日本環境感染学会誌
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27 巻, 2 号
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原著論文
  • 麻生 恭代, 長富 美恵子, 中澤 武司, 佐々木 信一, 石 和久
    2012 年 27 巻 2 号 p. 81-90
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      当院では2005年度に血液培養でBacillus cereusの増加傾向がみられた.血液培養でB. cereusが検出された患者の背景を調べた結果,大半の患者で末梢カテーテルを留置していた.さらに血液培養でB. cereusが検出された数名の患者の末梢カテーテル先端からもB. cereusが検出され,B. cereusによる血流感染ありと判断した.また文献的に検索するとB. cereus菌血症についてはリネン等の汚染や留置カテーテルの取り扱いが指摘されているが,カテーテルの汚染とリネンの汚染との結びつきについては不明な点が多い.そこで今回我々はカテーテルにおける菌の定着と増殖の原因について,輸液製剤の種類による菌の発育速度と温度の影響,環境因子の影響について調査を行ったので報告する.輸液製剤の種類や保管時間の影響に関しては,B. cereusStaphylococcus aureusStaphylococcus epidermidisと比較して増加しやすいという傾向が見られた.環境検査ではタオルの培養で≦102~1×106 cfu/mLのB. cereusが検出された.落下菌の測定では,一般環境より病室で多く検出される傾向が見られた.さらにリネンの出し入れ後の落下菌の検査を行うと短時間で多数のB. cereusが検出された.以上より輸液製剤の保管の影響よりも,薬剤の調合やカテーテルの刺入,ルート交換を行う環境や取り扱いに問題があると考えた.
  • 井村 幸恵, 土井 まつ子, 脇本 寛子
    2012 年 27 巻 2 号 p. 91-95
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      本研究の目的は,血液透析に伴う看護ケア時の血液汚染のリスクを明らかにすることである.2006年6月から2007年2月までの期間に中部地区の5施設の透析センターにおいて看護師によるケア行為の観察と使用した手袋や環境から血液の検出を行った.17名の看護師による透析開始時の穿刺場面と透析終了時の抜針場面,止血場面における感染防護具の使用状況,ケア行動,手指衛生状況等について観察した.使用後の手袋を回収し,ルミノール反応により血液の付着の有無を調べた.更に,使用後の手袋で触れた物品や環境に付着した血液の有無をロイコマラカイトグリーン試薬により調べた.
      使用後の手袋137双274枚中61枚,22.7%(穿刺26枚,抜針31枚,止血4枚)から血液が検出された.さらに,血液が検出された使用後の手袋で触れた環境(5箇所)から血液が検出された.抜針場面においては,2人の看護師でケアを行う場合に比べて1人で行う場合の方が使用後の手袋で環境に触れた回数が有意に多かった(p<0.001).
      使用した手袋で環境に触れることは,環境を汚染させる可能性があること,2人の看護師が抜針を行うことは環境汚染のリスクを低減させることが考えられた.
  • 清水 宣明, 片岡 えりか, 西村 秀一, 脇坂 浩
    2012 年 27 巻 2 号 p. 96-104
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      インフルエンザの流行では,曝露歴が少なく活動性が高い児童が密集して長時間生活する小学校が感染の増幅器となることが懸念され,そこでの対策は地域の感染制御において重要な位置を占める.しかし,その流行の仕組みについての知見は少ない.本研究では,三重県多気郡明和町立下御糸小学校(全校児童163名)における2009年10月から2010年1月までのA(H1N1)pdm09パンデミックインフルエンザの発症状況を解析した.流行期間は79日間で罹患率は49.1%,1日あたりの平均発症は1.01人であった.児童発症日数は43.0%で,そのうち3人以下と比較的少人数の発症日が80.0%を占めた.5人以上と比較的多くの発症があった日は13.3%に過ぎなかった.発症認識の24時間前から他への感染可能なウイルス量が排出されたと仮定して,潜伏期間と発症日時から児童間の感染可能性の連鎖を推定した.発症児童の感染源は,学級内が50.0~66.7%,学級外(家庭を含む)が33.4~50.0%程度であった.下御糸小学校での流行は,急激で連続的な拡大ではなく,児童が学級外で感染して学級内で数人に感染させることもあるが,その感染可能性の連鎖はすぐに切れるということの繰り返しによって徐々に進行し,その途中で,集団感染の可能性のある同時多発発症が数回起こった可能性が示唆された.
