日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
15 巻, 6 号
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原著
  • 長見 晴彦, 田原 英樹, 佐藤 博, 瀬下 達之
    2019 年 15 巻 6 号 p. 473-480
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    今回 2 型糖尿病 98 症例において SGLT2阻害薬投与の臨床的効果及び心・腎の臓器保存効果について検討した。従来の糖尿病治療薬によって治療効果が不十分な 98 症例に対しSGLT2阻害薬を置換あるいは追加投与後に 48 ヶ月までの臨床経過及び有害事象を観察した。今回の検討の結果,SGLT2阻害薬投与後にHbA1c値,体重,血圧ともに有意に低下した。一方eGFRはSGLT2阻害薬投与初期に低下したがその後は一定に維持できた。また 12 症例に測定した血中BNP値は有意に低下し心機能改善を認め,他方蛋白尿も改善し腎機能改善も認めた。観察期間中,脱水症に伴う脳血管障害の発生はなかったが性器感染が高率に発症した。以上よりSGLT2阻害薬は 2 型糖尿病患者に対して耐糖能改善のみならず血圧・心・腎などの臓器保護作用を有している事が判明したため,心・腎・高血圧などの合併症のある 2 型糖尿病患者にはSGLT2阻害薬使用はSGLT2阻害薬の持つ多面的効果より今後の糖尿病治療薬の選択肢の 1 つになりうると考えられた。
症例報告
  • 西澤 昭彦, 山根 隆志, 白木 里織, 金澤 健司
    2019 年 15 巻 6 号 p. 481-487
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    62 歳女性。二人の孫がヒトパルボウイルスB19(HPVB19)感染による伝染性紅斑に罹患した。看病をした患者も HPVB19感染による皮疹,発熱を呈したが,さらに胃腸炎,急性腎不全,血小板減少症を発症し,遅れて急性心不全も併発した。一時入院を要したが保存的加療にて軽快した。本症例における皮疹はHPVB19 感染に特異的とは言えず,感染契機が明らかでなければ HPVB19 感染症を想定する ことは困難であったと考えられた。また,HPVB19 感染症は多彩な臨床徴候を呈し,重篤な経過をたどることがあるため注意を要する。
  • 中尾 佳永, 山根 崇史, 林 史子, 吉田 和則, 溝口 和博
    2019 年 15 巻 6 号 p. 488-492
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    左側下大静脈(Lt-IVC)は稀な静脈発生異常だが,臨床上病的意義は少ない。腹部大動脈瘤(AAA)手術の半数がステントグラフト治療(EVAR)になった現在,開腹人工血管置換時には影響したLt-IVCの存在にあまり注意を必要としないで加療している。症例は 77 歳男性で 4 年前にAAAに対してEVARを施行。徐々に体重増加,下腿浮腫を呈し,尿検査で顕微鏡学血尿と軽度貧血を認めた。今回発熱と下腿浮腫が増強し救急搬送された。深部静脈血栓症を疑い抗凝固療法を開始し,改善した。静脈超音波検査では血栓は認めず,CT検査では縮小傾向にあったAAAが再度拡大に転じていた。大動脈と上腸間膜動脈間の距離が狭小化しLt-IVCの圧排を認め,下腿浮腫の悪化を招いたと考えられた。EVAR治療後の瘤拡大で下腿浮腫,深部静脈血栓などを併発する可能性があるため,経時的観察及び瘤径拡大に影響するエンドリークの予防が必要と考えられた。
  • 田岡 征高, 市川 裕久, 荒川 裕佳子, 森 由弘
    2019 年 15 巻 6 号 p. 493-498
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 60 歳女性。数か月前より口喝,網状皮斑があり入院中にシェーグレン症候群,橋本病と診断された。5 日前からの湿性咳嗽と呼吸困難で近医を受診した。低酸素血症と胸部異常陰影を認め当院紹介となった。初診時,意識障害と低酸素血症があり,呼吸音は両肺野全体に coarse crackles を聴取した。胸部X線とCT検査で両肺野にびまん性の小粒状陰影を認めた。重症肺炎を疑い血液培養,喀痰培養を行い抗菌薬投与を開始した。入院 2 日目に血液培養 2 セットよりグラム陰性桿菌が検出され,無莢膜型インフルエンザ菌(non-typable Haemophilus influenzae:NTHi)と判明した。インフルエンザ菌b型(Hi type b:Hib)のワクチンが定期接種化され,小児における侵襲性インフルエンザ菌感染症は激減した一方で,本症例のようにNTHiによる侵襲性感染症が世界的に増加している。今回我々が経験した症例は,典型的であるが稀であり画像所見と共に報告する。
  • 澤村 俊孝 , 横山 拓也, 高岸 里咲, 岡本 拓也, 勝田 裕子
    2019 年 15 巻 6 号 p. 499-505
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 21 歳男性。19 歳時に 2 型糖尿病と診断されビルダグリプチン・メトホルミンの内服にて加療されていた。感冒によるシックデイ時に血糖の高値を認めたことより, かかりつけ医にて X- 4 日にカナグリフロジン 100 mg の内服が開始された。X- 2 日より嘔気・嘔吐が出現し,X日より呼吸苦が生じたため救急外来を受診した。血糖は 206 mg/dL であったが尿ケトン強陽性であり,動脈血ガス分析にて著明な代謝性アシドーシスを認めたことより正常血糖ケトアシドーシスと診断した。5 g/h の糖質負荷と十分量のインスリン投与を経静脈的に行ったが,治療開始後 12 時間にわたり代謝性アシドーシスが改善せず,重炭酸の投与を行った。最終的に糖質負荷量を大きく増量することでケトアシドーシスの改善を認めた。改善後も十分な糖質摂取およびインスリン投与を行ったにも関わらず血中・尿中ケトン体の正常化に 10 日間要した。
