応用生態工学
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14 巻, 1 号
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原著論文
  • 田中 亘, 鹿野 雄一, 山下 奉海, 斉藤 慶, 河口 洋一, 島谷 幸宏
    2011 年14 巻1 号 p. 1-9
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    本研究は,ドジョウの保全を目的に,河川のドジョウ生息量に対する景観スケール・局所スケールの環境要因の影響を,GLM により明らかにした.また,得られたモデルよりドジョウの潜在的な生息量を地図上に予測し,ポテンシャルマップを作成した.その結果,以下の知見が得られた.
    1) 8 月の河川のドジョウの生息量に対して,水中植生,泥床,コンクリート床,周囲のため池面積が強い影響を及ぼすこと,3 月の河川のドジョウの生息量に対して,周囲の水田面積が強い影響を及ぼすことが示された.
    2) 佐渡島中央部に位置する国仲平野の河川で高いドジョウ生息量があると推測され,同地域がドジョウの保全対象地域としてふさわしいことが明らかになった.
    3) この結果から,佐渡島のドジョウの保全には,国仲平野において,河川とため池・水田とのネットワークの改善,水際の植生の再生,コンクリート床の撤去が有効な対策であると考えられた.
  • 中武 禎典, 高村 典子, 佐治 あずみ, 宇野 晃一
    2011 年14 巻1 号 p. 11-20
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    千葉県成田市北須賀の印旛沼漁業協同組合の敷地に同じように造成された 2 つの植生再生実験池では,一方は沈水植物が再生・繁茂し透明度が高い水界に,他方はアオコが発生し透明度が低い水界になった.後者では前者の 10 倍のスジエビが捕獲された.そこで,実験池内に 8 基の隔離水界を設置し,スジエビの在・不在を操作し,動物プランクトン群集と水質に与える影響を調べた.水質については,実験開始直後からスジエビ在の隔離水界で濁度,懸濁態物質 (SS),全窒素 (TN),全リン (TP),クロロフィル a (Chl. a),および溶存態有機炭素 (DOC) の値が有意に高くなった.ミジンコ類の総密度は,スジエビ在の隔離水界で有意に減少した.逆に,ワムシ類の密度は,有意に増加した.ミジンコ類のうち,大型および遊泳性のミジンコ類 (Daphnia 属,Diaphanosoma 属,Scapholeberis 属)の密度は,スジエビ在の隔離水界で有意に減少したが,小型の底生性ミジンコ類 (Alona 属,Chydorus 属) の密度については,有意差はなかった.ただし,スジエビ在区の栄養塩が実験開始直後に増加したのに比べ,スジエビ不在区でのミジンコ類の密度の増加は,遅めにあらわれた.そのため,スジエビの存在は,まず生物攪拌と栄養塩回帰を促し,その後大型甲殻類動物プランクトンを捕食することによるカスケード効果が加わり水質を悪化させ,浅い湖沼や池のレジームシフトを誘導することが明らかになった.
  • 秋山 吉寛, 齊藤 肇, 南部 亮元, 田中 良男, 桑原 久実
    2011 年14 巻1 号 p. 21-34
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    ・アサリの生息場所として必要な条件を明らかにするため,本研究は,干潟に生息するアサリの空間分布を明らかにし,アサリの空間分布の形成に関与する可能性のある物理・生物環境因子を,空間統計解析を用いて抽出することを目的とした.
    ・2008 年 9 月中旬に三重県松名瀬干潟において,岸-沖方向に細長い 57 m× 264 m の調査区内に 30 点設け,地形測量と,干潟表面から深さ 5 cm までの生物および堆積物のサンプリングを行った.
    ・26 科 33 属 34 種の大型底生動物が確認され,アサリの密度は多毛類 (Ceratonereis 属) に次いで優占し,湿重量では最優占した.
    ・殻長 20 mm 未満のアサリは,最干潮時干潟平均汀線から高さ + 0.23 m から + 0.83 m の範囲に分布したが,高密度域は + 0.23 m から + 0.60 cm の範囲だった.
    ・高密度域の岸側境界付近にはスワッシュバーが存在し,地盤高と関わる干潟底面への波当たりや高温条件などがアサリ密度の制限要因に関わっていると推察された.
    ・アサリの生息場所は間接的に地盤高で決まると考えられたが,その範囲は狭く,適した地盤高の干潟の消失は,アサリ資源の低下につながると考えられた.
  • 高木 基裕, 矢野 諭, 柴川 涼平, 清水 孝昭, 大原 健一, 角崎 嘉史, 川西 亮太, 井上 幹生
    2011 年14 巻1 号 p. 35-44
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    マイクロサテライト DNA 多型解析法を用いて,重信川水系におけるオオヨシノボリ個体群の遺伝的集団構造の解析および耳石 Sr/Ca 濃度による回遊履歴の判定を行い,人工構造物による分断の程度を評価した.各サンプルの遺伝的多様度を示すヘテロ接合体率 (期待値) の平均値は 0.843~0.889 と高く,いずれの個体群間でも大きな差は見られなかった.各個体群間の遺伝的分化程度を示す異質性検定では,重信川本流系の個体群間において有意差がみられなかった.一方,石手川ダム上流域の藤野および五明川の個体群は,重信川本流系のほとんどの個体群との間で有意差がみられた.また,重信川本流系の個体群との遺伝的距離は大きかった.耳石の Sr/Ca 解析から,藤野の個体は石手川ダムにより陸封された個体であり,重信川最上流の藤の内の個体は両側回遊型であることが示された.一方,石手川ダム直下域の宿野の個体において両側回遊型および陸封型がそれぞれみられ,遡上した個体とダムから降下した個体が混在していることが確認された.以上の結果から,石手川ダム上流域個体群の陸封化が確認されるとともに,人工構造物による分断の影響を受け,石手川ダム上流域の個体群は他の重信川個体群と遺伝的に分化していることが示された.
