学術の動向
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28 巻, 1 号
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特集
カーボンニュートラル実現に向けた学術の挑戦
  • 髙村 ゆかり, 吉村 忍
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_13
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー
  • 吉村 忍
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_14-1_16
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     日本学術会議ではカーボンニュートラルに関する学術俯瞰図を作成した。これは、全学術分野、全ステークホルダが連携・協力してカーボンニュートラル社会実現に向けて取組むための海図の役割を果たすものである。本稿では、本俯瞰図の要点を解説する。

  • 渡部 雅浩
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_17-1_23
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     2021年8月に、IPCC第一作業部会(WGI)の第6次評価報告書(AR6)が公開された。これは前回報告書から8年ぶりとなるもので、近年の観測データの充実や気候モデルの発展を反映した内容となった。また、その前年に日本でも宣言された「2050年カーボンニュートラル」や、公開後に眞鍋淑郎博士がノーベル物理学賞を受賞したニュースともあいまって、今回の報告書は広く一般の関心を集めることになった。本稿では、WGI AR6の概要を政策決定者向け要約に基づいて紹介し、今後の科学的課題について考えてみる。

  • 橋爪 真弘
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_24-1_28
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     2022年2月に公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第2作業部会第6次評価報告書では、気候変動によりすでに多くの健康影響が発生しており、今後気温の上昇に伴ってその影響は大幅に増加すると予想されることが報告された。また同報告書では、IPCCの健康影響評価において初めて心の健康とウェルビーイングに対する影響が包括的に取り入れられた。健康への影響を回避、軽減するためには、気候変動に対する保健医療システムの耐性を強化し、食料システムや水・大気など健康の環境的決定要因を健全な状態に保つことが重要であることが強調された。また緩和策と健康増進を共に進める健康コベネフィットは高い経済的利益を生むことが示され、全二酸化炭素排出量の4~5%を占める保健医療分野におけるカーボンニュートラルを進めることの重要性が強調された。

  • 藤森 真一郎
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_30-1_33
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     統合評価モデルは現在の気候変動に関わる研究分野で重要な役割を担っている。本稿では脱炭素化の具体的なエネルギー、土地利用・農業などのシステムを描く統合評価モデル及び脱炭素の具体的なシナリオの様相について論述する。まず、統合評価モデルの成り立ちと概要について述べ、次に脱炭素、カーボンニュートラル目標の排出目標の根拠を説明する。そして、その実現のために求められるエネルギーや土地利用・農業システムについて概説する。最後に、学術分野としての統合評価モデルに関連する研究分野の将来についてもいくつか方向性を提示する。

  • 亀山 康子
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_34-1_37
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     気候変動への対応を協議する際には、気候変動のことだけでなく、対処の際に関連してくるさまざまな副次作用についても十分考慮しながら、対処の妥当性を評価する必要がある。気候変動政策と他の社会課題の間でプラスの効果が生じる場合をシナジー、マイナスの影響が出る場合をトレードオフと呼ぶ。IPCC第3作業部会第6次評価報告書では、気候変動緩和策とSDGsの17のゴールとの間でシナジー・トレードオフを整理しており、まとまった知見を提供している。また、昨今の新型コロナウイルスへの対応と気候変動対策との関係についても、多くの知見が示された。今後、脱炭素に向けて気候変動対策がさらに他のゴールに及ぼす影響が増幅すると予想される中、シナジーとトレードオフへの配慮はさらに求められるようになる。先進国と、貧困からの脱却が必要な途上国とでも、求められる配慮は異なってくるだろう。

  • 野口 和彦
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_38-1_42
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     カーボンニュートラル(以下CNと記す)施策は、地球温暖化対策として重要な施策であり、その実現に向けて必要な要件を明らかにして、その対応課題を体系的に把握して適切に対応を考えて行く必要がある。

     また、施策の影響には、地球温暖化への影響の他にも、産業への影響や、生活への影響まで多様である。このような社会に大きな変革を与える技術施策を考える際は、その施策の影響が実際に顕在化してから対応を始めても間に合わない場合も多く、事前にその可能性をリスクとして整理しておく必要がある。

