日本環境感染学会誌
Online ISSN : 1883-2407
Print ISSN : 1882-532X
ISSN-L : 1882-532X
30 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 西内 由紀子, 田丸 亜貴, 戸谷 孝洋
    2015 年 30 巻 4 号 p. 243-248
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      塩素系消毒剤の次亜塩素酸は水やプールの消毒に使用され,二酸化塩素ガス溶存液は次亜塩素酸より低濃度で微生物を殺菌することが知られている.非結核性抗酸菌のMycobacterium avium subspecies hominissuis(MAH)は水道や浴室でバイオフィルムを形成する.MAHは環境から経口感染して播種性MAH症を,経気道感染して肺MAH症を引き起こす.したがってこれらの消毒法の確立は急務であるが,バイオフィルムに対する効果はあまり知られていない.そこでMAHのバイオフィルムに対する塩素系消毒剤の殺菌作用を液体中の浮遊菌と比較した.浮遊MAH菌(約105 CFU/mL)は結核菌やM. kansasiiよりも消毒剤に抵抗性を示し,検出限界以下まで殺菌するには次亜塩素酸ナトリウム1000 mg/L 5分間または100 mg/L 30分間要した.同様に二酸化塩素ガス溶存液は10 mg/L濃度5分間曝露で検出限界以下まで殺菌した.96ウェルプレートに形成されたMAHのバイオフィルムは,108–109 CFU/wellまで菌数が増加した.これらに対して次亜塩素酸ナトリウム1000 mg/Lは30分後に約90%の菌を死滅させるにとどまった.一方,二酸化塩素ガス溶存液100 mg/Lは10分後に99.99%殺菌し,30分後には対数減数値5–8を示した.完全に殺菌できないことから浴室等のMAH除菌効果はさらに検討する必要がある.また環境菌に対する消毒剤の評価はバイオフィルムを考慮する必要がある.
  • 福本 裕, 望月 規央, 三山 健司, 榎園 崇, 中川 栄二, 小澤 慎太郎, 岡田 尚巳
    2015 年 30 巻 4 号 p. 249-256
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      重症心身障害児(者)(重症児(者))の医療・介護関連肺炎(NHCAP)の発症リスクについて,不顕性誤嚥に着目し,唾液と喀痰に共通するNHCAP原因菌(共通NHCAP原因菌),および日常生活動作の影響を検討した.当院入院の重症児(者)男性5人,女性8人の計13人,中央値で19歳,全例が全介助,栄養は経鼻経管7人,胃瘻6人,また,気管切開は4人,喉頭気管分離は5人に施術していた.唾液と吸引痰を同時に採取し,共通して分離培養された菌種から共通NHCAP原因菌を検討した.唾液から96株,喀痰から82株,共通した菌は49株が分離された.共通NHCAP原因菌は36株で,唾液,喀痰それぞれ全分離菌中38%,44%,また共通した菌中の73%を占めた.共通NHCAP原因菌の菌種は,口腔内レンサ球菌が8人,H. influenzaeが7人,P. aeruginosaが5人から分離された.喉頭気管分離により,共通する菌数は減少し(p<0.01),口腔内レンサ球菌が減少(p<0.05)した.重症児(者)に共通NHCAP原因菌が定着し,誤嚥によるNHCAPのリスクが高いと考えられた.喉頭気管分離は口腔内レンサ球菌によるNHCAPのリスクを軽減した.しかし,共通NHCAP原因菌が口腔から下気道へ感染に影響する要因には,気管孔周囲の汚染や医療スタッフとの接触などが考えられた.
報告
  • 野口 恵子, 満田 正樹, 山﨑 勝利, 太田 岳志, 太田 かおり, 山本 基, 辰田 仁美
    2015 年 30 巻 4 号 p. 257-261
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      当院において2014年2月から3月の1ヶ月間に,同一病棟において3名の患者からmethicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)が検出された.3名は入院後48時間以降の検出例であった.さらに,検出同時期に長期入院MRSA保菌患者1名が同じ病棟に入院していた.これら4名から検出されたMRSA株は,薬剤感受性パターン(アンチバイオグラム)とphage open reading frame typing法による遺伝子学的解析が一致した.我々は院内伝播を疑い,感染経路を明らかにするために同病棟における環境のMRSA培養と遺伝子学的解析を実施した.その結果,環境から4株のMRSAが検出され,患者由来株のアンチバイオグラムと遺伝子学的解析が同一であった.これらのことから,病棟の環境におけるMRSAの拡散が示唆された.その後,感染制御チームが環境整備の徹底を含めた対策を講じ,院内伝播は終息した.
      これらの結果より,環境のMRSA培養とPOT法を用いた遺伝子学的解析に基づいて環境整備を徹底したことで,院内伝播を最小限に抑えられたと考えられた.
  • 浜田 幸宏, 山岸 由佳, 加藤 由紀子, 末松 寛之, 岡前 朋子, 久留宮 愛, 平井 潤, 川澄 紀代, 松浦 克彦, 三鴨 廣繁
    2015 年 30 巻 4 号 p. 262-267
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      Methicillin-resistant Staphylococcus aureus (MRSA)は,院内感染を引き起こす極めて重要な原因菌である.我々は,2012年4月から2013年6月までに当院で分離された新規MRSA検出率と消毒量および抗菌薬使用量(AUD)について検討した.MRSA検出率は消毒量と負の相関(r=−0.34)があり,カルバペネム系薬のAUDと正の相関(r=0.61)があった.次いで,第一世代セファロスポリン(r=0.59),キノロン系薬(r=0.48)と正の相関を示した.この結果を用いて主成分分析を行ったところ,MRSA検出率に対する寄与率は消毒量が20.7%,カルバペネム系薬のAUDが12.7%であった.そのMRSA検出率に対する累積寄与率は,消毒量とカルバペネム系薬のAUDの総和で86.7%であった.新規解析法により,MRSA検出率をビジュアル化することが可能となり,MRSA検出率の低下に繋がった.
