日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
7 巻, 2 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 佐藤 正通
    2014 年 7 巻 2 号 p. 1-8
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    昨今の社会保障政策上または地域医療役割分担の明確化により,臨床研修に目を向けると,プライマリ・ケア履修が管理型臨床研修指定病院では希薄になる傾向にある。 また実地臨床面においても大病院の一般外来は縮小し,主治医機能は地域の医療機関へ移譲していく方向性が示されている。 地域完結型医療提供が求められるこのような時節にあって,地域に限りある医療資源の有する診療能力を有効に地域医療へ絶え間なく提供していくためには,個々の医療機関の診療特性を活かした地域内役割分担の明確化と在宅診療を含め地域医療を最前線で担う医師もしくは医療機関と,地域中核医療機関に設置された病院総合診療を担う医師の相互の連携が重要となるものと考えている。 医療法によって規定される地域医療支援病院設置や診療報酬 (健康保険法)上の評価項目などにより,また医療機関個別の規模や機能により地域内において担うべく役割のモデルは既に提示されており,超急性期を目指す医療機関に求められる機能は地域密着型医療ではなく紹介や救急要請による「集約」であることは周知の事である。 病院の有する診療機能を的確に地域医療に反映させていくために病院総合診療は求められる診療能力であり,地域であれ病院であれ総合診療を履修した医師同士の連携が最も効率的でありシームレスと思われる。 その背景には医療機関の別はあれども複数の診療段階の担い手が,お互いの医療機関の立場や能力を理解し,そして尊重し,地域内ニーズに応じた診療体系を形成していく,もしくは目指していくことが肝要と考えている。「地域のフロントラインから病院のフロントラインへ,そして住み慣れた地域へ」,といった医療連携利用者に無理のない人の流れを地域医療群もしくは医療介護群として形成していくことか求められていると感じている。
  • 長谷川 修
    2014 年 7 巻 2 号 p. 9-11
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
  • 齋藤 登
    2014 年 7 巻 2 号 p. 12-16
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    総合診療医の診療と漢方医学はアプローチ法が似ており,総合診療医にとって取り組みやすい特色がある。 漢方専門医でない総合診療医から一般の総合診療医に向け,消化器疾患の「証」における漢方処方経験例をシンプルに提示してみたい。 なかでも総合診療医が扱うことが多い臓腑の病態や頻度の多い症候,過敏性腸症候群,機能性胃腸症などの機能的病態に触れ,漢方製剤の副作用を念頭においた留意点や西洋薬との併用での留意点,高齢化社会での抗血栓薬内服者の増加における自験の工夫などを概説する。 総合診療医の腹部診察所見に腹診による捉え方を加えてみると,心窩部の抵抗・圧痛は心下痞硬,腹部の振水音は胃内停水と一致し,腹直筋の緊張,胸脇苦満などの所見と自覚症状が方剤選択の参考になる。 処方の方意は "守り" の処方である補剤,"攻め" の処方である瀉剤,攻補兼務をつかさどる和剤からなり,ここではロ内炎,胃食道逆流症,慢性胃炎,胃・十二指腸潰瘍,小腸疾患,炎症性腸疾患,大腸憩室症 (憩室炎),痔核などのポピュラーな疾患で効果が期待できる代表例を提示する。 総合診療の臨床場面では,従来の西洋医学的な対応だけでは症状や患者さんのもつ不安が解消されにくいことが多々あり,和漢診療によってより総合的に調整をはかれるメリットがあると思われる。
  • 山本 浩司, 山本 和貴, 林 三千雄
    2014 年 7 巻 2 号 p. 17-20
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    当院では必ずしも専門的診療を要さない感染症患者の受け皿として一般内科が機能している。 総合診療科の研修医は担当医として入院患者を受け持ち,スタッフは研修医教育の中心を担っている。 一般内科としての入院の受け入れは 2010 年度から開始しており,初年度 229 人だった新入院患者数が 2013 年度には 355 人まで増加した。 感染症で入院した患者の内訳の上位 3 つは 2012 年度,2013 年度とも呼吸器感染症,尿路感染症,急性胃腸炎であった。 2012 年度に比し 2013 年度は吸器感染症で起炎菌同定率が上昇していた。 起炎菌同定率上昇に寄与したと考えられるのが,2011 年 7 月当院に赴任した感染制御部長である。 