学術の動向
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26 巻, 11 号
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特集
コロナ禍における人・社会・環境 ─危機への対応と持続可能な社会の実現─
第一部 コロナ禍で顕在化した危機と生活課題 ―社会福祉学からの問題提起―
  • 和氣 純子
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_10-11_15
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     本稿は、社会福祉の領域で議論されてきた危機やリスクが変容し、新たな危機・リスクへの対応が求められる現状を指摘する。一方で、今回の新型コロナウイルスのパンデミックにより発現した危機が、非正規雇用者の生活保障、ジェンダー不平等、居住保障、社会的孤立などかねてより指摘されていた諸問題の顕在化と捉える点を確認し、社会的脆弱性の不平等を生み出す構造の変革を志向するソーシャルワーク実践の必要性を提起する。従来の施設内におけるリスクマネジメントから、全国的な調整機能をもつBCPや災害福祉派遣チームの整備と、経済的保障にとどまらない相談支援や、ICT等の技術を活用する柔軟で弾力性のある支援のあり方を、社会生態学的レジリエンスの概念に照らして提唱した。

  • 岩永 理恵
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_16-11_20
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     本稿の問いは、コロナ禍において、生活保護は“万が一の備え”として機能するのか、である。生活保護法は、社会保障制度の体系において、社会保険を補足する位置にあるが、リーマンショック後、両者の間を補完する施策の必要なことが知られた。リーマンショック以降に新たに設けられた対策がコロナ禍で適用拡大されているが、国会論議で菅首相(当時)が発言したように、「最終的には生活保護」の状態は変わらない。この首相発言をめぐる一連の議論からは、生活保護への人びとの忌避感が明らかである。と同時に、実際にはとても最終手段にはならないとの批判もある。扶養照会、自動車を含む資産保有要件、についてコロナ禍での運用緩和措置がとられているが、生活保護の利用者は増加していない。生活保護が“万が一の備え”として十分に機能しているとはいえず、その背景にある、平常時からの運用の厳しさ、生活保護への入り口が狭いこと、さらには、その狭い入り口を封鎖してしまうような、福祉事務所窓口の実態の検証が必要である。

  • 保正 友子
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_21-11_27
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     本稿では、医療分野で働くベテラン・ソーシャルワーカー14人に対する面接調査に基づき、コロナ禍1年間の業務変化を三期(Ⅰ期・Ⅱ期・Ⅲ期)に分けて示す。それにより、ソーシャルワーカーが直面した課題を可視化することが目的である。

     調査より、全期間に共通している状況と各期に固有の状況が存在した。前者は、不十分な本人・家族面接、不十分な業務展開、連絡・調整に関する手間の増加、滞る退院準備、外部研修の減少・中止、実習生受入れ縮小・中止、コロナ自体へのストレスである。後者は、業務量の増減、療養先選定、連携方法、業務の方向性、ストレス内容、コロナへの認識の変化である。

     以上の結果から4点の課題が挙げられた。①患者・家族のQOL増進に向けた切れ目のない支援の充実、②偏見・差別を生じさせない環境の醸成、③緊急時のソーシャルワーカーの役割・機能の明確化、④新たな支援ツールの普及・開発・習得である。

  • 湯澤 直美
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_28-11_34
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     本稿では、2020年8月から2021年7月までの期間、毎月1回の割合で実施したシングルマザー調査をもとに、コロナ禍がシングルマザーの労働と子育てにどのような影響を及ぼしたのか、その実情を報告する。そのうえで、ジェンダー平等をいかに達成するのか、母子福祉政策やコロナ禍での制度対応の課題を考察する。

第二部 コロナ禍とメンタルヘルス
  • 熊谷 晋一郎
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_35-11_39
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     障害の社会モデルの考え方にもとづけば、COVID-19による社会環境の急激な変化は、移動・医療・仕事・教育・情報における社会的排除や差別など、障害という現象の普遍化を引き起こしている。その結果、在宅ワークやリモート会議など、障害のある人々が以前から活用してきた様々なツールが汎用され始めてもいる。しかし、障害の増大は均等に起きているのではなく、子どもや障害者、差別にさらされてきたグループや社会経済的状況の低いグループは、そうでない人々よりも、より一層深刻な状況に陥り、格差が拡大している。脆弱性の高いグループがどこにいるのかをモニターし続け、有限な資源をそこに投じていくことは、このパンデミックを収束に向かわせるうえで不可欠な分配原理である。

