学術の動向
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27 巻, 10 号
選択された号の論文の19件中1~19を表示しています
特集
Disability Inclusive Academia ─障害のある人々の視点は科学をどう変えるか─
  • 熊谷 晋一郎
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_9
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー
  • ──運動障害・実験系研究
    本田 充
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_10-10_14
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     生命科学研究では多くの場合、ある程度の身体運動を伴う実験作業を必要とする。そのため、運動障害を持つ研究者や研究者を目指したい学生は、研究活動において特有の問題を抱えることになる。本稿では、筋ジストロフィーに伴う運動障害を抱える筆者がアカデミアで学部・修士・博士課程、そして国内・海外でのポスドクに至るまで生命科学の分野で研究を続けてきた経験をふまえ、研究活動や関連する課外活動における困難と意義について紹介する。

  • ──「障害のある研究者」当事者研究の試み
    勝谷 紀子
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_15-10_18
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     筆者は人工内耳を装用している研究者である。自分でも言葉でうまく説明ができない原因不明の言葉の聞き取りづらさを抱えて研究してきたが、オーディトリー・ニューロパシーという蝸牛神経の働きが悪くなる希少疾患を患っていることが5年前に判明し、人工内耳の埋め込み手術を受けて人生の途中で「障害のある研究者」となった。聞こえの問題が判明してから現在に至るこれまでの経過を振り返りながら、特に大学以降の研究者としてのキャリアを重ねていく過程の各時点で抱えた困りごとの特徴を整理する。障害がある研究者としての体験の経過を分析して「障害のある研究者」当事者研究を試みた。最後に、まとめとして「障害のある研究者」当事者研究をふまえて、当事者の立場から「三つの場」の提案をおこなった。

  • 矢田 祐一郎
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_19-10_22
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     難聴・難病と共に生きる研究者の実態の一例として、筆者の普段の業務実態、抱えている問題を紹介し、有り得る解決策について私見を述べたい。まず、筆者は補聴器をつけて何とか会話ができる程度の難聴がある。研究者の業務は一人でできることが多いが、当然ながらコミュニケーションは重要で、難聴は少なくない困難を生じる。コミュニケーションが困難だという問題は、コロナ禍でリモートワークが一般的になった状況と共通する面があり、同様の対応策が難聴者にも有効となることを述べる。また、筆者は難病を抱えている。定期的な通院等が必要で、決まった時間に働けないこともあるが、研究職でよく採用されている裁量労働制など、柔軟な働き方を可能にする制度が役に立っている。しかし、現在の研究者の職制は自由に時間を使えて体力のある人を前提とした制度設計であり、そのことが多様性を産みにくくしている可能性について述べる。

  • ──医療者教育・研究を例に考える
    瀬戸山 陽子
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_23-10_27
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     私は看護学部在学中に歩行障害などの障害をもち、大学の配慮を受けながら看護師の資格を得て、現在は医科大学で教育と研究を行っている。日本は2014年の国連の障害者権利条約への批准を受けて、障害をもちながら高等教育機関で学ぶ「障害学生」の数が増加してきた。また近年欧米では、障害のある医療者/医療系学生のインクルージョン推進の動きが活発で、医学や看護の大学向けのガイド等が発行されている。障害のある医療者/医療系学生が増えることは、本人が障害特性を活かした活躍をすることと、周囲への影響という二つの側面から、障害による医療アクセスの差を解消し、医療の質向上に貢献する。研究と教育が行われる場は、社会における新たな知や価値を見いだすことを目指しながら、かつ、学生が学ぶ場である。障害のある人が医療に関する教育や研究の場にいることは、多数派仕様の医療に、新たな価値を追加できるのではないかと考えている。

