日本環境感染学会誌
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37 巻, 5 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 畑 啓昭, 佐治 雅史
    2022 年 37 巻 5 号 p. 158-163
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    日本におけるCOVID-19患者は,2022年4月時点で780万人を超えており,治療中の患者や既感染の患者に手術治療を行う機会が増えている.COVID-19患者に手術を行う場合は,以下の順に適応を考えるのが良い.1.術後合併症が多いため感染から7週間経過以降に行う.2.医療者への感染リスクを減らすために感染から10日間経過以降に行う.3.代替治療も困難であれば十分に感染対策を講じて緊急手術を行う.また,COVID-19患者であっても腹腔鏡手術の適応を変える必要はないが,サージカルスモークについて理解しておくことは重要である.これらの推奨の背景を近年の報告をもとにまとめた.

  • 中南 秀将
    2022 年 37 巻 5 号 p. 164-173
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    近年,院内と市中の双方において,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の流行型が大きく変化している.2010年以前は,院内で分離されるMRSAの約8割がstaphylococcal cassette chromosome(SCC)mec type IIの典型的な院内型MRSA(healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)であった.しかし,2014年以降はSCCmec type IVの市中型MRSA(community-associated MRSA:CA-MRSA)であるUSA400 clone類似株が主流となった.市中においては,USA300 cloneと呼ばれる強毒型CA-MRSAによる皮膚感染症が増加している.USA300 cloneは,白血球溶解毒素であるPanton-Valentine leukocidin(PVL)と皮膚への定着能を亢進するarginine catabolic mobile element陽性であることから,難治性の皮膚感染症や壊死性肺炎を惹起する.これまで,本邦においてはUSA300 cloneの流行は限定的であり,大きな問題となることはほとんどなかった.しかし,最近,USA300 cloneが市中だけでなく院内にも伝播している.本稿では,これまでに我々が解析してきたHA-MRSAとCA-MRSAの流行型の変化と現在の流行状況について概説する.

原著
  • 黒図 肇, 菅原 えりさ, 佐伯 康弘, 梶浦 工, 木村 哲
    2022 年 37 巻 5 号 p. 174-182
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    医療環境の清掃を評価する方法の一つである蛍光マーカー法は安価で簡便でリアルタイムに清掃状態を可視化できるが評価は定性的で微生物除去との関連性も十分検討されていない.そこで今回写真画像に着目し蛍光マーカー(Fm)を撮影した画像のピクセル値(PX)を用いた定量法の構築と微生物(Bc)除去率との関連性を検討した.まず「ピクセル上のFm量の増加に従いPX値は最大PX値(255)に対して指数関数的に漸近する」との仮説式により総Fm量(Xt)を算出した.次に市販のFmの希釈液の一定量を塩化ビニール黒,白,ステンレス(S)の3種の基板に塗布しデジタルカメラで撮影してその各画像のPXからXtを算出し実塗布量との相関係数Rから仮説式を検証した.Bc除去率にはStaphylococcus aureusを使用した.白,Sの各板上にBcおよびFmを隣接塗布し含水ワイプで一方向にふき取りその後のFmとBcの各除去率を算出した.結果,仮説式に基づき算出したXtと実塗布量は良好な相関性(黒,白,S板上での相関係数は各々0.99,0.99,0.99)を示した.また白,S板上のBc,Fmの各除去率の決定係数は各々0.46,0.61であった.一方Fm除去率90%以上に限ればBc除去率との一致性は良好な傾向を示した.これらよりFm量を画像データから定量化することは可能であることが検証された.

  • 神之田 理恵, 渡邉 温子, 松尾 美樹, 小松澤 均, 宮脇 正一
    2022 年 37 巻 5 号 p. 183-189
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    【目的】本研究の目的は,使用年数や消毒機能の有無など条件の異なる歯科診療用ユニット給水系中の微生物汚染状況を把握し,各ユニットにおけるフラッシングの効果を検討することである.

    【対象および方法】ユニット水は,月曜日と金曜日の診療開始前にスリーウェイシリンジからフラッシング前と10秒間のフラッシング後に採取した.消毒機能有りユニットは診療終了後毎の消毒が推奨されているが,本研究では金曜日の診療終了後のみに消毒液を停滞させ,翌月曜日の診療開始前に消毒液を排出し,10秒間のフラッシング後に採取した.採取したユニット水は普通寒天培地に塗布し,3日間培養後にコロニー数をカウントした.

    【結果】使用年数が長いユニットでは他のユニットに比較し有意に微生物数が多かった.使用年数が短いユニットではフラッシング前後での微生物数に有意に差を認めたが,使用年数が長いユニットではその効果は低かった.消毒機能有りユニットではフラッシング前後に関わらず微生物数は少なかった.

    【考察】歯科診療用ユニットの微生物汚染状況は各ユニットで異なっているため,各ユニットの定期的な検査とユニットに応じた洗浄が微生物数のコントロールに必要であることが示唆された.

