日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
17 巻, 2 号
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原著
  • 清水 義之, 竹下 淳, 籏智 武志, 井坂 華奈子, 谷口 昌志, 奥村 純平, 吉田 浩太, 山田 浩平, 小川 裕子, ...
    2021 年 17 巻 2 号 p. 140-145
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    近年,末梢挿入式中心静脈カテーテル(Peripherally inserted central catheter:以下PICC)は,成人領域で薬剤投与や静脈栄養など中期から長期にわたる静脈ルートとして使用が増加している。一方,小児においては頻回の静脈ルート確保は本人や家族のみならず,医療者にとっても負担の大きい処置である。著者らは主に集中治療領域において,超音波ガイド下にPICCを留置してきたがこれを応用し,33 症例の一般病棟で管理している様々な疾患領域の小児に対し,リアルタイム超音波ガイド下にPICC留置を試みた。鎮静・鎮痛剤の投与による鎮静レベルの維持と,適切な処置中の循環呼吸の観察が必要ではあるが,全例PICC留置に成功し,重篤な合併症は認めなかった。超音波ガイド下PICC留置は,小児医療における有用なルート確保手段の一つであることが示された。
  • 中川 秀光, 平山 伸, 田村 雅一, 伊藤 和幸, 谷澤 由香, 市川 幸子, 小畑 寿宣, 木下 満
    2021 年 17 巻 2 号 p. 146-156
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    新型コロナウイルス感染症の入院患者 158 例を検討した。血液検査は,肝機能障害,LDH高値,血清アルブミン低値,CRP高値,フェリチン高値が重症度に比例した。重症化の因子は,男性,肺病変の合併,血液検査で血清アルブミン低値,LDH,CRP,D-dimer高値であった。症状は発熱(81%),咳(38%),胸部症状(30%),嗅覚・味覚障害物(26%)が多かった。胸部CTは,80% が両側性で,重症例は広範病変,浸潤 影,肺気腫,多発性嚢胞の合併が見られた。LAMP法はPCR検査と比較して,少し感度が低かった。IgMは約 50%が陽性を示し,診断後平均 11 日目,IgGは発現率は 78% で,平均 46日目であった。同一患者でIgMが発現しても必ずしもIgGができるとは限らなかった。また 5 例の再燃例のうち 2 例はIgMが存在していた。併存症については重症例,死亡例とも高血圧症,糖尿病,肺気腫が多く見られた。
  • 棚瀬 慎治, 内藤 俊夫, 小林 弘幸
    2021 年 17 巻 2 号 p. 157-163
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    医療者の診療拒否の是非が争われた裁判例 55 件の分析を行ったところ,応招義務違反など医療者の行為の違法性が認められた裁判例は 9 件にとどまった。平成 17 年 10 月以降においては,診療拒否の是非が争われた全ての裁判例において医療者の行為の違法性が否定されていた。患者側の迷惑行為を原因として診療拒否がな された類型については,過去全ての裁判例において医療機関側の主張が認められており,そもそも患者の主張するような診療拒否自体が存在しないと認定する裁判例もみられた。患者側の迷惑行為などで診察治療を実施す ることが困難な事案においては,診療の提供を行わないという選択肢もあり得ることが示唆された。
  • 原田 拓, 垂水 庸子, 池田 圭一郎, 豊田 弘邦, 斎藤 司, 弘重 壽一
    2021 年 17 巻 2 号 p. 164-168