  • 松﨑 丈
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_28-10_33
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     聴覚障害の状態は多様で、聴覚障害当事者は一人ひとりの聴こえ方が異なっており、音声言語あるいは手話言語のどちらかを主要な使用言語としている。本稿では、この多様性を踏まえた聴覚障害のある学生や研究者に対する合理的配慮と事前的改善措置の具体的な内容を解説するとともに、大学や研究機関における聴覚障害領域での合理的配慮と事前的改善措置を推進させるための重要課題として、聴覚障害当事者の「意思の表明」への支援、人的資源に依存した手話通訳や文字通訳の質的保障を高めるための体制整備について述べる。さらに、音声言語優位の聴者多数社会で発生する意思疎通や情報獲得における社会的障壁を不可避的に経験している聴覚障害当事者の本質的能力の問題や心理的問題への対応について聴覚障害当事者の視点も交えて論じる。

  • 南谷 和範
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_34-10_39
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     表題のテーマを取り上げるに当たって、本稿ではまず、視覚障害のある学生の修学環境の改善・推移について時系列的に解説する(1章)。次に、視覚障害のある研究者の現代の就業環境について、各論・具体的な事例から一般化していくような形で述べる(2章)。

     学生としてであれ、研究者としてであれ、視覚障害者が学術に関わる活動を行う上では、文献類を始めとする文字情報へのアクセスという問題を避けて通ることはできない。この問題は情報通信技術(以下ICTと表記)の発展によって大きな改善を遂げた。このようなICT活用とマンパワーによる支援、両者を実際に機能させるための制度化された支援体制の整備の度合といった諸要素の帰結として、現在の就学・研究環境が形成されている。さらに、この就学・研究環境が抱える限界や問題を考える上では、実の所その前提となっている日本の高等教育の現況を意識した分析・議論が欠かせない(3章)。

     この一連の論述を、視覚障害のある学生・研究者を取り巻く具体的な状況の見取り図を示すことを通じて行うというのが本稿の試みである。

  • 綾屋 紗月
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_40-10_45
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     当事者研究と先行研究に基づくと、教育や研究の場面において生じる自閉スペクトラム症者の困難は四つに大別できる。一つめは感覚過敏であり、ストレスや不安、過剰適応の影響を常に考慮する必要がある。二つめはコミュニケーションの齟齬であり、その原因を自閉スペクトラム症者に負わせるのではなく、参加しやすいコミュニケーション・デザインや情報保障を考慮に入れることが重要である。三つめは実験や実習、レポートなどの課題を計画的に遂行することの困難であり、課題の文脈と作業のディテールという、マクロ・ミクロ双方の情報保障が有益な可能性がある。四つめは不器用さであり、教育課程のうちから自分のペースで機器の取り扱い方を練習する機会を保障することが望ましい。自閉スペクトラム症を含む精神発達障害全般において、先行研究のみならず当事者の語りや当事者研究の報告が、合理的配慮や基礎的環境整備を具体化する上で必須の知識と言える。

  • 並木 重宏
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_46-10_50
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     障害者差別解消法が施行され、大学に進学する障害学生の数が増えてきている。しかし、障害のある学生の理工系分野への参加はまだ少ない。理由として、実験や野外実習での活動における障害を事由とする困難があげられる。ここでは車椅子利用者など移動に障害のある学生・研究者に対象を絞り、彼らが経験するであろう実験室での困難に対する合理的配慮と基礎的環境整備の実際について、アメリカの事例と国内での取り組みの見通しについて述べる。

Special Feature
中等教育におけるジェンダー平等について考える
  • 岡部 美香
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_51
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー
  • 岡部 美香
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_52-10_56
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     「市民との対話」、「市民への発信」を活性化するべく開催した日本学術会議・公開シンポジウム「中等教育からはじめよう! ジェンダー平等 ─誰一人取り残さない、誰もが暮らしやすい社会の実現をめざして─」(2022年5月5日)の企画に至った背景・経緯と成果、今後の課題について報告する。

