日本病院総合診療医学会雑誌
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Print ISSN : 2185-8136
19 巻, 4 号
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症例報告
  • 今 元季, 中川 孝, 今村 淳治, 高橋 広喜
    2023 年 19 巻 4 号 p. 242-247
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    49歳男性。5年前に特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の診断で Helicobacter pylori 除菌とプレドニゾロンで治療され,血小板数4×104μLであった。2か月続く歩行障害と構音障害があり,頭部MRIで広範な白質病変を認め,精査でHIV感染が判明し当院に入 院した。指標疾患(HIV脳症,サイトメガロウイルス網膜炎)からAIDSと診断した。 Antiretroviral therapy (ART)開始後に短期間で血小板数は 6 × 104 から 13 × 104μL 程度に増加しHIV 関連血小板減少症と診断した。本患者はITPとして 5 年間治療され,AIDS 発症後にHIV感染が判明した診断遅延例であった。ARTの進歩でHIV感染者の予後は改善しており,AIDS発症前の早期診断が重要である。 血小板減少はHIV感染初期から認める検査値異常であり,診断機会を逃さないために HIVスクリーニングを行うべきである。
  • 森 一郎 , 加藤 あや香, 不破 雅之, 浅野 元尋, 森田 浩之
    2023 年 19 巻 4 号 p. 248-251
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    症例は 50 歳,男性。X 年に後腹膜腫瘍破裂で当院に救急搬送された。尿中ノルアドレナリ ン排泄量が高値で,123 I-MIBG シンチグラフィーと FDG-PET/CT で腫瘍と腹部大動脈周囲のリンパ節に集積が認められたため,悪性褐色細胞腫と診断した。腫瘍が下大静脈を巻き込んでいたため,手術は困難と判断した。CVD 療法を 17 コース施行した。明らかな腫瘍縮小効果が認められ,手術が可能と判断して 1 回目の腫瘍摘出術を施行した。X+2年に腫瘍の再発が認められたためCVD療法を再開した。しかし,CVD 療法の効果は減弱し,X+3 年に 2 回目,X+4 年に 3 回目の腫瘍摘出術を行い, CVD 療法は 36 コースで終了した。本症例は悪性褐色細胞腫で 3 回の腫瘍摘出を行えた症例である。悪性褐色細胞腫は肺や肝のような重要臓器に転移するよりも骨転移頻度が高く,手術に耐えうる状態であったこと。また本症例ではカテコラミン過剰産生による全身状態の悪化が軽度であったためと考える。
  • 島田 尚登, 望月 太一, 福崎 篤, 岩本 俊彦, 土橋 洋, 梅田 啓
    2023 年 19 巻 4 号 p. 252-257
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    胃癌(低分化腺癌)部分切除後で進行性前立腺癌のホルモン療法中の 68 歳,多重癌の男性。 胸部Cで右上葉末梢に孤立性陰影を認め, PET-CTで18F-FDG集積陽性を認めた。右胸水中の細胞診は陰性,しかし,CEA高値から多重癌からの転移,原発性肺癌が疑われた。積極的な治療は希望されず,一年後に呼吸不全で死亡した。剖検で肺・胸膜病変(中~高分化腺癌)の免疫染色を施行,TTF-1,PSAは共に陰性であったが,NKX3.1陽性で前立腺癌の肺・胸膜 転移と診断した。通常,前立腺癌からの転移を疑う場合にPSA値に注目しがちであるが,本例はPSAのみでは確定診断に至らなかった点で,今後は前立腺癌治療中の肺・胸膜腫瘍例において生検組織の免疫染色を行う場合,PSAだけにとらわれず,NKX3.1免疫染色を積極的に併用すべきであると考えられた。
  • 服部 貴夫
    2023 年 19 巻 4 号 p. 258-263
