日本環境感染学会誌
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24 巻, 4 号
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原著・短報
  • 津曲 恭一, 長田 智子, 新城 日出郎, 田村 謙二, 河口 朝子
    2009 年 24 巻 4 号 p. 227-232
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      ハンセン病療養所である当園の入院病棟において,2008年7月,B型インフルエンザ陽性患者が1名発生した.終息宣言までの14日間の間に,合計8名の発熱,咽頭発赤,咳嗽,下痢等を訴えた患者が確認された.このうちインフルエンザウイルスキットに対し陽性反応の見られた患者は1名のみで,他の7名は陰性であった.
      医療関連感染症対策委員会が緊急に開催され対応策が検討された.感染源と経路の特定,感染経路の遮断による二次感染阻止,早期終息を目的とし,内科医師,看護課,検査科,医療関連感染症対策室を中心に活動した.
      園内の感染状況の把握,園内放送による入所者と職員への注意喚起はほぼ連日行われた.さらに,1) 手洗いの励行,2) 防護具やマスク配布,3) 集団活動(機能訓練室と食堂の使用)の制限,4) 面会の制限,が実施された.発症患者8名の平均年齢は92歳で,インフルエンザによる重症化のリスクが高く,また前年に接種したインフルエンザワクチンの効果は望めないと考えられたため,インフルエンザウイルスキットで陰性の患者全員にもリン酸オセルタミビルが予防投与された.
      感染経路は,外部からの持ち込み(ヒト-ヒト感染)が疑われたが,確証を得られなかった.最初の患者発症から,5日目以降は新たな発熱患者は発生せず,流行は速やかに終息した.
      迅速な組織的対応とリン酸オセルタミビルの予防投与が奏功したと考えられた.
  • 前崎 繁文, 樽本 憲人, 阿部 良伸, 山口 敏行, 松本 千秋
    2009 年 24 巻 4 号 p. 233-236
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      2006年10月から2007年4月まで当院血液内科の血液疾患患者を対象に改修工事に伴う血清中(1, 3)-β-D-グルカンとアスペルギルスガラクトマンナン抗原の変化を検討した.対象患者は当院血液内科入院中の58症例を対象とし,2006年10月から2007年1月までの3ヶ月間の改修工事前の患者血清延べ60検体と改修工事後の延べ21検体を比較した.工事前後の6ヶ月間にアスペルギルス症の発症は認めなかったが,統計学的な有意差はないものの,(1, 3)-β-D-グルカンの平均値は工事前が2.5 pg/mLであったのに対して,工事後は15.3 pg/mL,アスペルギルスガラクトマンナン抗原は工事前が0.3 C.O.Iに対して工事後は0.48 C.O.Iといずれも工事後に増加していた.以上の結果から,病棟の改修工事は血液疾患患者においてアスペルギルス症の発症危険となることが示唆され,十分な感染対策が必要と考えられた.
  • 梅田 和徳, 奥田 研爾
    2009 年 24 巻 4 号 p. 237-243
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      pH 8.8二酸化塩素系消毒薬は,安定化二酸化塩素を主成分とする消毒液である.我々はこの消毒剤の各種微生物に対する殺菌・静菌効果を明らかにして来た.しかし,開発した二酸化塩素系消毒剤はpH 8.8のアルカリ性の液であるため,皮膚等に頻回塗布すると,痛み,発赤,痒みなどの症状が出現する.酸性の電解水により,pH 8.8の二酸化塩素系消毒剤を中性にすることで,皮膚刺激症状を回避し,その殺菌効果を保持することができるか否かを検討した.中性化したpH 7.2二酸化塩素系消毒剤とP. aeruginosa, S. aureus, C. albicans, S. marcescens, MRSAの微生物を反応させた場合,5分間で菌数が検出限界以下になり,強い殺菌効果を持つことが明らかになった.また実際に使用する4倍の高い濃度でモルモットを用いた皮膚刺激性試験においても,pH 7.2二酸化塩素系消毒剤による発赤等の副反応は見られなかった.
      このように中性に調整した二酸化塩素系消毒剤(3000 ppm含有)は安全性が高く,刺激臭も無いため,病院内・介護施設等における医療現場への応用への新しい消毒剤として大変有望であると考えられる.