まず,救急センターで研修医が実施するグラム染色を開始し,それに引き続き開始されたグラム染色カンファレンスで研修医にフィードバックするとともに感染症に関する知識の共有を計った。 それにより,検体採取の重要性が研修医の中で再認識され,救急センターで喀痰採取の努力が一層なされるようになり,肺炎の起炎菌の同定につながったものと考えられる。 その他,発熱患者から血液培養を 2 セット採取することも徹底され 2010 年は 2 セット採取率が 30 %程度だったものが 2012 年には 90 %程度まで上昇している。 また,カルバベネムなど広域スペクトラム抗菌薬の使用状況も大幅に改善した。 以上,研修医の感染症診療の能力向上につながったと考えている。 ただし現状ではグラム染色の結果から起炎菌を推定し抗生物質を絞り込むところまで至ったのは年間数例に限られている。 今後,正診率の向上を目指し,さらなる抗生物質の適正使用にもつながるように取り組みたい。
  • 田村 耕成
    2014 年 7 巻 2 号 p. 21-24
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    嚥下性肺炎は,ロ腔内の唾液や,食物,逆流した胃内容物などが気道に流入し生じる肺炎である。 その頻度は加齢に伴い増加するため高齢化が進む今後,その重要性がさらに増すと考えられる。 胸部CT所見等より嚥下性肺炎患者の多くは,唾液等の液体を臥位で誤嚥し発症すると推測され,誤嚥患者の喀痰中にはロ腔内常在菌を含めた複数の病原体を認める。 このため治療では全体をカバーする広域抗菌剤を選択しがちであるが,ABPC/SBTのような比較的狭域の抗菌薬が有効なことが多い1)2)。 また嚥下性肺炎の起点は感染でなく誤嚥であり,誤嚥の治療がより根本的で重要と考えられる。 嚥下性肺炎を治療するためには,誤嚥の要因が何か,患者の状態を総合的に評価し対応することが大切である。これらの内容を5つのパールにまとめ紹介した。
  • 佐藤 浩子, 佐藤 真人, 小和瀬 佳子, 金子 尚子, 森田 元穂, 大山 良雄, 田村 遵一
    2014 年 7 巻 2 号 p. 25-30
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    総合診療の現場では,複数の愁訴を併せ持つ女性症例を多く経験する。 多剤多義である漢方はそのような症例に良い適応となりうる。 本稿では,総合診療領域で女性に頻用され,使用目標が明確で分かりやすく,効果を実感しやすい漢方薬を,症例を交えながら使用法を概説する。 1.「更年期障害,多愁訴の女性に加味逍遥散」月経前〜月経中,もしくは更年期周辺など性周期に関連した症状で,かつ精神症状を伴う病態に適応となる。 特に更年期障害においては,内分泌変動だけでなく,ライフサイクルの節目としての社会的・個人的要因が複雑に絡み合い,不安やイライラなどの精神症状を生じやすい。 加味逍遥散は精神症状とのぼせを有する症例に効果が高い。 2.「右下腹痛+機能性便秘に大黄牡丹皮湯」下腹痛で受診する患者のうち,右側優位の痛み,かつ頑固な便秘のある患者に適応となる。特に消化器疾患・婦人科疾患などの器質的病態が除外され,治療方針に難渋する下腹痛の症例に対し次の一手として提案でき,かつ効果も期待できる。 3.「四肢末梢の冷えに当帰四逆加呉茱萸生姜湯」『温める』治療は漢方の独壇場である。冷えの中でも,四肢末梢の冷えに対して用いられる。凍瘡では第一選択の漢方処方である。 漢方においては,女性は月経の存在により,気血水バランスの不均衡を生み出しやすく,そのため複数の症状を生じやすいと言われる。複合薬物である漢方は,多愁訴を有する女性にとって,心身の健康を助けるひとつの手段となり得るもので,総合診療の現場においても有用である。
  • 山川 淳一, 守屋 純二, 小林 淳二
    2014 年 7 巻 2 号 p. 31-36
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    痛みは,その機序や性質より,神経障害性疼痛,侵害受容性疼痛,心因性疼痛の3種類に分類される。 これらは,しばしば重複して存在している。漢方では,痛みの原因を ①不通則痛=寒冷や湿気で,気と血の流れが悪くなり痛む。 ②不栄則痛=体のエネルギー不足により機能低下し疼痛が起こると考える。 今回,紹介する 1 例目は神経障害性疼痛の難治例であり,①不通則痛の症例。 2 例目はストレスが誘因で難治性慢性疼痛を伴った不定愁訴に至った症例である。疼痛分類では心因性疼痛で,漢方では②不栄則痛の症例。 1 例目:神経障害性疼痛は,病態や発症機序が複雑で多彩なため,NSAIDsなどの鎮痛薬の効果がほとんど期待できない難治性の痛みとされる。症状が現れると,日常生活に大きな支障をきたすことが多く,異常知覚も伴うことが多い。 この痛み・異常知覚に対し,牛車腎気丸の有効例が多く報告されている。