近年,医療・リハビリテーション分野における人工知能(AI: Artificial Intelligence)の活用は目覚ましい進展を遂げており,作業療法(OT: Occupational Therapy)の領域も例外ではない.実際に,「AI」と「作業療法」をキーワードとした学術論文は過去5年間で顕著に増加している.これは,評価支援,介入支援,業務効率化,教育など,多岐にわたる側面でAI導入の試みが活発化していることを示している.
本研究の目的は,精神障害をもつ人の1)作業バランスに関する研究を概観すること,2)作業バランスの評価対象を明らかにすることであり,本稿では目的1)に関して報告した.スコーピングレビューを実施し,7つのデータベース検索とハンドサーチにより文献を収集後,選択した.結果,採用文献は18編で,その内訳は,横断研究13編,症例報告2編,介入研究3編であり,質的研究はなく,日本での研究は2編であった.介入研究は介入方法の異なる3つの研究に限られ,一般化が不十分であることと,質的研究がないことが,当該分野のギャップである.今後,海外で開発された評価尺度の活用に関する検討や,評価尺度の開発が必要である.
本研究は,パラスポーツの学びが作業療法学生(OTS)の障がい者観と作業療法の学びに与える影響を調査することを目的とした.2022年度にパラスポーツプログラム(PSP)を履修した13名の学生を対象に,半構造化面接を実施し,KJ法を用いてデータを分析した.結果,パラスポーツの学びはOTSの障がい者への理解を深める機会となり,固定的な障がい者イメージを変容させる機会を提供することが示唆された.また,OTSは作業療法士としての視野を広げ,スポーツをリハビリテーションの手段として活用する視点やキャリアとしての視野を新たに得たことが確認された.
健常者12名を対象とし,ヘッドマウントディスプレイ(head-mounted display;HMD)とタブレットディスプレイ(tablet display;TD)が運動イメージ時の心理状況,脳波の活動および機能的結合性に与える影響を調べた.その結果,HMDを使用した場合に,TDよりも運動イメージ時の鮮明度が高いことが示された.また,多くの部位で脳波の活動が高まること,前頭─頭頂ネットワークに相当する前頭部─頭頂部,また視覚情報処理に関わる前頭部─後頭部の機能的結合性が高まることも示された.これらのことから,運動イメージの補助手段としてHMDがより有効である可能性が示唆された.
振動やアラームなどで繰り返しフィードバックを与える腕時計型のウェアラブルデバイスを用いた介入は,脳卒中後の半側空間無視の改善に効果があることが報告されている.今回,急性期脳卒中後に半側空間無視を呈した患者に対し,30分ごとに振動によるアラームが作動するウェアラブルデバイスを装着した状態での介入の実施と生活動作における麻痺手の使用を促した.その結果,半側空間無視および無視症状・行動の病識の有意な改善を認めた.これらのことから,半側空間無視に対する介入として,ウェアラブルデバイスを用いることの有用性が示唆された.
今回,自傷行為によりSpaghetti wristを受傷し,意欲の低下に伴って十分に自主訓練が遂行できない事例を経験した.薬物療法や精神状態に合わせた治療環境の変更,支持的な関わりを行った.そして,精神症状の改善に合わせて目標設定を行い,作業療法を実践した結果,自主訓練の頻度が増加し,手指機能の改善とニードである編み物の獲得に至った.このことから,自傷行為に伴うSpaghetti wrist事例において,精神状態に合わせた目標設定に基づく作業療法は,内的動機づけを高め,自主訓練の促進に寄与し,手指機能の改善やニーズの獲得に有用である可能性が示唆された.
医療観察法の対象者の中には,技能獲得や般化が困難な事例が多い.本事例は家事や調理等の生活技能が低く,退院後の生活に不安を感じていた.調理や買い物等の技能獲得に向けて技能プログラミングを用いた介入を行った結果,一人で食事の準備ができるようになり,日常生活技能の改善が図れた.医療観察法下における本事例への生活技能への介入は,社会生活への価値を高めると共に再他害行為防止に作用し,社会復帰に繋がると考える.
本論の目的は,事例に提供した作業療法実践を後方視的に報告し,治療構造の観点から再入院予防に有効に作用した要因を検討することであった.方法は,再入院を繰り返していた統合失調症を有した事例に対し,認知行動療法や元気回復行動プランにポジティブ作業に根ざした実践を併用した介入アプローチによる作業療法で支援した.その結果,事例のWell-Beingをはじめ,再入院までの期間延長に寄与した.本実践の知見は,精神障害者の再入院予防のために,クライエントの状態やニーズに応じた柔軟な介入アプローチの併用と治療環境の整備,作業活動を介した対象関係の拡大といった要因が治療構造に含まれることの重要性が示唆された.
