日本病院総合診療医学会雑誌
Online ISSN : 2758-7878
Print ISSN : 2185-8136
6 巻, 2 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
総説
  • 笠原 彰紀
    2014 年 6 巻 2 号 p. 1-5
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    1989 年にC型肝炎ウイルス(HCV)が発見されて以来,多くの臨床研究が行われHCV関連肝疾患の病態,慢性化の機序が明らかにされました。 また,1992 年にC型肝炎治療にIFNが認められ,その治療効果,治療予測因子が解明され,新しい治療法が開発されてきました。厚生労働省の「人口動態統計」においても,近年肝細胞癌は増加から減少に転じたことが示されています(図5 )。HBV関連肝細胞癌の発生数には増減がなく,NonB, NonC肝細胞癌は増加傾向,HCV関連肝細胞癌が減少してきていると推察されます。 IFN治療による発癌抑止,肝臓病死の抑制がHCV関連肝細胞癌の減少に寄与していると考えられました。
  • 濱﨑 俊光
    2014 年 6 巻 2 号 p. 6-10
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    臨床試験の基本目的は,将来においてその治療をうけることになる(患者)集団に対して適用できる,その治療の情報を得ることにある。 具体的には,臨床試験を通して,治療のどのような効果が認められるか,治療の平均的効果はどの程度の大きさか,治療の効果は試験対象となった患者についてどの程度まで一様か,部分集団における治療の効果はどの程度の大きさか,得られた治療の効果は規定された枠外の対象に対しても同様に適用できるかといった問いに対して適切な回答を用意できるように,情報を収集せねばならない。 このとき,次にあげる事項を試験の計画時に十分に吟味せねばならない:試験の目的と仮説の規定,対象患者の規定と選択・除外規準の設定,投与方法・投与時期,観察スケジュール,対照治療の設定と群構成,有効性と安全性の評価項目,確率化操作の方法,盲検化の有無,検討仮説の型(優越性・非劣性・同等性など),試験規模の設定と設定の根拠,統計解析,計画書からの逸脱とそのとり扱い,試験進捗のモニタリング,施設数と施設内での組み入れ症例数,試験の登録公開と試験成績の公表,症例報告書のデザインとデータマネジメント,倫理的配慮,利益相反。 これらのいずれも臨床試験の計画と実施において事前に念入りに吟味すべき要素であるが,これらのすべてを議論することは容易でない。そこで,本小文では臨床試験の設計において基本的で不可欠な二三の話題をとりあげ,それらを概説する。
  • 木村 正
    2014 年 6 巻 2 号 p. 11-16
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
総合診療医として忘れられないこの一例
  • 石塚 達夫, 岡田 英之, 森 一郎
    2014 年 6 巻 2 号 p. 17-23
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は 52 歳女性。関節リウマチ(RA)発症後 3 年で糖尿病を発症した。 HbA1c 8.8 %,随時血糖 300 mg/dLを認め,インスリンアスパルトを朝 36 単位,昼 37 単位,タ 16 単位投与したが,食後血糖 400 mg/dL,空腹時血糖 40 mg/dLであり,低血糖を頻発する不安定型糖尿で紹介入院となった。身長 151 cm,体重 31 kg,BMI 13.6 kg/m2,体脂肪率 3 %,腎症,末梢神経障害,網膜症は認めなかった。入院時CRP 4.94 mg/dL,HbA1c 7.6 %,抗GAD抗体陰性だった。 入院後,インスリン抗体は検出されず,肝硬変症や慢性膵炎は認めなかった。 体脂肪率が著明に低値で,インスリン抵抗性もあるため,脂肪萎縮性糖尿病を疑ったが,レプチンやアディポネクチンは基準値内であった。一方,インスリン投与前の早朝空腹時血中IRI 617.7 uU/mL,CPR 7.37 ng/mL,空夏時血糖 40 mg/dLと高度のインスリン抵抗性が示されたため,抗インスリン受容体抗体(RAA法)を測定したところ陽性であった。 RAに合併したインスリン受容体異常症B型と診断した。関節リウマチの治療にTNF阻害薬エタネルセプト 25 mg/週の投与を開始し,CRPは 0.03 mg/dLとRA疾患活動性も低下した。 血糖コントロールの改善は,TNF阻害薬によるRA活動性の抑制がインスリン抵抗性の改善に関与したと考えられた。
  • 瓜田 純久, 田中 英樹, 佐藤 高広, 福井 悠人, 河越 尚幸, 竹本 育聖, 佐々木 陽典, 前田 正, 石井 孝政, 菅澤 康幸, ...
