応用生態工学
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12 巻, 2 号
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原著論文
  • 山岸 哲, 松原 始, 平松 山治, 鷲見 哲也, 江崎 保男
    2009 年12 巻2 号 p. 79-85
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    2000年から2006年の3月から7月にかけて,京都府南部の木津川において,チドリ類3種の営巣環境選択に関する研究を行ない,河川物理が3種の共存に与える影響を論じた.木津川ではコチドリ,イカルチドリ,シロチドリの3種が同一砂州上で繁殖している.現地調査においては営巣中のチドリを発見し,その営巣環境を,基質砂礫サイズの3区分をもちいて評価した.その結果,主に海岸の砂州干潟に営巣するシロチドリは,粒径の小さな基質に営巣する頻度が有意に高かった.また,コチドリとイカルチドリは比較的幅広い基質に営巣し,この2種間では有意差が見出せなかったものの,イカルチドリはコチドリよりも大きな礫を選好する傾向があった.調査地砂州の砂礫分布図を作成したところ,大粒径土砂と小粒径土砂の分布が,上下流のマクロスケールで明確に異なっていたのみならず,ミクロスケールでは小粒径土砂の砂礫内に大粒径土砂の小パッチが点在していた.これらの分布パターンは,ともに洪水によって形成されると考えられるので,チドリ類の同一砂州上での共存には定期的な出水が不可欠であると考えられる.
  • 白川 北斗, 柳井 清治, 河内 香織
    2009 年12 巻2 号 p. 87-98
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    2つの体サイズに応じた幼生の微生息場選択性を明らかにすることを目的として,石狩川水系尾白利加川において,カワヤツメ(Lethenteron japonicum)幼生の採集と環境要因を測定した.また,幼生の餌資源利用を議論するために,餌資源の取りこみ実験と安定同位体分析を行った.大型群(5-15cm)の幼生では河床有機物(DOM)と底質硬度,小型群(1-5cm)では底質硬度・流速・底質組成(シルト質)が最良モデルとして選ばれ,これらの要因がカワヤツメ幼生の出現個体数を規定することが明らかとなった.またカワヤツメ幼生の成長と餌資源の取り込みを調べるために飼育実験を行ったところ,落葉リターを与えた処理は体長,湿重量ともに有意に増加することが示された.加えて実験の終了した個体の窒素,炭素安定同位体比分析を行ったところ,実験で用いた幼生が餌資源として与えた落葉リターと藻類の同位体比に誘導され,特に落葉リターにおいてその度合いが高かった.このことから,カワヤツメ幼生はデトリタスを栄養として吸収することが示唆された.以上の野外調査・室内実験から,体サイズの小さなカワヤツメ幼生は自発的に生息環境を選択することができないため,生息河川に柔らかな河床と成長するために落葉リターのような餌資源が最初から必要となる.一方,サイズの大きな幼生は自発的に生息環境を選択し,特に底質中の有機物が多い場所に生息することが明らかとなった.そのためカワヤツメ幼生の生息する河川には,柔らかい泥土が堆積できる多様な河川地形と餌資源の供給源となる河畔林の存在,およびそのような環境が連続して存在することが重要であると推察された.
