, 藤林 彩里, 鈴木 景子, 米玉利 準, 丹羽 麻由美, 太田 浩敏, 土屋 麻由美, 伊藤 由起子, 畠山 大二 ...
    2020 年 35 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    Japan Surveillance for Infection Prevention and Healthcare Epidemiology(J-SIPHE)では,レセプト請求データである入院EF統合ファイルに基づき抗菌薬使用量が集計される.入院EF統合ファイルには,歯科診療,自由診療等に関する診療のデータが含まれないため,必然的に実使用量との乖離が生じる.両者の差異を明らかにするため,自施設の2018年4月から2018年12月の抗菌薬使用量について,実使用量に基づいた集計値とJ-SIPHEによる集計値とを比較した.Antimicrobial use density(AUD)では,15薬剤のうち14薬剤(93.3%)で両者の差は中央値10%以内であったが,ピペラシリンではJ-SIPHEによる集計値が中央値で30.5%高値となった.Days of therapy(DOT)では,86.7%で両者の差は中央値10%以内であったが,アンピシリンでは実使用量よりも中央値で29.0%低値となった.AUD/DOTでも,ピペラシリンで33.5%,アンピシリンで28.2%,それぞれ実使用量より高値となった.ピペラシリンは小児科での使用,アンピシリンは歯科での使用が多かったことが影響したと考えられた.J-SIPHEによる抗菌薬使用量の評価では,実使用量との差異の把握が重要と考えられた.

  • 飯塚 明寿, 山内 真澄, 深川 敬子, 倭 正也
    2020 年 35 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    特定感染症指定医療機関に指定された当院は,2014年に西アフリカで大流行したエボラ出血熱への対応の一環として同年10月にポータブル撮影対応flat panel Detectorシステム(FPDシステム)を導入した.その直後にエボラ出血熱疑いの患者受け入れがあり,高度安全病室内においてFPDシステムを用いたX線撮影を実施した.その経験からエボラ出血熱患者のX線撮影では早期画像観察および診断と感染拡散防止の観点でFPDシステムが非常に有用であった.そして,さらに高度安全病室内でのFPDシステムの操作をさらに軽減するためにFPD遠隔操作システムの構築を行った.FPD遠隔操作システムの原理は今後の高度安全病室内での医療機器の操作において感染制御の観点で有用である.

報告
  • 佐藤 智功, 三星 知, 細川 浩輝, 継田 雅美
    2020 年 35 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    カルバペネム系抗菌薬の施設間の採用状況を明らかにするためにアンケート調査の解析を行った.対象は新潟県内の病院81施設として,急性期63施設および慢性期18施設の2群に分けて採用状況に関連する因子を検討した.その結果,急性期および慢性期におけるカルバペネム系抗菌薬の採用数の中央値は3および2剤と有意に急性期で採用数が多かった(P<0.01).また,急性期および慢性期における薬剤ごとの採用割合については,メロペネムが94および89%,イミペネム水和物/シラスタチンナトリウムが79および59%と有意な差を認めなかった.一方,ドリペネム水和物は56および17%(P<0.01),ビアペネムは48および6%(P<0.01),パニペネム/ベタミプロンは44および11%(P<0.01)と有意に急性期での採用割合が多かった.さらに,重回帰分析の結果,採用品目数と関連する因子として急性期施設(P=0.02)及びICD在籍(P=0.03)が正の有意な相関を認めた.本研究結果より,各医療機関の特性によりカルバペネム系抗菌薬の使用状況が大きく異なることが示唆された.また,認定薬剤師も抗菌薬採用に関わるような活動が必要と考えられる.

  • 児玉 泰光, 吉田 謙介, 永井 孝宏, 西川 敦, 後藤 早苗, 青木 美栄子, 内山 正子, 高木 律男
    2020 年 35 巻 1 号 p. 48-57
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    歯科外来における抜歯に関連した経口抗菌薬について,歯科ICTによる抗菌薬適正使用支援プロブラム(ASP)の前後で調査した.

