日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
18 巻, 4 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
原著
  • 河原 樹, 阿部 祥英, 金子 綾太, 前田 麻由, 渡邊 佳孝, 梅田 陽
    2022 年 18 巻 4 号 p. 217-224
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    電解質異常として低ナトリウム(Na)血症と高カリウム(K)血症,内分泌異常としてアルドステロン(Ald)高値を伴ったアトピー性皮膚炎の乳児 3 例を経験した。そのような患児の臨床的特徴を見出すため,低Na血症を合併し,Ald値が測定された症例を検索した。我々の 3 例の他,13 例が抽出され,計 16 例が集積された。 全例乳児で男児に多く,湿疹は 14 例(87.5%)で滲出液を伴い,12 例(75%)でステロイド忌避があった。血清Na値,K値,Ald値の中央値はそれぞれ 120mEq/L,6. 8mEq/L,4200pg/mL で,二次性偽性低 Ald 症を示唆する所見であった。電解質異常と内分泌学的異常の双方を伴うアトピー性皮膚炎の乳児は,高率にステロイド忌避や皮膚の滲出性病変を認めた。よって,滲出性病変を有するアトピー性皮膚炎の乳児を診療する際,治療介入を要する電解質異常を伴うことを想定する必要がある。
  • 田畑 佑樹, 長崎 一哉, 亀井 義之, 宇田 陽菜, 坂本 麻衣, 筧 みなみ, 西村 明洋, 近藤 猛, 志水 太郎
    2022 年 18 巻 4 号 p. 225-233
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    【目的】総合診療医を増やす方策を検討するために,総合診療医を志望する医学生を対象にキャリア選択要因を質的に探索した。 【方法】全国の 10 名の総合診療を志望する医学生を 2 グループに分け,2021 年 8 月にオンラインでフォーカスグループを実施した。逐語録をSCAT法で分析した。 【結果】参加者は地域医療,全人的医療への興味や,課外活動をきっかけに総合診療を志望し,幅広い臨床能力の獲得や,偶発的なキャリア,臨床以外のキャリアを計画していた。促進因子は,ロールモデルや指導医,地域医療との接点,分野の新しさであり,阻害因子は周囲からの評判,不明確なキャリアイメージ,卒前教育の不 足であった。 【結論】総合診療志望の医学生は地域医療や全人的医療への興味を背景に,課外活動や研修機会を通じた能動的な行動によりキャリアへの関心を深めていた。一方で,複雑化した専門医制度や不十分な卒前教育がその決断を思いとどまらせていた。
症例報告
  • 染小 英弘, 塩尻 俊明
    2022 年 18 巻 4 号 p. 234-238
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    授乳中に生じる飢餓性ケトアシドーシスは授乳婦ケトアシドーシスと呼ばれ,低炭水化物食の摂取などが要因となる。今回我々は低炭水化物食を背景として引き起こされた授乳婦ケトアシドーシスの一例を報告する。症例は 11ヵ月の児に対して授乳中の,糖尿病の既往のない 36 歳の 3 回経妊 3 回経産の女性。一か月前から低炭水化物食を摂取し,来院前日は意図してほとんど食事を摂取していなかった。来院当日からの頭痛及び嘔気,嘔吐を主訴に受診した。血液ガス分析で著明なアニオンギャップ開大代謝性アシドーシス,尿検査でケトン体強陽性であり,授乳婦ケトアシドーシスと診断した。細胞外液の補液に続き高濃度のブドウ糖液投与により来院翌日にはほぼ症状は消失,アシドーシスも改善した。授乳婦においては低炭水化物食によりケトアシドーシスが生じうることを認識する必要がある。糖の欠乏が本態であり,治療に当たっては速やかに糖の投与を行う必要がある。
  • 山岡 絵里, 髙木 慎太郎, 盛生 慶, 大屋 一輝, 森 奈美, 岡信 秀治, 辻 恵二, 古川 善也
    2022 年 18 巻 4 号 p. 239-244