     CN施策の実現に関する検討では、CN施策の実現を妨げる課題と同時にCN産業への影響施策が実現できた場合にも派生する課題の検討も必要である。

     また、あるリスクに対する対策は、別のリスクへ好ましくない影響をもたらす場合があり、社会に多様なリスクをもたらす施策への対応を考える場合は、リスクを体系的に整理してその可能性や影響を検討しておく必要がある。

  • 山地 憲治
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_43-1_46
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     カーボンニュートラル(脱炭素)を実現するエネルギーシステムの中心になるのは、クリーンで効率的な利用ができる二次エネルギー媒体であり、現状では電気、将来的には燃料・熱利用として水素が活躍する。電気や水素の生産はCO2 排出なしに行われる必要があり、再生可能エネルギーや原子力などに加えて、CCUS(CO2 回収・利用・貯留)付きの化石資源の利用も想定される。需要側の対策も重要であり、ソサエティ5.0などの社会イノベーションにより需要側の分散資源の活用やシェアリング・サーキュラーエコノミーを実現すれば、情報によるエネルギー・物質の代替で大幅なCO2 削減が期待できる。このような需給両面からの対応でもゼロにできない温室効果ガス排出に対しては、植林やDAC(大気からのCO2 回収)、CO2 の鉱物固定化など、大気中のCO2 を削減する技術も備えておく必要がある。

  • 北川 尚美
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_47-1_51
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     本稿では、日本の温室効果ガス排出量の約85%を占めるエネルギー起源のCO2 を対象とし、その排出量の削減や排出したCO2 の回収・利用に関わる技術開発を取り上げ、それらの現状と課題について解説する。CO2 排出量の削減に関わる技術としては、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)と組み合わせた火力発電、新たな水素発電とアンモニア発電を取り上げる。また、回収したCO2 の利用に関わる技術としては、CO2 を資源と考え、様々な製品や燃料に変換して再利用することでCO2 の排出を抑制する「カーボンリサイクル」技術の一つである回収したCO2 とグリーン水素から製造する液体合成燃料を取り上げる。

  • 田中 加奈子
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_52-1_57
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     カーボンニュートラル社会構築のために炭素削減技術と社会実装のためのシステムやインフラ、制度が重要である。日本の部門別炭素排出量からは化学・鉄鋼・運輸のクリーン燃料利用や電化、電力の脱炭素化が重要であることがわかる。IPCC報告書が提示する要因からのGHG削減機会の整理を用い、部門別対策が明確化する。産業革命以降の気温上昇を1.5℃以下に抑えるためは2030年までに少なくとも世界でこれまでの3倍の年間投資が必要であり、そのために十分な資本と流動性がある(IPCC)。セクターを超えた取り組みはすでに10年以上日本のみならず世界全体で進んでいる。日本の政策は技術分野に重点をおき、経済発展との好循環を目指すものであること、そしてトランジション(移行)に焦点が当たっている。今後は、カーボンニュートラルだけではない長期的な将来社会への移行に機会を見いだすことが肝要であり、そのための学術研究の果たす役割は大きい。

  • 北島 薫
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_58-1_62
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     森林の中でも熱帯林は、人間活動に起因する大気中の二酸化炭素増加を緩和する機能に秀でる。IPCC第6次アセスメントの複数の報告書において、この機能は高い確信度をもって再認識される一方、その将来性には大きな不確実性が伴う、と指摘される。不確実性の要因は、農地転換や火災による森林減少であり、その結果として陸域生態系の炭素吸収機能、気候緩和機能、土壌保持・水供給機能などの劣化が起こる。また、急峻な地形や貧栄養土壌の上に成立する自然林を伐採してできた農地や放牧地の生産性は非持続的で、ほとんど短期利用の後に放棄され、森林生態系の再生も難しい荒地となってしまう。森林再生手段として、単一樹種植林地は炭素吸収機能の一部を回復することに貢献できても、生物多様性にとっては負の影響を与える恐れもある。よって、カーボンニュートラルの実現には、食料システム改革を核とし、適所適材を実現する持続的土地政策が鍵となろう。