  • 川岸 直樹, 森 アッティラ, 原田 猛, 楯 秀貞
    2019 年 15 巻 6 号 p. 506-511
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    遠隔地小規模病院において,低カリウム性四肢麻痺に高CK血症を合併した,比較的希な症例を経験したので報告する。症例は,54 歳男性。当院搬送前日の 20 時頃から両下肢の脱力を自覚。翌日 22 時頃になり,四肢脱力顕著となり当院へ救急搬送された。当院初診であったが,3 年前より高血圧症,2 年前より高中性脂肪血症,逆流性食道炎で他院に通院していた。来院時意識清明,両上肢両下肢ともManual Muscle Testing(MMT)1 であった。入院時血液ガス分析で血清K 1.3 mEq/L,BE 1.4 mmol/L,全身CTで異常所見はなく,低カリウム性四肢麻痺と診断。カリウム補充,補液を直ちに開始した。入院 2 日目CK 4321 IUと高値,徐々に筋力は回復し,入院 4 日目には立位可能となった。血清K値は漸増し,入院 5 日目には正常化したが,CK値は入院 4 日目に 6300 IUまで上昇,その後漸減した。心肺機能,腎機能,甲状腺機能に異常はなかった。入院 14 日目に退院した。発症から 1 ヶ月後の外来受診時では,仕事復帰し通常に生活していた。
  • 入江 康仁
    2019 年 15 巻 6 号 p. 512-515
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    歯性感染症が原因と思われる悪寒戦慄,発熱症状を来した 2 症例を経験したため報告する。〔症例 1 ,68 歳,男性〕悪寒戦慄があり救急搬送された。血液検査所見では炎症反応の亢進以外異常所見を指摘できなかった。第 5 病日,左上顎部に違和感を訴え,CTで根尖性歯周組織炎を疑う所見が得られた。〔症例 2 ,82 歳,女性〕発熱,意識消失を来し救急搬送された。当初,感染巣は指摘できなかったが,第 4 病日に左下顎の違和感・鈍痛を訴えた。CTとMRIで下顎骨骨髄炎を疑う所見が得られた。〔考察〕2 例とも抗菌薬使用で速やかに改善した。歯科治療後の感染は自覚症状に乏しいことがあり,処置後数年を経ていたとしてもリスクになりえるという認識が必要である。そのため口腔外科領域の感染巣のスクリーニングにCT・MRIを行うことは有用である。〔結語〕歯性感染症が敗血症の原因となりえることの認識を高め,症状が顕著でなくても積極的に精査する対象とすべきである。
短報
総説
  • 冨士 武史, 二宮 晴夫, 脇本 信博
    2019 年 15 巻 6 号 p. 529-533
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    外科手術は輸血によって支えられてきた。日本における同種血輸血は「献血」により支えられているが,人口構成の高齢化とともに献血を行う人口が減少し,献血血液の不足が生じると懸念されている。外科手術における輸血について,自己血輸血の採用で貴重な資源である献血血液の削減が期待される。自己血輸血には,術前貯血式,術前希釈式,術中回収式,術後回収式,などのいくつかの方法があり,手術の種類に応じて選択あるいは組み合わせて用いる。自己血輸血にもリスクが存在するため,安全性の確認が不可欠である。本稿では,これまでに報告された自己血輸血の安全性検証結果を示した。手術に関する自己血輸血が最も普及していると考えられる整形外科手術において,報告されたいくつかの論文をもとに自己血輸血の実態と有効性,安全性を検討した。 本総説によって,今後多くの外科手術において自己血輸血が普及するきっかけになっていただきたい。
特別寄稿
  • 甲斐沼 孟, 安水 良明, 浅野 智紀, 三井 秀紀
    2019 年 15 巻 6 号 p. 534-539
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    背景:近年,外国人観光客が傷病を負い当科に救急受診される例が散見される。 目的:観光都市部で 2 次救急を担当する当科に受診した外国籍救急患者の実態を把握し,当院の翻訳対応や問題点の現状を報告する。 対象:2014 年 4 月~2019 年 3 月迄( 5 年間)に救急受診した外国人患者。 結果:救急受診数は計 198 例。年齢 40 ± 19 歳,男性 88 例,女性 110 例。国籍はアジア圏が 157 例(79%)と最も多かった。疾患は,外傷が 72 例(36%)と最も多かった。緊急入院例は 13 例( 7 %)であ った。 2019 年以降はPOCKETALK®を使用し診察時病歴聴取,治療上インフォームドコンセント取得,病状説明等が可能であった。全例の支払費用は 108000 ± 453340 円,6 例に未収金(合計金額 364260 円) があった。 考察:当科は多国籍外国人救急患者を受け入れ,翻訳対応を工夫しほぼ全例で診察時の言語に関する問題点はなかったが,未収金発生問題は存在し救急応需前に保険加入有無や支払い能力等経済的側面を確認することが重要である。
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