    2014 年 6 巻 2 号 p. 24-29
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    総合診療科では診断が確定しなくても,解決の糸口を見つけるための手段を模索しなければならない。 症例は 45 歳女性。心療内科に身体表現性障害で通院中,自宅で強直性痙攣がみられ,救急車にて来院。 意識障害と連動しない強直性痙攣が間歇的にみられ,ジアゼバム静注したが,改善しなかった。 頭部MRI,血液生化学検査,髄液検査では異常なかったが,脳波では高振幅のδ波が混入する高電位徐波の群発が頻回に認められた。 しかし,上肢を中心に小刻みな振戦を認めるが,錐体路症状及び錐体外路症状は無く,筋緊張が主体であり,音識下でも強直性間代性発作がみられることから,てんかんとして合致する所見は少なかった。 確定診断に至らないため,責任臓器が明らかであるにもかかわらず,担当診療科が診療に消極的であったため,総合診療科で治療を行った。 ジアゼバム静注が無効であり,抑制系ニューロンを活性化する治療法ではなく,ニューロンの不要な同期を避けるための治療法を考えた。多数の神経細胞に同時にシグナルが到達して,同期が起こりやすい状況を回避するため,治療によってシグナル伝達の変化が期待できる可能性があるアセチルコリン(ACh),ノルアドレナリン(N-Adr),セロトニン( 5-HT)について検討した。経ロ摂取できないことから,まず胃管から投与しやすい口腔内崩壊錠のあるドネベジルにて,ACh工ステラーゼを阻害し,AChニューロンの伝達を促してみたところ,症状は日毎に改善し,投与 7 日目に通常の会話可能となった。本例は複雑系科学の理論を応用することにより治療に至った症例であり,臨床推論における基礎医学・自然科学的思考回路の重要性を改めて痛感した。 現在も総合診療科に通院中である。
  • 佐藤 正通
    2014 年 6 巻 2 号 p. 30-34
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は 46 歳,男性。糖尿病,バセドウ病の診断がなされていたが両疾患共にコントロール不良であった。 突然の嘔吐,発熱,水様便出現。初診時,呼吸苦の訴えあり,頻呼吸,頻拍を呈していた。 来院後より血圧低下に伴い意識障害進行あり血液ガス分析より著しい代謝性アシドーシス,高血糖認められICU管理となった。入院時ノロウイルス抗原迅速検査陽性,尿ケトン体陽性であり,糖尿病性ケトアシドーシスに加え,PaCO2 42 mmHgであることから,意識障害による呼吸性酸塩基平衡代償不全の状態と判断。人工呼吸器装着後,補液速度増量しインスリン持続投与開始。 後 2 日の経過中に腎機能障害,血小板減少及び炎症反応上昇等進行を抑制し得ず,高度消化管粘膜障害に基づく二次的細菌感染による播種性血管内凝固症候群(DIC)と診断。 抗生剤投与下ポリミキシン吸着及び抗凝固療法開始。甲状腺機能亢進状態に対し血圧回復後よりβブロッカー持続投与,ヨード投与を併用した。 第 3 病日には酸素分圧の低下,胸部レ線上両側肺野に中心性びまん性の浸潤影を検出。甲状腺クリーゼによる急性心不全,肺水腫と診断し持続的血透析(CHDF)を併用した。 以降全身状態改善,解熱し利尿もみられ,人工呼吸器離脱。血糖コントロールを行い退院に至った。
  • 藤本 眞一
    2014 年 6 巻 2 号 p. 35-36
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
  • 三島 信彦
    2014 年 6 巻 2 号 p. 37-39
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    発熱,錯乱,治療抵抗性ショック症候群を呈した 36 歳女性の救急診療を通じ,Sheehan症候群の診断に至る担当医の思考過程と情報収集過程とを記述することによって,診断における病歴聴取の重要性が示された。
