日本輸血細胞治療学会誌
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56 巻, 4 号
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原著
  • 九里 孝雄, 西山 千春, 鈴木 久仁子, 若松 和代, 藤田 沙耶花, 蛭田 栄子
    2010 年 56 巻 4 号 p. 477-483
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    背景:血液製剤の適正使用を目的として市中病院での外科系輸血の状況を検討した.
    対象:外科系12部門,および消化器外科4術式106症例;食道切除術(Eso-R)36例,肝切除術(Liv-R)24例,胃全摘術(Gas-R)23例,直腸切断術(Rec-R)23例.
    結果:A)外科系12部門での赤血球(RBC)年間使用量は同種血1,925単位(U,院内の20%),自己血は506U. B)消化器外科4術式でのRBC輸血は術中ではRec-R(61%,平均4.4U)とLiv-R(42%,3.1U)が多くGas-Rは2例のみ.術後はEso-R(31%,4.4U)が最多.ヘモグロビン(Hb)値はEso-Rで術後1/3低下したがHb値と投与RBC量に関連はなかった.血小板はLiv-Rの1例のみ,新鮮凍結血漿はLiv-R(63%,13U)が最多.血漿蛋白製剤,20%アルブミン製剤はEso-Rが術後最多.アルブミン投与量と血清アルブミン値との間には関連はなく,担当医に使用法の差がみられた.
    結論:各科でRBCの使用量が異なり,自己血は特定科に偏っていた.使用基準はいずれの術式でも不明確であった.
症例
  • 松本 愼二, 大川 真莉子, 角田 麻衣, 原田 佑子, 小島 亜希, 玉栄 建次, 棚沢 敬志, 平山 美津江, 正田 絵里子, 池淵 研 ...
    2010 年 56 巻 4 号 p. 484-488
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    53歳女性の乳癌患者が貧血のため赤血球MAP(RCC-MAP)の輸血を受けた後,遅発性溶血性輸血副作用(DHTR)を惹き起こした.輸血前検査の不規則抗体スクリーニングは陽性で,自己対照血球を含めて抗体同定用血球試薬(パネル血球)全てに対してポリエチレングリコール・間接抗グロブリン法(PEG-IAT)等で陽性反応を認めたため,高頻度抗原に対する抗体や温式自己抗体を保有していることが疑われた.貧血の進行に対して交差適合試験が陰性および弱陽性のRCC-MAPが輸血され,輸血後10日目に患者は赤ワイン色の肉眼的血尿と排尿痛を認め,臨床検査ではハプトグロビンの著減やLDHの上昇等が見られた.東京都赤十字血液センターにおいて精査され,輸血後患者血清中に抗E抗体と抗Dib抗体が同定された.その後E-Di(b-)で交差適合試験が適合であった解凍赤血球濃厚液(FTRC)が輸血され,輸血副作用は無く良好なHbの回復が得られた.今回の経験から,高頻度抗原に対する抗体を保有する症例では,適合血の確保に時間を要することがあるため,輸血適応の確認と不適合輸血に伴う副作用発生時の対応を臨床医と事前協議し,さらに迅速に適合血を確保するために血液センターとの連携強化を図ることが重要であると考えられた.
  • 猪股 真喜子, 山口 千鶴, 奥津 美穂, 奥村 亘, 富樫 ルミ, 長沼 良子, 沼澤 ひろみ, 渡會 通宜, 安田 広康, 北澤 淳一
    2010 年 56 巻 4 号 p. 489-494
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    間接抗グロブリン法陰性で酵素法のみで反応し,抗Sと同定された3症例を経験し,mimicking抗Sと証明したので報告する.
