応用生態工学
Online ISSN : 1882-5974
Print ISSN : 1344-3755
ISSN-L : 1344-3755
最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
原著論文
  • 後藤 颯太, 赤坂 卓美, 河口 洋一
    2023 年 26 巻 2 号 論文ID: 22-00021
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/17
    [早期公開] 公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    河川ネットワークは淡水生態系の維持に重要な機能を有する.しかし,河川における自然再生事業のほとんどは,対象地の種多様性や保全対象種にとっての生息地環境の質といった局所的な環境の状態のみを基準に選定されてきた.また,自然再生事業による保全効果の主な評価対象は大河川であり,中小河川における効果は無視されることが多いのが現状である.本研究では,中小河川の自然再生事業の効果向上を目的とし,十勝川水系の 1 次~ 3 次河川に属する 21 の中小河川を対象として,河川ネットワーク内における自然再生地の空間配置が,魚類の α および β 多様性に与える影響を明らかにした.この際,a)自然再生は α 多様性を増加させるが,連結性の高い河川ほどその効果は高い,b) β 多様性は,連結性の低い河川で増加するが,そのような河川を自然再生しても β 多様性は変化しづらいと仮説立てた.本研究結果は,仮説を一部支持し,α 多様性は,自然再生地で増加し,主要河川からの距離と負の関係にあった.自然再生による α 多様性への影響は,多様な開放水面幅と深い水深が 3 次元的な環境の異質性を創出し,多様な魚種に生息地や避難場を提供したためであった可能性が示唆された.一方で,β 多様性は dIIC のみと負の関係にあり,自然再生の有無との関係はみられなかった.本結果は,主要河川に近い河川区間における実施と,開放水面幅や水深を考慮した施工が,α 多様性の保全に効果的であることを示唆する.また,自然再生は β 多様性に関係なく α 多様性を増加させていたことから,dIIC の低い(β 多様性の高い)河川区間における自然再生も,両多様性の保全に重要であることを示唆する.

総説
  • 田和 康太, 西廣 淳, 境 優, 竹田 稔真, 林 誠二
    2024 年 26 巻 2 号 p. 55-69
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/17
    ジャーナル フリー
    J-STAGE Data

    国内における遊水地の生物多様性に関する文献のシステマティックレビューを実施し,治水と生物多様性を両立させる遊水地の創出に関する知見を収集した.今回,様々な分類群の生物に対する遊水地の効果を検討するため,鳥類,両生類,魚類,昆虫類,貝類,植物の 6 分類群を対象とした.9,183 件の文献を精査した結果,本システマティックレビューには 242 件の文献を選抜した.対象の遊水地は 33 か所に限定され,これは国内にある遊水地全体の 22%に過ぎなかった.最も文献数が多か ったのは鳥類の 94 件で,最少は両生類の 6 件だった.どの分類群についても,希少種や新種の分布を記載する内容が多かった.また,外来種の定着を記載する文献も鳥類を除く分類群で確認された.全体のうち BACI デザインに基づく研究事例はわずか 15 件に留まり,遊水地の生物多様性評価に関する科学的知見の不足が示唆された.そのため,遊水地の創出が生物多様性に及ぼす正負の効果について十分な検証を行うことができなかった.ただし,いくつかの研究は,湿地創出や植生管理,土壌掘削が複数の在来種の種数増加や個体数増加,希少種の分布拡大などの正の効果をもたらすことを示唆していた.

事例研究
  • 源 浩輔, 大森 浩二
    2023 年 26 巻 2 号 論文ID: 23-00007
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/17
    [早期公開] 公開日: 2023/09/12
    ジャーナル フリー

     愛媛県燧灘ではアサリの漁獲量は 1975 年頃から急減し,近年ではごくわずかな漁獲量で推移している.その原因として埋め立てなどによるアサリ生息地の喪失や,底質の泥化などアサリ生息環境の悪化が挙げられる.これまで,アサリに関する調査研究は様々な研究機関で行われており,アサリ資源量回復に向け干潟の造成など様々な取り組みが行われてきたが,愛媛県も含め全国的にアサリ資源量の回復には至っていないのが現状である.

