日本輸血細胞治療学会誌
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55 巻, 1 号
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原著
  • 紀野 修一, 友田 豊, 伊藤 喜久, 唐崎 秀則, 葛西 眞一
    2009 年 55 巻 1 号 p. 21-28
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    【背景】当院では2005年7月以降,輸血患者全例実施を前提に輸血前後の感染症検査を実施している.その方法と成績について報告する.
    【方法】輸血予定患者には,輸血前検査セット(HBs抗原,HBs抗体,HBc抗体,HCV抗体,HCVコア抗原,HIV抗体)を用いて検査を行った.輸血前検体として交差試験の残血清を凍結保存した.最終輸血から2カ月以上経過した患者を抽出し,輸血後検査のおすすめをダイレクトメール(DM)で郵送し,検査受検を促した.2006年1月∼9月にDMを郵送した患者に輸血後検査についてアンケート調査を行った.
    【結果】2005年下半期,2006年上半期·下半期,2007年上半期ごとに各指標を集計した.輸血前検査セット利用率は徐々に増加した.当院での輸血後検査実施率は35∼40%であった.輸血後検査のアンケートを344名に送付し,192名(56.6%)の回答を得た.死亡例を除く179名中144名(80.4%)が輸血後検査を受検していた.当院での受検者は99名,他医は45名であった.
    【結論】当院での輸血後検査受検率はDM送付者の約40%であった.アンケート調査の結果を加味すると輸血後患者の50∼80%程度は輸血後検査を受けていると推定される.輸血患者の安全確保のためには輸血後検査が必須である.輸血後の感染症マーカー陽性例の原因を明らかにするためには,輸血前に通知に記載されているマーカーが検査されているか,輸血前検体が保存されている必要がある.
  • 藤谷 克己, 山本 定光, 中島 一格, 佐竹 正博, 金光 公浩, 山本 哲, 神谷 忠, 柴田 弘俊, 神前 昌敏, 土岐 博信, 佐藤 ...
    2009 年 55 巻 1 号 p. 29-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    【目的】今後懸念される献血量の減少や血液製剤確保の観点から,現行の省令で定める採血基準で行われている若年者(16歳,17歳)の200ml全血採血について見直しを行う必要性がある.本研究では17歳男性(検討群)に400ml全血採血を行い,同時に現在の基準で行われている18歳及び19歳男性(対照群)にも400ml全血採血を行い,両群の比較検討をした上で,17歳男性の400ml献血の安全性について検討をした.
    【方法】採血は全国7地域9施設で行われた.各血液センターより集計された17歳男性ボランティアは322名,18歳及び19歳男性ボランティアは363名であった.採血前には問診を行い,採血時に観察行いVVR等の副作用の有無を調べ,採血後にその後の体調の不良などを質問票で調査した.また採決前と採血後の血液学的生理検査データの変化を3カ月後の追跡調査で行った.400ml全血献血の安全性と年齢の関係では,副作用の発生と質問票の結果を基に,それぞれの群でのクロス表を作成し,Fisherの正確検定を行った.(P<0.05)
    【結果】採血時の副作用発生状況は17歳男性の場合では6例(1.81%)で,5例はVVR(血管迷走神経反射)であり,1例は皮下出血であった.18歳及び19歳男性の場合は,VVRが8例(2.22%)見られた.また問診票による追跡調査の結果では,17歳男性では56例(17.70%),18歳及び19歳男性では35例(10.00%)に,吐き気やだるさ等の何らかの体調不良を訴えると言った結果が見られた.さらに血液学的生理検査の結果では,採血の前後で両群間に大きな差は見られなかった.
    【結語】献血による採血に伴うVVRの発生に関して,17歳男性群と18歳及び19歳男性群との間では,副作用の発生状況に何ら差は見られなかった.また追跡調査の結果では血液学的生理データの回復も,両群においてほぼ全快していることがわかった.よって本研究では,将来の輸血用生物由来血液製剤の安定供給を確保するために,現行の採血基準を見直し,17歳男性に全血400ml採血を行うことは,安全であり医学的にも問題ないことがわかった.
