日本病院総合診療医学会雑誌
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19 巻, 3 号
日本病院総合診療医学会雑誌
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
原著
  • 竹茂 彰子, 井手 聡, 岩間 優, 下村 暁, 森岡 慎一郎, 小川 弘美, 曽根 英恵, 加藤 温, 菊地 裕絵, 稲垣 剛志
    2023 年 19 巻 3 号 p. 148-154
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    COVID-19 のパンデミックへの対応は院内感 染対策へ貢献する一方で,患者やその家族,医療従事者の医学的,心理的な負担が増加している。面会制限に対する評価及び現状を明らかにし,今後の改善策を模索する目的で,当院の医療従事者11名と,総合診療科の患者またはその家族10名にインタビューを行った。面会制限への受け入れは比較的良好であり,病状説明は難しくなったとの回答が多いものの,外来での対面説明やこまめな連絡といった柔軟な対応が行われていた。ただし,退院調整は患者の状態や,退院後の生活が想像しにくいことにより難航した事例がみられた。タブレット端末を利用したリモート面会は,難聴の高齢者とは疏通が困難である点,面会の調整が負担となる点が課題であった。面会手法の見直しは火急の課題であり,限られた医療資源を有効に活用するためにも,リモート面会の促進や直接面会の緩和などの対応が望まれる。
  • 遠野 千尋
    2023 年 19 巻 3 号 p. 155-159
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    岩手県沿岸北部の久慈医療圏ではおもに当院が新型コロナウイルス感染患者の入院治療を 担っている。2020年度は 24 名の入院,2021年度は142名の入院があったが,院内クラスターや,隔離期間中の陽性者死亡例はなかった。しかし,2022年度は7月からの第7波の中で,これまでなかった院内クラスターが時期,病棟を別とすると5回発生し,さらに隔離期間中の 陽性者の死亡が 8 名発生した。2022 年度は 11 月までに 157 名の入院があった。ただ,これまでクラスター発生では,4 病棟のうち,A,B 病棟の2病棟に限定しており,発生要因に A,B病棟の換気不良の問題がないか,二酸化炭素 (以降 CO2と表記)モニターで病室内,病室トイレ内の CO2濃度を測定した。結果としては CO2濃度が 1000ppmを超える場所はなく,当 院でのクラスター発生と換気不良の関連性は乏しく,接触要因等,さらに原因調査が必要と考えられた。
症例報告
  • 川先 孝幸, 鷹屋 直, 津田 敬, ウォン トウユン
    2023 年 19 巻 3 号 p. 160-164
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    近年の高齢化社会に伴い,誤嚥性肺炎罹患患者は増加の一途を辿っている。特に脳血管障害のある患者では何らかの嚥下障害を有していることも多い。今回著者らは,脳伷塞の既往があり,誤嚥性肺炎を繰り返していた方が,再度誤嚥性肺炎の診断で入院したが,入院中の口腔ケアで咽頭腫瘍が見つかり,それが誤嚥の一因となっていたと考えられた症例を経験した。嚥下障害の原因として咽頭・食道などの通路障害による器質的原因と,神経や筋などの運搬障害による機能的原因がある。誤嚥性肺炎の原因として,機能的原因が疑われたとしても,器質的原因がないか常に考慮すべきである。
  • 上野 尚, 上野 八重子, 坂田 勇司, 宇根 かおり, 白藤 雄五, 西村 洋一, 廣田 勝弘, 野田 浩夫
    2023 年 19 巻 3 号 p. 165-170
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    症例は 57 歳男性。2 型糖尿病で右足壊死を生じ足部切断術の既往があり発熱と体動困難で入院した。第 5 腰椎付近の熱感と圧痛および炎 症反応高値より化膿性脊椎炎と考え,タゾバクタム/ピペラシリンを開始し,第 4 病日よりバンコマイシンとメロペネムの併用に変更した。 血液培養で methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)が陽性でありトラフ値は推奨範囲内であったが,第 10 病日に浮腫と乏尿および血清クレアチニン上昇が出現し急性腎不全と診断してバンコマイシンを中止した。 Sulfamethoxazole Trimethoprim(ST)合剤に変更したが高熱と好中球減少にて中止し,その後はリネゾリドを使用した。長期入院となり療養病棟での治療継続が必要で,リネゾリド中止後はミノサイクリンとリファンピシンを併用し た。厳格な血糖コントロールを行いつつ 105 日で完治した。手術困難な部位であるため転院ができず,ケアミックス病院での保存的治療を継続した症例であり,長期化したMRSA感染症の治療方法として教訓的であった。