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    近年,尿管結石を予測する指標として性別,発症から受診までの時間,人種,嘔気や嘔吐,尿潜血という簡易的な 5 項目から尿管結石を High risk,Moderate risk,Low riskの 3 群に分類する STONE score が発表され有用性が示されている。しかし,アジア人は尿管結石ができにくい人種にもかかわらず,STONE score は黒人か非黒人かの分類のみのため,結石ができやすい非黒人のほうに分類されてしまうという問題がある。本研究ではアジア人に対して非黒人と同等の点数を適応するべきか,その有用性を調べるために単施設後ろ向き研究を行った。救急外来を受診し尿管結石が疑われた 664 例(尿管結石は 354 例)を対象に STONE score の診断精度を後方視的に解析した。High risk群の尿管結石に対する診断精度を比較したところ人種スコアを従来の 3 点とするより 2 点とする場合がもっとも陽性尤度比が高い結果であった(OR= 11.70 vs OR=9. 79)。アジア人を対象とした場合,STONE score の人種の点数は非黒人と同等としないほうが診断精度が向上する可能性がある。
  • 松原 英俊, 中前 恵一郎, 森村 光貴, 武田 拓磨, 堤 惟, 大石 健, 土井 哲也
    2021 年 17 巻 2 号 p. 169-175
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    インフルエンザ感染症は高熱などの全身症状の発現後におくれて上気道症状が併発すると考えられがちである。2011~2012 年シーズンに詳細な症状出現時間の項目を含むアンケート調査を行い,迅速キット陽性インフルエンザ患者 36 例中質問項目 80%以上の記載があり,扁桃炎合併 1 例,発症日不明 1 例を除く 27 例(A型 15 例,B型 12 例)について解析を行った。突然の全身倦怠感とそれに続く進行性の倦怠感が認められるか,発症時点は不明なるも明らかに数時間程度の経過で倦怠感が進行性に悪化したり,高熱が認められた時点をインフルエンザ発症日時とした。発症時とほぼ同時に関節痛(平均 -0.05日)・筋肉痛(平均 0.00日)を認める が,上気道症状である咳嗽(平均-2.89日),鼻汁(平均-1.13日),咽頭痛(平均-0.87日)は発症以前より数時間~ 24時間以上前から発現している症例も多く認められた。このためインフルエンザの発病時期の特定に上気道症状は有用でないと考えられた。
症例報告
  • 朴 將輝, 廣田 哲也
    2021 年 17 巻 2 号 p. 176-183
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は小児期に水痘罹患歴のある 67 歳女性。来院 2 日前より 38 度台の発熱,左耳介・頚部から全身へ広がる紅色小丘疹を認め,来院前日より咽頭痛,来院当日に呼吸困難を自覚して救急搬送され,頸部CT検査で急性喉頭蓋炎を疑われ入院した。入院翌日には丘疹の一部に水疱を生じ始めたため,汎発性帯状疱疹を考慮して抗 ウイルス薬の投与を開始し,また喉頭蓋炎のgradeでは前日のⅠ期から,Ⅱ期へと喉頭蓋腫脹が増悪したため緊急気管切開を行った。ベタメタゾン 8 mg/日の静脈投与も 5 日間行い喉頭蓋炎は改善して第 9 病日に気管チューブを抜去した。以降,左声帯麻痺による誤嚥を繰り返して第 35 病日に胃瘻造設術を要したが,第 60 病日に軽快退院し,声帯麻痺も改善したため第 329 病日に胃瘻抜去した。ペア血清での抗体価パターンも踏まえ,本症例は水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化により急性喉頭蓋炎,声帯麻痺を併発した稀な一例であると診断した。
  • 山本 浩司, 鮫島 義弘, 藤田 茂樹
    2021 年 17 巻 2 号 p. 184-188
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    【症例】61 歳女性。X年 3 月人間ドックで血清アミラーゼ高値を指摘された。クリニックで再検した際のアミラーゼ分画では唾液腺型であったため,当院耳鼻咽喉科を受診するも唾液腺に異常を認めなかった。しかしながら,アミラーゼ高値が持続するため精査目的で 4 月に当院内科受診となった。アミラーゼ分画を再検したところ腫瘍産生アミラーゼが考えられた。PET-CTを撮影したところ下腹部主体の大網病変に一致した索状集積が認められ腹膜癌が疑われた。当院婦人科で 6 月に単純子宮全摘術+両側付属器摘除術,大網切除術を施行した。病理結果はHigh-grade serous carcinomaであり,原発は腹膜と考えられた。 【考察と結語】検索し得た範囲内で腹膜原発癌で血清アミラーゼが上昇したと考えられる症例報告はなかった。人間ドックで指摘された血清アミラーゼ高値を契機に腹膜癌が発見された 1 例を経験したので報告する。
