応用生態工学
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9 巻, 2 号
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原著論文
  • 岩木 晃三, 佐藤 宏明
    2006 年 9 巻 2 号 p. 115-127
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    本研究では, 渡良瀬貯水池での水質改善を目的とした水位低下・干し上げによる鳥類個体数への影響の有無を, 人為的な水位変動のない自然湖沼との比較によって明らかにすることを目的とした.
    調査は, 2004年1月26日から5月15日までに渡良瀬貯水池, 多々良沼, 城沼など9ヶ所において水鳥類を対象に85回の個体数カウントを行い, 渡良瀬貯水池と比較しうる結果が得られた多々良沼と城沼の個体数の増減をを分析した. 分析対象はオナガガモを除くカモ科およびカイツブリ科鳥類とした. 併せて, 種数と出現種の変化にも注目した.
    各期別すべてで3池沼の個体数変化率に有意差がなかった. また全調査期間では, 渡良瀬貯水池と多々良沼に有意差がなく, 渡良瀬貯水池と城沼に有意差があったが, 城沼の傾斜がより強かった.
    渡良瀬貯水池で水位低下期から干し上げ期に記録されなくなった種があり, 多々良沼と城沼でも記録されなくなった種があった. 渡良瀬貯水池では, 最低水位維持期と干し上げ期にサギ科, チドリ科, シギ科, カモメ科などの渉禽類および魚食猛禽類のミサゴで新たな記録や個体数の増加がみられた. 多々良沼と城沼では, 同じ時期に個体数が顕著に増加した種はなかった.
    以上のことから, 水位低下期から満水期においてみられた個体数の減少に関しては, 水位低下・干し上げの影響は少なく, 自然条件下における季節的移動 (渡去) が主原因であったと考えられる.
  • 藤村 善安, 冨士田 裕子, 加藤 邦彦, 竹中 眞, 柳谷 修自
    2006 年 9 巻 2 号 p. 129-140
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    湿原における植物群落と水位環境の対応関係を明らかにすることを目的に, 1時間に1回の水位測定を行った. 測定は北海道東部に位置する釧路湿原において, 後背湿地に成立しているハンノキ林, 河川の自然堤防上の群落 (河辺草本群落) および後背湿地の草本群落 (湿性草本群落) で2002年の5-10月にかけて行った. 解析では水位変動の頻度, 変動幅, 季節的な変動をそれぞれ独立に指標する値を用いて, 群落間の比較を行った. また植物群落と立地環境を対応づけるための適切な指標値を明らかにするため, 水位環境を示す様々な値の相互関係を調べた.
    群落間の比較から, ハンノキ林に対して, 河辺草本群落は変動頻度や変動幅の大きい地点に, 湿性草本群落は春から夏にかけての水位上昇の大きい地点に, それぞれ成立していることが分かった. このことは水位変動を変動頻度や変動幅, 変動の季節性などに分けて考える必要があることを示している.
    水位測定値の標準偏差は変動頻度, 変動幅および季節的な変動のそれぞれと強い相関があった. このことは標準偏差によって表される水位変動には, 変動頻度, 変動幅, 変動の季節性の全てが含まれていることを示している. また変動頻度と変動幅に強い相関がみられたのに対して, 季節的な変動は独立性の高い値であった. このことから植生との関係を解析する際の水位に関わる指標として, 不連続な測定を行った場合でも, 季節的な変動を示す値, 変動幅を示す値を用いることが有効であることが示された. また水位変動の指標値としての標準偏差は, 変動の頻度, 変動幅, 季節的な変動を含む指標であり, それらを別々に表解することが可能な場合には用いるべきでないと考えられた.
  • 金澤 康史, 三宅 洋
    2006 年 9 巻 2 号 p. 141-150
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    本研究では護岸建設により出現する人工的なコンクリート基質と, 自然基質である礫および岩盤との間で, 生息場所環境および河川性底生動物の群集構造を比較し, コンクリート基質の物理的な生息場所特性とそこに成立する底生動物群集の特徴を明らかにすることを目的とした.
    物理的環境の比較により, 基質の表面流速は礫で最も小さいことが示された. 礫河床は粗度が高く, 流水に対する抵抗が大きくなるため, 粗度が低いコンクリート基質および岩盤よりも流速が小さくなったものと考えられた.
    底生動物の生息密度はコンクリート基質で最も高く, 多様性の一要素である均等度は礫で最も高かった. また, 非計量的多次元尺度法 (NMS) の結果から, コンクリート基質上ではフタバコカゲロウが優占していることが明らかになった. コンクリート基質上に特徴的な底生動物群集が成立したのは表面形状の単純化とフタバコカゲロウの増加が原因だと考えられた.
    表面流速の増加に伴い, 底生動物の生息密度は増加し, 分類群数および均等度は減少した. また, 流速の大きい生息場所では, フタバコカゲロウと強い正の相関関係の見られるNMS軸2の値も高かった. よって, コンクリート基質上の流速の増加が, 他の自然基質とは異なる底生動物群集が見られる原因だと考えられた.