  • 松木 祥彦, 大貫 敏明, 風間 健美, 日向 早苗, 塚本 哲也
    2012 年 27 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      広域スペクトラムをもつ抗菌薬の頻用は,多剤耐性菌を出現させる原因と考えられており,届出制や許可制など使用法の検討が行われている.我々は,適切に抗菌薬を選択するため,院内で検出された細菌の抗菌薬感受性率からアンチバイオグラムを作成し,グラム染色から得られる推定菌種の情報から有効性の高い抗菌薬を選択するための情報提供を行った.また適切な投与設計を行うために血中濃度推移と投与設計基準となるtime above minimum inhibitory concentrationが算出できるPK/PD解析ソフトを作成し,投与法について医師に情報提供を行った.その結果,院内で多く使用されていた第4世代セフェム系抗菌薬のantimicrobial use densityは,2.72から1.12に減少した.Pseudomonas aeruginosaに対する抗菌薬感受性率(%)は,cefpirome(2009年度:58.2/2010年度:72.9), cefepime(68.8/87.7), meropenem(91.0/95.9), pazufloxacin(68.3/87.5)と,それぞれ有意に上昇した(p<0.05).今回我々が行った活動は,不適切な広域スペクトラム抗菌薬の使用を抑え,P. aeruginosaの抗菌薬感受性率を上昇させたと考えられた.
  • 大久保 耕嗣
    2012 年 27 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      当施設では,感染予防策の参加型講習会を実施してきた.職員の意識向上を目的として,蛍光法を用いた手洗い実習を行った.蛍光ローション2 mLをラビング法の要領で擦り込み,ブラックライト下で塗り残し部位を観察,記録した.その後,蛍光ローションを万遍なく擦り込み,流水と石鹸で30秒間以上手洗いを実施して洗い残し部位を観察,記録した.ラビング法は,スクラブ法に比較して手洗いミスが少なかった.手背部側に手洗いミスが多かった.手背または手掌12部位の洗い残し人数と塗り残し人数とに正の相関がみられた.すなわち手背部,手掌部ともに不確実になりやすい部分が似通っていることが判った.ラビング法において,薬剤師と事務員間で有意差が認められた.薬剤師のみならず薬剤師管理の下で事務員が,錠剤に直接素手で触れる場合もある.今後とも参加型講習会を実施することで,手洗いの知識と技術を習得する必要がある.
短報
報告
  • 渡邉 三恵子, 西村 瑞穂, 西迫 富士子
    2012 年 27 巻 2 号 p. 123-127
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      2010年9月,HIV/エイズ中核拠点病院の外来看護師60名を対象に,経験年数,所属部署,HIV/エイズ患者対応経験の有無,HIV/エイズ患者対応時の不安の有無,不安の内容などについて自由記述式質問紙調査を実施した.外来看護師60名中,58名の回答を得た(回収率96.7%).HIV/エイズ患者対応経験があると答えたのは,39名(65%)で,そのうち不安があると答えたのは,HIV/エイズ患者対応経験がある外来看護師の中で35名(89.7%).患者対応経験はない外来看護師の中で,不安があると答えたのは,16名(84.2%)であった.不安のカテゴリーは,自己への感染リスクの不安,HIV/エイズ患者への関わりに関する不安の二種類に大別できた.また,対象者をHIV/エイズ患者と日常的に関わりがある部署の看護師と日常的に関わりが少ない部署の看護師の2群間に分類し,不安カテゴリーごとに群間比較を行った.結果,自己感染へのリスクの不安は,p=0.025と有意差があり,日常的に関わりが少ない看護師ほど自己への感染リスクの不安が大きいことがわかった.HIV/エイズ患者への関わりに関する不安は,p<0.01と有意差があり,日常的にHIV/エイズ患者対応の機会が増えるほど,不安が増加することがわかった.
      自己への感染リスクの不安では,日頃から感染予防策を実践し身につけることにより対応できる可能性があるが,患者への関わりに関する不安はHIV/エイズ患者看護の専門的な教育が必要と考えられる.
