前報において,筆者は火災跡地に残された樹木の燃焼痕から火災時の風速を推定するための実験式を提案し,現地実験においてこれらの実験式の適用性を検討した。本研究では山口県秋吉台と福岡県平尾台における火入れを利用した現地実験において,前に提案した実験式を用いて詳細な燃焼動態の解析を行った。試験地内に実験杭として皮付きスギ丸太を立て,火入れ終了後,火災時の風速を推定するために,片面燃焼高を測定した。主風の風向・風速を試験地の周辺,数カ所で測定し,さらに,火災動態図作成のために燃焼時の様子をビデオ撮影した。秋吉台試験地の燃焼動態は複雑であり,片面燃焼痕から推定された風向は,一定の方向を示さなかった。しかしながら,主風あるいは実験式から推定された局地風の情報,および,記録されたビデオテープから分析された燃焼の状態を総合することによって燃焼動態を6つのブロックに分けることができた。風速とこれら6ブロックの燃焼速度との関係について検討した結果,燃焼方向と風向が一致している場合は,風速の増大につれて燃焼速度は増加し,燃焼方向に対して逆風の場合は一定の燃焼速度であった。平尾台試験地では,斜面燃上がりの燃焼動態であり,片面燃焼痕から推定された風向は一定であり,主風向とは逆で斜面傾斜方向と一致していた。実験式によって推定された風速と斜面の最大傾斜角との関係を実験杭個々について検討した結果,両者に一定の傾向は認められず,実験杭位置における局所条件の影響ではないかと考えられた。しかしながら,実験杭個々の値の代りに傾斜階で区分し,その範囲の平均風速との関係を調べると,最大傾斜角が増大するにつれて,風速が増加する傾向を示した。
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