  • 畠山 勝太
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_57-10_67
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     本稿は、まず第1章で男女間の教育格差解消がなぜ大事なのかを人権(国際条約)と経済(人的資本論)の側面から解説した。次に第2章でOECDのデータを基に日本の女子教育が低い大学(院)進学率・STEM系学部進学率・トップスクール進学率という三重苦の問題に直面していることを解説しつつ、教育政策研究で明らかになっていることからこの女子教育の三重苦の問題が経済的にどのような示唆を持ってしまうのかも解説した。第3章ではデータと教育政策研究が生み出してきたエビデンスに基づいて、学校・社会(家庭)・政府といった各教育政策関係者が日本の女子教育の問題に対してどのような対処策を講じれるのかを足早に解説した。

  • ──中等教育に着目して
    木村 涼子
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_68-10_75
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     21世紀の現在においても、日本における就学経路上のジェンダー格差は、特に高等教育段階において存在している。なにゆえ、こうした格差が存在するのか、そして、いかにすれば格差は解消できるのか。この問いの答えは、中等教育段階に着目することで見えてくる。現代日本において、中等教育段階が、性別の社会化が進展する重要な教育段階であることを考えるために、私たちを「今」に連れてきた教育の歴史をジェンダーの視点から振り返り、「今」を再検討する。

  • 寺町 晋哉
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_76-10_83
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     2021年度現在、高校卒業後に4年制大学へ進学する者の数は男子57.4%、女子51.3%であり、二人に一人以上が進学しているが、実は二つの「足枷」が存在している。一つは非大都市圏、いわゆる「地方」であり、どの地域に在住しているかによって大学進学のハードルは異なっている。もう一つは「性別」であり、全国の大学進学率において女子が男子を上回ったことはこれまで一度もなく、特に「地方の女子」は「地方と性別」双方が大学進学の「足枷」になる。

     大学進学には社会的諸条件が影響するため、「大学進学はやる気さえあれば誰でも可能」といった個人の努力や意志の問題へ矮小化してはならない。大学という進路選択が開かれた社会を目指すためにも、「足枷」をなくしていく政策や支援制度が必要である。その一方で、大学進学を選択しなくとも安心して暮らせる社会を基盤に据えることも重要である。

  • 工藤 洋子
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_84-10_89
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     SDGsの一つに「ジェンダー平等」が示されて以降、わが国でもこの問題に関する現状と課題が様々な形で取り上げられるようになった。他の先進国と比較しても、政治や管理職、理系の分野などで日本のジェンダー指数は低いままである。本論文は、このような状況の中で、高校教育の現状はいかにあり、どのような取り組みが必要となるのか、これまでの実践を振り返りつつ考察する。一地方の公立学校の教員として私自身が日々行っていることを振り返りながら、明日からの実践の可能性を考えていきたい。

  • ──役割を限定しないフォークダンス授業の実践
    君和田 雅子
    2022 年 27 巻 10 号 p. 10_90-10_94
    発行日: 2022/10/01
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     中学校の体育では、創作ダンス、現代的なリズムのダンスと並んで、フォークダンスが学習内容に含まれる。ある生徒が学習カードに「なんで男性役、女性役、どちらか片方の役しかやらないのか?」と、書いてきた。確かに、役割を振ってしまうと自分の動きしかわからない。ペアの動きを丸ごと理解しないままでは、本来の面白みもわからないのでは……。そこから、「役割を限定しないフォークダンスの授業」づくりに取り組み始めた。あえて男女という言葉を使わずに、男性役を「リードする側」女性役を「リードされる側」と呼び、途中で交代してどちらの役割も経験する形で学びを進めた。どちらも実際に経験することで、ペアで動く際のコツや、スムーズなパートナーチェンジの感覚が実感できたようだ。「お互いの動きが予めわかっていれば、誰とでも、気持ちよくダンスが楽しめる」という、極めてシンプルながら、見落としていたことに気づかされる授業となった。

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