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    今回,救急搬送されてきた低ナトリウム血症を併発したCOVID-19患者を,診療看護師(以下NP)が早期に臨床推論を行い多職種と連携,協働したことで,重症化を防ぎ治療に至った 1 症例を報告する。 患者は 60 歳代後半の女性で,COVID-19で自宅療養中に倦怠感や意識消失が出現し,救急搬送された。NPと医師が連携して患者を管理し,迅速な介入を行った。その結果,低ナトリウム血症の原因は,脱水による体液量減少によりADH分泌が相対的に増加したことによる影響と考えられた。NPと医師との連携は,患者が重症化する前に迅速な対応が可能となり,病棟看護師と意思決定を共有することで質の高いケアの提供に繋がることが期待される。NPは,臨床推論,疾病管理,ケアの両側面からアプローチすることで医師と多職種との架け橋となるとともに,より迅速に対応することで,患者にとって最善の医療を提供するための役割を担っていると考える。
  • 松原 祥平, 田中 公章, 矢野 哲也
    2023 年 19 巻 4 号 p. 264-268
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    化膿性リンパ節炎は細菌感染により腫大したリンパ節内に膿瘍形成する疾患である。鼠径部化膿性リンパ節炎のリンパ節波及の報告は少ないが,今回リンパ節に波及を起こした鼠径部化膿性リンパ節炎の 2 例を経験したので報告する。2 症例ともに鼠径部の化膿性リンパ節炎に加えてより頭側の骨盤内の大腿上リンパ節にも膿瘍形成を認めた。膿瘍治療にはドレナージ・ 適切な抗菌薬選択・十分な期間の抗菌薬投与が重要である。その際膿瘍のサイズのフォローが必要であるが多発しているかの評価にCT が有用である。しかしCT検査は被曝の関係から小児では頻繁に使用しにくい。化膿性リンパ節炎の場合,波及はリンパ行性に発生すると考えられるため,鼠径部化膿性リンパ節炎を診断した際は波及の有無の評価や治療期間決定に超音波が有用であると考えた。
  • 金澤 建, 山下 恒聖, 大川 恵, 副島 賢和, 傍田 彩也子, 松橋 一彦, 阿部 祥英, 森 雅亮
    2023 年 19 巻 4 号 p. 269-273
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    症例は母子家庭の 14 歳の女子,発熱 18 日目に入院した。間欠熱を呈したが,血液検査で炎症反応は認めなかった。解熱剤の効果はなく,熱源精査のために追加した骨髄穿刺や画像検査でも異常は認めなかった。発熱は持続したが,重症感はなく,心因性発熱が疑われため発熱 46 日目に退院した。COVID-19流行期であり,発熱に敏感な社会情勢であったが,ソーシャルワーカー,児童相談所,児の通う中学校教諭とカンファレンスで情報共有を行い,登校をできるように理解,支援を求めた。患児との面接を繰り返す中で,母子関係が児のストレッサーになっていると判断し,児童相談所と連携し,母子の了承のうえ養護施設に一時保護した。入所 3 日目(発症から約 6 カ月後)に解熱し,以降は明らかな発熱はなく,心因性発熱と最終診断した。心因性発熱は不明熱の鑑別疾患になり,不適切な親子関係は心因性発熱の原因になりうることを認識する必要がある。
  • 平田 哲, 河島 昌典, 山崎 理恵, 佐藤 只空, 古本 健太郎, 永田 健, 岡本 良一
    2023 年 19 巻 4 号 p. 274-280
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    症例は 73 歳男性。半年間で 10 kg の体重減少と,血液検査で貧血と血小板減少を認められ,当科に紹介,入院となった。頸胸腹部造影CTでは全身のリンパ節腫脹,胸腹水を認めた。鼠径・頸部リンパ節および骨髄生検では有意な所見は認めなかった。入院後に腎機能低下,CRP上昇,発熱を認めた。感染症,自己免疫疾患,悪性腫瘍等を否定し,TAFRO症候群と診断した。プレドニゾロン内服治療により,臨床症状および血液検査所見は改善した。本症例はiMCD-TAFRO国際診断基準のTAFROsyndrome, not iMCD-TAFRO(その内,除外基準に該当する疾患の並存を認めないもの)に当たるが,報告例は稀である。また,iMCD-TAFROとiMCD-NOSの特徴が混在していたため,その臨床像について報告する。