総説
  • 傳甫 潤也, 岡村 俊邦, 堀岡 和晃, 田代 隆志
    2011 年14 巻1 号 p. 45-62
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    本論では,人為改変前後における河道の地形学的特性と河畔林動態との関係から,北海道自然堤防帯における河畔林の現状と課題について考察し,その管理方針を提案した.河畔林は,流水の攪乱体制に応じたダイナミクスが特徴である.したがって,河畔林の配列は,網状河道,蛇行河道などの縦断的な河道の地形学的特性,横断的な微地形に応じたものとなる.改変前において,流路変動の緩慢な蛇行河道では,流路変動の著しい網状河道に比べ,河畔林の破壊の間隔は長く,遷移の中間種,後期種が優占する.また,流路の側方移動,地盤高の増加に伴い,遷移段階の異なる河畔林が河道に沿って帯状に分布すると考えられた.新たな堆積地への先駆種の定着は,土砂捕捉による地盤高の増加,更新サイトの形成,保護などの促進効果をもつ.その後,環境条件の変化に応じた次のステージの稚樹が林冠へと到達する.一方,改変後では,横断的な高低差にもとづく冠水状況の違いはあるが,次のステージの稚樹群が不在のヤナギ林が広範囲に分布している.これらは,自然攪乱にくわえ,人為攪乱 (風倒木撤去,河川整備など) により,破壊と再生を頻発し,かつ周辺からの中間種,後期種の種子供給が少ないことから,遷移し難いと考えられた.したがって,自然堤防帯では,流水の攪乱体制に応じた配列の失われた河畔林となっていることを指摘した.これは,氾濫原や蛇行河道の復元を実施した場合でも,遷移段階の異なる河畔林の配列が再生され難いことを示唆する.また,河畔林の遷移は,森林性の林床植生要素,洪水透過能力の改善をもたらす可能性が示唆された.以上から,流水の攪乱体制に応じた河畔林の配列が再生されるよう,遷移可能な立地に分布している先駆林に対して,中間種,後期種の稚樹群を形成させる管理,更に低水路拡幅による河道の側方移動を復元させる管理を提案した.
事例研究
  • — 11 年間にわたる三春ダム下流河川のモニタリング結果 —
    西田 守一, 浅見 和弘, 石澤 伸彰, 熊澤 一正, 中沢 重一
    2011 年14 巻1 号 p. 63-74
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    福島県阿武隈川水系大滝根川に建設された三春ダムでは,ダム運用開始 1 年後の 1999 年より,ダム下流への土砂還元を実施している.今回,試験湛水中の 1997 年からダム管理以降後の 2007 年まで,流況,河床構成材料などの物理環境の変化と底生動物の応答を調べた.その結果,三春ダムでみられたダム下流における底生動物の変化は,水温の変化,濁度の変化,ダム湖によるプランクトン生産の影響,ダム運用開始後の流量制御による影響は小さく,試験湛水中の流量制御と河床構成材料の変化が大きな要因と考えられた.試験湛水中の流量制御については,試験湛水に伴うダム下流の流量の低下,試験湛水の水位低下に伴う放流による影響で個体数や種数が減少したと推察された.三春ダム運用後,下流への放流量は,出水時を除けば流入量と放流量は概ね同じことが多く,底生動物も回復した.河床構成材料の変化については,ダム下流の河床構成材料の粗粒化に伴い掘潜型の底生動物の減少がみられた.その後は,土砂還元の実施により,粗粒化が回復し,掘潜型の底生動物の増加もみられたことから,土砂還元の実施により様々な底生動物の生息可能な環境が備わってきていると考えられた.
意見
  • 角 哲也, 竹門 康弘
    2011 年14 巻1 号 p. 75-79
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/10/01
    ジャーナル フリー
    Three months have passed since the Great East Japan Earthquake occurred. Public infrastructures were largely destroyed by the extreme tsunami. In these affected areas, it is reasonable to consider the grand design of the new land use and public infrastructure rather than restoring to the original state from the viewpoint of disaster prevention. In reconstruction from the Tohoku earthquake, the rehabilitation plan by changing the traditional idea from the long-term view is required that can reduce the damage in case of the next disaster. It is also necessary to reconsider the relationship between environmental conservation and rehabilitation projects. In the coastal region, significant environmental change has been already caused by the tsunami and land subsidence. Leaving a wide habitat in these rivers and coastal areas which will improve the ecological integrity can truly increase motivation and effectiveness of rehabilitation by improving fishery production and tourism value. Therefore, it is necessary to identify, in advance, high potential areas where biodiversity and ecological functions for material cycling will be increased, and reflect them for reconstruction master plan. In this paper, based on the above idea, issues to be discussed in the Ecology and Civil Engineering Society are presented for the reconstruction from the Tohoku earthquake and Tsunami.
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