糖尿病性末梢神経障害の他に,抗がん剤の副作用として生じる末梢神経障害にも日常的に使われるようになってきた。今回の症例は結節性動脈周囲炎による難治性疼痛である。 2 例目:自己の訴えが軽減しなければ身体因子よりも精神因子の関与が大きくなり不安と不満が著しく増強する。この心因性疼痛は,精神科・心療内科に紹介される症例が数多く見受けられるが,なかなか改善しない例もある。薬剤に対する拒否反応の強いケースや薬剤無効例では漢方薬を用いるのも選択肢の一つとして有用であると考えられる。その例として,三叉神経痛による不定愁訴(慢性疼痛)の症例を紹介する。 最後に漢方医学の診断『証』について解説し,疾患ではなく病人を診る漢方医学の考え方を習得することは病院総合診療を実践するうえで非常に有益なものと考える。
  • 中西 員茂, 佐仲 雅樹
    2014 年 7 巻 2 号 p. 37-41
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は 50 代男性。主訴は咽頭痛。診察時,こもった声は聞かれず,流涎・発熱も認めなかった。 咽頭に経度発赤を認めるのみで,呼吸音の異常もなかった。しかし,食事は痛くて食べられず,水も気合を入れないと飲めないとの訴えあり,前頸部(舌骨・甲状軟骨間)に圧痛を認め,急性喉頭蓋炎疑いにて耳鼻科での診察を依頼した。同疾患と診断され,耳鼻科即日入院となった。 点滴加療するも,夕方には増悪し,緊急気管切開術を行った。その後,経過は良好で後遺症もなく元気に退院した。 次の症例は 70 代男性,主訴は臍部痛・腰痛。受信時,患者は臍部とその下を押さえていた。 腹部診察では異常なく,腹部超音波検査でも異常はなかった。しかし痛みの訴えは強く,その後の精査にて心筋梗塞と判明した。即日,循環器内科に入院加療するも,第 4 病日に心破裂で亡くなられた。 我々は初期診療を行っている限り,地雷症例 (killer disease)に必ず遭遇する。 患者の訴え,特に痛みの訴えが強いときは,診察所見がそれを説明できない場合もまずは " Thinking the worst scenario " として地雷症例を考え,除外することが大事である。 総合内科外来には,身体医学的に説明が付きにくい症状(medically unexplained symptoms : MUS)を訴える患者が多い。しかし,痛みの訴えが強い場合は,診察所見に合致しなくとも,その訴えを疑うことから始めてはならない。" まずは素直にその症状(疼痛)を受け入れること" が大事である。
症例報告
  • 熊手 絵璃, 岸原 康浩, 竹嶋 功人, 古庄 憲浩, 林 純
    2014 年 7 巻 2 号 p. 42-46
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は 74 歳女性。X- 1 年 10 月より右頸部から上腕痛,同年 12 月に発熱と左頸部痛が出現し,疼痛は右腰部,右大腿部へと移動した。 頸椎および腰椎の化膿性椎間板炎を疑われ,抗菌薬加療が行われたが改善せず,X 年 4 月に当科紹介入院となった。右頸部・右臀部の疼痛・こわばり,CRP上昇,赤沈亢進が認められ,画像検査で仙腸関節炎と診断された。リウマチ性多発筋痛症(PMR : polymyalgia rheumatica)の診断基準を満たし,PMRとしてprednisolone (PSL)15 mg/dayが開始され,疼痛は消失し,CRP値も正常化した。 仙腸関節炎を合併したPMRの報告は稀で,本症例は少量のPSLによく反応した。
短報
  • 長谷川 修, 奈良 典子, 太組 由貴, 岩田 史歩子, 林田 仁至
    2014 年 7 巻 2 号 p. 47-49
    発行日: 2014/12/31
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    大学病院総合診療科外来には,病気は軽いのに病人になっている人が多数訪れる。 当総合診療科の 1 カ月間の初診患者 106 名を前方視的に検討し,基礎疾患の重症度と日常生活活動に明らかに乖離がある 19 名を抽出した。 彼らが持つ不安のきっかけは,①近親者や親しい人が類似の症状を持って死亡した経験,②インターネット情報などに由来する患者自身の偏った思い込み,③仲間の一言,④医療者の一言,であった。 出現した反応は,①生活レベルを低下させる,②不安や欝状態になる,③医療者を恫喝する,④ doctor shoppingを繰り返す,であった。 検査は不安を紛らわす道具とはならない。「病気はない」という説明では患者は納得しない。 ウイルス感染症などで,適切に予後を伝えることを怠ると,長引く病気が不安を助長する。 大学病院総合診療科には,情報を正しく理解していないための,反応性のメンタル問題が上乗せされた病人が多く訪れる。
症例短報
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