     そこで,アサリ資源量回復に向け干潟の底質改善材として「石炭灰造粒物」という火力発電で発生した石炭灰にセメントを加えて粒形に固化させた物質に注目した.本研究では愛媛県西条市禎瑞干潟において試験区中のアサリ個体数の変動要因を解析し,アサリ稚貝生存率を低下させる要因を推定し石炭灰造粒物を用いることでアサリ生息環境の改善効果を検証することを目的とした.

     実験結果から禎瑞干潟におけるアサリ個体群変動のプロセスに関して以下のことが推定された.

    (1)台風の上陸や低気圧の接近に伴い干潟に大量の淡水が流入する.

    (2)淡水と海水の混合により細かい粒度の底質割合増加,有機物含有量増加が起こる.

    (3)高水温条件下による細かい粒子の堆積はバクテリアの嫌気的な活動を活発にし,底質の酸揮発性硫化物(AVS)量が増加する.

    (4)積算降水量の増加に伴う低塩分化,細かい粒子の浮遊状態維持による窒息死,細かい粒子の堆積に起因する酸揮発性硫化物量増加による硫化水素毒性の負荷が起こる.

     この推定から考えられるアサリが生息する上で起こりうる禎瑞干潟の問題点が,「細かい粒子の堆積に起因する AVS 増加による硫化水素毒性の負荷」であり,石炭灰造粒物を用いることで本研究からも干潟周辺の底質と比較して細かい粒子の相対的な割合を低く維持する効果を検証することができた.

  • 小倉 拓郎, 水野 敏明, 片山 大輔, 山中 大輔, 佐藤 祐一
    2023 年 26 巻 2 号 論文ID: 22-00012
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/17
    [早期公開] 公開日: 2023/09/06
    ジャーナル フリー

    河川管理事業において,従来の掘削事業は,定型形式で施工管理されることが慣例であったが,近年は河川環境への配慮が重視されてきたことから,中小河川であっても定型形式の技術指針と異なる掘削方法が必要とされている.そのためには,河道の三次元情報を詳細に把握し,綿密な測量計画を立案する必要がある.そこで本研究は,滋賀県を流れる A 川において,希少種に配慮した掘削事業を対象とし,RTK-UAV を用いて効率的に掘削土砂量を把握する方法について検討した.RTK-UAV を用いることで,河道掘削範囲に立ち入ることなく 10 分程度で撮影することができた.また,河道掘削事業前後の測量成果から差分解析を試みた結果,8,851.08 m3の掘削土砂量が算出された.この値は,施工者が算出した掘削土砂量である8,332 m3 に近い値を示した.RTKUAV を用いた地形測量成果から差分抽出を行う際には,写真測量が不得意としている水域,植生などの扱いに留意する必要がある.とくに,植生高は植生被覆の異なる 2 点の標高差を用いて概算で計算し,体積を計算した.総じて,RTK-UAV を用いた掘削土砂量の算出方法は,測量の設定や植生に留意することで,実務レベルで使用できることが明らかとなった.

  • 辻 盛生, 鈴木 正貴
    2023 年 26 巻 2 号 論文ID: 23-00008
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/17
    [早期公開] 公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー

    池干しは,ため池の機能を維持するための管理手法として継続的に行われてきた.池底の還元的な状態を改善し,ため池の水質の維持やそれによる生物の生息環境の改善に一定の役割を果たしてきた.しかし,池干しの際のため池からの放流水は底泥を含むことから濁りを生じ,そのまま下流に放流されれば負荷になる.ここでは,8 年ぶりに池干しが行われたため池における流出水の水質の挙動をモニタリングした.ため池の池底が露出しても濁りの発生はなく,9 割程度露出した後に魚類採捕を実施した際の濁りが流出した.濁度が上昇した際の COD は一時 1,000 mg L-1,TN は 200 mg L-1,TP は 7 mg L-1を越えた.濁度の上昇が見られた 12 時間の COD 総負荷量は 284.4 kg,TN は 44.4 kg,TP は 1.5 kg であった.一方,NO3-N 濃度は池干し水位低下操作時に濁度上昇前から増加し,水位低下操作後も水位低下操作前に比べ高い状態を維持した.池干しによって池底の還元的な条件が緩和し,脱窒が抑制されたことが要因と考えられる.他方で,以前は生息した二枚貝が確認されなかった.8 年間池干しを行わなかったことによる池底の還元的条件の進行がその一因と推察された.

短報
  • 仁木 義郎, 中島 一, 遠藤 一雄, 伊藤 寿彦, 武田 和明, 須田 ひろ実, 森 誠一
    2024 年 26 巻 2 号 論文ID: 23-00014
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/17
    [早期公開] 公開日: 2024/03/05
    ジャーナル フリー

    水域における杭打設工事は,振動を通じて水底で生活する動物に何らかの影響を与えていると考えられるが,その影響についてはこれまでほとんど考慮されてこなかった.本研究では,希少二枚貝タテボシガイの生息地近傍で行われた杭打設工事において,本種への影響回避,低減の対策検討に資することを目的に,杭打設工事現場近傍の川底において振動測定を行い,室内において振動加速度と周波数を変えた場合のタテボシガイの反応,長期間振動を与え続けた場合のタテボシガイの変化を知るための実験を行った.現地測定及び実験の結果,バイブロハンマ稼働時の川底における振動加速度レベルはタテボシガイの振動に対する閾値の 80 dB 台を超える可能性があり,卓越周波数の 20~60 Hz は本種の高い振動感受性を示した 40 Hz 付近と重なっていたため,杭打設地点近傍の個体は振動に反応し閉殻すると推測された.このため,実際の工事では,保全対策として,振動加速度レベルが 80 dB を超える振動の到達範囲を影響範囲とし,この範囲内の個体を適切な場所へ避難移植した.連続的な振動刺激を長期間与えた実験では,加振グループと非加振グループとの間で湿重量の変化に有意差はみられなかった.本種にとり頻繁な閉殻や閉殻からの回復遅延は,閉殻時間が長くなり,成長に悪影響が生じるおそれがある.しかし,タテボシガイは振動発生とともに瞬時に閉殻するものの,同じ振動が続く場合にはすぐに開殻し閉殻が持続しないため長期振動による影響がなかったと考えられた.以上の結果から,杭打設工事に使用する建設機械選定においては,頻繁に閉殻が起きるおそれのある打撃型よりも,定常振動型のバイブロハンマを選定するほうがタテボシガイの生息環境保全において有効と考えられた.

レポート
  • 笹岡 夏保, 斎藤 昌幸
    2023 年 26 巻 2 号 論文ID: 23-00004
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/17
    [早期公開] 公開日: 2023/09/22
    ジャーナル フリー

    本研究では,環境省レッドリストで準絶滅危惧に選定されているトウホクサンショウウオ(Hynobius lichenatus)を対象に,林道脇の水たまりが繁殖場所としてどのように利用されているのか,卵嚢および幼生の調査によって明らかにした.山形県庄内地方において 2022 年 4 月から 6 月に林道脇の水たまりを探索し,対象種の卵嚢調査をおこなった.ここで得られた卵嚢対数と各環境要因(水温,pH,リターの有無,水面から地面までの高さ,森林までの距離,道路の舗装の有無,水たまりの種類,水たまりの面積,水深,アカハライモリの個体数,半径 100 m 以内の樹冠被覆率)の関係を,ゼロ過剰な負の二項分布を仮定した一般化線形混合モデル(ZINB モデル)によって解析した.さらに,卵嚢が確認された水たまりにおいて,幼生の変態前である 2022 年 8 月から 9 月に対象の個体数を調査し,産卵した場所で幼生が生存しているかどうか確認した.林道脇の水たまりを 250 地点調査した結果,85 地点で対象の卵嚢が確認されたことから,林道脇に生じる水たまりが産卵場所として利用されていることがわかった. ZINB モデルの結果から,リターがあり,水深が深く,アカハライモリが少なく,森林まで近く,道路の舗装がないという水たまりにおいて卵嚢対数が多くなる傾向がみられた.卵嚢が確認された地点のうち 75 地点で幼生を調べた結果,20 地点では幼生が確認されたものの, 55 地点では幼生は確認されなかった.このことから,産卵場所として利用された地点の多くで,幼生が死亡または流失したと考えられた.

