日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
16 巻, 3 号
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原著
  • 岡田 和弘, 松原 拓郎, 中尾 裕貴, 近澤 博夫, 吉田 政之, 水冨 一秋
    2020 年 16 巻 3 号 p. 126-130
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    加賀市医療センターは地域の救急医療を担う公立の総合病院である。常勤精神科医不在であるが精神疾患を有する患者を断わらない。自殺企図患者については,身体疾患の初期診療を行うと同時に,自殺未遂者チェックリストを用い自殺のリスクを包括的に評価している。多数のチェック項目がある中で「自殺をしないと約束できるか否か」(以下,no-suicide contract)を精神科救急対応医療機関への即座の転院のトリアージ基準とされた症例を検討した。「nosuicide contract」を精神科三次救急へのトリアージ基準と考えることで,地域病院における非専門医でも自殺企図患者を断ることなく初期対応を行える可能性がある。
症例報告
  • 香西 光
    2020 年 16 巻 3 号 p. 131-135
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 60 歳代の男性で,2 型糖尿病の経過中,肺炎を発症し入院となった。Enterococcus faecalisが喀痰から培養され細菌性肺炎の診断のもと,抗菌薬投与が開始されたが,効果不十分のため種々の抗菌薬が投与された。また,経過中喀痰からカンジダも培養され,抗真菌薬が併用投与された。自覚症状は改善するものの炎症反応高値は持続し,胸部 X 線検査,胸部CT検査では浸潤性肺炎像の改善がみられないため,気管支鏡下での肺生検が行われた。病理所見から細菌性肺炎を伴った特発性器質化肺炎と診断された。その後,糖尿病のコントロールをしながらステロイド投与が行われ病状は順調に改善した。治療困難な細菌性肺炎に遭遇した時,特発性器質化肺炎の存在も考慮すべきと考えられた。
  • 金指 桜子, 小和瀬 桂子, 奥 裕子, 廣木 忠直, 山田 真紀子, 堀口 昇男, 佐藤 浩子, 佐藤 真人, 金子 尚子, 大山 良雄, ...
    2020 年 16 巻 3 号 p. 141-146
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    下腹部・鼡径部痛を主訴とし,腹痛に対し一般的に行われる尿・血液検査,画像診断検査では異常を認めず,病歴の聴取と身体所見より当科紹介にて腸骨鼡径神経痛と診断した 3 例を経験した。症例 1 は 70 代男性,8 年前より毎年冬季に持続的な右下腹部痛を生じるようになり,複数の医療機関を受診したが原因は特定されず経過していた。症例 2 は 60 代男性,特に誘引なく左鼡径部の激痛を生じ歩行困難となり,当初は他院にて尿管結石症が疑われた。症例3は 80 代男性,9 か月前より持続的な右鼡径部の激痛を生じ,他院にて右浅大腿動脈閉塞症を指摘され加療されたが右鼡径部痛は改善せず経過していた。3 例とも症状の原因となるような画像上の異常は認めず,身体所見より腸骨鼡径神経痛と診断し加療により症状の改善を認められた。当科にて経験した腸骨鼡径神経痛 3 例を報告し,文献的考察を行う。
  • 甲斐沼 孟, 土井 喜宣, 林 大輝, 高島 朗人, 北西 光介, 三井 秀紀
    2020 年 16 巻 3 号 p. 147-153
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    背景:肝膿瘍は播種性血管内凝固症候群(以下,DIC)を合併し重症化しやすく集学的治療が重要となる。 目的:重症肝膿瘍と診断されトロンボモデュリンアルファ(thrombomodulin α:TMα)投与等集学的治療を施行し良好な臨床経過を得た一例を報告する。 症例:87 歳男性。20 ××年 12 月に食思不振を認め当院救急受診され,精査で肝膿瘍と診断後同日緊急入院。来院時血液検査所見で肝胆道系酵素上昇あり,炎症マーカー高値を認めた。造影CT検査所見で肝右葉に隔壁構造を有する最大径 6 cmの多発性嚢胞状病変を認めた。同日緊急入院後に絶飲食,補液,抗生剤投与するも入院 3 日目に敗血症性ショックを発症し緊急膿瘍ドレナージ術を施行した。同日,急性期DICスコアは 5 点を満た し,TMα 17480 単位/日を投与開始した。入院 10 日目にDICを離脱後,著明な炎症再燃認めず,入院 59 日目に軽快退院された。 考察:的確な膿瘍ドレナージ術が功を奏し,適切に感染性DICを診断しTMα投与等集学的治療を施行したことが良好な臨床転帰に寄与したと思われた。 結語:DIC合併肝膿瘍例におけるTMαの使用経験を報告した。
  • 清水 雅俊, 三輪 陽一, 清水 一也
    2020 年 16 巻 3 号 p. 154-159
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 72 歳男性,狭心症で右冠動脈にステント留置後。食道癌術後に多臓器転移をきたし,1 年前より化学放射線療法がなされていた。呼吸困難増悪のため入院していたが,血圧低下と心電図で下壁誘導のST上昇をきたした。胸部CTで心嚢内に多量の気体と心臓の圧排が認められ,心エコー図では左室壁運動は良好で,多数の高輝度小粒状エコーを含む心嚢液が認められた。心膜膿気腫と診断され抗菌薬で加療されたが,心嚢内の気体が再増大し,発症 15 日後に永眠された。病理解剖所見では,横隔膜直下の肝転移巣が壊死して隣接する再建後の十二指腸との間に癒着および穿孔し,これがさらに横隔膜から心嚢腔への瘻孔を形成していた。心膜膿気腫は,胸部CTなどで診断は容易であるが,発症時のST上昇は急性心筋伷塞との鑑別が重要と考えられた。
  • 山田 誠人, 渋谷 俊介, 三浦 琢磨, 楠田 和幸, 伊藤 靖, 玉手 義久, 橋本 宗敬, 佐藤 博子, 谷村 武宏, 宇田川 輝久, ...