報告
  • 佐野 智望, 久々湊 由佳子, 荘司 路, 小井圡 啓一, 馬場 尚志, 平松 玉江, 塩塚 美歌, 小林 治, 岩田 敏
    2022 年 37 巻 5 号 p. 190-197
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    201X年9月2日,感染制御室宛に薬剤師,看護師1名ずつのA型インフルエンザ発生の報告を受け9月3日より症候群サーベイランスを開始した.調査結果から8月30日に開催された病棟行事を契機に院内でインフルエンザが伝播した可能性が示唆されたため,当該病棟でのマスク着用や手指衛生の徹底を指示すると共に,参加者の体調管理の徹底を呼びかけた.さらに,薬剤部は参加者以外からもインフルエンザ様症状のある職員が複数検出されたことから部内での伝播を疑い環境清拭を強化した.9月4日夜までに職員18名(薬剤師,看護師,栄養士,医師,理学療法士,臨床治験コーディネーター),9月7日迄に入院患者2名のインフルエンザ発症が認められ,病院職員及び入院患者にまで及んだインフルエンザの伝播は病棟行事が関連していると推定した.症候群サーベイランスの結果,薬剤部では関連行事への参加前からインフルエンザ様症状のある職員が複数いたことが判明し,手指衛生の徹底を図るため携帯用手指消毒剤を導入した.また,このようなアウトブレイク発生時の対応について院内のマニュアル改訂を行った.幸い,介入後の9月8日以降は院内で新たなインフルエンザの発生はなく,病棟閉鎖を余儀なくされる様な重大なアウトブレイクに至ることなく収束した.季節性インフルエンザであっても流行期を外れた時期にも院内の流行が発生しうること,院内の流行をできるだけ早期に収束させる為には日常からの環境整備と手指衛生を徹底し,適切な対応を行うための対策マニュアルの整備が重要であると再認識した.

  • 吉本 和樹, 井内 律子
    2022 年 37 巻 5 号 p. 198-203
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    特別養護老人ホーム(以下,特養)の入居者の多くは基礎疾患や複数の疾患を抱えていることから,特養には感染等による発熱を起こしやすい人が多く生活しているといえるだろう.今回特養入居者の発熱の実態を明らかにすることと発熱発症に関連する要因についての示唆を得ることを目的として,近畿圏内にある特養5施設の入居者295人を対象に調査を行った.年齢,性別,BMI,基礎疾患の有無,要介護度,食事時の介助の有無,排泄介助の有無,移動手段,尿道留置カテーテルの有無,発熱発症の有無について一次集計の後,変数間の関連について解析を行った.研究参加の同意が得られた134人のうち,1年間で医師の診察を必要とする発熱を発症したのは84人で,その84人は1年間で合計175回医師の診察を受けていた.発熱時の診断名で多かったのは風邪症候群,尿路感染症,肺炎,誤嚥性肺炎,気管支炎の順であった.多変量ロジスティック回帰分析により,基礎疾患がある人,そして食事介助が必要な人はそうでない人よりも発熱発症しやすいこととの関連がみられた.本研究により,特養の入居者のうち基礎疾患のある人,食事介助が必要な人に対する感染対策の徹底が,発熱発症のリスク軽減に寄与するのではないかという示唆が得られた.

  • 王 迪
    2022 年 37 巻 5 号 p. 204-209
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は特別養護老人ホーム(特養)におけるCoronavirus Disease 2019(COVID-19)に関する感染管理の実態を明らかにすることである.

    日本の関東地方にある特養から無作為に抽出した500施設の施設責任者1名を対象とし,2021年9月~12月に自記式質問紙調査を行った.

    64名(12.8%)の回答を分析対象とした.医師・看護師・介護福祉士の資格を持っていない者が多かった(56.3%).「COVID-19に関するマニュアルがあり」が81.3%.「COVID-19感染症対策に関する職員教育を行った」が67.2%,職員の研修参加率は67.1%であったが,「研修に参加できない職員への対応方法があり」が64.1%であった.気軽に感染管理の専門家の支援を受けられる体制の整備および特養における感染管理の人材育成が課題となった.感染管理に関する教育プログラムの開発が必要と考えられる.

  • 星 貴薫, 和田 直樹, 井畑 理沙, 菅沼 美里, 松田 まなぶ, 山田 和範, 佐藤 秀紀
    2022 年 37 巻 5 号 p. 210-215
    発行日: 2022/09/25
    公開日: 2023/03/25
    ジャーナル フリー

    中小病院で実践する抗真菌薬適正使用支援(Antifungal Stewardship:AFS)の有用性とAFSの介入ポイントについて検討した.2016年4月~2020年3月の期間に血液培養よりCandida spp.が検出された入院患者を2016~2017年度(介入前群),2018~2019年度(介入後群)に割付けし,AFS前後における患者アウトカムの変化について比較検討を行った.対象例は介入前群28例,介入後群23例の全51例,除外症例は4例であった.30日死亡率は,介入前群39.3%,介入後群39.1%で有意差は認められなかった.抗真菌薬の変更割合(種類)は,介入前群7.1%から介入後群44.0%と有意な増加を示した(p<0.05).また30日死亡に対する多変量ロジスティック回帰分析において,血液培養陽性から72時間以内の適正抗真菌薬の投与,Candida glabrataの分離が死亡リスク低下因子であることが示された(p<0.05).これら結果より,Candida菌株を早期に同定し,適正な抗真菌薬治療を早期に開始することが,重点的介入ポイントであることが示された.多くの中小病院では,これら役割を担うのは薬剤師であり,主導的関わりが重要である.

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