  • 宮本 英雄, 松尾 明美, 原 亮祐, 小川 英佑, 後藤 博久, 山川 淳一
    2023 年 19 巻 4 号 p. 281-287
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    近年,平均寿命が延びていることと医療の進歩により超高齢者にも積極的に手術が行われる。しかし超高齢者は加齢に伴う臓器の機能低下や予備力の低下を生じており術後合併症に注意しなければならない。症例は 92 歳男性。S 状結腸憩室炎による狭窄に対して手術を行った。術後 7 日目に胆嚢炎と横隔膜下膿瘍の所見を認めたため翌日手術を行った。胆嚢は穿孔しており胆汁による汎発性腹膜炎となっていた。術後 19 日目にタール 便が出現しショック状態となった。内視鏡検査にて十二指腸球部に出血を伴う潰瘍を認めた。術後 28 日目に深部静脈血栓症による左下肢の浮腫が出現した。超高齢者は単一の臓器だけでなく複数の臓器の機能も同時に障害を受けている場合が多いので,外科治療においては総合診療的視点にたった観察と対応が要求される。今回超高齢者の消化器疾患の術後に,短期間に連続して比較的重篤な合併症をきたした症例を経験したので報告する。
  • 泉 祐介, 吉田 博, 山下 諒, 平本 淳
    2023 年 19 巻 4 号 p. 288-294
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    症例はサルコイドーシスに対してステロイド投与中の 75 歳男性。臀部痛とCRP高値を認め,単純CTで左腸骨に溶骨性変化を伴う腫瘤影を認めた。患者の消耗を考慮し巨細胞性動脈炎の暫定診断でステロイドを増量,症状及び炎症反応の改善を認めた。99mTc-HMDP骨シンチグラフィーでは鎖骨,肋骨,腰椎,骨盤骨に集積を認めた。腸骨生検検体の等温性核酸増幅検査で Mycobacterium avium(M. avium)が陽性,病理組織検査では肉芽腫,チール・ネルゼン染色で抗酸菌を認めた。気管支洗浄液検体の等温性核酸増幅検査でも同菌が陽性となり播種性M. avium complex症と診断した。ステロイドは多剤併用療法開始まで減量し継続,その間に症状の再発や炎症の悪化は認めなかった。免疫不全を伴う併存疾患はなく,抗インターフェロンγ自己抗体が陽性であり発症に関与したと考えられ考察を加え報告する。
特別寄稿
  • 榎本 好恭, 佐藤 明史, 柿崎 裕太, 藤嶋 悟志, 佐藤 優, 車 圭太, 田畑 智章, 加藤 伸史, 佐井 康真, 文永 徽, 齊藤 ...
    2023 年 19 巻 4 号 p. 295-300
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2023/11/11
    ジャーナル フリー
    がん患者が Best Supportive Care(BSC)のために入院すると,経過中に状態が悪化して死亡に至る症例をしばしば経験する。コロナ禍となって病院事情は一変し,外出,外泊は制限され,原則面会禁止のため入院中の患者の生活の質(Quality of Life:QOL)は著しく低下した。 そこで当科では,がん終末期患者の身体的苦痛が軽減したとき,多職種で相談し,自宅療養にむけた退院,その後の在宅死の可否を検討した。 2021年 6 月から約 1 年半の間に自宅で看取ったがん患者 10 例を検討した。男性 7 例,女性 3 例,年齢 68~88 歳,原疾患は胃癌 2 例,大腸癌 3 例,胆管癌 3 例,肺癌 1 例,胸腺癌 1 例だった。最終退院から在宅死までの期間は 3~332 日,3 例に対して中心静脈ポート(central venous port:CV ポート)を使用して 持続点滴を行った。在宅死した10 例はすべて婚姻歴があり,主介護者は,男性患者の場合は妻または子供,女性患者の場合は子供であった。BSC を適切に行い,患者の苦痛を軽減し介護者の負担を軽減できれば,在宅で十分な緩和医療を継続して在宅死を実現できる可能性が示唆された。
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