日本環境感染学会誌
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28 巻, 1 号
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原著論文
  • 鹿角 昌平
    2013 年 28 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      本研究の目的は感染制御分野における技術動向を知的財産権により解析し,当該分野における産業技術面の変化を客観的かつ体系的に捉え,現状を把握し将来的な変化を予測することである.対象期間中に感染制御に係る公報が発行されたのは特許が716件で実用新案が80件であり,特許出願は経年的に増加していたのに対し,実用新案出願は著しく減少していた.また,特許はアメリカからの出願が増加傾向を示しており,感染制御分野における技術開発が多数の医療材料メーカーの立地するアメリカでも重要性を増していることを示唆するものと考えられた.技術分野の動向としては,従来は器具材料が多かったのに対して,近年は検査及び薬剤が増加するなど内容的な変化が見られた.よって,感染制御分野においては将来的に使用可能となる技術や製品が増加し,その技術分野も拡大していく可能性が高いことが示唆されるとともに,知的財産権を解析対象として用いる本手法が感染制御分野にも応用可能であると考えられる.
  • 尾崎 明人, 久米 真
    2013 年 28 巻 1 号 p. 7-12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      消化器外科手術の手術創を生理食塩水で洗浄することは手術部位感染(SSI)予防に効果的である.今回,創洗浄方法の違いによって表層切開部位SSIの発生状況に差があるかどうかを比較検討した.対象は2009年4月から2011年3月までに当院外科で消化器外科手術を実施された患者452例.第1期:2010年3月以前は50 mLのカテーテルチップを用いて生理食塩水で加圧せず洗浄した.第2期:2010年4月以降はパルス洗浄器の先端ノズルに静脈留置針外筒を装着し,用手的に加圧洗浄と吸引を連動させる器具を考案し創洗浄した.第1期に比して第2期は表層切開部位SSIの発生数,発生率ともに減少したが統計学的有意差はみとめられなかった(第1期13/213発生率6.1%,第2期6/239発生率2.5%, p=0.063).我々の考案した改良型加圧洗浄器を用いて閉創前加圧皮下洗浄することによって表層切開部位SSIの低減に効果が期待できることが示唆された.この方法は洗浄液の飛散なく短時間で容易に実施でき有効で,コスト面でも有益である.
  • 園部 一成, 野呂瀬 嘉彦, 三浦 義彦, 篠山 明宏, 大川 咲奈, 鷲尾 洋平, 前原 茂子, 中川 仁美, 藤田 昌久, 前田 美穂
    2013 年 28 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      Vancomycin-resistant enterococci(VRE)保菌者の腸管内に,pulse-field gel electrophoresis(PFGE)パターンの異なるVREが複数存在するのか否かを検討した.2名のVRE保菌者の同一検体から複数のVRE株を採取してPFGE解析を行ったところ,それぞれの保菌者のVRE株でPFGEパターンに多様性が認められた.その2名の菌株でPFGEパターンの系統樹作成を行ってクラスター解析を試みたところ,類似係数80%でそれぞれ2つのクラスターに,85%では2つのクラスターと7つのクラスターに分類された.
      次にVRE菌株1コロニーを固形培地上でlevofloxacin(LVFX)を含んだディスクと共に培養を行いディスク周辺に発育したコロニーを釣菌して継代培養を30代繰り返して各菌株のPFGEパターンをみると,13代株のPFGEパターンに変化が現れた.
      一人の腸管内に存在するVREを継代培養し,複数のPFGEパターンが認められたということは,時間の経過とともに同一菌株であってもPFGEパターンが変化している可能性を示している.以上の結果は,アウトブレイク時に一保菌者1コロニーでPFGEパターン解析を用いる場合には,院内感染,感染経路等の解明の結果を誤る可能性があることを示唆している.
  • 木村 丈司, 甲斐 崇文, 高橋 尚子, 佐々木 秀美
    2013 年 28 巻 1 号 p. 18-24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      腎機能に応じた適正な投与量・投与間隔での抗菌薬使用を実践する為に,抗菌薬の投与量・投与間隔,腎機能に応じた調節を院内にわかりやすく周知する表を薬剤部主導で作成し,2011年4月より普及活動を行った.この活動の有効性を評価する為,MEPM, DRPM, TAZ/PIPCの投与量・投与間隔を腎機能別に活動開始前の2010年度と開始後の2011年度で比較・検討した.
      結果として,MEPMではeGFR>50の群で1000 mg×3回/dayが,eGFR 11–50の群で1000 mg×2回/dayが増加した.DRPMではeGFR>50の群で500 mg×3回/dayが,eGFR 31–50の群で250 mg×3回/dayが増加した.TAZ/PIPCではeGFR>50の群で4500 mg×4回/dayが,eGFR≦20の群で2250 mg×3回/dayが増加した.MEPM, DRPM, TAZ/PIPC投与患者全体で今回作成した資料に従う投与方法が選択される割合は,2010年度の52.1%に比べ2011年度は67.0%と有意に増加した(p<0.01).