原著
  • 石塚 晃介, 森本 美登里, 渡辺 雄幸, 丹羽 義和, 奈良 典子, 長谷川 修
    2014 年 6 巻 2 号 p. 40-44
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    大学病院総合診療科および地域診療所を受診した患者を対象に,受診理由とその背景となる病態の診断名を調査した。 主症状の臓器カテゴリー別の最多は大学総診科では「全体,部位不特定の症状」,渡辺医院では「呼吸器」,にわクリニックでは「神経」であった。 主症状の多様性は,2 診療所より大学総診科が勝った。多い診断名は,大学総診科では身体表現性障害や気分変調症,診療所では高血圧症等の慢性疾患や急性上気道炎であった。 患者が受診前に持っていた「総合診療科」に関する認識では,「診断不明の患者を診てくれる」「人間全体を総合的に診る」が多かった。 大学総診科には,診断不明の患者に対して一人の人間全体を総合的に診るニーズがある一方,地域診療所には,日常の健康問題を気軽に相談でき,信頼される「かかりつけ医」機能が求められる。立場によらず,総合診療医には包括的な対応能力が必要と考えられる。
  • 森本 美登里, 石塚 晃介, 渡辺 雄幸, 丹羽 義和, 奈良 典子, 長谷川 修
    2014 年 6 巻 2 号 p. 45-49
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    大学病院総合診療科 170 名,渡辺医院 210 名,にわクリニック 63 名の受診患者に対し,半構造化面接調査を実施した。 本研究で,大学総診科受診患者が同科に対して持つ他の臓器別専門科とは異なる期待として, ①全身を総合的に診る, ②適切に診断する, ③適切な専門科へ振り分ける, ④診断不明の患者を診察する, ⑤医療面接・身体診察を重視する,が明らかになった。 中でも②と④は,同じ総合診療を担う診療所よりも大学総診科に大きく期待する点と考えられた。 さらに患者の一部は大学病院には⑤が不足していると感じていた。 今後大学総診科としては,全専門領域にわたって広く研鑽を積み,医療面接や身体診察等の基本的臨床技能を充実することで診断能力を高めると同時に,患者のニーズと地域での役割を認識した上で診療に当たる必要性が感じられた。
  • 森本 美登里, 石塚 晃介, 渡辺 雄幸, 丹羽 義和, 奈良 典子, 長谷川 修
    2014 年 6 巻 2 号 p. 50-54
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    渡辺医院 210 名,にわクリニック 63 名,大学総診科 170 名の受診患者に対し,半構造化面接調査を実施した。本研究で,診療所受診患者が持つ期待として, ①すぐに(気軽に,いつでも)受診できる, ②信頼感,安心感, ③(自宅,勤務先から)近い, ④同じ医師が継続して診る, ⑤話しやすさ,相談しやすさ,話を聞く, ⑥待ち時間が短い, ⑦(専門医への)紹介, ⑧優しい・親切などの人柄の良さ, ⑨全身を診る,が明らかになった。 中でも①,③〜⑥は,同じ総合診療を担う大学総診科よりも診療所に大きく期待する点だと考えられた。 さらに診療所間でも患者のニーズが異なる可能性が窺えた。 今後地域の診療所は,臨床能力を高く維持することはもちろん,患者にとって物理的にも心理的にもアクセスが良く,継続して患者と関わることで患者を良く理解すると共に,診療所間での役割分担にも考慮して診療に当たる必要性が感じられた。
症例報告
  • 畑島 梓, 古庄 憲浩, 加藤 禎史, 原田 裕士, 大西 八郎, 小川 栄一, 豊田 一弘, 村田 昌之, 林 純
    2014 年 6 巻 2 号 p. 55-60
