大気環境学会誌
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43 巻, 4 号
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  • 鵜野 伊津志, 弓本 桂也, 杉本 伸夫, 清水 厚
    2008 年 43 巻 4 号 p. 191-197
    発行日: 2008/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    土壌性ダストの発生・輸送モデルCFORSに4次元データ同化手法を新たに導入した。このモデルを用いてライダー観測データを利用したデータ同化手法のパフォーマンスを, 2007年3月末から4月初めに中国から日本各地で観測された高濃度の黄砂現象について適用して調べた。その結果日本国内の5地点のライダー観測データをダスト発生・輸送モデルに同化することで, ダスト発生地域の発生量の最適化が可能となり, モデルと観測データの一致性が向上するとともに, データ同化前の発生総量57.9Tgに比較して57.8%(約21.2Tg) の発生量の増大が必要とされた。モデル結果は衛星センサーOMI Aerosol Index (AI) や地上気象通報による観測結果とも良く整合し, ライダーデータの同化は, アジア域のダストの発生・輸送モデルの予測可能性を大きく向上させることが示された。
  • オバービュー
    大原 利眞, 鵜野 伊津志, 黒川 純一, 早崎 将光, 清水 厚
    2008 年 43 巻 4 号 p. 198-208
    発行日: 2008/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    2007年5月8, 9日に発生した広域的な高濃度オゾン (O3) エピソードの特徴と発生原因について, 日本全国の大気汚染測定データと東アジアスケール化学輸送モデルを用いて解析した。
    全国の測定局で観測されたO3濃度は, 5月8日の朝9時ごろに九州北部で高濃度となり始め, 15時には壱岐や五島といった離島を含む九州北部や中国地方西部において120ppbvを超える高濃度となった。高濃度は夜になると低下したが, 21時においても西日本の一部の測定局では120ppbvを超える状態が持続した。翌日5月9日9時の濃度レベルは前日よりも全国的に高く, 15時になるとO3の高濃度地域は, 北海道と東北北部を除く日本全域に拡大し, 関東, 中京, 関西などの大都市周辺地域や, 富山県や新潟県などの北陸地域や瀬戸内地域の測定局において120ppbv以上を観測した。
    化学輸送モデルは5月7~10日に観測された地上O3濃度の時間変動をほぼ再現するが, ピーク濃度レベルを過少評価する。この傾向は, 中国沿岸域北部・中部の排出量を増加するに従って改善される。モデルで計算された5月7~9日の地上付近のO3濃度分布によると, 空間スケールが500kmを越える80ppbv以上の高濃度O3を含む気塊が, 東シナ海上の移動性高気圧の北側の強い西風によって, 中国北部沿岸から日本列島に輸送されたことを示す。5月8, 9日に日本で観測された高濃度O3には, 中国や韓国で排出されたO3前駆物質によって生成された光化学O3に起因する越境大気汚染の影響が大きい。80ppbv以上の高濃度O3に対する中国寄与率の期間平均値は, 青森県以北を除く日本全国で25%以上であり, 九州地域では40-45%に達すると見積もられた。しかし, 本研究で使用したモデルは都市大気汚染を充分に表現していないため, 大都市域周辺等では越境汚染の寄与率が異なる可能性がある。また, モデル計算結果ならびに地上大気汚染測定局とライダーの観測結果から, O3とともにSO2や人為起源エアロゾルも越境汚染していたこと, これらの物質は高度1500m以下の混合層の中を輸送されたことが明らかとなった。
  • 黒川 純一, 大原 利眞, 早崎 将光, 鵜野 伊津志
    2008 年 43 巻 4 号 p. 209-224
    発行日: 2008/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    2007年5.月8, 9日にかけて北日本を除く目本全域で発生した光化学オゾン汚染について, 本研究で整備したネスト版RAMS/CMAQ連携モデリングシステムを用いて現象と要因の解析を行った.
    シミュレーション結果は, 5月8日に主に九州, 中国地方日本海側に高濃度オゾン領域が発生し, 5月9日にはその領域が東日本側に移動して, 北陸にも高濃度領域が現れるというエピソードの特徴を概ね再現した. 5月8日の九州, 中国地方日本海側の高濃度オゾン領域には, 中国内陸部から北東部海上で発生した高濃度オゾンを含む気塊が流れ込んでいる様子が見られ, 越境汚染の影響が示唆された, そこで, 各地域を起源とするオゾンが, 今回の高濃度オゾンエピソードにどの程度寄与しているかの評価を行った. その結果, 5月8日の九州北部, 中国地方の高濃度ピーク時が最も中国からの影響が大きく, 寄与率は約40%であった.また, 近畿地方より東側, 北側の領域でも, 高濃度ピークの現れる5月9日に中国からの寄与率が最も高い値を示していた.
    2007年5月8, 9日に日本で広域的に発生した光化学オゾン汚染は, 中国を起源とする越境汚染の影響を強く受けている事が示された. しかし, モデルの観測再現性や寄与率評価にはまだ課題が残されているため, 今後本研究で使用したモデリングシステムや発生源データを更に改良し, 得られた結果を検証する事が必要である.