    S抗原は酵素で破壊され通常は酵素法では検出できないため,同種抗Sではなくmimicking抗Sを疑い精査した.同種抗SであればS抗原陽性血球のみで吸着されS抗原陰性血球では吸着されないが,mimicking抗SであればS抗原陽性血球と陰性血球の両方で吸着されるため,証明方法として,抗体の吸着試験を実施した.結果は,3症例とも両方の血球で吸着されたことからmimicking抗Sと証明された.今回提示した3例のうち,1症例は輸血を受けず,1症例でS抗原陰性血20単位が輸血されたが溶血性輸血副作用は見られなかった.また他の1症例は妊婦であったが,妊娠経過中に抗体価の上昇は見られず,新生児溶血性疾患も認めなかった.
  • 菅原 亜紀子, 橘川 寿子, 高崎 美苗, 奥津 美穂, 斎藤 俊一, 川畑 絹代, 安田 広康, 大戸 斉, 佐藤 善之, 横山 斉
    2010 年 56 巻 4 号 p. 495-500
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    抗HIの影響のため抗C+eの同定に時間を要し,対応抗原陽性の不適合同種赤血球が輸血された症例を経験した.
    症例は69歳AB型男性.約1年前に輸血歴がある.手術に際する輸血申込で不規則抗体検査を実施したが抗HIを認め,同種抗体共存の有無を確認する前に輸血を要した.抗HIを吸着除去した血漿で交差適合試験を実施し,適合した赤血球濃厚液(Ir-RCC-LR)4単位(2バッグ)を輸血した.その後,低力価の抗C+eの存在が確認されたため術後出血に対してはC(-),e(-)の製剤を輸血した.初めの製剤はC(+),e(+)であった.
    抗C+eはポリエチレングリコール―間接抗グロブリン試験(PEG-IAT)にて輸血当日力価2倍,輸血後30,80日目に力価4倍を示した.輸血後5,7日目に実施した直接抗グロブリン試験(DAT)は陰性であったが,患者血球から抗C+eを含む汎反応性抗体が解離された.低力価のためIgGサブクラスについては評価できなかった.輸血後4カ月以上臨床経過を観察したが溶血性副作用の所見は認められなかった.
    抗C+eが低力価であったこと,更に出血によって初めに輸血されたC(+),e(+)血液が一部喪失したことから溶血性輸血副作用を呈さなかったと考えられた.
報告
  • 佐々木 淳, 政氏 伸夫, 森田 曜江, 妹尾 のり子, 村田 則明, 長谷川 智, 高橋 一人, 森 智, 坂井 延広, 伊東 慎一, 市 ...
    2010 年 56 巻 4 号 p. 501-507
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    当院では,2002年3月より末梢血幹細胞(PBSC)アフェレシスを臨床工学技師(ME)が担当して開始した.CD34陽性細胞(CD34+)数評価,細胞処理,凍結は臨床検査技師(MT)が分担した.2005年1月にMEはアフェレシス業務から撤退し,以後はMTが担当した.土日休日も含めてMTによる採取の安全性確保のため一連の手技のトレーニングと業務体制の再構築を行った.
    採取場所は病棟個室に変更し,担当看護師が穿刺や点滴を実施した.病室には酸素,吸引の配管があり,モニター,救急カートを病室内に設置し,日直医師が待機することとした.独自の「チャート」を作成し,採取の進行状況,患者バイタルを記録した.
    2002年3月から2008年10月までに施行した自家PBSC採取患者29名,再構築前6名,後23名,採取回数は再構築前13回,後41回であった.
    2005年1月以降,土日休日の採取は0%から22%となり,保存目標CD34+数(2.0×106個/kg以上)達成率は50%から87%となった.合併症の発生に変化はなかった.
    PBSCアフェレシス操作をMEからMTに交代したが,種々の安全対策を含む業務再構築の結果,重篤な有害事象の発生も無く,採取効率もMEの担当時と同等であった.安全性確保のための業務再構築は患者・ドナーの不安やストレスの軽減に寄与している.
    細胞治療関連業務は,今後,臨床検査技師の積極的関与が必要とされる分野となる.