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 50 歳代,女性。10 月初旬。発熱,全身倦怠感のため当科受診。当時,患者在住の市中は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の最流行期でありSARS-CoV2 PCRを施行,陰性のため対症療法で経過観察とした。翌日解熱せず,腹部と下腿の一部に紅斑を伴う皮疹が出現したため再診,発熱は持続し皮疹は全身に広がり,血小板減少,低 Na 血症も認め,全身倦怠感も著明のため入院した。入院後の病歴聴取で発症前日と 10 日前に登山歴があったことが判明,リケッチア感染症を疑い直ちにミノサイクリンを開始,発熱,全身状態は速やかに改善,皮疹紅斑も消退した。後日,血清と皮膚生検PCRで Rickettsia Japonica DNA が検出され日本紅斑熱と診断した。パンデミック下においても流行疾患以外の疾患の鑑別にあげ,十分な病歴聴取と経過観察が重 要で,初診後のフォローアップ体制を整えておくことが必要と考えられた。
  • 高橋 宏史
    2022 年 18 巻 4 号 p. 245-250
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    偶発的要因が重なり誤診を来した脳炎について報告する。症例 1 は 65 歳,女性。吐気,嘔吐&発熱で発症し階段で頭部打撲。同日夕方激しい頭痛出現し,CTにてくも膜下出血(SAH)および同側中大脳動脈に脳動脈瘤を認めた。脳動脈瘤破裂によるSAHと診断し緊急手術(クリッピング)を行なった。翌々日右片麻痺出現した後に四肢麻痺,昏睡状態となり,3 日後ヘルペス脳炎と診断された。ヘルペス脳炎に外傷性SAH&未破裂脳動脈瘤の偶然の合併と破裂脳動脈瘤との誤診であった。 症例 2 は 88 歳,男性。自宅の庭で意識消失状態で発見されたが側の木に脚立が立てかけてあった。CTより転落による外傷性SAHと診断したが翌日MRIで両側側頭葉に異常病変を認め,髄液検査により脳炎と診断された。脚立の存在による外傷性SAHとの誤診であった。脳卒中や頭部外傷であっても常に脳炎の存在を念頭に診断,治療にあたるべきである。
  • 中村 元保, 加藤 晶人, 井上 元, 鈴木 恵輔, 八木 正晴, 土肥 謙二
    2022 年 18 巻 4 号 p. 251-257
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    重度低ナトリウム血症はけいれん発作や意識障害,呼吸停止などを引き起こし,ナトリウム補正により脳浮腫などの合併症で致死的になることが多い。今回,良好な経過をたどった重度低ナトリウム血症症例を経験したので報告する。症例は 75 歳女性,全身性強直間代性痙攣が出現し当院へ搬送された。Na 97.8mEq/L と重度低ナトリウム血症のため厳格なナトリウムの補正を行った。重度低ナトリウム血症の原因としてナトリウムの摂取不足,甲状腺ホルモン低下と肺炎による ADH 上昇が考えられた。さらに粘液水腫性昏睡の併発が疑われ,レボチロキシンナトリウム内服にて反回神経麻痺のみ残存した状態で転院した。重度低ナトリウム血症に対し適切なナトリウム補正を行うことで重篤な合併症を避けることができた。積極的な原因検索,治療を行うことが重度低ナトリウム血症の予後の改善に寄与すると思われる。
  • 唐渡 諒, 阿部 祥英, 八木 直美, 伊藤 真弓, 小曽根 惠子, 宇宿 秀三, 田中 伸子, 梅田 陽
    2022 年 18 巻 4 号 p. 258-261
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    お好み焼き摂取後にアナフィラキシーを発症した小児 3 症例を経験した。調理に使用したお好み焼き粉を観察したところ,全症例で顕微鏡下にダニを認めた。未開封のお好み焼き粉と調理に使用したお好み焼き粉を用いてプリックテストを施行し,ダニ抗原の経口摂取によるアナフィラキシー(oral mite anaphylaxis:OMA)と特定できた。OMA は予防することが重要で,不適切に保存された食材の使用は避けるべきである。また,食物アレルギーとの鑑別を要し,顕微鏡でのダニの同定およびプリックテストが必要である。
  • 髙橋 和弘, 大串 汀, 柴田 倫子, 具嶋 敏文, 内田 勇二郎
    2022 年 18 巻 4 号 p. 262-267