  • 生田 卓也, 正木 龍太郎, 山本 優美子
    2021 年 17 巻 2 号 p. 189-193
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例 1 は 68 才女性。めまい症にて心療内科に通院されフルボキサミンマレイン酸塩を処方されていた。来院前日から全身倦怠感,めまい,両上肢の振戦が出現し改善しないため,家族が救急車を要請し当院救急外来に搬送された。症例 2 は 63 才男性。アルコール依存症で精神科に通院されパロキセチン塩酸塩水和物,デュロキセチン塩酸塩を処方されていた。来院前日から全身倦怠感,発汗,気分不良が出現し改善しないため,自分で救急車を要請し当院救急外来に搬送された。2 症例共にセロトニン系薬剤の服用歴及び臨床所見からセロトニン症候群が疑われた。原因と思われるセロトニン系薬剤を中止し補液,鎮静による支持療法を行ったところ速やかな症状改善を認めた。また,その後,どちらも普段より多い原因薬剤の服薬が判明した。セロトニン系薬剤の服用歴のある患者ではセロトニン症候群の発症に留意する必要がある。
  • 松本 修一, 金山 泰成, 松林 直
    2021 年 17 巻 2 号 p. 194-198
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 68 歳女性。25 年前にC型慢性肝炎に対してインターフェロン単独療法を行いウイルス学的著効となっていた。5 年前から糖尿病を当院で加療中であり,スクリーニング検査として行った腹部超音波検査で以前には認めなかった肝腫瘤を指摘されため当科紹介となった。腫瘤はダイナミックCTとGd-EOB-DTPAによるMRIでは典型的な肝細胞癌の所見ではなかったため,超音波ガイド下に生検を行ったところ高分化型肝細胞癌と診断された。肝切除術を行い 1 年経過しているが肝癌の再発はなく,患者本人の全身状態も良好である。抗HCV療法は肝発癌のリスクを低下させるが,肝発癌がなくなるわけではないため全ての抗HCV療法後の患者は定期的な肝癌スクリーニングが必要である。特にHCV治療後の肝発癌のリスクファクターとしてあげられる高齢,男性,肝線維化進展,アルコール摂取,肝脂肪化,糖尿病がある例は注意して経過観察する必要がある。
  • 千布 裕
    2021 年 17 巻 2 号 p. 199-203
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    Mycobacterium marinum(M.marinum)は,swimming pool granulomaやfish tank granulomaよばれる肉芽腫性の皮膚感染症をおこす非結核性抗酸菌で1)2),まれな病原体であるため,診断が遅延することがある。今回著者らは,関節リウマチ,全身性エリテマトーデスの既往があり,入院中に発症した皮膚潰瘍に引き続いて披裂部潰瘍を呈した 66 歳男性症例を経験したので報告する。症例は療養病棟入院中に難治性の皮膚潰瘍に引き続き,咽頭から披裂部に潰瘍および小隆起を形成した。披裂部潰瘍からの生検組織で抗酸菌と乾酪壊死が証明され,細菌学的検査で M.marinumと同定された。エタンブトール,リファンピシン,レボフロキサシン,クラリスロマイシンで加療し,咽頭および披裂部潰瘍,皮膚潰瘍は治癒した。本症例報告は,極めてまれな M.marinumによる咽頭喉頭炎の報告であるが,皮膚潰瘍の原因が早期に判明すれば防げた可能性がある。免疫抑制患者ではまれな感染症まで鑑別疾患として考慮することの重要性を示唆するものと考えられる。
  • 長見 晴彦, 東 耕一郎, 田原 英樹, 瀬下 達之, 佐藤 博
    2021 年 17 巻 2 号 p. 204-211
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    門脈ガス血症(portal venous gas:PVG)を呈し急速に悪化した 2 症例を経験した。症例 1 は 84 歳の女性で血液透析中に突然の腹痛を発症し腹痛発症後の上腹部CT検査にて肝両葉末梢部にPVGを認めた。本症例は急速にショック状態に陥り救命救急処置を施したが発症 8 時間後に死亡した。本患者は透析中に発症した非閉塞 性腸管虚血に随伴した腸管壊死により腸管内ガス産生菌が小腸壁内へ流入しPVGが惹起されたと推測された。症例 2 は 66 歳のサルコペニアの男性で上腸間膜動脈症候群によって十二指腸水平脚が長期間にわたり圧迫され,その結果十二指腸下行脚からガス産生菌が十二指腸壁内及び胃壁へと侵入し,肝両葉末梢のPVGへ進展 したと推測された。本患者は入院後 6 時間目に急性循環不全にて死亡した。2 症例ともに腹部エコー,腹部CTにて診断可能であったが既に手術不能な状態にあり保存的治療のみ行った。病院総合診療医としてPVGは的確な診断・治療を要する疾患として認識すべきと考えられた。