  • 吉尾 政信, 加藤 倫之, 宮下 直
    2009 年12 巻2 号 p. 99-107
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    新潟県佐渡市では,2008年秋にトキの野生復帰に向けた試験的放鳥が行われた.放鳥後のトキ個体群が存続するためには採餌環境の整備や創出が不可欠であり,水田生態系における餌生物の分布や現存量を評価することが緊急の課題となっている.本研究では佐渡市小佐渡地区の水田生態系において,トキの主要な餌生物の1グループであるバッタ目昆虫群集の調査を行い,コバネイナゴ,オンブバッタ,ホシササキリ,クサキリ,エンマコオロギの個体数や分布を制限する環境要因を明らかにするための解析を行った.2008年9月に小佐渡地区の77箇所の水田または休耕田を対象に,これら5種の個体数をスイーピングと目視によってカウントするとともに,水田サイズ(周長),耕作状況(耕作田か休耕田か),畦周辺の草丈を記録した.これらの野外データとGISを用いて様々な空間スケールで抽出した景観データ(水田被覆,林縁長)をもとに,対象生物の個体数や分布を制限する要因を一般化線形モデルを用いて推定した.その結果,景観要因については,対象生物によって景観要因を抽出する最適な空間スケールが異なっていた.個体数の多いコバネイナゴでは水田被覆は常に個体数にプラスの効果を示し,ホシササキリとエンマコオロギでは水田被覆だけでなく林縁長の交互作用が個体数や分布の決定に関与していた.局所要因については,草丈が35~50cm程度の環境でコバネイナゴ,ホシササキリの個体数やクサキリの存在確率が大きく,エンマコオロギの存在確率は休耕田で高かった.以上の結果から,トキの採餌環境として水田生態系におけるバッタ目昆虫の個体数と多様性の維持や増加を目的とした水田管理を考える際には,休耕田を含む水田地帯を平野部に維持し,畦や周辺環境での草刈りの頻度を抑えることが有効であると考えられた.
  • 鶴田 哲也, 阿部 信一郎, 米沢 俊彦, 井口 恵一朗
    2009 年12 巻2 号 p. 109-117
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    私たちは,生息地の縮減および個体数の激減により絶滅が危惧されるようになったリュウキュウアユを対象に,保全プログラムの構築を目指して,産卵条件に関する現地調査を行った.残された唯一の生息地である奄美大島のなかでも,最大の生息地を提供する役勝川において,産卵に利用された水域は,河口から2.4km上流のリーチに限られた.産卵場周辺の水深,流速,基質サイズ,シルトの堆積状況を基に主成分分析を施したところ,産着卵は早瀬―平瀬移行帯を中心に分布することがわかった.産卵床の集まるエリア内の環境変数にロジスティック回帰分析を適用すると,産着卵の有無を説明する要因として底質硬度が抽出された.産卵床付近に多量に出現したオキナワヒゲナガカワトビケラは,営巣活動を通して礫床の固結化を促すことが知られており,同所的なリュウキュウアユの産卵を阻害する可能性が示唆される.水深および流速に関して産卵場の要件を満たす水域は,実質上,役勝川内の他のリーチからは見いだされなかった.また,河川規模が小さく,不定期にリュウキュウアユが利用する山間川では,産卵適地は成立しなかった.リュウキュウアユの保全は,ある程度の個体数が維持されている役勝川個体群を優先して実施すべきであり,産卵適地の回復は全滅の危険性を回避させる.河床の耕運は,スコップやクワなど簡単な道具さえあれば実行することができ,費用対効果の高い方法として推奨される.
  • ―テレメトリーシステムの利用―
    有賀 誠, 津田 裕一, 藤岡 紘, 本多 健太郎, 光永 靖, 三原 孝二, 宮下 和士
    2009 年12 巻2 号 p. 119-130
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    石狩川は河口から150km以上離れた上川盆地までシロザケが大量に遡上する河川だったが,戦後の水質汚濁と頭首工建設による阻害により遡上が途絶えていた.本研究では,水質改善と魚道の設置により遡上環境が改善した石狩川において,シロザケの遡上確認と河川中・上流域における遡上行動を明らかにするためにテレメトリーシステムを用いた追跡調査を実施した.調査は2002~2004年にかけて魚道で捕獲した8個体のシロザケを用いて,それより上流の自然堤防,峡谷および盆地区間へと続く約60km区間において実施した.テレメトリーシステムによる追跡調査では,これまでシロザケの遡上確認ができなかった頭首工上流域において,2個体の自然堤防区間の遡上,3個体の盆地区間への遡上を確認し,最大17日間,50km以上に及ぶ遡上記録を得ることができた.シロザケの平均遡上速度は,自然堤防区間が19.5km/日,峡谷区間が14.8km/h,盆地区間は6.6km/hだった.盆地区間の平均遡上速度は他区間に比べて有意に低く,いずれも上流にいくほど低下した.盆地区間には,他の区間と異なり,河川改修が進んだ現在も産卵に必要な河床材料,水深,流速および伏流水が存在し,さらに湧水についても,石狩川を横断する不透水性の基盤の直上流で湧出する構造を有していた.本研究で得られたシロザケの遡上行動のパターンは,3つの区間の地形的な違いを反映していると考えられる.すなわち,自然堤防および峡谷区間では産卵関連行動をとることなく通路として遡上し,今もなお産卵適地が残る盆地区間では,産卵場所や繁殖相手の探索行動等の産卵関連行動により遡上速度が低下したものと推定される.今回の結果は,石狩川におけるシロザケの自然再生産の可能性を示唆するのもであるが,将来の安定的な回復には,さらに詳細な遡上・産卵行動等の解析が必要と考えられる.