      以上の事から,薬剤師主導による適正な投与量・投与間隔での抗菌薬使用に関する情報提供は腎機能に応じた投与量・投与間隔の調節の実践に有効であった.また腎機能別に抗菌薬の投与方法を評価する事は,抗菌薬使用に関する問題点を詳細に分析するのに有用と考えられた.
短報
  • 川村 英樹, 折田 美千代, 中川 彩, 松元 一明, 茂見 茜里, 郡山 豊泰, 西 順一郎
    2013 年 28 巻 1 号 p. 25-28
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      ICT病棟ラウンドは感染対策の現状把握に欠かせない.当院では2010年から週1回全病棟を対象に複数職種でラウンドを実施している.今回当院の病棟における感染対策の問題点を明らかにするために,ラウンド指摘事項を解析した.2010年7月から2011年12月に実施した計80回のラウンドで指摘した事項は1,557件であり,洗浄・消毒・滅菌(17.1%)に関する事項が最も多く,以下標準予防策(16.6%),針刺し・切創事故予防(13.4%)に関する事項が続いた.ラウンドでの指摘事項をまとめることにより,多彩な問題点が明らかになり,必要な改善策を実施することができる.
報告
  • 村上 和保, 梅迫 誠一
    2013 年 28 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      パームスタンプは手指衛生の検査や教育のツールとして広く用いられているが,スタンプの強さと検出菌数の関係や,手指が十分に洗浄・消毒されたことの判断の目安となる菌数については十分に検討されていない.そこで本研究ではこれらについて主に食品衛生の観点で検討を行った.被験者は女子大学生(18~22歳)で,パームスタンプ検査は手形培地に利き手で行った.また,手洗いは,食品衛生指導員用のマニュアルに準じ,消毒は十分な乾燥および80%エタノール噴霧をすることによった.その結果,(1)被験者が任意の強さでパームスタンプを行った場合,その強さは935.4 gで,検出された菌数は132.2 CFU/handであった.一方,500 gの強さでスタンプした場合は124.5 CFU/hand,1500 gでスタンプした場合は117.2 CFU/handであり,3者間のいずれにおいても有意差はみられなかった.したがって,パームスタンプを行う時,スタンプの強さは検出菌数に影響しないことが示された.(2)手洗い・消毒前のパームスタンプでは,138.5 CFU/handが検出されたのに対し,手洗い・消毒後には11.4 CFU/handへと有意に減少した(除菌率;87.8%).このことから今回の被験者においては,適正な手洗い・消毒がなされた一つの目安として30 CFU/hand以下であることが示唆された.
  • 大久保 耕嗣
    2013 年 28 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      保育園児を対象に,手洗いの大切さを知り,どの部位に洗い残しが多いかを遊びながら感じてもらい,成長により手洗い手技が向上するかを調査するために,蛍光色素を用いた手洗い実習を行った.2011年11月4日,三条市T保育園において「手洗いと消毒の話」の講義と「手洗い歌」の遊戯を実施した.その後,石けんと流水を用いたスクラブ法の実習を行った.年少児(3歳児;3~4歳)39名,年長児(5歳児;5~6歳)44名であった.蛍光ローション1プッシュ(1 mL)手の平に取り,手掌・手背・手首に万遍なく擦り込み,ブラックライト下で残り斑がないことを確認する.流水と石けんを用いて30秒間以上手洗いを行った後に,ペーパータオルで水分を拭き乾燥させる.ブラックライト下で蛍光色素が付いている部位,すなわち洗い残し部位を観察し,手洗い確認シートに記録した.年少児と年長児の比較であったが,年長児の洗い残し部位数が有意に少なかった.年長児の洗い残し部位は,成人での既報の成績と同様の傾向であった.手洗い法を理解して実践出来ることが示唆されたが,さらに調査が必要である.
  • 森下 幸子, 草場 恒樹
    2013 年 28 巻 1 号 p. 39-43
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/04/05
    ジャーナル フリー
      組織として感染対策を取り組む医療機関は増えているが,患者がどのように理解し医療機関への信頼に繋がっているのかを調査するために,6年間に渡り毎年,一般市民を対象にアンケート調査を実施している.今回,新型インフルエンザの大流行を機に,感染対策に対する考え方や行動の変化を調査から知り得る事ができた.この調査は,毎年3000人以上を対象としたインターネット調査であり,患者自身が行う感染対策や医療機関へ期待する項目など計30項目を質問し回答を得ている.その結果,新型インフルエンザ発生前後で患者行動を比較すると発生後は,手を洗うことやマスクの装着,咳エチケットの励行が上がっていた.また,医療機関への感染対策で期待する項目の変化も認められた.しかしながら,翌年の調査では,若干,感染対策に関する行動が下がっていることがわかった.感染対策に対する正しい情報を患者へ提供することが重要だと,2008年に当学会で報告したが,今回の調査では情報を提供し続けなければ患者の行動は元に戻ることがわかった.つまり患者への情報提供は,一時的でなく継続的に行う必要性があると考える.
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