  • 宮川 滝彦, 石原 徹, 秋山 貴志, 佐藤 翔太, 真鍋 早季, 沖 将行, 小澤 秀樹
    2021 年 17 巻 2 号 p. 212-217
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    動物咬傷は世界中で公衆衛生上の問題であり,日本でも日常診療でしばしば遭遇する。犬猫咬傷でPasteurella multocida による皮膚軟部組織感染症の多くは軽症例である。我々は,壊死性筋膜炎を発症して重症化した稀な症例に遭遇した。91 歳女性で,3 日前からの左下肢痛を主訴に救急搬送された。既往歴に高血圧,脂質異常症,慢性心不全がある。身体所見は,左足背や左下腿に数か所の皮膚潰瘍があり,発赤,腫脹,熱感,圧痛および水疱が認められた。左下腿の試験切開を施行して,壊死性筋膜炎と診断した。直ちに抗菌薬の投与と緊急デブリードマンを施行した。敗血症性ショックとなり集中治療室で集学的な治療を開始した。その後,来院時の創部培養よりPasteurella multocidaのみが単菌で分離された。改めて家族に聴取したところ,室内で犬を飼育していることが判明した。創部を含めた全身状態が改善したため,32 日目に抗菌薬は終了とし,40 日目に集中治療室を退室して,81 日目に転院した。
  • 須藤 一郎, 中谷 俊彦, 橋本 龍也, 齋藤 洋司
    2021 年 17 巻 2 号 p. 218-223
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    今回我々は緩和ケア病棟入院後に肝ガス壊疽を発症して急速に状態が悪化した 1 例を経験したので報告する。 症例は癌性仏痛コントロール目的で入院した十二指腸乳頭部癌肝転移と診断されていた 70 歳代男性。入院後の癌性仏痛コントロールは良好だったが,入院 6 日目にそれまでと異なる強い腹痛を訴えた。腹部CTを行ったところ,肝臓内にガス像を伴った腫瘤が見られ,肝ガス壊疽と診断した。発症時血液検査では腎不全とDICを来しており,発症後 2 日で死亡した。ガス壊疽は外傷性と非外傷性に分類されるが,その起炎菌はClostridium属によるものが多い。また,起炎菌によらず内部臓器に発症する非外傷性ガス壊疽の中で肝ガス壊疽は稀ではあるがその予後は不良とされる。自験例は急激な症状経過をたどり解剖等による確定診断はできなかったが,画像所見,症状経過,文献考察から十二指腸乳頭部癌肝転移巣原発の肝ガス壊疽と考えられた。
総説
総合診療のキー画像
短報
特別寄稿
  • 多胡 雅毅, 藤原 元嗣, 相原 秀俊, 徳島 圭宜, 香月 尚子, 山下 秀一
    2021 年 17 巻 2 号 p. 261-265
    発行日: 2021/03/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    我が国では 2020 年 3 月中旬から COVID-19の流行が始まり,佐賀大学医学部附属病院では新型コロナウイルス感染症対策室が主導し,来院者の検温と問診体制,屋外での診療体制,COVID-19患者の入院診療体制の構築を短期間で行った。これらの取り組みで,総合診療部スタッフは対策室の構成員として中心的役割を果たし貢献した。また総合診療部は一つの診療科として,COVID-19が疑われる患者の外来診療とマネジメント,救急診療体制の支援を行い貢献している。さらにPersonal protective equipmentが不足し供給が不安定となる中,県内の企業と協力して安定供給が可能な代替品を開発し,またPersonal protective equipmentの消費を抑えるべく検体採取ボックスを開発した。総合診療医は,新興感染症のパンデミックで,その能力を活かし,大学病院の診療と組織運営に貢献しうる。
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