日本環境感染学会誌
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38 巻, 3 号
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Proceedings
  • 畑 啓昭, 佐治 雅史, 飯尾 恵
    2023 年 38 巻 3 号 p. 75-79
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    手術野の皮膚消毒は,ヨード系消毒薬・アルコール製剤・グルコン酸クロルヘキシジンが頻用される消毒薬であるが,新たな皮膚消毒薬であるオラネキシジンの有効性を検証したRCTが報告された.一方,消化器外科領域の術野消毒では粘膜を含んだ術野の消毒に対しては,多くの消毒薬が禁忌であることから,各薬剤の有効性と注意点を理解して選択をする必要がある.本稿では,消化器外科領域の術野消毒で頻用される薬剤について,適応や禁忌,注意点を解説するとともに,有効性に関する最近の研究結果をまとめる.

  • 高橋 佳子
    2023 年 38 巻 3 号 p. 80-85
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    手指衛生は感染対策の基本である.病院に勤務する薬剤師は,病棟業務の充実化により,入院患者のみならず,外来でも直接患者と接する機会が増えている.それに伴い,薬剤師自らが感染症のリスクに曝される危険性,また,薬剤師も感染伝播の媒体となる可能性が増加している.薬剤師も他の医療従事者と同様に手指衛生に関する適切な知識や手技の習得,実践が要求されるが,薬剤師の手指衛生を含む感染制御に関する意識は薄く,手洗いの知識や手技の習得が不十分とされている.そこで,薬剤師が行う手指衛生遵守率向上への試みについて紹介する.

  • 岩﨑 博道
    2023 年 38 巻 3 号 p. 86-89
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    我が国に多発するダニ媒介感染症には,つつが虫病,日本紅斑熱および重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)があり,日本紅斑熱とSFTSは近年増加が著しい.つつが虫病と日本紅斑熱の原因病原体はリケッチアであり,テトラサイクリン系薬が有効である.他方,SFTSの原因病原体はウイルスであるが,有効な抗ウイルス薬は確定していない.つつが虫病と日本紅斑熱の臨床症状は,発熱・皮疹・刺し口の3主徴が共通し極めて類似するが,テトラサイクリン系薬を投与した場合,つつが虫病は2日以内に90%が軽快するのに対して,日本紅斑熱は回復に数日を要することも多い.つつが虫病に比べ日本紅斑熱は重症化傾向が強いが,重症化の背景にはサイトカインストームが関与していると推測される.リケッチアやSFTSウイルスに対する日常診療での感染対策はアイガードやN95マスクを含む標準予防策の遵守であり,消毒にはアルコール含有消毒薬が有効である.

原著
  • 吉盛 奈津美, 藤本 裕子, 今井 清隆, 一幡 結, 長谷川 香織, 具 芳明, 妹尾 充敏, 加藤 はる
    2023 年 38 巻 3 号 p. 90-98
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    日本では,Clostridioides difficile PCR-ribotype 027(RT027)の分離率は低い.私たちは,日本の地域の中核病院で発生したRT027によるアウトブレイクを経験したので報告する.2019年2月から6月末までに,当院の一病棟(A病棟)で18例の新しいC. difficile感染症(CDI)患者が認められた.アウトブレイクがピークとなった3月のCDI発生率は,69.9/10.000 patient-daysであった.18患者のうち,11患者(12エピソード)で菌株解析が可能であり12菌株すべてがRT027と同定された.一方,A病棟以外に入院したCDI患者からはRT027は分離されなかったことから,RT027によるアウトブレイクはA病棟に限局していたことが明らかとなった.基本的な感染対策の徹底により,7月よりA病棟でのCDI発生率は減少し,同時にRT027は分離されなくなった.調べた12株のRT027株はすべてガチフロキサシンおよびモキシフロキサシンに感性であり,本アウトブレイク株は,欧米でアウトブレイク流行株RT027としては報告されてこなかった,フルオロキノロン感性RT027株であった.日本での,RT027株の疫学や臨床的重要性については,今後の検討が必要である.

  • 伏見 華奈, 土屋 憲, 齋藤 敦子, 更谷 和真, 原田 晴司, 芦澤 洋喜, 増田 昌文
    2023 年 38 巻 3 号 p. 99-106
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    当院では1997年から給水系123箇所を対象にレジオネラ属菌定期環境検査を行っている.データが保存されている2008年以降,トイレ・洗面手洗い場,患者共有シャワー,歯科ユニットなど47箇所からレジオネラ属菌が検出された.うち24箇所は,繰り返し同種のレジオネラ属菌が検出され,レジオネラ属菌が給水系に定着しており発育と増殖に適した環境が存在する可能性が示唆された.レジオネラ属菌の環境対策に難渋したが,反復する環境検査により,レジオネラ属菌の汚染状況を日常的に把握し,汚染場所や感染源を特定し,場所に応じた対策を講じることができた.現時点まで院内感染によるレジオネラ症患者は見られていない.環境検査の費用は,2021年4回の定期環境検査は,224,844円/年であった.