  • 西村 チエ子, 丸山 貴美子
    2012 年 27 巻 2 号 p. 128-134
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      周術期の感染症発症は,患者のQOLを低下させるだけでなく医療の質の低下とともに医療費の増加にもつながり,結果的に国民への重い負担となってくる.医療機関においては,感染を防止するための有効な対策の実施とともに,一方で対策が適切に行われているかの検証や評価の実施が重要である.そこで現在行われている周術期のSSI対策の実施内容を把握し,SSI低減への対策構築のためにアンケート調査を行った.全国の300床以上の病院(1035病院)に周術期のSSI対策に関する18項目についてのアンケート用紙を送付した.回収率は51.6%であった.
      今回のアンケート調査から,周術期のSSI対策は多くの病院で高率に実施されていることが分かった.しかし一方で,病院内での業務の変更等で実施が困難な対策や,医療者の感染に対する認識が低いと推測される対策などがあり,すべてが十分に実施されているとは言い難い.今後,SSI防止に対し実践の集積によるさらなる啓蒙が必要であると考えられた.
  • 中西 尚大, 千葉 薫, 野田 久美子, 唯野 貢司
    2012 年 27 巻 2 号 p. 135-141
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      手指消毒は医療従事者の手指を介した感染を予防するための最も基本的な手段であり,医療施設においては手指消毒剤の適切な使用が求められている.現在,手が目に見えて汚れていない場合は速乾性手指消毒剤(ラビング剤)により手指消毒を行うラビング法が推奨されており,手指消毒の主流となっている.しかし,2009年の新型インフルエンザ流行によりラビング剤市場は拡大し,医療現場において使用されている製品の実態は不明である.そこで,より適切なラビング剤の選択に役立つ最新の情報を収集し,その評価を行うためにラビング剤市場の実態調査を行った.
      調査方法はインターネットを使用した.調査項目は,法的区分,薬効成分,用法・用量,性状とし,今回検索された製品数は164製品であった.
      市場で流通しているラビング剤は法的区分上,医療用医薬品,一般用医薬品,医薬部外品,雑品に分けられ,医療現場において雑品は適さないと考えられた.また,ラビング剤の1回使用量は定まっていないものの,約3 mLを目安に使用する,もしくは乾燥までに20~30秒かかる量を使用する必要があると考えられた.さらに,ラビング剤の性状には,ゲル状,液状,泡状の製品があった.市場における手指消毒剤の効果・使用感は多岐に渡るため様々なファクターを考慮した製品を選択することにより,手指消毒の遵守率を向上させることが望まれる.
  • 新井 亘, 上田 恵子, 岡添 進, 矢吹 直寛, 小林 理栄, 松木 祥彦, 矢嶋 美樹
    2012 年 27 巻 2 号 p. 142-148
    発行日: 2012年
    公開日: 2012/06/05
    ジャーナル フリー
      上尾中央医科グループ薬剤部では,感染制御専門薬剤師を育成する支援として,2006年度から定期的に研修会を開催している.2010年度からは,日本病院薬剤師会の感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師にて運営委員会を結成した.年度始めに研修会の参加者を募り,感染制御チームの活動や感染症治療の症例の提出を依頼した.
      2010年度は19施設から36名の参加者があり,47事例を収集した.その中から運営委員会の委員(以下,運営委員)にて薬剤師が日常的に遭遇する16事例を選択し,発表者を定めるなどの年間計画を立案した.事前に運営委員にて研修資料を基準に基づいて内容の確認を行い,必要に応じて修正を依頼した.研修会は年間4回開催し,少人数による討論形式で行った.36名中25名が4回通して継続した参加であった.参加者を対象とした研修後の調査では,薬剤師の感染制御に関する関心が高かった.年度末に行った感染に関連する業務の実施率の調査では,研修会参加施設群において不参加施設群と比較して高かった.研修によって施設間の情報の共有や感染対策の支援体制が促進し,対応の多様性を検討することができる内容であると思われる.感染制御専門薬剤師または感染制御認定薬剤師が研修会を運営することは,専門特化した人材育成のために重要な任務を担っているといえる.
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