応用生態工学
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最新号
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原著論文
  • 高橋 勇夫, 間野 静雄
    2022 年 25 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2022/10/05
    [早期公開] 公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    天然アユの流程分布,とくに遡上上限がどのように決まるのかを明らかにするために,アユの遡上を阻害するような構造物が無く,かつ,種苗放流を 2013 年から停止した北海道朱太川において,2013 年~2021 年の 7 月下旬~ 8 月上旬に 12 定点で潜水目視による生息密度調査を行った.また,2014 年には下流,中流,上流の 3 区間からアユを採集し,52 個体の Sr/Ca 比から河川への加入時期を推定したうえで,加入時期と定着した位置の関係についても検討した.アユの推定生息個体数は 4.6~132 万尾と 9 年間で 30 倍近い差があった.各年の平均密度は 0.09 尾 /m2 ~2.61 尾 /m2 で,9 年間の平均値は 0.82 尾 /m2 であった.アユの生息範囲の上限は河口から 21~37 km の間で,また,生息密度 0.3 尾 /m2(全個体が十分に摂餌できる密度)の上限は 4 ~37 km の間で変動した.河口から生息範囲の上限までの距離および 0.3 尾 /m2 の上限までの距離ともにその年の生息数に応じて上下した.流程分布の変動は,密度を調整することにより種内競合を緩和することに寄与していると考えられた.耳石の Sr/Ca 比から河川へ加入してからの期間を推定したところ,早期に河川に加入したアユは上流に多いものの,下流部に定着した個体もいた.一方,後期に加入した個体は下流に多いものの,上流まで遡上した個体も認められた.これらのことは,早期に河川に加入した個体が後期に加入した個体に押し出されるように単純に上流へと移動しているのではないことを示唆する.さらに,推定生息数が最も少なかった 2018 年の分布上限は平年よりも 10~15 km も下流側にあった.これらより,遡上中のアユは充分な摂餌条件が整えば,移動にかかるコストを最小限に抑える行動を取っていると推察される.

事例研究
  • 田和 康太, 細浦 大志, 露木 颯, 長谷川 雅美, 佐久間 元成, 遠藤 立, 安東 正行, 松本 充弘, 黒沼 尚史, 中村 圭吾, ...
    2022 年 25 巻 1 号 p. 13-30
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2022/10/05
    [早期公開] 公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    コウノトリの採餌環境として着目されている田中調節池において,魚類を対象とした生息状況調査を 2018 年および 2019 年に実施した.また,台風 19 号通過に伴う洪水前後での魚類の分布状況を比較することで,平水時の田中調節池における魚類の生息地としての問題点および今後の配慮方針について検討した.平水時の農閑期(2018 年 12 月)では,支線排水路における魚類の分類群数および個体数は少なく,魚類の全く採集されない調査区も存在した.また,同時期に幹線排水路で確認された魚類が末端排水路ではほとんど記録されなかった.洪水後の農閑期(2019 年 11 月~12 月)には,支線排水路において魚類の分類群数,個体数ともに洪水前に比べて顕著に増加し,洪水前にはみられなかったタモロコやメダカ属等が採集された.また,洪水前には乾燥していた支線排水路も洪水後には湛水され,ドジョウ等の魚類が採集された.洪水後の各支線排水路におけるドジョウの個体数や魚類全体の個体数および分類群数には泥深が正の効果を示し,底泥の柔らかい水路環境が魚類の越冬環境として好適と考えられた.2019 年の農繁期における水田調査では,カラドジョウの繁殖のみが田面で確認された.以上より,洪水によって利根川本川から幹線排水路,支線排水路まで水域が連続し,魚類の分布域が拡大することが示唆された.その一方で,平水時の支線排水路までの連続性は低く,農繁期に多種の魚類が田面まで遡上できないこと,農閑期には支線排水路で魚類が十分に越冬できないことが明らかになった.平水時の田中調節池における魚類の繁殖場所・越冬場所としての機能を高めるためには,特に幹線排水路と支線排水路,そして支線排水路と田面との落差を解消させること,さらに底泥の柔らかい水路区間を積極的に保全し,河道内のワンド等とも連続させることで魚類の越冬場所を確保することが重要と考えられた.その一方で,こうした取り組みによって外来種の分布域を拡大させる可能性があることにも留意し,健全な水域の連続性の確保を目指す必要があるだろう.

短報
  • 高橋 一秋
    2022 年 25 巻 1 号 p. 31-46
    発行日: 2022/07/20
    公開日: 2022/10/05
    [早期公開] 公開日: 2022/07/21
    ジャーナル フリー

    本研究では,ため池底泥の栄養塩の生産と蓄積に影響を与えうる環境要因として,ため池へ水が運び込まれる水系の違い,ため池の土手の内部に分布する池岸植生の面積,ため池の水面を被う水面植生の面積,池干しの面積に着目し,ため池から採取した底泥の水素イオン濃度指数(pH)および含有する肥料成分(硝酸態窒素,水溶性リン酸,水溶性カリウム)の濃度を簡易土壌診断キットを用いて測定した.また,ため池底泥の肥料としての有用性について考察した.調査は,塩田平のため池群(長野県上田市)の 10 か所の池で行った.ため池底泥に含有する水溶性リン酸と水溶性カリウムの濃度に影響を与えていた環境要因は植生面積であった.水溶性リン酸の濃度については池岸植生面積率が高いほど,水溶性カリウムの濃度については池岸植生面積率が低いほど高い値を示した.また,硝酸態窒素の濃度については,本研究で着目した 4 つの環境要因の影響を受けていなかった.これらの結果から,ため池を取り巻く土手の内部に分布する池岸植生は,水溶性リン酸の供給源として,水溶性カリウムは吸収源として機能していたこと,硝酸態窒素については供給源や吸収源として機能していなかったことが示唆された.ただし,簡易土壌診断キットの測定値を従来法と比較した場合の相対誤差が水溶性リン酸と水溶性カリウムでは高かったため,やや信頼性に欠ける結果となった.また,ため池底泥の肥料成分濃度はバラつきが大きいものの,農作物の栽培に適しているとされる 3 mg/L を大きく上回っていた池が多かったことから,肥料として十分な濃度を満たしていた.一方で,水素イオン濃度指数(pH)は,全てのため池で農作物の栽培に適しているとされる 6.0~6.5 をわずかに下回っており,肥料としてやや不十分な特性を有していた.したがって,肥料成分の濃度や成分比を調整することによって,ため池底泥を肥料として底泥を利用できるだろう.

書評
追悼文
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