日本環境感染学会誌
Online ISSN : 1883-2407
Print ISSN : 1882-532X
ISSN-L : 1882-532X
38 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
Proceedings
  • 満田 年宏
    2023 年 38 巻 2 号 p. 41-45
    発行日: 2023/03/25
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル フリー

    手術時の感染対策には手術部位感染対策のみならず,そこで働く医療従事者の職業感染対策,環境整備(空調・清掃/消毒)や手術器具の取り扱い,麻酔科医が中心となって関わるべき感染対策等多岐にわたる.近年では,医療安全を含めた医療の質の面から作成されたガイドラインの中に感染対策の項目が組み込まれていたり,外科領域の診療科の特殊性に合わせた手術部位感染対策のガイドラインも充実してきている.

原著
  • 森岡 慎一郎, 鈴木 久美子, 松永 展明, 早川 佳代子, 元木 由美, 武久 洋三, 大曲 貴夫
    2023 年 38 巻 2 号 p. 46-56
    発行日: 2023/03/25
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル フリー

    療養病床における感染症診療や薬剤耐性菌の現状を把握することは,その課題を明確化し,介入方法を模索するうえで重要である.

    療養病床を有する1,032医療機関を対象として,2020年1月から5月に点有病率調査を行った.医療機関の基本情報や患者状況,任意の調査実施日に抗菌薬使用中の患者の治療内容などに関して調査した.

    80医療機関より有効回答を得た(回収率7.8%).療養病床における総在院患者6,729人のうち,抗菌薬使用者は9.4%であった.抗菌薬使用者の年齢の中央値は87.0歳,男性が49.5%,その目的は治療が92.4%,予防が7.6%で,主な感染巣は肺炎が36.4%,尿路感染症が24.4%であった.尿培養検査から検出された大腸菌の42%,クレブシエラ属の38%が第3世代セファロスポリン系抗菌薬耐性であった.肺炎患者の29.3%に第3世代セファロスポリン系抗菌薬,14.1%にカルバペネム系抗菌薬,尿路感染症患者の24.1%にフルオロキノロン系,19.5%に第3世代セファロスポリン系抗菌薬,7.5%にカルバペネム系抗菌薬が使用されていた.

    療養病床ではESBL産生菌の分離頻度が約4割であり,広域抗菌薬が使用されていた.今後は療養病床における抗菌薬使用量や薬剤耐性菌のモニタリングを継続的に行い,感染症診療に対する介入方法を模索する必要がある.

短報
  • 石原 由華, 柴山 恵吾, 社本 生衣, 宇佐美 久枝, 太田 美智男
    2023 年 38 巻 2 号 p. 57-60
    発行日: 2023/03/25
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル フリー

    Bacillus cereus芽胞のポビドンヨードに対する感受性を血液由来15株と健常者皮膚分離15株の芽胞を用いて作用時間と温度を変えて検討した.いずれの処理条件でも高度耐性株はなく,多くの菌株で10%ポビドンヨード処理5分で約99%の芽胞が殺菌されたが,残りの約1%の芽胞は30分処理後も生残した.皮膚由来株5株,血液由来株3株は5分処理後に生菌数が約0.1%になった.作用温度の違いによるポビドンヨードの効果には大きな差が無く,また血液由来株と皮膚由来株の間に差がほとんど見られなかった.以上によりB. cereus芽胞による皮膚汚染が軽度なら10%ポビドンヨードによる消毒が可能と考えられた.

報告
  • 藤永 啓慈, 鈴木 麻友, 掛田 崇寛
    2023 年 38 巻 2 号 p. 61-67
    発行日: 2023/03/25
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的はシーツ上の付着微生物に対するエタノールの消毒効果について検討することである.本研究はカウンターバランス法を用いた,無作為化試験で行った.効果はエタノールシート清拭兼エタノール噴霧群,消毒用エタノール噴霧群,市販除菌スプレー噴霧群,Controlの4群で検証した.本研究では大学内実習室のベッドをランダムに選択し,各介入効果を実験環境下で検証した.その結果,コロニー数はControlと比して,エタノールシート清拭兼エタノール噴霧群で最も低下し,有意差を認めた(P<0.05).同様に,消毒用エタノール噴霧群及び市販除菌スプレー噴霧群においても,Controlに対してコロニー数が有意に低下した(P<0.05).菌種判定では,Control群でグラム陽性菌,グラム陰性菌,ブドウ糖非発酵型グラム陰性桿菌,真菌が検出された.これに対し,エタノールシート清拭兼エタノール噴霧群ではこれらの微生物がほぼ検出されず,消毒用エタノール噴霧群及び市販除菌スプレー噴霧群においても日和見感染を生じさせる微生物がわずかに検出されるのみであった.つまり,エタノール製剤はシーツ付着微生物に対していずれも有用であることが示唆された.特に,エタノールシート清拭兼エタノール噴霧では,シーツ上に存在する微生物を清拭動作による物理的な除去に加えて,エタノールによる微生物の不活化による消毒効果によって相乗効果が期待できる.

  • 坂野 勇太, 林 三千雄, 大野 博子, 幸福 知己, 中井 依砂子, 楠原 瑞貴, 角谷 龍哉, 坂本 悦子, 藤原 広子, 重松 三知夫
    2023 年 38 巻 2 号 p. 68-74
    発行日: 2023/03/25
    公開日: 2023/09/25
    ジャーナル フリー

    本邦では新型コロナウイルス流行期において人工呼吸管理が可能な重症病床が逼迫した.中等症患者を受け入れている当院では,重症病床への転送を減らすために新型コロナウイルス肺炎に対しHigh Flow Nasal Cannula(HFNC)を使用した.今回,我々はHFNC使用による転帰および影響を及ぼす因子,挿管回避の効果を後方視的に検討した.HFNCはシンプルマスク5 L/minの酸素投与下で酸素化が保たれない場合に装着し,FiO2:60%~70%で酸素化が保たれない場合に気管挿管を行った.HFNCは陰圧個室またはグリーンゾーンから距離のある病室で使用し,職員は一般的な新型コロナウイルス診療に必要な接触・飛沫予防策に加えて,空気感染予防策を行った.研究期間中にHFNCを装着した患者のうち34人が,呼吸不全が進行した際の気管挿管を希望した.そのうち20人(58.8%)がHFNC使用のみで軽快し,14人(41.2%)が気管挿管に至った.パンデミック初期の挿管基準と比べ,のべ151(人・日)の人工呼吸器使用日数を削減した.対応した職員にHFNC使用に関連した感染者はいなかった.適切な感染対策下においてHFNCは新型コロナウイルス肺炎に対し院内感染を発生させることなく使用でき,患者の気管挿管への移行を抑制し,重症病床逼迫を緩和する一助となる可能性がある.

feedback
Top