慢性的なうつ症状のために希死念慮が生じ,鎮静薬による急性精神・行動障害を呈したクライエント(以下,CL)を担当した.カナダ作業遂行測定(COPM)にて挙がった「物作り」という作業遂行を活動日記を用いて振り返りつつ,元気回復行動プラン(以下,WRAP)の作成にも取り組んだ.その結果,革細工やクロスステッチという新たな趣味を獲得し,獲得した作業をWRAPに反映させることでCLがより主体的にリカバリーを目指すようになった.活動日記やWRAPの視点を取り入れた作業中心の介入は,CLにとって意味のある作業が精神的健康にもたらす効果を高め,生活を豊かにしていく上での一助となることが示唆された.
本研究は,生活介護事業所に通う20代女性の脳性麻痺者を対象にユニバーサルフレームを用いたエクササイズがバランス能力に与える即時および長期効果と,生活行為の変化を確認した.Functional Reach Testでは,介入プログラム期の即時効果は平均1.18,通常プログラム期は−0.30であり介入プログラム期の方が即時効果は大きかった.また,介入期間全体のFunctional Reach Testの時間効果は0.1でBerg Balance Scaleは33点から39点に改善し長期的な有効性が示唆された.一方,生活行為への影響は限定的であり,今後は作業に根ざした実践の併用が必要と考えられた.
重度の上肢機能障害を呈した脳卒中患者は,随意運動が困難であるがゆえ,改善に必要な練習量を担保しにくいことが多い.今回我々は,重度の上肢機能障害を呈した脳卒中患者に対して,発症早期から機能改善に必要な練習量を担保することに重点を置いて,エビデンスが確立されている複合的な介入を実施した.その結果,長期的な上肢機能と麻痺手の使用行動の改善を認め,日常生活や仕事環境で麻痺手の補助的な使用が可能となった.発症早期から練習量を確保するための複合的な介入は,本症例の良好な経過に寄与した可能性がある.今後は,重度の上肢機能障害の病期に応じた複合的な介入の指針を構築するために,継続した検討が必要である.
脳卒中後,運動イメージ(以下,MI)が低下した上肢運動麻痺患者の訓練に,ミラーセラピー(以下,MT)を組み合わせることで,MIや上肢運動機能を向上させるのではないかと仮説を立て検討した.対象は課題指向型練習を実施しているが,改善が芳しくなく,MIの想起が難しい2症例とした.MT導入期には課題指向型練習に加えて10分間のMTを約1ヵ月間実施した.その結果,2症例ともFMA-UEとSTEFの改善を認め,さらにMI評価であるMIQ-RS,メンタルクロノメトリーも改善した.MIが低下している患者の訓練にMTを組み合わせることでMIや上肢運動機能が改善する可能性が示唆された.
本研究の目的は,JICA海外協力隊作業療法士の要請案件の傾向を分析し,ニーズと役割を明らかにすることである.2021年~2023年の93件の一般案件を対象に,KH Coderを用いて頻出語リスト,多次元尺度構成法,共起ネットワーク分析を実施した.結果,地域別ではアジアと中南米が約80%を占め,発達領域と身体領域が全体の80%以上を占めていた.発達領域では特別支援教育と早期療育を軸とした地域支援,身体領域では神経系疾患への介入が重要であった.これらの支援を効果的かつ持続可能にするためには,適正技術を基盤とした人材育成とツイントラックアプローチを活用した啓発活動が必要であることが示唆された.
本研究は,幼児期の自閉スペクトラム症児を支援する児童福祉領域の作業療法士(以下,OT)の役割を明らかにすることを目的に,自由記述式の質問紙調査を実施した.テキストマイニングを用いて共起ネットワーク図を作成した結果,「集団活動や遊びの機会の提案」や「作業遂行に基づく介入」「園と連携した子どもの生活支援」など8つのカテゴリーが命名された.これらの内容は,児童発達支援の役割である「本人支援」や「家族支援」「移行支援」及び「地域支援・地域連携」と類似しつつ包括していた.OTは,地域において子どもや家族の生活を支援する専門職として位置づけられ,その役割をOT自身も認識していることが示された.
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