    レジオネラ属菌の定期環境検査は,適切な衛生管理を要する院内感染対策において重要な情報源となる.そして,対策後の汚染状況と対策の有効性評価のために,その後も検査を追加して維持管理をすることが必要である.施設ごとに施設構造や入院患者の感染リスクを念頭に置きながら,費用対効果も含め施設ごとに検討を行い管理していくことが望まれる.

  • 藤田 次郎, 與那 恵美, 知念 徹, 伊藤 まゆみ, 加治木 選江
    2023 年 38 巻 3 号 p. 107-113
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    オミクロンBA.5の流行時に発生したクラスターの際に,沖縄県の1特別養護老人ホームで24症例の新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)を経験し,その臨床像,画像所見,および検査成績などを明らかにしえた.この特別養護老人ホームは,重点医療機関である総合病院と同じ建物内にあるため,胸部CT,および血液検査が実施しやすい環境にあった.24症例の年齢の中央値は91歳であった.発症時には全症例で呼吸不全を認めなかった.胸部CTを実施しえた21症例のうち,11症例でCOVID-19肺炎に矛盾しない所見が得られた.COVID-19肺炎と診断された症例については,原則,重点医療機関に入院とし,レムデシビルで治療した.特別養護老人ホームにおいては,経口抗ウイルス薬を発症早期から投与した.経過中,胸部CTにて誤嚥性肺炎が明らかであった症例では抗菌薬を併用した.24症例中1症例(4.2%)が誤嚥性肺炎の悪化に伴う呼吸不全で死亡した.本報告は,超高齢者のCOVID-19の臨床像,画像所見,および検査成績を示した点で貴重であると考える.

  • 黒田 誠一郎, 清海 杏奈, 今井 志乃ぶ, 杉浦 宗敏
    2023 年 38 巻 3 号 p. 114-122
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    注射薬を混合調製する場合は空気中の浮遊微粒子や微生物による汚染を防ぐために米国連邦規格Class 100 (100個/ft3以下) に維持されたクリーンベンチで, 無菌操作を行うことが重要である. しかし, 調製作業時の気流の乱れなどにより, クリーンベンチ内の清浄度が設置環境の影響を受ける可能性がある. 我々は, クリーンベンチを平均浮遊微粒子数 (A) 1,000, (B) 30,000, (C) 300,000個/ft3の異なる環境下に設置し, かつSashを20 cmおよび40 cmに開口した条件でIVH用輸液の混合調製を行った時のクリーンベンチ内の微粒子数および微生物数を測定した. 微粒子数はSashを20 cmに開口した場合, いずれの設置環境でもClass 100を維持していたのに対し, 40 cm開口した場合はいずれの設置環境においてもClass 100を維持できなかった. また, 微生物数はSashを20 cmに開口した場合は, すべての測定点で微生物の検出はなかったが, 40 cmに開口した場合は, すべての環境で微生物が検出され, (C) においてNASAの基準範囲である0.1個/ft3以下を超えていた. 以上から, クリーンベンチ設置環境とSashの開口幅がクリーンベンチ内の微粒子数および微生物数清浄度に影響を及ぼすことが示唆された.

短報
  • 進士 恵吏, 新庄 正宜, 高野 八百子, 笹尾 佳生, 杉浦 なおみ
    2023 年 38 巻 3 号 p. 123-125
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    当院では,2020年の春以降,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大防止のため,全面的な面会禁止となった.しかし,新生児室では,愛着形成や親子の相互作用促進,育児手技獲得による面会の必要性から,治療や看護の一環として十分な感染対策を講じた面会を実施していくこととした.面会の実施にあたっては,COVID-19の市中感染状況を鑑み,感染制御部と協議し,医師家族とも目的を共有した.家族状況に応じた面会を,その達成度と流行状況をみながら,段階的に緩和した.その結果,面会の実施,面会の緩和によっても新生児室内で濃厚接触者,感染者のいずれも発生しなかった.家族にも感染対策行動を実践できた.