    本研究により, コンクリート基質上では自然基質とは異なる底生動物群集が成立していることが示された. この原因としては, コンクリート護岸の建設による生息場所環境とその複雑性の改変が考えられた. 本研究の結果は, 護岸などの河川構造物は人間生活の安全性・利便性を高める上で必要なものである反面, 河川生物群集に影響を及ぼしているという一例を示しているものと思われる. 今後は, 基質特性が底生動物群集に影響を及ぼすメカニズムを解明する必要があると考えられる.
  • ―越冬環境を考慮した川づくりの提言―
    渡辺 恵三, 中村 太士, 小林 美樹, 柳井 清治, 米田 隆夫, 渡邊 康玄, 丸岡 昇, 北谷 啓幸
    2006 年 9 巻 2 号 p. 151-165
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    本研究は, いくつかの瀬や淵を含む区間において, 河川の地形や水理の観点から河川の階層構造を規定し, サクラマス幼魚が越冬環境として選択する河川構造の特性を明らかにすることを目的とした.
    調査は, 2001年12月中旬~下旬に北海道札幌市郊外を流れる石狩川水系真駒内川と北海道西南部積丹半島北部に位置する積丹川でおこなった. この2つの河川においてセグメント1に位置付けされる自然河川のReachを最上位の構造とし, それより下位のChannel unit, SubunitおよびMicrohabitatの3つの階層に区分し, サクラマス幼魚の越冬環境について検討した.
    検討の結果, 越冬期のサクラマス幼魚は, Channel unitでは河床勾配が急な早瀬や瀬に比べ, 河床勾配が比較的緩やかな平瀬, 淵において生息密度が高い傾向が見られたが, 生息密度のばらつきが大きく, 明確な傾向は示されなかった. Subunitスケールでは, 淵や平瀬の河岸付近を構成していたフルード数の小さな領域Subunit (Fr<0.125) に対する選択性が高い傾向がみられ, このタイプの面積と生息密度には正の相関が認められた. Microhabitatスケールでは, カバーの被覆度が多く流速がきわめて遅いグループに対する選択性が高かった. SubunitとMicrohabitatの階層性について検討したところ, 前述したSubunitとMicrohabitatの組み合わせは, 他の組み合わせより高い選択性と生息密度を示した. これらの結果は, 真駒内川および積丹川の両河川において同様に得られた. したがって, サクラマス幼魚の越冬環境は, SubunitとMicrohabitatの2つの階層的な河川構造に対応しており, 淵や平瀬の河岸付近に連続して広がるフルード数が小さな領域 (Subunit) とそのなかにさらに流速が遅く, カバーが存在する微生息場所 (Microhabitat) の組み合わせであることが示唆された.
    本研究により, これまでサクラマス幼魚の越冬環境として知見のあったMicrohabitatの環境特性に加え, その周辺のフルード数が小さく示されるSubunitの重要性が示された. この2つの階層は, サクラマス幼魚の越冬期に加えて, 越冬直前の生息場所としても重要であると考えられる. したがって, このような河川構造の階層性は, 季節によって変化する連続した生息場所として捉えることができる.
    北海道のような積雪寒冷地では, 河川における越冬場所の減少がサクラマス幼魚の生残におよぼす影響が大きく, 越冬環境を考慮した川づくりが必須となる. このとき, Reachスケールに着目した河道整備により, 越冬環境となりえるSubunitとMicrohabitatを有するChannel unitの保全・創出を意識しなければならない. また, Microhabitatは, 主に倒流木や河岸の倒木, 積雪による水際植生の倒伏によるものであり, 水際の微地形や植生にも留意しなけばならない. これらを踏まえ, 次の3点を越冬環境に考慮した川づくりに向けた提言とする.
    (1) 低水路が直線の場合は, 砂州の形成を促がす水制や導流堤を用いることにより河岸に水衝部を創出する.
    (2) 自然河道もしくは改修区間でも復元しつつある場合は, 増水時の水衝部に着目し, 蛇行に起因するM型の淵, 側方洗掘型の淵を保全する.
    (3) 上記のような増水時における水衝部の河岸の微地形や生育する植生を保全する.
  • 柳井 清治, 河内 香織, 伊藤 絹子
    2006 年 9 巻 2 号 p. 167-178
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    サケの死骸が河畔林生態系・および渓流生態系に及ぼす影響を明らかにするため, 豊富にシロザケの遡上回帰が観察される, 北海道東部網走管内のモコト川上流域において, サケの分解移動過程, および窒素安定同位体比を用いサケが河畔植生と水生動物へ及ぼす影響を推定した. この河川と同規模, 同土地利用の支流域でサケが遡上しない河川を対照河川とし, 比較を行った.