  • 浦 和也, 平野 晋資, 森 慎一郎
    2023 年 19 巻 3 号 p. 171-176
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    一般外来を受診する患者の主訴として,全身倦怠感,体重減少は頻度が多く,その鑑別診断は多岐にわたる。筋萎縮性側索硬化症は,運動ニューロンの変性により進行性の麻痺をきたし,診断から約3~5 年の経過で死に至ることが多い予後不良の疾患である。今回,全身倦怠感,体重減少の精査目的に施行された非鎮静下の下部消化管内視鏡検査中にCO2ナルコーシスとなり,筋萎縮性側索硬化症と診断された 80 歳代男性の 1 例を経験した。未診断の ALS の中には,全身倦怠感,体重減少などの非特異的症状を主訴として外来を受診する例がある。また ALS では,四肢の筋力は比較的保たれているが,呼吸筋麻痺による換気不全から急激にⅡ型呼吸不全に至る例がある。全身倦怠感,体重減少を訴える症例では,ALS を鑑別に挙げ,経過中に急激な呼吸不全を起こす可能性に注意する必要がある。
  • 本城 聡, 知念 直史, 布川 貴博, 室屋 洋平, 押田 成人, 瀬戸口 雅彦, 小川 亨, 鈴木 亮士, 小野 嘉文, 奥山 隆二, 矢 ...
    2023 年 19 巻 3 号 p. 177-183
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    57 歳男性。2 型糖尿病および BMI 41.7 kg/m2の肥満あり。2020 年 4 月,発熱あり当院受診,WBC 10500/μL,CRP 17.4mg/dL で 胸部レントゲンでは両側すりガラス影あり, PCR 陽性で COVID-19 と診断。ファビピラビ ルおよびナファモスタット,メチルプレドニゾ ロンを投与したが呼吸状態悪化し人工呼吸管理となり,以降 64 病日まで人工呼吸管理を必要とした。リハビリを経て 82 病日に退院とした。退院後も味覚・嗅覚障害,関節痛および筋肉痛,息切れなどの症状が長期残存したが徐々に改善,胸部 CT でも所見が改善した。当院は 277 床の中規模病院で,呼吸器専門医は 1 名, 感染症専門医は 0 名で専門外の医師たちによ るチーム編成を行った。1 週間交代で主治医を変更するシステムであったが,主治医となった医師に呼吸器専門医はいなかった。各医師が総合診療的な能力を発揮して救命しえた症例と思われた。
  • 長見 晴彦, 瀬下 達之, 佐藤 博, 田原 英樹
    2023 年 19 巻 3 号 p. 184-189
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    糖尿病治療薬であるSGLT2 阻害剤は糖尿病の有無にかかわらず高齢者慢性心不全(収縮不全(heart failure with reduced cardiac ejection fraction:HFrEF)の治療薬として有効であると言われている。今回,著者らは 72歳男性,慢性心不全の急性増悪例に対して急性期を離脱後に心不全改善を目的にダパグリフロジン 10 mg を投与したところ血中 BNP 値の改善及び心エコーによる左室駆出率の改善を認め,心機能の悪化を認めず順調に経過した症例を経験した。ダパグリフロジン 10 mg の心筋への作用機序として心筋内でのケトン体利用増加による心筋エネルギー代謝の改善,交感神経活性化抑制による心筋保護,心筋重量も含めた心筋リモデリンの改善などが考えられる。今後,高齢者慢性心不全(HFrEF)に対してダパグリフロ ジン 10 mg は有効な治療手段となる事が示唆された。
  • 田村 志宣, 蒸野 寿紀
    2023 年 19 巻 3 号 p. 190-195
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    75歳男性が,労作時の息切れを主訴に来院した。血液検査では,軽度貧血と血清アミラー ゼ軽度上昇を認めた。胸部X線で右大量胸水を認め,胸腔穿刺の結果,血性胸水であった。 造影CT検査では,膵仮性嚢胞を認めたが,影剤の血管外漏出は認めなかった。局所麻酔下胸腔鏡検査で,腫瘍と活動性出血は認めなかった。胸腔鏡検査後の造影CT再検査で,空気を含む膵仮性嚢胞を認められた。これら所見より,この嚢胞は縦隔を介して胸腔内に交通していると考えられた。胸水アミラーゼ値は, 17,710 IU/L と著明に高値を示した。以上より,本症例は,慢性アルコール性膵炎と縦隔内膵仮性嚢胞の胸腔内穿破に伴う右胸腔内出血と診断した。急性膵炎に準じた保存的治療にて水の再貯留は認められなかった。胸水や胸腔内出血を伴う縦隔内膵仮性嚢胞は,稀ではあるが,慢性膵炎に伴う重要な合併症の一つである。