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は 81 歳,男性,主訴は発熱と盗汗。X2 年から原因不明の血清肝酵素上昇が認められ,X年 5 月より盗汗を伴った発熱が持続し,X 年 8 月に当科入院となった。 表在リンパ節腫脹は認められなかったが,発熱,汎血球減少,肝脾腫が認められ,脾臓生検より肝脾T細胞性リンパ腫と診断され,末梢血Epstein-Barr virus (EBV)マーカーより慢性活動性EBウイルス感染症の合併が判明した。 入院後 3 日目に突然不穏,意識混濁となり,2 週間後に多臓器不全で死亡した。 肝脾T細胞性リンパ腫は若年例に多く認められるが,本症例は,高齢発症で,慢性活動性EBV感染症を合併し,多臓器不全から急死した。
  • 柴田 裕, 作左部 大, 金 大悟, 矢野 博子, 木川 顕博, 桑原 直行, 齊藤 崇
    2014 年 6 巻 2 号 p. 61-65
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    心窩部痛を主訴に救急外来を受診した 90 歳の女性が,早期胃癌を合併したupside down stomachと診断され,内視鏡的粘膜下層剥離術を施行し,外科的手術療法を行わずに,保存的に経過観察した症例を経験したので報告する。
  • 佐藤 憲仁, 古庄 憲浩, 光本 富士子, 田中 佑樹, 畑島 梓, 小川 栄一, 豊田 一弘, 村田 昌之, 大石 善丈, 小田 義直, ...
    2014 年 6 巻 2 号 p. 66-71
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    症例は 60 歳代,女性。2 カ月前より腹水による腹部膨満感を訴えていた。 発熱や体重減少はみられず,腹水の原因として肝心腎機能に異常は認められなかった。 腹腔穿刺による腹水細胞診はclassIVで,腹部CTにて中等量の腹水貯留のほか,右横隔膜下から大網に一致する部位に不整な軟部陰影があり,PET-CTで腹膜全体に淡いFDGの集積があり,腹膜原発癌が疑われた。 腹水中ヒアルロン酸値の上昇や腹水細胞診から悪性腹膜中皮腫が疑われ,腹腔鏡下観察により緑色調の腹水,腹膜に白色調の無数の結節があり,同部の生検で,特異的染色のcalretinin,EMA (Epithelial membrane antigen))染色およびD 20-40 染色が陽性で,悪性腹膜中皮腫の確定診断を得た。
短報
  • 長谷川 修, 奈良 典子, 太組 由貴, 岩田 史歩孑, 林田 仁至
    2014 年 6 巻 2 号 p. 72-74
    発行日: 2014/06/30
    公開日: 2024/01/24
    ジャーナル フリー
    日本人は畳上に正座する習慣があるため,足背部で腓骨神経の圧迫性障害を生じやすいとの都市伝説がある。正座習慣は,とくに中年以降の女性に多くみられる。 また,腓骨神経伝導検査における複合筋活動電位(compound muscle action potential ; CMAP)の記録は,通常短趾伸筋から行われる。 この都市伝説を検証するために,男性1,251 名・女性 858 名の糖尿病患者で,各神経刺激により測定したCMAP振幅を比較した。 対象の年齢は男性がやや低かったが,神経伝導速度指標や感覚神経活動電位振幅指標からは,男性の神経障害が女性よりやや重いと考えられた。 各CMAP振幅は,正中神経(短母指外転筋)と腓骨神経(短趾伸筋))で女性が有意に低かった。 手の小さい女性で手根管症候群が多いことはよく知られている。 腓骨神経でも女性のCMAPが小さかったことは,女性で局所性腓骨神経障害が起きやすく,これが正座習慣と関係している可能性が示唆された。
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