事例研究
  • 常住 直人, 後藤 眞宏, 浪平 篤
    2009 年12 巻2 号 p. 131-140
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    本報文では比較的早期に堰の合口(小規模堰の統合),大規模化が進められ,経年的に堰落差が大きくなっている可能性が高い,かつ長期の河床変動の知見が得られやすい大都市近郊圏(中京圏)の農業取水堰のうち,特に生物移動の障害となりやすい中下流の大規模堰21ヵ所について,周辺河床や堰落差の経年変化について調査,分析を行い,堰による生物移動分断の現況と将来動向について検討を行った.その結果,以下の諸点が明らかとなった.
    1) 中京圏の河川では過去の一時期に広範に河床低下が進行している事例が多く見られる.この河床低下は,高度成長期を跨ぐ時期に著しくなっており,この時期の経済活動の活発化(砂利採取等)など人為的要因に依る可能性が高い.
    2) 取水堰地点では,河床低下の影響を受けたと見られる堰直下落差の増大が見られ,護床下流端で当初より平均2.4m低下している.
    3) 堰下流の護床は,落差増大に伴い,延長が平均2.1倍に延伸され,勾配は当初のフラットから平均1/17.3と渓流河川並みに急勾配化している.
    4) 護床の急勾配化に対し,魚の遡上を図るため,魚道下流口の下流移設が成され,その延長は当初より平均2倍となっているものの,魚道内勾配は従前程度に維持されている.
    5) しかし,急勾配化した護床では,護床面の低下が漸次進む可能性があり,その場合,集魚位置が上流に移動するので,魚道下流口を再度上流に戻す必要が生じる.この際の魚道勾配は,平均1/3.9まで急勾配化する可能性がある.これにより魚道の急勾配化や狭隘スペースでのスイッチバック施工など技術的な問題を生じうる.
  • 久城 圭, 林 紀男, 西廣 淳
    2009 年12 巻2 号 p. 141-147
    発行日: 2009年
    公開日: 2010/02/26
    ジャーナル フリー
    印旛沼の湖岸には,1960年代に湖底から浚渫された土砂を用いて造成された「高水敷」が存在する.この高水敷の土砂中に,現在の印旛沼の地上植生からは消失した沈水・浮葉植物の散布体バンクが存在している可能性について検証するとともに,散布体バンクからの個体を定着・成長させ種子生産させることでこれらの植物の保全に寄与することを目的として,高水敷に浅い池を造成する事業が千葉県により実施された.造成された6つの池のうち2つでは,絶滅危惧種であるガシャモク,シャジクモ,オトメフラスコモを含む8種の沈水・浮葉植物が確認された.沈水植物が出現した池では多数の種子が新たに生産されていることも確認され,この事業が散布体バンクの保全にも寄与したことが示された.しかし,4つの池では水生植物は確認されず,散布体バンクの分布には空間的な偏りがあることが示唆された.
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