特集: 野生動物を対象にした適切な動物実験および調査に向けて
序文
  • 関島 恒夫, 天野 邦彦
    2024 年 26 巻 2 号 p. 121-122
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/17
    ジャーナル フリー

    動物実験を進める上で,「動物の愛護及び管理に関する法律等」に基づき,動物を適正に取り扱うこと,並びに動物実験を適正に実施することが社会的に強く求められている.その一方,野生動物を対象にしたフィールド研究では,アニマルウェルフェアに関する十分な理解が行き届いていないこともあり,野生動物に対する不適切な取り扱いがなされるなど,必要な措置が講じられていない可能性も否めない.本特集号は,ELR2022 において,自由集会 11「アニマルウェルフェアの考え方に配慮した動物実験および調査を考える」が開催されたことを受け,アニマルウェルフェアの理解の深化と情報共有を図るために企画された.動物実験の制度設計,承認手続き,審査等に最前線で関わる 3 人の識者が,アニマルウェルフェアについて,それぞれの立場から解説する.

トピックス
レポート
  • 笹岡 俊邦, 外丸 祐介, 吉木 淳
    2024 年 26 巻 2 号 p. 127-136
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/04/17
    ジャーナル フリー

    わが国において,動物実験は,動物を教育,試験研究又は生物学的製剤の製造のため,その他の科学上の利用に供することと定義されている.動物実験の実施体制は, 2006年までに改正又は発出された法令等,すなわち「動物の愛護及び管理に関する法律(環境省)」,「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(環境省)」,「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(文部科学省)」,「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(日本学術会議)」等のもとで,機関長が最終責任者となり,実施機関が機関内規程を作成し,動物実験の適正な実施を行うという,実施機関による機関管理の体制が整備された.この機関管理の骨格は,研究者が自由闊達で創造性豊かな科学研究を行うにあたり,研究者が動物愛護に配慮した実験計画の立案と実験の遂行に責任を持つこと,そして実施機関の機関長が動物実験の機関内規程を定め,動物実験委員会を設置し,動物実験計画の承認,及び動物実験計画の実施結果の把握その他動物実験の適正な実施のために必要な措置を講じること,とされるように,実施機関が動物実験の適正実施に責任を持つことである.大学や研究所等の動物実験実施機関では,動物実験計画は,前記の法令等並びに実施機関の規則等のもとで,機関内の動物実験委員会が計画書の適正性を審査し,機関長の承認を得て,動物実験が実施されている.また,しばしば実験動物以外の野生動物などを用いる実験や,動物実験施設以外の場所での実験計画も申請される.当該計画書を審査する動物実験委員会では,実験動物を用いる場合や動物実験施設における実験と異なる点について,適正な実施に向けて,関連情報の収集,様々な手続きや工夫をおこなっている.本稿では,国立大学法人動物実験施設協議会(国動協)の担当の教育研修委員会に相談された実験計画の事例,及び新潟大学での実験計画の事例を紹介する.具体的には,(1)国動協の教育研修委員会「なんでも相談室」に寄せられた事例として,有害鳥獣捕獲の対象となった野生動物を用いた研究などの事例への対応,(2)新潟大学の事例として,国内の海洋に生息する海鳥(ウミネコ)を対象とした研究,島に生息するシマヘビを対象とした研究を紹介する.

トピックス
feedback
Top