日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
17 巻, 3 号
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原著
  • 若林 崇雄, 山本 武志, 相馬 仁, 辻 喜久, 山本 和利
    2021 年 17 巻 3 号 p. 274-281
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    【目的】一般内科における患者の入院日数の延長に関連する因子を検討する。 【方法】2016 年 4 月 1 日から 2017 年 3 月 31 日まで 200 床規模のA病院総合診療科に即日入院した患者 289 名を対象とした。入院期間に影響を及ぼす要因として 12 項目の説明変数を選定し,比例Coxハザード分析を用いて入院日数の延長と関連する因子を検討した。 【結果】在院日数の中央値は 10 日だった。入院前の住居と退院先の相違(ハザード比(HR)2.25,95%信頼区間(95% CI);1.35-3.75)であり,次いでBMI低値(HR 1.70,95% CI;1.18-2.45),要介護(HR 1.56,95% CI;1.07-2.27),ポリファーマシー(HR 1.48,95% CI;1.08-2.04)が入院日数の延長と正の相関を示した。 【結論】入院日数の延長と関連する因子が示唆された。今後は本検討を基に多施設前向き研究で妥当性を確保する必要がある。
  • 北原 功雄, 米谷 博志, 長沼 彩, 白鳥 寛明
    2021 年 17 巻 3 号 p. 282-286
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    三叉神経痛のために,食事摂取が全くできず体力を維持できないと訴える患者に対して,可及的早期緊急脳神経減圧術が必要であるかどうかを術前後の体重変化を中心に検討した。薬剤抵抗性三叉神経痛患者自験例 115 例の術前の三叉神経痛患者の体重,ボディマス指数(Body Mass Index:BMI)および食事摂取に問題が生じた患者の術後の体重変化を検討した。その結果,三叉神経痛患者の術前BMIは平均すると適正範囲にあり,性別,痛みの部位,使用薬剤による差は認められなかったが,年齢・罹病期間には差が認められた。術前後の平均BMIには,有意な差は認められなかった。術前BMIの多変量解析では,50 代でゾニサミドを使用している第Ⅲ枝三叉神経痛病初期の患者層では,BMIが低い傾向であった。以上の結果より,上記患者層以外の三叉神経痛患者では,可及的早期脳神経減圧術を施行する必要性はないと考える。患者が食事を摂取できないと訴えても,栄養管理以外の全身状態を精査し,手術適応を十分考慮したうえで安全な手術に望むことが肝要である。
症例報告
  • 彌勒寺 紀栄, 大熊 裕介, 堀尾 裕俊, 比島 恒和
    2021 年 17 巻 3 号 p. 287-292
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    進展型小細胞肺癌(extensive disease small cell lung cancer;ED-SCLC)の標準治療後に原発巣の一部が残存し後に増大した場合,オリゴ転移性疾患に準じた局所療法が検討されるが,治療に関して確固たるエビデンスはない。症例.83 歳,男性。ED-SCLCに対してカルボプラチン+エトポシド併用療法を 4 コース行った。原発巣は一部残存したが,頚部を含む多発リンパ節転移はいずれも消失した。初回化学療法から 27 か月後,原発部位に残存していた楕円形結節が軽度増大した。診断および根治目的に救済手術を施行したところ,多形癌の像を呈する非小細胞肺癌を検出し,既知の小細胞肺癌と異なる組織像を認めた。現在,ED-SCLCの初回化学療法から 7 年,術後 5 年が経過し,無再発の状態である。結語.本症例は,ED-SCLCの残存病変に対する救済手術の意義を示した 1 例である。
  • 石川 彩夏, 加藤 礼乃, 飯田 浩之, 神尾 学, 福味 禎子, 沼田 裕一, 松下 尚 憲
    2021 年 17 巻 3 号 p. 293-297
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    脳脊髄液減少症は一般に起立性頭痛を主訴とすることが多いが,稀な疾患であり見逃されていることが多い。今回著者らは突然の頭重感を主訴に来院した 26 歳女性が,詳細な問診により脳脊髄液減少症の診断に至った症例を経験したため報告する。症例:26 歳女性,仕事中突然の頭重感が出現し,翌日より手の力の入りにくさや聴力低下を自覚した。頭部単純CT,MRIでは特記所見が得られなかったが,嗅覚障害,記憶変化,MMT低下といった神経症状を随伴していたことから脳脊髄液減少症を疑いCTミエログラフィを行った。髄液の硬膜外漏出を認め,本症の診断となり,安静臥床と補液および飲水,カフェイン内服の対症療法を併用し保存的に軽快した。
  • 山本 賢, 吉良 雄一(Co-first-author), 平峯 智, 林 武生, 橋本 侑, 眞崎 勝久, 松瀬 大 ...