報告
  • 井上 卓
    2009 年 24 巻 4 号 p. 244-249
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      当院常勤医師が発症した水痘に対し医療関連感染対策を行った.本人は陰圧個室に入院とし,アシクロビルの点滴治療にて軽快退院し,全発疹が痂皮化するまで自宅待機とした.医師が濃厚に接触したと考えられた院内職員116名および当該科入院患者44名の計160名は水痘帯状疱疹IgG抗体価を検査し,結果がでるまで予定手術は延期とした.感受性者(抗体価4.0未満)は患者2名と職員2名であった.2名の患者に対しては,患者と家族に事態を説明した上で個室管理とし,結果判明日から7日間アシクロビル40 mg/kg/日を予防内服してもらった.2名の職員は結果判明日から接触後21日目まで自宅待機とし,かつ,7日間アシクロビル40 mg/kg/日を予防内服させた.すでに退院した患者と外来患者に対しては電話で事態を説明し,急な発熱,発疹を認めた場合,当院を受診するようにお願いした.感受性者4名を含め,二次発症は認められなかった.
      今回の事例を経験し,全職員のウイルス抗体価の測定をしておき,感受性者に対しては可能な限りワクチン対策をとること,職員の感染症に対する意識を高めることが重要であると考えられた.
  • 山本 敬一, 村田 郁子
    2009 年 24 巻 4 号 p. 250-254
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      地域の麻疹流行に伴い,当院職員への感染ならびに院内麻疹感染防止を目的に行なった麻疹抗体価測定,麻疹ワクチン接種について報告する.対象は当院に在職する35歳未満の派遣,委託を含む全職員367名である.市販キットによる抗体検査(初回検査)で,麻疹IgG抗体が陰性または,判定保留者には,麻疹ワクチン接種を勧奨し,接種希望者に接種,接種6週間後に抗体検査(接種後検査)を行った.問診,接種は当院小児科医が行い,今回の検査,接種に係る費用は全額病院負担とした.初回検査は対象367名中331名で行い,麻疹抗体陽性者は286名(86.4%),陰性者26名(7.9%),判定保留者19名(5.7%)であった.初回検査の陰性者と判定保留者45名をワクチン接種対象者とし,妊娠中の職員,退職予定者の4名を除く41名に接種した.接種後検査では,41名中,陽性が40名,判定保留が1名であった。なお,判定保留の1名の初回検査は陰性であり,今回の麻疹ワクチン接種により不十分ながらも抗体獲得効果を認めた.
  • 遠藤 英子, 土井 まつ子, 篠田 かおる, 山幡 朗子
    2009 年 24 巻 4 号 p. 255-259
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      感染に関する倫理的諸問題を病院でどのように扱われているかを調べる為に2005年に全国調査をした.対象は地域別,病床数別の層別2段サンプリング法にて300~499床202施設,500~699床202施設,700床以上158施設を無作為抽出し,感染管理者562名を対象にアンケート調査を無記名で行った.調査内容は病院の属性,倫理面に関する組織的取り組みについてであった.回収率は43%(244施設)であった.
      倫理的配慮では,「入院患者を感染者であることが第3者にわからないような配慮をしている」と回答した病院は74%,倫理委員会を設置している病院は93%であった.倫理に関するガイドラインがある病院は60%,倫理に関する問題発生時マニュアルがある病院は35%,倫理に関する職員教育を行っている病院は52%であった.倫理に関するガイドラインの内容は人権擁護39%,個人情報保護49%,情報開示49%,感染管理42%,医療安全47%,研究倫理42%,セクシャルハラスメント29%であった.倫理的な問題発生時の初期対応者は病院長・副院長の対応が一番多く,病床数300~499床・500~699床ともに約36%であった.委員会に委ねられている施設は26%であった.倫理委員会での検討内容が記載してあったのは59%で,感染に関する事項の記載は研究の中の1件のみであり,治療・研究に関しての検討が半数を占めていた.
  • 尾家 重治, 神谷 晃
    2009 年 24 巻 4 号 p. 260-263
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      新しい湿潤剤である2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチル共重合体(MPCポリマー)を配合した速乾性手指消毒薬が発売された.そこで,このMPCポリマー配合製剤の抗菌効果および保湿効果について,他の4製品の速乾性手指消毒薬と比較検討した.