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 70 歳台男性。膀胱癌再発に対して,Bacillus Calmette-Guèrin(BCG)膀胱内注入療法後に,持続する発熱と肝機能異常が出現した。血液培養検査も陰性であり,超音波検査やCTでも肝腫大を認めるのみで,抗菌薬にも反応は認めなかった。肝臓および骨髄の生検組織より類上皮肉芽腫を検出した。共にZiehl-Neelsen染色で抗酸菌は認めず,PCRでも抗酸菌は陰性であった。BCG膀胱注入療法中の発症である ことより,播種性BCG感染症と判断し,リファンピシン(RFP),イソニアジド(INH),エタンブトール(EB)の 3 剤併用療法に加え,レボフロキサシン(LVFX)の投与を行った。約 1 か月の経過で症状や肝機能異常は改善したため,LVFXを中止し,3 剤併用療法を 3 か月間継続し治療を終了した。治療終了後も再燃は認めていない。BCG注入療法後に発熱,肝障害を認めた際には,播種性BCG感染症を疑い,肝生検,骨髄生検を行うことが有用と考えられた。
  • 中村 重徳, 石森 正敏, 高橋 啓, 丹羽 眞佐夫, 林 昌俊
    2022 年 18 巻 4 号 p. 268-275
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    甲状腺が極めて大きいT3優位型バセドウ病の 2 例(患者1 ,48 歳,患者2 ,54 歳)で, 甲状腺全摘を行った症例を経験したので報告する。2 例とも男性で喫煙歴あり。患者1 と患者2 はそれぞれ約 18 年,約 13 年チアマゾールの治療歴あり。患者 2 では 2 ケ月間ヨウ化カリウムが投与されていた。受診時,患者1はfreeT3 10.22 pg/ml,freeT4 1.35 ng/dl(freeT3/freeT4 ratio 7. 57),TSH 0. 007 μU/ml,TRAb 37.3 IU/l,TSAb 2,422%,CT像から求めた甲状腺推定重は 435 g,患者2 はそれぞれ23.95 pg/ml,3.10 ng/dl(freeT3/freeT4 ratio7.73),< 0.005 μU/ml,> 40.0 IU/l,2,858%, 290 g であった。患者 2 ではエスケープと判断し,ヨウ化カリウムの投与を中止。チアマゾール増量等の治療を患者1では約 6 ケ月,患者2では約 7 ケ月行った後,甲状腺全摘を行った(摘出甲状腺重量:患者 1 は 490 g,患者2 は330 g)。両例術後,T4補充を行なった。術後,両例TRAbとTSAbは順調に低下した。当院受 診前,また当院での手術前,freeT3 は freeT4より相対的に高値の T3 優位型バセドウ病の病態であったが,手術後,T4補充中であるがT3優位は消失した。
  • 山本 眞琴, 阿部 祥英, 大貫 裕太, 渡邊 佳孝, 里 美貴, 安原 努, 福地 邦彦
    2022 年 18 巻 4 号 p. 276-280
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は月齢 2 の男児である。発熱を主訴に来院し,上部尿路感染症の診断で入院した。尿培養検査で基質特異性拡張型βラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase:ESBL)産生大腸菌が検出されたが,カルバペネム系抗菌薬を使用せず,セフメタゾールを用いて加療できた。遺伝子解析により分離菌のESBL酵素型はCTX-M-55型であると判明した。他国や家畜,特に中国で検出頻度の高いESBL酵素型が本邦の小児にも伝播し,市中尿路感染症の発症に関与している可能性がある。よって,動物や環境にも配慮するワンヘルスアプローチの重要性が示唆される。
短報
総合診療のキー画像
特別寄稿
  • 小山 耕太, 溝部 孝則, 松田 浩史, 佐藤 彰洋, 安成 英文, 岡本 真哉, 佐々木 浩, 藏原 隆浩, 浦田 誓夫, 田宮 貞宏
    2022 年 18 巻 4 号 p. 300-304
    発行日: 2022/07/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    2019 年 12 月以降,長期化した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックにおいて,地域中核病院,地域診療所,保健所の連携は必要不可欠である1)。その様な中,熊本県北地域の地域中核病院である「くまもと県北病院」(当院)は,救急診療,一般外来診療,入院診療のいずれの機能も止めることなく維持している。本寄稿では,当院と玉名郡市医師会を主体とした地域診療所との病診連携を中心に,如何に 地域の医療機能を維持し得たかについて振り返り,地域中核病院,診療所,保健所含めた行政が協力し合うことの重要性について提言する。
LETTERS TO THE EDITOR
feedback
Top