  • 河村 一郎, 関谷 紀貴, 荒岡 秀樹, 冲中 敬二, 根井 貴仁, 原田 壮平, 松永 直久, 大曲 貴夫
    2015 年 30 巻 4 号 p. 268-273
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      国際的には耐性菌サーベイランスの指標を標準化する動きにあるが,我が国ではそのために必要な議論がまだ十分に行われていない.本研究では,耐性菌の代表であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)サーベイランスにおいて,国内施設の感染対策チームが実際にモニターする指標やその情報収集の方法に関する多様性を評価した.三次医療機関となる8施設に対して,全ての培養検体及び血液培養検体におけるMRSAサーベイランスの方法(分子・分母データの収集,測定する指標)に関するアンケート調査を実施した.院内伝播の指標である感染・保菌発生率または感染・保菌発生密度率は8施設中5施設,感染負荷の指標である血流感染発生率は1施設が測定していた.また,曝露負荷の指標である入院患者有病率や患者有病率全体を測定していた施設も存在した.同時に,これら指標を算出するために収集するデータの項目やその定義も異なっていた.このように我が国では,耐性菌サーベイランスにおいて測定する指標の選択や収集する情報の項目や定義が施設毎に異なるのが現状である.今後の標準化に向けて必要なことは,リスクアセスメントに有用で感染対策の介入につながる有効な指標に関する研究を進め,病院疫学者を交えて耐性菌サーベイランスの国家的なコンセンサスを模索することである.
  • 加藤 豊範
    2015 年 30 巻 4 号 p. 274-280
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      手洗いや手指衛生は院内感染防止対策の基本である.しかし,医療関係者の多くは手指衛生を遵守しているとは言い難く,手指衛生遵守率の向上は院内感染対策の永遠のテーマでもある.本研究では,感染委員会及びICTが中心となり,組織的に手指衛生遵守率向上に取り組んだ結果,取り組み当初(2011年)3.2%であった手指衛生遵守率は,2年後(2013年)には21.9%と飛躍的に上昇した.さらに,MRSAの検出率は31.5%から13.1%に減少し,MRSAの新規分離率も11.5%から2.6%まで減少した.手指衛生に対する組織的な取り組みは,その遵守率を向上させ,MRSA分離率への低下につながり,さらにはMRSAの新規検出菌数の減少へとつながったと考えられる.本研究の結果から,組織的に手指衛生遵守率向上の取り組みを行う事は,院内感染防止に有用であると考えられる.
  • 山本 容子, 岩脇 陽子, 室田 昌子, 滝下 幸栄
    2015 年 30 巻 4 号 p. 281-287
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      本研究は,単科の精神科病院の職員を対象に実施したパームスタンプ法を用いた手指衛生研修の有効性を検証することである.
      病院職員42名を対象に,パームスタンプ法とグループワークを用いた手指衛生研修(2日間計3時間)を実施した.研修の前後に手指衛生に関する自記式質問紙調査を実施し16名(38.1%)の有効回答を得た.対象者の職種は,看護師81.3%,調理関係者12.5%,精神保健福祉士(PSW) 6.3%であった.手指衛生が「重要である」との認識は,研修後に有意に高くなった(p=0.02).WHO「手指衛生の5つのタイミング」では,「患者に接する前」,「患者周囲の環境に触れた後」の手指衛生の重要性が研修後に有意に高くなった(p=0.002).研修からの学びでは,87.5%が手洗い前の手指の汚染状況を知ることができたとしていた.
      2011年度の病院全体の1,000患者日数当たりの液体石けん使用量は6.3 L,手指消毒剤使用量は0.3 Lに対して,研修実施年度では,液体石けん17.9 L,手指消毒剤0.5 Lであった.
      本手指衛生研修では,単科の精神科病院の職員が手指衛生の重要性を再認識すると共に,病院全体の液体石けん及び手指消毒剤の使用量が増加したことから効果的であることが示唆された.
  • 渋谷 智恵, 萬井 美貴子, 杉町 富貴子, 雨宮 みち, 洪 愛子
    2015 年 30 巻 4 号 p. 288-293
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/05
    ジャーナル フリー
      本会は,東日本大震災による復興支援として,被災したA病院に感染管理認定看護師(CNIC)の派遣による教育支援を5ヶ月間(全19回)行った.その結果,A病院は,感染管理機能の構築,慣習的な感染対策の改善に至った.また,支援終了直後に発生したノロウイルスによる集団感染にも迅速に対応し,自助により終息に至ることができた.
      東日本大震災後の報告には,避難所などの集団感染に対し感染管理専門家の介入によって終息に至った報告はあるが,教育支援による効果として,自助での集団感染の終息に関する報告はない.A病院が自助による集団感染に対応できた背景には,A病院看護職員がCNICの教育支援を受け入れた体制や組織風土もあったが,CNICが教育の際に行った「感染対策の根拠の明示」,「業務整理と改善」,「職員間での情報の共有」が行動変容に影響していると考える.
feedback
Top