  • 國井 泰人
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_40-11_46
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     私たちが現在直面しているCOVID-19流行による社会的混乱は、人々の日常生活や社会経済活動に広範な影響を及しており、今なお収束が見えない現状にある。日本でも、この長期にわたるストレスへの暴露や急速な景気の悪化に伴う失業などの経済問題により、うつ病、適応障害、アルコール関連障害などの精神疾患の発症や悪化及び自殺者数の増加、子どもの精神発達への影響などが懸念されており、メンタルヘルスの問題は極めて深刻である。このメンタルヘルス危機に対しては従来の精神医療の体制や方法論では対応が困難であり、いわゆる「With/Postコロナ」の社会におけるニューノーマルなメンタルヘルス対策が必要である。本稿では、コロナ禍のメンタルヘルスの実態を世界各国の研究報告を交え報告し、脳科学やAI技術などの先端技術を活用した科学的根拠に基づくメンタルヘルス対策を提案する。

  • 清水 睦美
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_47-11_52
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルスの感染拡大と、その対応に伴う政治・経済・社会状況の変化の中で、学校教育を問い直す動きが活発化している。特に、政治主導のもとでの一斉休校は、そのあまりの唐突さによって、「子どもの生活を守る」という学校の機能に光をあてることになった。さらに、学校再開時に行われた「分散登校」は、日本では長く据え置かれてきた多人数学級の仕組みを少人数学級へと導く原動力となった。こうした動きの背景について、コロナ禍直前の学校の姿を、子どもたちの実態と社会構造の観点から捉えることを通して、学校教育の何が問い直されているのかを明らかにしていく。それらを通して、これからの学校教育の姿を検討する。

  • 萱間 真美
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_53-11_58
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     医療・福祉の現場では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下においても、現場を支えるための懸命な活動が続けられている。しかし、現場のストレスについての理解・対処は十分とは言えない。本稿では医療・福祉現場のストレス状況(個人防護具の装着、マスクを着けられないケアの場面、現場での道徳的傷つき)、医療関係者からの相談内容、スタッフへのリモート支援について現状を述べ、今後蓄積していくべき知識と、実装すべき支援について展望する。未経験の感染症災害では、個人・組織・社会の備えがなく、今日のスタッフの疲弊と離職を招いている。組織が行うラインサポート等、メンタルヘルス支援が強く望まれる。

第三部 地球環境変化の人間的側面から考える持続可能な社会
  • 中谷 友樹, 永田 彰平
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_60-11_67
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     空間疫学とは、疾病の発生状況の地理的可視化や解析から、疾病対策に有用な情報を得ようとする研究領域である。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行する中、流行特性の理解と課題の抽出に感染者などの疫学情報が地図化されてきた。COVID-19の流行の核となる場所と健康被害の集中する人々の特定に焦点をあて、インターネット上に公開されている国内外の流行地図を通して空間的解像度の高い流行の地理情報を活用する意義を解説する。利用すべき情報と公開に当たって望ましい情報の形式を考えながら、今後より有効な疫学的地理情報の活用が期待される。

  • 石川 義孝
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_68-11_71
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は、コロナ禍の国内人口移動への影響を検討するとともに、それが東京一極集中や地方圏の疲弊という長年の問題を是正するかどうか、を検討することである。コロナ禍に見舞われた2020年に、東京圏の転入超過数や東京都の転入超過率が大幅に減少し、居住地選択に大きな影響を与えた。これは、2014年に設置されたまち・ひと・しごと創生本部の諸施策によっても実現が困難だった、東京一極集中という問題が是正される兆しと考えることができる。今回確認された人口分散の動きを一過性のものとせず、今後も継続させるためには、これまでの地方創生策を継続する必要がある。

  • 谷口 真人
    2021 年 26 巻 11 号 p. 11_72-11_77
    発行日: 2021/11/01
    公開日: 2022/03/25
    ジャーナル フリー

     工業化・都市化などにより、均質でわかりやすい価値観が広まった人新世におきたコロナ禍は、生活圏や地域間依存性など、人・社会・自然の関係性の見直しと、新しい繋がり方の構築を促している。また、コロナ禍で起きた行動変容は、産業構造の転換と新しいグローバル社会のあり方や、心身・社会・自然の一体的理解の重要性を認識させた。コロナ禍での人と社会・自然との関わり方の議論は、安心や信頼、自己・他者・社会の間の互恵、利他性など、未来の人と社会と自然の繋がりのあり方を示す倫理の基本となる。地球史・生命史・人類史・歴史を内在する、持続可能な人と社会と自然の構造的理解とコミュニケーションのあり方をもとに、社会変容のためのフレーム作りが必要である。そして、学術の個別の目標に対する多様性を堅持しつつ、共通の目標への融合性をあわせ持つ学術の連携が、コロナ禍の危機への対応と持続可能な社会の実現に必要である。

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