  • 早崎 将光, 大原 利眞, 黒川 純一, 鵜野 伊津志, 清水 厚
    2008 年 43 巻 4 号 p. 225-237
    発行日: 2008/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    2007年5月8-9日に観測された注意報レベルに達するオゾン (O3) 高濃度事例を対象として, 全国の1時間平均大気汚染物質濃度測定値を用いた動態調査をおこなった。
    O3濃度上昇は, 8日の早朝に日本列島西端の五島から観測され始めた。隠岐における日最高O3濃度は深夜に観測された, 日本海沿岸では, 日最高O3濃度は東側ほど遅い時刻で観測された。離島では, 二酸化硫黄と粒子状物質もオゾンと同期した濃度変化を示した。後方流跡線解析とライダーによる入為起源粒子の鉛直分布から, 汚染気塊はアジア大陸を起源とすることが示された。
    9日は主に東日本でO3高濃度を観測した。日本海側では, 前日と同様に東側ほど遅い時刻で日最高O3濃度を観測した。それに対して, 関東平野では観測時刻の遅れは内陸側に向かう方向でみられ, O3濃度も日を追う毎に高くなった。高濃度期間の汚染物質濃度と気象条件の時空間変動から, 関東平野では, 大規模海陸風循環の継続による都市汚染の蓄積の影響も大きいことが示唆された。
    以上の結果から, 日本列島規模の広範囲では越境汚染がO3高濃度の主要因であり, 都市近郊では国内起源汚染がそれに上乗せされていたと考えられる。
  • 梶原 秀夫, 高井 淳, 吉門 洋
    2008 年 43 巻 4 号 p. 238-244
    発行日: 2008/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    時系列濃度データとMETI-LISモデル (経済産業省-低煙源工場拡散モデル) を用いて, 高濃度地点周辺における発生源の位置と排出量の推定を行う手法 (逆解析手法) の定型化に向けた検討を行った。発生源位置の推定には, 解析対象領域内の任意の地点に仮想発生源を設定した際の, 実測濃度と計算濃度双方の時系列データ問の相関係数を地図上に等値線表示するという手法を用いた。有害大気モニタリング調査によって, 近年高濃度が観察されている堺地域のアクリロニトリルを解析対象とした。堺地域のアクリロニトリルの月毎の濃度データを用いて逆解析で推定された発生源位置は, 追加的に2地点で行った現地測定による実測濃度データを用いた逆解析結果によって絞り込まれた。逆解析によって推定された発生源位置はPRTR届出事業所の位置とほぼ一致した。仮想発生源高さ設定値は発生源の推定位置にほとんど影響を与えなかった。事業所敷地中央付近に発生源を設定し, 発生源高度を0~10mとしたときに推定される排出量はPRTRによる排出量を少なくとも4倍程度上回っていた。ただし, 発生源が単一であること, 発生源が敷地中央付近であること, などの仮定のもとでの粗い推定値であることに留意が必要である。本研究では3地点の実測濃度データを用いたが, 今後, 本報告と同様な試みを行う場合は方法論点には通常2地点の実測濃度データがあれば解析可能である。
  • 山本 浩平, 桑名 潤, 水澤 裕太, 東野 達
    2008 年 43 巻 4 号 p. 245-256
    発行日: 2008/07/10
    公開日: 2011/11/08
    ジャーナル フリー
    本研究では, PMの健康影響を評画するための基礎データを構築するため, 都市大気中PM中で多くの割合を占めると考えられる元素状炭素 (Elemental Carbon;EC) に着目し, 関西2府4県における排出量の推計と大気輸送モデルを周いた濃度分布推定を高い空間解像度の元で行った. 元素状炭素の排出源としては, 自動車 (沿道) からの排出に加え, 船舶からの排出, および燃焼施設 (固定発生源)からの排出量についても推計を行い, 沿道からの排出量については, 幹線道路に加え細街路からの排出を考慮した. 推計は平成11年度について行い, 3次メッシュにおける排出量として整理した. この結果, 関西2府4県における年間EC排出量は6.62×10 3 (t) と見積もられた. 排出構造分析の結果, 沿道からの排出について, 平日より休日の方が単位時間あたりの排出量が大きいことが明らかとなった。また, 総EC排出量において, 沿道起原の排出量が全体の約92%を占める結果となり, 特に普通貨物車からの寄与が大きいことが示された.
    次にこの構築されたインベントリを入力として, 気象モデル剛5と大気化学輸送モデル (MAQからなるモデルシステムを用い, 各季節から代表的な期間を選んで関西におけるECの空間分布の推定を行った. 観測データとの比較において, 気象モデルMM5は一定のパフォーマンスを示した. CMAQによる大気輸送計算においては, ほぼ計算領域からの) 排出が支配的と考えられる夏期において, 実灘直と定量的に岡程度の計算結果が得られたが, 詳細な時間変動については追随できない点も存在した. また他の季節のシミュレーションにおいては, 大陸起源の寄与が大きいと予想されるため過小評価となった. 今回推計した排出インベントリのさらなる検証のためには, ネスティングや排出源高度の設定を含めた, 大気輸送計算の条件設定について詳細な検討が必要であることが分かった. 今後は, 多種の化学物質を含んだ総括的なシミュレーションを行い, 健康リスク評価のためのツールとして発展させていくことが望まれる.
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