    2015年1月~2018年12月において,電子カルテを用いた後ろ向き調査から抜歯当日の経口抗菌薬処方(術後投与)を抽出し,経口抗菌薬投与の有無,種類,期間を検討した.対象期間の後半(2017年1月)から,ASPとして抗菌薬適正使用に関する設問を含むe-learningを実施し,同時に関連情報を歯科系全医療スタッフで共有した.対象期間の普通抜歯は12,225件で,前半68.1%(4110/6036),後半50.4%(3120/6189)で経口抗菌薬が処方されていた.下顎埋伏智歯抜歯は4,740件で,前半90.5%(2130/2354),後半60.3%(1419/2354)で経口抗菌薬が処方されていた.ガイドラインによると普通抜歯では抗菌薬投与不要,下顎埋伏智歯抜歯では術前投与が推奨されており,適正使用化傾向が確認された.また,経口抗菌薬の種類は,第三世代セフェム系が激減し,普通抜歯では2015年上半期86.9%であったのが2018年下半期には28.3%に,下顎埋伏智歯抜歯では2015年上半期87.4%であったのが2018年下半期には8.5%となった.

    歯科ICTが主導するASPが歯科外来での抜歯における経口抗菌薬の適正使用に寄与したと推察された.

  • 葛城 建史
    2020 年 35 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    手指衛生は医療関連感染対策において,最も基本的かつ重要な対策である.看護基礎教育において看護学生を手指衛生が適切に実施できるよう意識づけ,行動化に結び付けていくことが重要な課題である.しかし,看護学生の実習における手指衛生実施状況に関する調査はほとんどなかったため,2016年に1年次の実習における手指衛生実施状況を調査した.看護師は携帯型手指消毒薬を使用していたが学生は持っておらず,看護師についていくのを優先したために手指衛生ができない状況があることがわかった.そこで,2017年は手指消毒薬を導入した.本研究では,手指消毒薬を携帯していない場合と携帯した場合の手指衛生実施状況を比較し,携帯することによる効果を検討することとした.2016年(未携帯群)も2017年(携帯群)も,実習中の手指消毒薬による手指衛生に関して,実習終了時に自記式質問紙により調査した.調査内容は,必要なタイミングで実施できたか,手指衛生を実施しなかった理由について,さらに,携帯群においては,どこの手指消毒薬を使用したか,携帯型手指消毒薬に対する感想とした.携帯群では,未携帯群より手指衛生が必要なタイミングで「できた」と答えた学生の割合が増加し,備え付けの手指消毒薬よりも携帯型を多く使用していた.以上から,ケアを行わない見学実習においても,携帯型手指消毒薬の使用は手指衛生の遵守率向上に有効であると考えられた.

  • 長崎 奈穂, 田中 裕之, 徳田 浩一, 川村 英樹, 児玉 祐一, 藺牟田 直子, 西 順一郎
    2020 年 35 巻 1 号 p. 63-68
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    移植や癌の化学療法中の免疫不全者では,ノロウイルス(NV)排泄期間が長期化することが知られているが,ステロイド薬使用中の患者での排泄遷延が院内感染に関連したという報告はみられない.ステロイド使用患者が多い内科病棟で,201X年3月,患者4名,職員1名のNV胃腸炎の集団発生が起きた.発症者2名がみられた多床室に,1例目の発症から23日前にNV胃腸炎で入院し,症状が軽快したため転棟したステロイド療法中の特発性間質性肺炎の患者が同室していた.この患者のNV持続排泄を評価する目的で,感染性のあるウイルス粒子を検出できる糖鎖固定化金ナノ粒子(SGNP)を用いた高感度ウイルス検査(SGNP-RT-qPCR)を実施したところ,発症から35日経過した時点で陽性であった.したがって,本患者は発症者2名と同室の時期に,下痢症状はないもののNVを排泄していたことが推定され,今回の多発事例の発端となった可能性が示唆された.また,ステロイド薬使用中に発症した他の患者1人も,発症10日目の本法による検査が陽性になった.今回の事例をふまえ,ステロイド治療を受けたNV胃腸炎患者の隔離解除については慎重に行う必要があると考えられた.また,感染性のあるウイルス粒子を検出できるSGNP-RT-qPCR法は,ステロイド薬使用患者や免疫不全者が多い病棟において,院内感染対策に有用性が高いと考えられる.

正誤表
  • 2020 年 35 巻 1 号 p. 69
    発行日: 2020/01/25
    公開日: 2020/07/22
    ジャーナル フリー

    環境感染誌に掲載した以下の論文中に下記の誤りがありました.慎んでお詫び申し上げるとともに,以下に修正致しますので,宜しくご確認下さい.

    掲載巻号:Vol. 34,No. 6,p. 287―295

    論文タイトル:

    新生児集中治療室における末梢挿入型中心静脈カテーテル関連血流感染のリスク因子の検討:単施設後ろ向きコホート研究

    著者名:川野 佐由里

    修正内容:

    p. 291 表5 PICC-BSI発症リスク因子の探索(単変量ロジスティック解析分析)N:507

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