    2021 年 17 巻 3 号 p. 298-303
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    80 歳代男性。8 年前より発汗異常,5 年前より全身倦怠感やふらつきを自覚するようになった。複数の医療機関にて精査されたが,原因不明であったために当科を紹介受診された。シェロングテストでは起立性低血圧と考えられ,24 時間自由行動下血圧測定では,収縮期血圧 71-215mmHg,拡張期血圧 43-107mmHg と血圧変動が大きかった。発汗検査では下肢を中心に著明な発汗量の低下を認め,MIBG心筋シンチグラフィーでは心筋へのMIBG取り込み低下を指摘されたことから自律神経性ニューロパチーと診断した。対症療法による改善が乏しかったことから,自己免疫性自律神経性ガングリオノパチー(AAG)を疑い,血清抗体検査を追加したところ,抗gAChR抗体α3 ユニット陽性であり,AAGの診断に至った。免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)を施行した結果,自律神経症状は著明に改善した。
  • 宇藤 薫
    2021 年 17 巻 3 号 p. 304-308
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    32 歳男性が急激に発症,悪化する著しい頚部痛と発熱を訴えて外科当直外来を受診した。外傷の病歴はなく,髄膜炎が疑われたため,救急外来に紹介された。身体所見で,著明な頚部の全方向性の運動制限がみられた。頸椎Xpでは後咽頭間伱の腫脹がみられた。頚部CTでは第 2 頸椎歯突起の前方の頚長筋に石灰化がみられ,後咽頭間伱に液体貯留を伴っていた。石灰沈着性頚長筋伳炎と診断を付けた。経口の非ステロイド性抗炎症薬の内服を行い,1 週間で治癒した。石灰沈着性頚長筋伳炎は頚部痛を生じる非常に稀な疾患である。この疾患は突然に発熱や頚部痛を生じるため,髄膜炎や咽後膿瘍と誤診されかねない。総合診療医は早期診断治療ができるよう,石灰沈着性頚長筋伳炎を把握すべきである。
  • 一瀬 健太, 木村 拓也, 河島 茉澄, 八田 康佑, 友池 力, 松岡 伸英, 井上 雅文, 山中 宏晃, 鯉田 五月, 松田 康 ...
    2021 年 17 巻 3 号 p. 309-314
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    脾嚢胞は稀な疾患であるが,総合診療医にとっては腹痛例の鑑別診断において念頭におくべき疾患である。腹痛を主訴に受診した脾嚢胞の症例に対し,腹腔鏡下脾部分切除術を施行し良好な経過を得たので報告する。症例は 35 歳女性。左下腹部痛を主訴に当院受診した。腹部超音波検査,造影CT検査にて,脾上極に 14cm大の嚢胞性病変を認めた。嚢胞内出血や感染も疑い,有症状のため手術適応と考え腹腔鏡下脾部分切除術を施行した。腹腔鏡下に S.A.N.D.バルーン®にて嚢胞内容を吸引した。脾動脈をテーピングし,上極枝のみを切離し虚血域に嚢胞が含まれていることを確認した。脾実質は破砕法にて切離し,細い血管は超音波凝固切開装置にて切離し脾上極を部分切除した。術後経過は良好であり術後 4 日目に退院した。病理組織は真性嚢胞であった。良性の脾嚢胞に対し,より低侵襲に脾機能を温存した治療を行うことができた。腹腔鏡下脾部分切除は腹腔鏡手術に習熟した施設であれば,安全に施行可能な術式であると考える。
  • 大和田 裕介, 石原 徹, 真鍋 早季, 沖 将行 , 小澤 秀樹
    2021 年 17 巻 3 号 p. 315-320
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    内因性細菌性眼内炎は,眼科的予後が不良な疾患で,早期認識と迅速な治療介入が重要である。原因となる感染巣は,主に肝膿瘍や感染性心内膜炎である。我々は,Streptococcus dysgalactiae subspecies equisimilis(SDSE)の感染巣不明(原発性)菌血症から眼内炎を発症した稀な症例に遭遇し,同時期にS状結腸癌を診断した。66 歳の女性で,5 日前から発熱,3 日前から右眼視力低下と眼痛を自覚。右眼球の結膜充血,角膜混濁,眼脂および腫脹を認めたが,他に特記事項はない。眼科診察所見から右眼の内因性細菌性眼内炎が疑われた。造影CT検査と経胸壁・経食道心臓超音波検査で,感染巣は特定できなかった。抗菌薬の静脈内と硝子体内投与で治療したが,眼科所見は増悪し,10 日目に右眼球摘出術を施行した。血液と硝子体液培養検査からSDSEを検出した。感染巣と悪性腫瘍の精査に大腸内視鏡検査を施行し,S状結腸癌を診断した。SDSE原発性菌血症と悪性腫瘍との関連性が示唆された。