症例
  • 白鳥 聡一, 近藤 健, 若狭 健太郎, 井端 淳, 庄野 雄介, 高畑 むつみ, 重松 明男, 東梅 友美, 加藤 菜穂子, 太田 秀一, ...
    2009 年 55 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    症例は27歳男性.急性骨髄性白血病(M2)に対し寛解導入療法にてCRが得られ,地固め療法として大量シタラビン(AraC)療法を施行した後,重症メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症を発症した.抗生剤,顆粒球コロニー刺激因子製剤,静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)を併用するも,肺炎に伴う呼吸不全で人工呼吸管理を要した.その後再発し,化学療法にてCRが得られた後,再度大量AraC療法を施行した.骨髄抑制時に再び重症MRSA感染症を発症したが,アフェレシス法にて同胞から採取した顆粒球の輸注を併用し,白血球の増加前に感染症の改善が得られた.血液疾患に併発した重症細菌感染症に対し抗生剤やIVIGが頻用されているが,骨髄抑制時には好中球等との相互作用による効果が十分に発揮されない可能性がある.本症例での2回目のMRSA感染症時には,抗生剤,IVIGに加えて顆粒球輸血(GTX)を併用した結果,初回と比較して重症化を軽減することができ,その有用性が示唆された.
報告
  • 佐藤 裕二, 丹羽 結子, 高濱 秀弘, 浅妻 直樹, 村田 祐二郎, 洲之内 廣紀
    2009 年 55 巻 1 号 p. 43-47
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    2000年1月∼2006年12月の輸血に関するインシデントを調査·分析した.様式は,事故内容,血液製剤使用量とインシデント発生件数,発生場所と医療関係者に関する情報,患者にかかわる情報,インシデントの原因とした.
    インシデント総数は101件であった.場所では病棟,検査室,手術室,ICUの順であった.製剤別では赤血球濃厚液が多く,以下自己血,新鮮凍結血漿,アルブミン製剤,血小板濃厚液の順であり,自己血が使用本数と比較して多かった.インシデントに関し当該患者が存在する場合は90件で,年齢では80歳台が多く,70∼99歳では70.0%を占め,これは有意に発生頻度が高かった.患者状態ではせん妄,痴呆などの障害は30.0%を占めた.発見者,当事者はともに看護師が多かった.内容は,輸血実施に関するもの56件,血液製剤の取り扱い過誤24件,血液製剤の保管管理に関するもの11件,輸血検査に関するもの3件,その他7件で,その原因は確認ミスが48.5%であった.当院のインシデントは,輸血実施に関すること,70歳以上の高齢者に多いことの他に,自己血に多いのが特徴で自己血の適切な保管管理が重要と考えられた.
  • 吉場 史朗, 加藤 俊一, 大谷 慎一, 小原 邦義, 前田 清子, 南 睦彦, 寺内 純一, 渡会 義弘, 金森 平和, 稲葉 頌一, 絹 ...
    2009 年 55 巻 1 号 p. 48-57
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    目的: 人間が一生の間にどの程度,輸血を受けるのかを知ることは,献血の際に,ボランティア·ドナーに説明するための必要なデータの一つである.
