現在日本各地に残るヒノキ天然林は,ヒノキが良材として古くから伐採されてきた経緯もあり,伐採,搬出の困難な急傾斜地などに限定されている。本研究ではヒノキ天然林の好適な立地環境を解明するため,植生学的には本来ならブナ林が優占するとされる西大台緩斜面地の約60 haのヒノキ天然林で,ヒノキ優占林36地点とブナ優占林20地点の土壌特性について,特に土層深,土壌硬度など土壌物理性に着目して調べた。その結果,ヒノキ天然林の分布を規定しているのが土層深,土壌硬度などの土壌物理性であることが示された。ヒノキ林,ブナ林が出現する割合は土層深50 cmが閾値となり,50 cm以上ある場合には均衡していたが,50 cm以下の場合,ヒノキ林の出現する割合は84.2%と,ブナ林の出現する割合15.8%を大きく上回った。またヒノキの植被率と2,000 kPaの圧密土壌が出現する深さとの間には関係が見られず,ヒノキは土層深50 cm以下の土壌が薄い立地環境でも成立していた。これはヒノキが根を水平に伸ばすなど圧密層の影響を受けにくい根系を保持しているためと考えられた。一方でヒノキ林の植被率は仮比重が低いほど高くなっていた。ヒノキには土層深が深く,土壌が孔隙に富むなど土壌物理性が良好であることがより望ましい生育環境であること,またそうした立地では分布の拡大をめぐってヒノキとブナの競合が生じている可能性が示された。
人工林の広葉樹林化により植物の多様性がどのように変化したかについて,検証を行うことを目的に以下の研究を行った。暖温帯域の針葉樹人工林が気象害を受けてから広葉樹二次林として自然再生していった林分について,再生0年目から30年目までの植物種数や種構成の長期経年変化について検討した。全体の種数は,気象害を受けた直後の3年間は急増したが,以降は減少し続けた。次に,種構成の経年変化を出現種の生態的特徴から分析するために,出現種を生育環境区分によってタイプ分けし分析した。照葉樹林タイプの種数は,調査期間を通じて増加した。一方,草原タイプなど非森林生の種数は再生初期に増加し,その後減少した。この結果,人工林跡から成立した広葉樹二次林は,攪乱後再生初期では非森林生の種の一時的な増加によって全体の種数が多くなるが,その後は減少していくことが示された。人工林跡から成立した広葉樹二次林の多様性が,攪乱によって増加した非森林生の種に大きく影響されることは,多様性保全を目的とした森林管理で考慮する必要があると考えられた。