    この結果, サケの遡上は11月をピークとし, 死骸は河川内と陸域で観察され, その比率は3対1程度であった. 河川内に滞留しているものはほとんど水生菌が繁茂し水中で分解されるのに対し, 陸上に持ち上げられた死骸の多くは大型動物類に被食を受けたものが多かった. 河岸の死骸の5体に電波発信機を装着し移動距離を調べたところ, 3体は10m以内, 1体が500m程度移動したことが判明し, 少数であるが遠方まで運ばれている可能性が示された.
    次に河畔植生のハルニレ, アキタブキおよびヤナギ属葉の窒素同位体比を測定したところ, ハルニレ, アキタブキは対照河川に比べて高かったが有意な差とはならなかった. 逆にヤナギ属では対照河川と比べて低い傾向があった. 一方, 水生動物類 (ガガンボ科, コカゲロウ属, トウヨウマダラカゲロウ属, アミメカワゲラ科およびサクラマス) の窒素同位体比は対照河川に比べていずれも高く, 有意な差が見られた. 遡上前と遡上後の同位体比値を比較したところ, ガガンボ科を除き増加する傾向があった.
    以上の結果から, サケの影響は本調査河川においては河畔植物に関しては有意には現れず, 逆に水生動物群には明瞭に現れた. しかし陸上に持ち上げられた死骸の多くは大型哺乳類や鳥類の摂食を受けており, 一部は遠くまで運ばれている可能性があった. 今後はサケの死骸が陸上生態系の中でどのように利用されているかを明らかにすることが重要となる.
  • 宮本 康, 國井 秀伸
    2006 年 9 巻 2 号 p. 179-189
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    低塩分の汽水湖では, 塩分の増加が湖水の富栄養化と沈水植生の衰退を招くことが報告されている. しかし, 河口域に位置する塩分の高い汽水湖においては, このような塩分増加に応じた生態系の変化は明らかにされていない. 本研究は河口域に位置する中海において, 塩分の時空間的な増加が湖水の富栄養化と藻場の衰退を導くのかどうかを明らかにした. 資料収集・資料解析・現地調査により (1) 過去21年間 (1984-2004年) の夏季 (7・8月) の湖心における塩分の変化に応じた栄養塩濃度 (TN・TP・DTN・DTP) とChl.a濃度, および透明度 (セッキ板深度) の変化, (2) 夏季 (7・8月) の沿岸域15地点における塩分の変化に応じた栄養塩濃度 (DTN・DTP) とChl.a濃度, および透明度の変化, (3) 夏季の沿岸域15地点における塩分の変化に応じた藻場の構造 (分布の下限深度・種数・各出現種の被度) の変化を調べた. その結果, 低塩分の汽水湖沼とは反対に, 中海では塩分の高い年に水質が改善される傾向 (TN・DTN・Chl.a量の減少と透明度の向上) が示された. 同様に, 沿岸域15地点を対象とした調査結果からも, 塩分の高い地点ほど水質が良好である (DTN・Chl.a量の低下と透明度の向上) 傾向が認められた. さらに, 塩分の高い地点・年には藻場が発達する傾向 (垂直分布の拡大・出現種数の増加・一部の出現種の被度増加) が, 沿岸域15地点における2年間の観測結果から示された. 本研究が明らかにした, 高塩分の汽水湖 (中海) における塩分の増加に応じた水質の変化, および藻場の構造変化は, これまでに低塩分の汽水湖で認められたパターンとは正反対であった. この結果は, 湖水の塩分増加は汽水湖沼において水質や植生に代表される様々な生態系要素に変化を生じさせるものの, その変化パターンは汽水湖の立地条件 (海からの距離) に応じて大きく異なることを強く示唆している.
事例研究
  • 松井 明, 佐藤 政良
    2006 年 9 巻 2 号 p. 191-201
    発行日: 2006/12/20
    公開日: 2008/07/18
    ジャーナル フリー
    本研究は, 茨城県下館市の水田地区のなかで, 1年中流水がある小排水路を取り上げ, 土水路およびコンクリート水路の2地点 (同一水路内) において, 2002年4月から2003年3月の間, 毎月1回定期的に水生生物の採捕調査を実施した結果, 以下のことを明らかにした.
    1. 水田小排水路に生息する水生生物の採捕量 (個体数および種類数) は, 全般に土水路がコンクリート水路と比較して大きい傾向を示した.
    2. 魚類に関しては, 2地点ともドジョウが最も多く採捕された. 水生昆虫に関しては, 2地点ともシオカラトンボ (幼虫) が最も多く採捕された.
    3. ドジョウの生息にとって, 河床材料が泥であることが重要であり, 側壁材料の影響は比較的小さいと推定された.
    4. シオカラトンボの生息にとって, 河床材料の粒径組成が関与している可能性が考えられた.
    5. 今後の生物保全に配慮した水田小排水路の整備は, できる限り土水路を維持することが重要である.
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