生物の遺伝的形質は環境により種々の表現型の変化を示す.遣伝形質は環境の種々の変化に対し常に同一方向に反応しないので, 1つの遺伝子型により決定された反応能力は与えられた環境において種々の強力な適応を行なうと考えられる.すなわち多くの行動は遺伝子型と環境との相互作用で決定される.このような相互作用は単性形質の場合に較べて量的形質の場合は極めて複雑である.それを統計的に計算された例は多数あるがなお不充分である.
著者は1958年以来の多くの実験と過去の多くの報告を引用して, 量的形質における表現型と環境との相互作用の測定を研究した.まず環境に対する表現型の適応現象として, 自然淘汰による生態型の成立, 栽培作物の土地選定に対する自然淘汰の意義, 生態的分布範囲の意義と経済上の意味について過去の業績を引用して理論的に論じた.次に環境と表現型の相互作用はいかにして成立つかを統計的手法を用いてその是非を考えた.
実験は6年間にわたり, 実験地を数個所選定し, エンバク, ライムギ, コムギ, ジャガイモ, ビートの多数の系統を用い, 収量, 稈長など量的形質と目される形質を採用して行なった.
量的形質の場合, 全部の遺伝子型でなく個々の遺伝子型に分けて把握することを提案する.そのために“kovalenz” (生態安定性) と呼ぶバロメーターを採用する.全体の相関関係を部分ごとに分割して1つの遣伝子型の生態安定性の計算を行なう.これにより種種の環境条件における1つの遺伝子型の適応能力が把握される.たとえば1つの遺伝子型と環境の相関関係が小さい程生態安定性は大きい.環境との相関関係がゼロの時生態安定性は最高となる.以下この実験で得た結果の要点を示す.
1) 以上述べた環境と遺伝子型の相互作用の分析法では, それぞれの植物の環境適応の度合が段階的すなわち, 量的段階で示される.
2) 用いたすべての材料において生態安定性は非常によく子孫に遣伝することが確かめられた.しかし個個の系統の生態安定性の価は限られた年内と限られた土地についていえるものかもしれない.
3) 6年間9~11地域で14晩生系統と9中生系統のジャガイモの実験から, 生態安定性の価は3~4年の結果で充分いえることが示された.
4) 植物の種類でかなり異なった生態安定性が示される.すなわち, ジャガイモでは, 少ない収量, 長い生育期間などは生態安定性が高い.換言すればこれらの形質は, 年や, 土地をかえても変化させられないことを示す.
5) 生態安定性の高い価を示したのはこの他に禾穀類の稈長, ジャガイモの澱粉含有量, ピートの糖含有量などである.
遣伝子型と環境との相互作用について, 実験地の選定や, ある年の実験結果の分析をどのように評価するか, 生態安定性の価の是非についていくつかの論議がなされた.
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