    2020 年 16 巻 3 号 p. 160-165
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 68 歳の女性。下腹部痛を訴え近医を受診し,急性腹症として当院紹介となった。腹部造影CT検査で右下腹部に類円形の嚢胞性病変を認め,内部に不均一な高吸収域を認めた。周囲臓器への浸潤は認めなかったが,腹腔内全体の腹水貯留を認めた。以上より,右卵巣腫瘍破裂に伴う腹膜炎と臨床診断し,緊急手術を施行した。右卵巣腫瘍の穿孔部からは脂肪と毛髪を混じた黄褐色の液体成分が漏出していた。右卵管と右卵巣動静脈を結紮切離し,右卵巣を摘出した。病理組織診断では,重層扁平上皮や多列線毛円柱上皮に裏打ちされた嚢胞状病変で,壁には脂腺,甲状腺組織を認めた。内腔には角化物と毛髪が充満していた。卵巣成熟嚢胞性奇形腫の診断であった。術後経過は良好で,術後第 8 病日に軽快退院した。
  • 森内 俊行, 原田 和歌子
    2020 年 16 巻 3 号 p. 166-171
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    症例は 82 歳,女性。某年 12 月に尿路感染症で当科に入院した。退院翌年 1 月 X - 10 日より再び 38 ℃台の間欠熱を認め,X 日当科再入院となる。右CVA叩打痛陽性,両下腿浮腫あり,WBC 3610/μL,CRP 8.2 mg/dl,LDH 625 IU/l,pH7.46,乳酸 66.6 mg/dl,造影CTでは明らかな熱源はなく,混濁尿を認め,腎盂腎炎と心不全に伴う循環不全の合併を疑った。抗菌薬及び利尿薬等による加療を開始し,炎症所見の改善が得られ,循環動態も維持された。一方,LDHおよび乳酸値は徐々に上昇したため,骨髄穿刺を施行,血管内リンパ腫(IVL)が強く疑われた。IVLに対する加療開始後速やかに乳酸値・LDHは減少,浮腫も消失した。IVLの臨床像は非特異的な臨床症状が多く,日常で遭遇する虚弱高齢者の感染症と変わりがない。繰り返す感染症,高乳酸血症からIVLの存在を想起することはプライマリケア医にとって有用である。
短報
総説
  • 川邊 和美, 川邊 哲也, 南方 良章
    2020 年 16 巻 3 号 p. 179-183
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2024/01/12
    ジャーナル フリー
    慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)患者の身体活動性は,死亡の最大の危険因子であり,その向上・維持は重要な管理目標である。近年加速度計による客観的な評価法が用いられるようになり,COPD患者の身体活動時間は健常者に比べ有意に短縮していることが確認されている。身体活動性は,呼吸機能,呼吸困難感,運動耐容能と相関し,脊柱起立筋断面積,老化抑制作用のマイオカイン,筋収縮を反映するマイオカインなどとも相関する。マウスモデルで,運動自体が抗酸化作用を介して気腫化を抑制する結果も報告されている。気管支拡張薬は身体活動時間を延長させ,気管支拡張薬 2 種配合剤ではさらに延長させる可能性がある。現時点では,薬剤,呼吸リハビリテーション,モチベーション向上などを組み合わせた複合的介入が重要と考えられる。今後,さらに有効な介入法の開発が期待される。
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