  • 西尾 チヅル
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_63-1_66
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、市場を創造し消費者を含む顧客との良好な関係の構築と維持を目的とするマーケティングにおいても、脱炭素で付加価値の高い製品、サービスを提供することが最重要課題となっている。本稿では、カーボンニュートラルを企図したマーケティングとは何かを概説する。そして、近年のデジタル技術の進展等によって多様化した消費スタイルや消費者のエコロジー意識・行動の特徴を踏まえた上で、製品の所有を通じた価値の提供という従来型のマーケティング方法から、サービス化して機能を提供するサービタイゼーション、消費者も含めたサプライチェーン全体でのカーボンニュートラルの取組みを促進するためのCO2 の見える化の方法等、組織が実行すべきマーケティングの具体的な展開方法を示す。

特集
パワーレーザーと高エネルギー密度科学技術の進展と新産業創成
  • 近藤 駿介, 三間 圀興
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_67
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー
  • 野田 進
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_68-1_74
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     フォトニック結晶面発光レーザー(PCSEL)は、既存の半導体レーザーの欠点、すなわち、高ビーム品質・高出力動作(=高輝度動作)が困難であるとい欠点を克服し、他の大型レーザー(CO2 レーザーやファイバレーザ―等)を一新する可能性をもつとともに、2次元ビーム走査や任意のビーム形状を生成させることが可能という高機能性をも有する。本報告では、PCSELの高輝度と高機能動作について、最新の成果について報告するとともに、スマートモビリティやスマート製造に代表されるSociety 5.0実現に向けた展望を述べる。

  • 小林 洋平
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_75-1_78
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     日本の人口は減少に転じて10年以上が経過した。労働生産人口に至っては減少に転じてから20年以上が経過している。この状況の中、カーボンニュートラルやSociety 5.0実現のためには労働生産性の飛躍的な向上が喫緊の課題となっている。レーザー加工の技術革新によって労働生産性を向上させるための技術について議論する。

  • 兒玉 了祐
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_79-1_84
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     パワーレーザーにより実現できる高いエネルギー密度状態を利用した多様な「知の創造」と「知の具現化」が期待され、世界の先進国を中心にパワーレーザー技術と高エネルギー密度科学の精力的な研究開発が進められ、飛躍的に進展している。このような中、我が国がこの分野で世界を先導していくためには、機を逸することなく、我が国の強みを活かし、多様な知が活躍できる国際競争力ある大型パワーレーザー施設を実現することが不可欠な状況である。この実現により、多様な知が集い、新たな価値を創出する知の活力を生むとともに「国際的な連携を推進する要」となり世界を先導できる。結果として、真空、プラズマ、固体の理解や宇宙から文化財などの探査ならびに新しい材料からシステム開発など、我が国の多様な学術の飛躍的発展とともに産業構造の変革やグローバルに活躍できる人材の育成に大きく貢献できる。

  • 河内 哲哉
    2023 年 28 巻 1 号 p. 1_85-1_89
    発行日: 2023/01/01
    公開日: 2023/05/26
    ジャーナル フリー

     量子ビーム利用の重要なキーテクノロジーの一つは加速器といっても過言ではなく、その加速器を桁違いに小型化させる可能性を持つのがレーザー加速である。将来的にレーザー加速器が実現すれば、学術面においては素粒子物理学などのビッグサイエンスが必要とする超大型加速器を現実的なサイズに抑えることが可能になると考えられている。また、産業や医療分野における量子ビーム利用の観点からは、電子線やイオンビーム、そしてそれらから二次的に生成される中性子やRI、更には高輝度X線やガンマ線の発生装置の小型化を通じて、安価で高品質な放射線の利用が可能になるとともに、性質の異なる複数の量子ビームを同時に利用できる新しい量子ビーム利用環境が実現できる可能性もある。本稿ではこのようなパワーレーザーで駆動する量子ビームがもたらす可能性やその実現に向けた課題などについて、最近の研究動向などを織り交ぜながら紹介する。

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