報告
  • 金﨑 美奈子
    2023 年 38 巻 3 号 p. 126-131
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    A病院精神科病棟におけるCOVID-19集団発生のリスク因子を検討した.2022年1月16日から2022年2月3日までの間,COVID-19と判明したA病院身体合併症病棟の職員および患者を対象に症例対照研究を実施した.単変量解析およびロジスティック回帰分析を行った結果,職員については放歌のある感染者ケア(AOR:11.2,95%CI:1.06-119.00,p=0.04),ケア介入数(AOR:2.4,95%CI:1.07-5.45,p=0.03),患者については同室者の放歌(AOR:21.1,95%CI:2.80-158.00,p<0.01),同室者が感染者(AOR:24.4,95%CI:3.03-197.00,p<0.01)がリスク因子として挙がった.感染者がマスクをすることで飛沫・エアロゾルからの曝露量を効果的に抑制できることが明らかとなっている.精神科病院ではマスク着用が困難な患者が多いが,一時的であればマスク着用が可能な場合もある.よって,近接するケアを行う前に患者にマスク着用を求めることが職員の曝露予防の一助となる.また,十分な換気によりエアロゾルの蓄積を防ぐとともにN95マスク着用による防護が有効と考える.

  • 大塚 健悟, 宮尾 直樹
    2023 年 38 巻 3 号 p. 132-137
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    当院において,2019年9月から11月にかけてカルバペネマーゼ産生腸内細菌目細菌(Carbapenemase-Producing Enterobacterales:CPE)によるアウトブレイクが発生した.同一病棟より計4名の患者からCPEが検出された.当該患者のうち3名は同室の期間があり,他1名は隣室であった.当該病棟患者の保菌調査ならびに病棟内のシンク,洗面台等の水回り箇所を中心に計163箇所の環境調査を施行した.新たに他患者よりCPEの検出はなかったものの,シンクおよび吸引器周囲を中心に計13箇所からCPEが分離された.パルスフィールドゲル電気泳動法,ポリメラーゼ連鎖反応法を用いた分子生物学的疫学的検討を施行した結果,同室であった患者3名のCPEはIMP-19型,患者1名ならびに環境培養からのCPEはIMP-1型であることが判明した.患者は,ほぼ全介助の日常生活動作であったことより,スタッフによる水平伝播の可能性が考えられた.標準予防策,環境清掃の徹底ならびに環境除菌を施行しアウトブレイクは終息した.およそ1年後に,環境調査を再度施行した.調査の結果,CPEの検出は器具洗浄シンクの1箇所のみにとどまった.

    環境除菌に加え手指衛生の強化ならびに水回り箇所の清掃の徹底が再発防止に重要であると考えられた.

  • 小谷 奈穂, 吉野 秀紀
    2023 年 38 巻 3 号 p. 138-142
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    周術期における手術部位感染予防対策の強化のため,ワーキンググループを発足した.その活動の一つとして,手術部位感染防止のために手術時の二重手袋の標準化を目的に手袋の種類の選定と啓発活動に取り組んだ.同時に,ラテックスアレルギー対策としてラテックス手袋を廃止した.外科系標榜診療科16科に,手術時の二重手袋実施状況について現状調査し,調査結果をもとに二重手袋を妨げる要因を改善できる手術用手袋を選定した.外科系医師80人,手術室看護師47人を対象に,選定した3セットを試用した.試用終了後,無記名自記式質問紙調査にて操作性,装着感,皮膚症状の3項目を評価した.その評価結果をもとにラテックスフリー,かつ二重手袋で手術操作に影響しない手袋へと変更した.その結果,手術時の二重手袋が標準化し,2019年51%,2020年49%であった遵守率が2021年99%へ上昇した.今後,手術部位感染防止と職業感染防止のために,手術時の二重手袋標準化を継続し,手術用手袋の品質や術者の操作性,手袋の価格も踏まえて外科系医師及び手術室看護師と共に定期的に見直す予定である.

  • 大東 芳子, 森兼 啓太
    2023 年 38 巻 3 号 p. 143-147
    発行日: 2023/05/25
    公開日: 2023/11/25
    ジャーナル フリー

    大腸手術508例を対象にフィードバックに重点をおいたSSIサーベイランスを実施した.期間は2013年1月より2020年12月までで,2015年1月から12月を介入導入期とし,2013年1月から2014年12月を前期,2016年1月から2020年12月を後期とした.SSI防止の介入策として,感染対策チーム(infection control team:ICT)が6か月毎に外科医師,手術室看護師,外科病棟看護師を対象にフィードバックを実施した.フィードバックでは対象者が主体的にSSI防止策について意見交換を行う機会の提供に努めた.SSI発生率の平均は前期30.2%,後期13.4%(P<0.001)であり,統計学的に有意に低下した.SSI発生のリスク因子についてロジスティック回帰分析を行った結果,男性(オッズ比:2.30,95%信頼区間:1.320-3.980,P<0.01)はSSI発生の独立した危険因子であり,内視鏡(オッズ比:0.39,95%信頼区間:0.233-0.665,P<0.001)とフィードバックを実施した後期(オッズ比:0.51,95%信頼区間:0.299-0.853,P=0.01)はSSI発生の独立した防御因子であった.これにより,フィードバックに重点をおいたSSIサーベイランスはSSI発生率を低下させることが示唆された.

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