  • 飯野 美穂, 井上 進, 二上 由紀, 小林 洋紀, 加藤 尚美, 森田 庄治, 石島 あや子, 柴田 洋一, 溝口 秀昭, 南 陸彦
    2010 年 56 巻 4 号 p. 508-514
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    日本血小板・顆粒球型ワークショップの参加施設の協力を得て2007年4月から2009年3月までの2年間に各依頼施設に検査依頼があり,血小板数が15×104l未満であった66症例を対象とし,集計調査を行った.新生児溶血性疾患と異なり,初回妊娠から発症した症例が多くみられた.母親の妊娠回数,輸血歴,既往歴における血小板抗体陽性率に有意差はみられなかった.患児の頭蓋内出血の有無別にみた在胎週数,出生時体重,患児血小板数に有意差はみられなかった.抗体特異性はHLA抗体単独例が33.3%,HPA抗体が21.2%,陰性が40.9%で,HPA抗体陽性例の血小板交差適合試験は全て陽性であった.HPA抗体の特異性はHPA-4b抗体が最も多く,次いでHPA-5b抗体が多かった.
  • 牧野 茂義, 田中 朝志, 高橋 孝喜, 佐川 公矯
    2010 年 56 巻 4 号 p. 515-521
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    国内で輸血を実施している医療施設における輸血管理体制と血液使用状況を把握するために,輸血業務および輸血製剤年間使用量に関する総合的全国調査を2005年度と2008年度に実施した.いずれの年度調査においても使用された血液製剤の80%以上は,300床以上の病床数を有する施設で輸血されていた.2008年度の血液使用量は,2005年度と比較して,赤血球,新鮮凍結血漿と免疫グロブリン製剤はほとんど変化なく,血小板製剤は18.9%増加していた.一方,アルブミン製剤使用量は明らかに減少傾向を示していた.各都道府県別の1病床数あたりの血液製剤使用状況を使用量の多い順に並べてみると,赤血球製剤,新鮮凍結血漿は千葉県,東京都で多く,血小板製剤は広島県が2005年度と同様最も多かった.アルブミン製剤使用は熊本県,長崎県で多く,免疫グロブリン製剤は新潟県,沖縄県の順に多かった.全体の輸血管理体制の整備状況として,(1)輸血業務の一元管理,(2)輸血責任医師および(3)輸血担当検査技師の任命状況,(4)輸血検査の24時間体制や(5)輸血療法委員会の設置は,いずれも改善傾向を示していた.2008年度調査結果では,輸血管理体制は徐々に整い,血液製剤の適正使用が推進されていた.
論文記事
  • 平山 文也
    2010 年 56 巻 4 号 p. 522-534
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/09/10
    ジャーナル フリー
    非溶血性輸血副作用は輸血副作用の中で最も多く,輸血関連急性肺障害(TRALI),アレルギー性反応や発熱などが含まれる.血液製剤中に存在するヒト白血球抗原(HLA)やヒト好中球抗原(HNA)に対する白血球抗体は,非溶血性輸血副作用,その中でも特にTRALIの発症にしばしば関与する.最近,我々は,HNA-1~HNA-5に対する抗体およびそれ以外の好中球抗原に対する抗体を効率的に検出するために,granulocyte immunofluorescence test(GIFT)法の変法である,5 cell-lineage immunofluorescence test(5 cell-lineage IFT)法およびHNAを恒常的に発現する一連の細胞株を樹立した.これらの系を用いて,非溶血性輸血副作用事例で検出される非HLA白血球抗体の殆どはHNA-1~HNA-5以外の抗原に対するものであることを明らかにした.また,白血球抗体や免疫複合体などの免疫学的な刺激により惹起される好中球の活性化を捉えることのできる,好中球活性化試験(neutrophil activation test:NeuAT)を新たに樹立し,Heparin-Binding-Proteinが,TRALIを含む非溶血性輸血副作用を誘導する最終エフェクター因子である可能性も明らかとした.さらに,アレルギー性疾患の領域でアレルゲンを特定するために開発された好塩基球活性化試験(basophil activation test:BAT)が,輸血医学の領域にも応用できることを報告した.この総説では,これらの新しい技術と関連する他の検査方法を紹介するものである.
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