科学技術基本法が2020年6月に改正され、法律の名称も「科学技術・イノベーション基本法」に改められた。同法の改正は、1995年の法制定以来四半世紀ぶりのことである。この間、日本の科学者の代表機関である日本学術会議は、折に触れて従来の科学技術基本法には看過できない問題があることを指摘し、その改正を提言してきた。日本学術会議の主張の骨子は、①人文・社会科学を含む総合的な学術政策の実現、②基礎科学・基礎研究の推進、③政府の科学・技術政策への科学者コミュニティの意見の反映の3点である。本稿は、これまで日本学術会議が発出してきた提言等を振り返り、今回の科学技術基本法改正に至る日本学術会議の取り組みと基本的な問題意識を改めて整理するものである。今回の基本法改正に合わせて内閣府設置法が改正され、科学技術・イノベーション政策に関する司令塔機能の強化が図られることとなった。科学技術・イノベーション政策や基本計画の策定に科学者コミュニティの意見を反映させる日本学術会議の役割は益々重要となると思われる。
小論は、学術とイノベーションとの相関について検討するものである。科学技術基本法法制化から25年、その後の科学技術基本計画に見られる学術研究、イノベーションの取り扱われ方、また文部科学省の学術分科会における、学術と科学技術イノベーションの相関の理解に関する議論などの整理を行う。そして、学術とイノベーションの相関についてシュムペーターらの見解に立ち戻って技術的要因と経済的要因との相関について、経営学的議論を含め考察する。その上で、学術研究体制における産学連携の組織機構、その具体的形態としての技術科学研究所について検討し、日本の学術研究体制はなお途上段階にあることを指摘する。また、その途上性は総就業者数に対する研究者数の割合、博士学位取得者数の人口当たりの水準と相関していることをマクロ分析から指摘する。
科学技術基本法改正の背景にある科学技術政策の構造的変化について素描する。具体的には90年代以降の、いわゆるポスト冷戦期の30年間の間に、日本の科学技術政策がどう変化したかを、産官学(ここでいう産官学とは、それぞれ政府、産業界、大学や研究機関のことをいう)諸セクターの関係と、ヒト・モノ・カネの動きという二つの視点から描く。ただし、本特集の趣旨を踏まえ、本稿ではとくに学と産官との関係がどう変化したかを中心にみていく。
ここでは、科学技術基本法の改定によって責務規定が課されることになった大学のこれからについて検討する。日本には現在、800に近い数の大学が存在し、様々な夢を描く290万の学生が学んでいる。その大学を、Society 5.0へと社会を変えるエンジンに仕立てるために、徹底的に管理し、機能分化させていく、それが大学改革の方向性である。危機感を持って大学とは何かを社会全体で問い直すときがきている。
科学技術基本法の改正では、「人文科学のみに係るものを除く」という規定が削除され、人文・社会科学が科学技術・イノベーション政策のなかに明確に位置づけられることになった。人文・社会科学を科学技術基本法の対象に組み込むことは日本学術会議も求めてきたことであるが、人文・社会科学の健全な発展、さらには学術全体の振興という観点からはどのようにとらえることができるのだろうか。
本稿では、2008年に提案された「学術基本法」、および1960年代の科学技術基本法制定をめぐる議論、また、1956年の科学技術庁設置をめぐる議論から、科学技術基本法の改正について検討する。
この総合コメントにおいては、2020年における科学技術基本法改正以降の日本におけるイノベーション政策の方向性が、国際的動向に対していかなる同時性と差異を伴っているのかを展望する。日本政府はその歴史的経緯や言語の関係から、国際的動向とは時差のある形で科学技術およびイノベーション政策を展開してきた。科学技術基本法改正以後に始動する第6期科学技術・イノベーション基本計画ではトランスフォーマティブ・イノベーションが意識されており、人文社会系学問が振興対象となる。これは、社会システム変革を掲げるグローバルなイノベーション政策の動向を取り入れた結果といえる。ただし、日本の議論においては、環境危機の増大や社会的不平等という複合化する現代の課題を扱うことが強く意識されているとはいえない。また、受容・ユーザ主導型のイノベーションへの関心やそれを支える民主主義的諸制度に関する議論が脆弱といえる。
「科学技術基本法」が2020年に4半世紀ぶりに改定された。旧基本法(1995年)は科学技術振興が中心であったが、新しい「科学技術・イノベーション基本法」(2020年)では、「イノベーション」と「人文学・社会科学」の推進が追加された。これに基づいて政府が決定した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021年~2025年)は、社会の変革と人々の幸福の実現を謳い大きな特徴となっている。この計画をどう実現するか。政策形成プロセスからファンディング、分野や組織を越えた連携など、STIエコシステムの見直しと科学技術のガバナンスの確立が必要となっている。
第2次安倍政権末期の2020年6月、日本の科学技術振興の根幹を成す科学技術基本法が改定された。「『科学技術創造立国』の実現に向けた立法以来25年ぶりの抜本改正」と謳われ、共産党を除く与野党の賛成多数で可決、成立した。科学者の代表機関である日本学術会議も、基本的に歓迎の立場を表明した。だが、同政権による科学技術政策の歪みと研究現場の寒々しい変質ぶりの双方を見てきた一記者として、こうした現実に対する危機感の欠如は看過できない。今回の改定が意味するのは、この歪みを固定化し、さらに助長することに他ならないからだ。具体的には、従来以上に官邸主導の「選択と集中」が進み、科学技術政策は一層、産業界寄りに傾く。同時に国防政策とのリンクが強化され、軍事研究になびく研究者が増えていく。平和国家の前提を無視して軍事大国の潮流を追う「国策イノベーション」路線の先に、日本が目指すべき「科学技術創造立国」の姿はない。
近年、日本は「出口志向」と「選択と集中」を特徴とする科学技術政策を推し進めてきた。その象徴とも言えるのが、林立するトップダウン型の研究開発プロジェクトだが、多額の国費を投じながら、期待されたような成果が出ているとは言い難い。「誇大広告」や課題責任者の選考での「やらせ公募」、検証なき後継プロジェクトの実施──などの問題も生じた。これらのプロジェクトで采配を振るう「科学技術の司令塔」、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の構成や役割がその前身からどう変遷してきたかを考察する。一方、「選択と集中」の裏側では、基盤的経費が削減されたことにより多くの大学が困窮し、研究の裾野が脅かされている。さまざまなデータで日本の研究力の衰退が指摘されるようになって久しい。科学技術基本法が掲げる「科学技術創造立国」を幻としないための処方箋は何か。高い研究力を誇る沖縄科学技術大学院大学の運営にヒントを探る。