  • 川島 浩正, 米今 諒, 西村 信城, 對馬 恵美子, 宮本 真紀子, 大野 史郎, 矢田 憲孝, 吉本 清巳, 西尾 健治
    2021 年 17 巻 3 号 p. 321-325
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 88 歳女性。2 日前から倦怠感,1 日前から頻尿が出現し,近医で加療を受けていたが,肉眼的血尿と意識障害が出現したため当院に救急搬送された。意識状態はJCS 30,GCS E2V1M4 であり,検査ではCRP上 昇(1. 0mg/dL),アルカリ尿,膿尿,高アンモニア血症(481.7μg/dL)を認めた。出血性膀胱炎を認めるものの,肝障害や門脈圧亢進を疑う所見はなく,尿路感染による高アンモニア血症と考え,抗生剤治療を開始した。尿所見の改善とともに血中アンモニア値は低下し,意識状態も改善した。一般的に尿路感染症によって高アンモニア血症をきたす症例では,尿路の基礎疾患や尿閉を伴う事が多いが,本例ではそれらを認めなかった。高アンモニア血症をみた際には,尿路の異常がない症例であっても,尿路感染症を念頭に置いて診療を進める必要があると考える。
総説
  • 池崎 裕昭, Ernst J Schaefer, 林 純
    2021 年 17 巻 3 号 p. 326-334
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    脂質異常症は日本人の死因の約 25%を占める動脈硬化性疾患の主要なリスク因子の一つである。厚生労働省が 2013 年に『健康日本 21(第二次)』で冠動脈疾患発症抑制のために掲げた指標改善目標の中で,脂質異常症のみが策定当時よりも悪化傾向を示している。脂質代謝は食事や運動などの生活習慣だけではなく,糖尿病をはじめとした様々な内分泌疾患の影響を受けやすく,背景疾患の鑑別と相互関係を勘案した総合的な治療が重要である。さらに,高齢者においては多数の併存疾患の存在,身体能力や臓器予備能の大きな個人差,ポリファーマシーによる薬物相互作用,低栄養やサルコペニアなどを考慮する必要があり,一律に食事制限や薬物療法を行うべきではなく,個人差を考慮して治療方針を立てる必要がある。このような観点から,脂質異常症の診療に総合診療医が関わる利点は大きいと考えられる。
短報
総合診療のキー画像
特別寄稿
  • 橋本 直樹
    2021 年 17 巻 3 号 p. 357-359
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    COVID-19のウイルス測定にはPCRが用いられている。日本のPCRの診断基準のCt値 40-45 では,症状もなく,感染性のウイルスを持っていないのに陽性と判定される場合がある。COVID-19を機に導入されたPCR検査は,実際には感染症の検査として未成熟のまま発進した。今後,臨床データが蓄積したらPCR陽性のCt値も見直すべきである。また当初より,2類指定感染症と認定されているが,死亡率 0.1~4%,でインフルエンザ 0.01%より高いが,市中肺炎 9%より低く,インフルエンザ同様5類感染症が妥当と思われる。
  • 南 凛太郎, 牛田 宣, 西山 誉大, 五藤 美奈子, 寺島 常郎, 西永 侑子, 吉田 紀子, 山中 規明, 矢光 美津 ...
    2021 年 17 巻 3 号 p. 360-366
    発行日: 2021/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    当院ではリスクの高い他の外来患者からCOVID-19患者を分断し,院内感染・クラスター発生を防ぐ目的で帰濃外来と発熱外来を設置した。我々は 2020 年 3 月 6 日から 10 月 25 日までに各外来を受診した患者を調査した。帰濃外来,発熱外来を受診した患者はそれぞれ 382 例,450 例,COVID-19と診断された患者は 63 例であった。発熱外来から入院した患者は 40 例であった(内 COVID-19:5 例,その他の肺炎:17 例を含む)。発熱外来受診後に外来治療となった患者と入院治療を行った患者の 2 群を解析したところ,高齢者,紹介患者,既往症有り,白血球増多,LDH上昇,Cre上昇,CRP上昇が入院のリスク因子として有意であった。 COVID-19流行下における当院の外来診療体制について報告した。この体制は当院内でのCOVID-19の感染を防ぐことに役立った。
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