1.問題の所在と研究目的
大量生産・大量消費の経済社会を経て,毎年大量の廃棄物が排出されており,その処理が社会問題化している.資源やエネルギーは有限であるため廃棄物の排出を最小化し,排出されたものは資源として再利用していく持続的な社会への転換が必要である.そのためには生産・流通・消費の流れに続き再資源化という流れを強固なものにしなければならない(外川 2001).特に有機性の廃棄物は,廃棄物総量に占める割合が高く,生物学的分解によって環境中に直接還元されるため,比較的低コストで有用な資源として再生しうるため,非常に重要な資源である.
持続的社会においては,比較的小さな空間スケールでの物質循環が理想モデルとして位置付けられている.しかし,排出側と利用側は個々に偏在し,互いのニーズも偏っているため現実的な物質循環はより複雑に行われている.したがって,円滑な廃棄物の活用のためには,廃棄物を排出する側と利用する側の立地のみならず,各々の利害を含めた連関を検討する必要がある.
有機性廃棄物のその特性から,利用側としては農業での役割が大きい.現代社会において農業は他産業とも複雑に結びついているため,動態的・循環的視点,各部門間の総合的把握の視点が不可欠である.したがって,本研究では上記で述べた持続的社会の一端を担う再資源化に,フードシステム論的考え方を取り入れ,有機性廃棄物に関わる諸要素の相互連関を分析し,それらを統合的に把握して研究を進めていきたい.そこで本研究では,大都市近郊における有機性廃棄物の排出側と利用側の相互連関およびその空間的特性を通して,有機性廃棄物活用システムの成立基盤を解明することを目的とする.対象とするアクターは,神奈川県において有機性廃棄物の排出する清涼飲料水メーカー,それを活用する三浦半島の農家組織,そしてそれらを結びつけている廃棄物処理業者である.
2.各アクターの特性
排出側は,近年,社会的関心の高い環境に配慮をした経営に移行している.そのため,排出される廃棄物の処理構造が,ISO14001の環境認証を取得以前と以後とで大き変化していた.しかし,短期的にはその成果はいまだ見られていなかった.廃棄物処理業者では,その取引先が,第一次産業由来から二次産業由来のものに変化し,搬入先も多様になってきていることが明らかとなった.しかし,需給量の不安定さに問題があった.利用側では,作物の種類によって有機物使用量が異なること,需要期には偏りがあることがわかった.
3.有機性廃棄物の活用システムの成立基盤
有機性廃棄物の活用システムは,各2者関係という二つの機構から成り立っているため,運搬処理側の負担が必然的に大きくなっていた.この活用システムを支える空間的基盤として,大都市近郊では,多種類の有機性廃棄物を排出する産業の立地と,大消費地を控え集約的農業のために地力維持が必要な農業地域という需要と供給があったことである.有機性廃棄物の活用システムでは,その収集量と状態によって供給先や量が大きく影響を受けていた.
排出側の工場が高速道路付近に集積しており,運搬頻度が高い廃棄物処理業者は,高速道路付近に立地することにより排出側への近接性を高めていた.さらに経営上,距離に関係なく堆肥保管量が超過した時の緩衝地を必要としていた.利用側としては,有機物を多く投入する作物を栽培していることと,同じ属性をもつ需要者が集団化していることが活用システムを成立させるためには重要となっていたことが明らかとなった.
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