  • 枝元 真人, 坂本 遊, 早川 学, 石井 義洋, 増田 浩一, 丸塚 浩助
    2023 年 19 巻 3 号 p. 196-202
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    感染性心内膜炎は多彩な臨床症状をきたす疾患で,しばしば不明熱の原因ともなりうるが, 溶血性貧血を呈することは非典型的であり,その報告も限られている。今回,著者らは, Streptococcus mitis による感染性心内膜炎に伴い,僧帽弁閉鎖不全症を合併し著明な溶血性貧血を呈した症例を経験した。手術的加療と抗菌薬投与により溶血性貧血の改善を認め,感染性心内膜炎が溶血性貧血の原因と考えられたため,文献的考察を含めて報告する。
  • 本多 加奈, 金澤 建, 大根 麻梨奈, 出納 達也, 吉田 百合香, 上條 香織, 松橋 一彦, 阿部 祥英
    2023 年 19 巻 3 号 p. 203-207
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    沈降 13 価肺炎球菌結合型ワクチン(13- valent pneumococcal conjugate vaccine : PCV13)を 1 回接種していたが,発熱を契機に入院し,侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:IPD)と診断された2 か月の男児を経験した。血液培養検査で分離された肺炎球菌の血清型は 10A で PCV13 非含有の血清型だった。PCV13 導入後にIPD患児の数は有意に減少したが,非含有の血清型のIPD患児の割合が増加している。ワクチン接種によっても完全には IPDを予防できず,PCV13 非含有血清型によるIPD に注意が必要である。
症例短報
総説
  • 森井 和彦, 福永 智栄, 多田 俊史, 中村 進一郎
    2023 年 19 巻 3 号 p. 214-222
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    がんの治療方針は staging や performance status に基づいて決定されることが多いが,高齢者の場合は平均余命が短く,複数の併存疾患や加齢による脆弱性を認めることがあるため, 高齢者総合機能評価(comprehensive geriatric assessment;CGA)を行わないで治療を始めるのは危険である。高齢者の脆弱性は日常的診療では拾い上げが不完全であり,CGAでの評価が望ましい。多忙な日常診療ではまず G8 Screening tool で脆弱性の疑われる高齢者をスクリーニングして,該当者に CGA を行うのが効率的である。CGAでは検証されたツールを用いて,instrumental activities of daily living(IADL),併存疾患,転倒,栄養状態,化学療法の毒性の予測,がん以外の要因による平均余命, 薬剤関連の問題,認知障害,うつ病,社会的支援システムの不足などを評価する。近年使用頻度が増えている免疫チェックポイント阻害剤の 有益性・有害性の予測にもCGAが有効かどうかは,今後の課題である。
  • 松本 正俊
    2023 年 19 巻 3 号 p. 223-226
    発行日: 2023/05/31
    公開日: 2023/10/19
    ジャーナル フリー
    本研究では厚生労働省の医師・歯科医師・薬剤師調査(統計)のデータに基づき,我が国における病院総合診療医数を再び推計した。その結果,前研究で認められた内科系サブスペシャリティーを除いた「内科」あるいは「全科」を主たる診療科とする病院勤務医師数の減少は 2014 年以降下がり止まっていることが明らかとなった。しかしながら全病院医師に占めるその比率は依然として減少し続けていた。また,主たる診療科は異なるが従たる診療科として「内科」あるいは「全科」を選んでいた者まで範囲を広げると,総合診療医は 1.7 倍の人数になることが判明した。今後これら医師を取り込むための本学会の創意工夫が求められる。
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