    方法: 輸血回数を求めるに当たって,1.年齢別·性別人口,2.供給された献血本数,3.輸血を受けた患者の性別と年齢,を2つの県で集めた.第一は2002年の福岡県で,もう一つは2005年の神奈川県であった.各年齢の輸血回数の計算は,[Page=nage/Nage×T/t]の式で求めた.{Page:nage:各年齢の輸血患者実数,各年齢(Nage)ごとの輸血回数,T: 一年間に供給された血液本数,t: 病院で輸注された血液本数}
    結果: 1)福岡県の2002年の全人口は,5,034,311名であった(男性2,391,829; 女性2,642,482).地域の赤十字血液センターは福岡県で輸血されるすべての血液をカバーしていた.2002年の血液供給本数は226,533本であった.一つの大学病院で輸血された患者数は,1,190名(男性646,女性544)であった.これらの患者に使用された血液は13,298本(男性7,210,女性6,088)であった.2)神奈川県の2005年の人口は,8,748,731名であった(男性4,420,831; 女性4,327,900).地域の赤十字血液センターは福岡県と同様,県内使用血液のすべてをカバーしていた.2005年の供給本数は297,592本であった.5つの大学病院と1つのがん専門病院で輸血を受けた患者の総数は3,744名(男性1,673,女性2,071)であった.これらの患者に使用された血液は57,405本(男性31,760,女性25,645)であった.男性の寿命を79歳とすれば,福岡県で0.420回,神奈川県では0.297回輸血を受けていた.女性の平均寿命を87歳とすれば,福岡県では0.344回,神奈川県では0.275回輸血を受けていた.
    結論: 我々のデータから,日本人は一生の間に男性は1/3,女性は1/4が輸血を受けると考えられた.さらに,輸血の可能性は80歳以上で男性,女性ともに急増していた.
  • 面川 進, 藤井 康彦, 高松 純樹
    2009 年 55 巻 1 号 p. 58-62
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    採血時の副作用として,血管迷走神経反応(VVR)などが問題とされる.献血時の発生頻度などの報告はあるが,自己血採血時の副作用の報告や多施設の集計データは少ない.全国の国公私立大学病院79施設を対象にアンケートにより,自己血採血担当者の職種,採血時VVR対応マニュアルの有無,輸血部での自己血採血記録の管理,採血時副作用の種類,VVRの程度と件数,VVR発症年齢などを調査した.自己血採血担当者は輸血部医師22施設,診療科医師27施設,輸血部+診療科医師13施設と多くは医師が担当しているが,輸血部看護師のみの担当も10施設であった.採血時VVR対応マニュアルは20%の施設では無く,自己血採血記録も13%の施設では輸血部で管理されておらず,診療科任せの状況であった.VVRは209例発症し,I度が196例,II度が13例でIII度はなかった.発症年齢は60歳代が46例と最も多かったが,採血患者数及び採血件数当りのVVR発症率は10歳代で最も高く,それぞれ4.0%及び1.7%で,次いで20歳代や30歳代で発症率が高かった.国公私立大学病院で輸血部はあるが,採血担当者が診療科医師などのことも多く,マニュアルの整備,採血記録の保管などに関しても必ずしも貯血式自己血採血の中央化がなされていなかった.自己血採血時のVVRなどの副作用に対応するためには,より輸血部が主体となって採血,患者管理に努めて行かなければならないと考えられた.
  • 竹下 明裕, 浅井 隆善, 村上 勝, 藤原 晴美, 石塚 太三江, 中井 さやか, 山田 千亜希, 鈴村 妙子, 内山 幸則, 前川 真人 ...
    2009 年 55 巻 1 号 p. 63-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/06/30
    ジャーナル フリー
    地方病院の輸血部門においては,安全性や経済性を考慮した積極的な取り組みは重要な課題である.本研究では大量輸血への対応体制を構築し,術者,輸血部門そして血液センター(BC)との連絡を緊密にし,輸血製剤の有効利用を目指すとともに術者の安心感を得ようとした.BC側には通常の輸血用血液の時間的,量的な情報以外に緊急性と追加発注の可能性を伝えた.術者には各血液製剤がどのくらいの時間で術者の手元に届くかを明確にした.対象は赤血球で約10単位以上の大量輸血が必要とされる手術例99例で,心臓血管手術が94%を占めた.血液の追加発注は30%に認められ,供給上の問題点を認めなかった.術者の理解とともに,大量輸血対応は順調に増加し,82%の外科医の安心感を向上させた.また輸血の返納血は有意に減少し,製剤単位数から算出された全体廃棄率は1.6%から0.4%にまで低下した.病院内の輸血部門の重要性を再確認し,地方の輸血供給にも配慮した視点に立った体制を構築していく必要性がある.
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