鼻茸は固有鼻腔において, 鼻粘膜が種々の病的刺激により腔内に茸状に突出することにより生ずる, 上皮と結合組織 (粘膜固有層) とからなる隆起性病変である.ヒト鼻茸の微細構造に関する研究は, 固有層に関するものが多く, 上皮については少ない.著者は主に電子顕微鏡を用いて40例の鼻茸について検索を行ない次の結果を得た.1) 鼻茸上皮は主に多列線毛上皮からなるが, 一部は重層扁平上皮で覆われており, 両者の間には漸進的な移行を示す部位が存在し, そこは重層円柱上皮の構造を示していた. 2) 固有層にはリンパ球, 形質細胞, 好中球, 好酸球, 肥満細胞, マクロファージ等の浸潤細胞が存在し, 肥満細胞は軽度脱果粒の所見を認めるものが多かった. 3) 多列線毛上皮内に線毛嚢が見出された (40例中7例). 4) 線毛嚢は細胞内に見られる比較的大きな円形または楕円形の空胞状構造物として認められ, 嚢胞壁から多数の線毛, 微絨毛が派生していた. 5) 線毛嚢形成は, はじめに上皮深部の細胞内に中心子 (基底小体) の増殖と, 滑面小胞体の増殖が見られ, 両者は混在して群を作る傾向が認められる.ついで基底小体の一端から根小毛が派生し, その反対側に滑面小胞体が湾曲して基底小体を取り囲む様に配列し, いわゆるapical vesicleを形成することが認められる.そして基底小体の増殖 (増数), 線毛 (幹) の伸長, apical vesicleの融合機序が相次いで起こり, 線毛嚢が形成されると考えられる. 6) 線毛嚢が管腔に移口し, 線毛細胞を形成することも見られるが, 線毛嚢の成因については, 炎症その他の病理学的異常により, 線毛細胞前駆細胞における線毛形成の障害, あるいは線毛細胞の分化の異常, または形成された基底小体の移動の障害等により形成されるものと考えられる.
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