      MPCポリマー配合の液剤およびゲル化剤はいずれも,比較した速乾性手指消毒薬の4製品(液剤の計2製品,ゲル化剤の計2製品)と同様に,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や多剤耐性緑膿菌などの8種類の細菌をすべて15秒以内に殺滅した.一方,これらの計6剤の速乾性手指消毒薬を5回/日の5日間連続使用して,手指皮膚の角層水分量に及ぼす影響について検討した.その結果,角質水分量が比較した4製品では減少したものの,MPCポリマー配合製剤では増加した.すなわち,MPCポリマー配合製剤は手荒れを生じさせにくい製品であることが判明した.
      MPCポリマー配合製剤は,すぐれた抗菌効果のみならず,良好な保湿効果を示す製品であることが判明した.
  • 島崎 豊, 竜 瑞之, 吉田 葉子, 平田 善彦, 古田 太郎
    2009 年 24 巻 4 号 p. 264-270
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      手荒れ防止の新たな取り組みとして,手荒れの程度(高度,中程度,低度)に応じて,手袋,皮膚保護剤,保湿剤を使い分ける方法がある.事前調査において最も多く見られた中程度の手荒れでは皮膚の乾燥だけでなく角層バリア機能が部分的に失われていると考えられる.今回,この角層バリア機能の改善を目的として開発されたフッ素系ポリマー含有製剤の手荒れ改善効果を調査した.頻回の手指衛生を行う医療従事者の業務中の実使用に耐え得るか調査するため,手指皮膚への保持能と石けん手洗いによる角層細胞剥離率を測定したところ,本製剤は手指皮膚への保持能力が高く,石けん手洗いによる角層細胞剥離率を顕著に抑制することがわかった.また,2ヶ月間に渡り中程度手荒れを有する看護師33名が本製剤を勤務中に使用し,その手荒れ改善効果とアンケートにより使用感を検証したところ,27名(82%)のTEWL値(経皮水分蒸散量)が有意に低下した.以上のことから,本製剤は中程度手荒れの角層バリア機能を改善し,手荒れ改善効果を有することが示された.
症例報告
  • 棚町 千代子, 橋本 好司, 矢野 知美, 佐川 公矯
    2009 年 24 巻 4 号 p. 271-278
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      角膜感染症は,角膜における代表的な日和見感染症で,全世界的にみれば白内障に次いで失明に至る重篤な眼疾患である.細菌性,真菌性,ウイルス性,およびアメーバ性によるものがあり,そのうち角膜真菌症(keratomycosis)は,カビ(真菌)によって惹起される角膜炎であり,起炎菌として酵母様真菌であるCandida属と,Fusarium属,Aspergillus属を代表とする糸状菌に大別され,糸状菌による角膜真菌症は,土壌や草木に関連した外傷が原因で多く報告されている.当院では2005年から2008年の間に糸状菌により惹起された角膜真菌症は,Paecilomyces lilacinus 3例,Fusarium oxisporum 2例,Aspergillus fumigatus 1例,Plectsporum tabacinum 1例の計7例であった.当院では,P. lilacinusによる角膜真菌症が最多であった.P. lilacinusによる症例は重篤な転帰をとるため,感染源が土壌や草木にある場合,本菌を疑い抗真菌薬を考慮し早期治療が行われることが重要である.
  • 樽本 憲人, 阿部 良伸, 山口 敏行, 前﨑 繁文
    2009 年 24 巻 4 号 p. 279-282
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/10/10
    ジャーナル フリー
      多剤耐性緑膿菌(MDRP)感染症に対してaztreonam (AZT)とarbekacin (ABK)の併用療法が有効であったMDRP尿路感染症の1例を経験したため報告する.症例は93歳女性,前医にて発症した左眼内炎の手術目的にて当院入院したが,入院時尿培養にてMDRPが検出された.入院中にMDRP尿路感染症を発症したため,尿道カテーテルの抜去,利尿促進と同時にAZTとABKの併用治療を行い,改善を認めた.FIC indexは0.375であり,相乗効果が確認された.今後,MDRP尿路感染症患者では,尿路移行性の良いABKを併用した治療も選択肢の一つとしてあげられると考えられた.
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