日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集
第49回日本植物生理学会年会講演要旨集
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  • 岩本 政雄, 清田 誠一郎, 高野 誠
    p. 0201
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    フィトクロム(phy)は多岐にわたる光形態形成・光生理反応を担う主要な光受容体であり、イネでは3つの遺伝子(PHYA, PHYB, PHYC)が存在する。phyAphyBphyC突然変異体は野生型イネに比べて節間や葉身等の形態に著しい変化を示す。また、phyAphyBphyC変異体はエチレン生合成関連遺伝子の1つで、冠水時の浮稲の節間伸長との関連が示唆されているACCオキシダーゼ遺伝子Aco1の転写量が顕著に高いことがわかっている(清田ら 第46回本年会)。今回我々は、phy欠損によるAco1プロモーター活性への影響について調べるために、Aco1プロモーターの下流にGUS遺伝子をつないだコンストラクトを野生型イネ及びphyAphyBphyC変異体に導入して発現解析を行ったので報告する。GUS活性の局在はphy欠損しても大きな変化がみられなかったが、野生型イネよりもphyAphyBphyC変異体で高い活性を示すことがわかった。また、出穂時の野生型イネにおいてGUS活性の高い部位が伸長節間中に存在することがわかった。
  • Xianzhi Xie, Makoto Takano
    p. 0202
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    In the previous study, we found that the protein level of phyC in etiolated seedlings is extremely reduced in phyB mutants. In this study, we want to understand the molecular mechanism which controls the phyC level in relation to the phyB. Rice phyAphyB double mutants have reduced level of phyC protein and the etiolated seedlings do not respond to red or far-red light. Overexpression of PHYC gene did not make any differences in the phyAphyB seedlings for their light responses. However, when mutated PHYB gene which lacks a chromophore binding site was expressed, phyC protein amount was recovered to the wild-type level and the transgenic phyAphyB seedlings exhibited distinct responses to red and far-red light, suggesting that the restored phyC is biologically active. These results suggest that phyB protein is indispensable for the stability and therefore, function of phyC in rice photomorphogenesis, probably via the formation of phyB/phyC heterodimer.
  • 間山(槌田) 智子, 永島 明知, 岡田 清孝, 酒井 達也
    p. 0203
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナの光屈性は青色光受容体phototropin (phot1とphot2)に制御され、そのシグナル伝達因子としてRPT2とNPH3が単離・同定されている。これらはタンパク質間相互領域をもち、それぞれphot1 と複合体を形成する。RPT2の発現は赤色光及び青色光によって制御され、光強度依存的な発現誘導を受けること、またRPT2は遺伝学的にphot1の下流で機能することが示されている。しかし、RPT2の発現制御は明らかになっていなかった。今回、我々はphyA, phyB, cry1, cyr2 が冗長的にRPT2の転写を制御すること、phyA, cry1, cry2が協調して強光下での光屈性に重要な機能を示すことを報告する。また、phot1はRPT2の転写には影響を与えないが、翻訳調節を介して発現誘導を制御する可能性を示唆する結果を得た。現在phyA, cry1, cry2 の下流におけるRPT2の働きについて詳しい解析を行なっているが、本研究により、RPT2がphototropin, phytochrome およびcryptochromeにより発現量を多段階に制御されること、また光屈性におけるそれぞれの光受容体からのシグナルがRPT2に収束していることが明らかになった。
  • Sam-Geun Kong, Noriyuki Suetsugu, Akira Nagatani, Masamitsu Wada
    p. 0204
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    Phototropins (phot1 and phot2) consist of two LOV domains (LOV1 and LOV2) in their N-terminus and a Ser/Thr kinase domain in their C-terminus. Although the photochemical properties of LOV domains have been extensively examined, their structural and functional roles remain to be determined. Here, we investigated the roles of phot2 N-terminus (P2N) in planta and in vitro. Size exclusion chromatography suggested that phot2 might exist in a multimeric form around 500 kDa in vivo, for which P2N but not P2C (phot2 C-terminus) is responsible. The multimeric formation was further confirmed by size exclusion chromatography using several recombinant proteins. The calculated molecular weights implied that P2N(1-533) and P2N(116-276) were probably tetramers but P2N(315-533) was a dimer, respectively. Physiological analysis of transgenic plants expressing phot2-deletion mutants insisted that the P2N(1-314) domain is dispensable to mediate the fundamental physiological responses. The functional relevance of the N-terminal domain of phot2 will be discussed.
  • 相原 悠介, 鈴木 友美, 長谷 あきら
    p. 0205
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナの青色光受容体phot1とphot2はいずれもN末端側に光感受性(LOV)領域、C末端側にSer/Thrキナーゼ領域を持つ。phot1とphot2は構造上、非常に良く似ているにもかかわらず、異なる生理機能を持つ。すなわち、光屈性などにおいてphot1はphot2よりも高い光感受性を示す一方、葉緑体の逃避反応はphot2でのみ起こる。これらの差は両分子の構造の違いに由来すると推測される。そこで本研究ではLOVとキナーゼ領域をphot1、phot2間で交換し、GFPを融合したキメラ遺伝子(P1n/2cG、P2n/1cG)を構築した。これらキメラ遺伝子およびPHOT1-GFP、PHOT2-GFPをPHOT2プロモーター制御下で発現させた形質転換植物(phot1/phot2二重変異体背景)を作出し、生理応答を観察した。光屈性の解析の結果から、光感受性の違いは主にN末端領域により決定されることが示された。また葉緑体定位運動の観察ではP1n/2cG、P2n/1cGともに葉緑体の集合・逃避両反応を引き起こした。すなわち、逃避反応はphot2に特有の機能ではなく、むしろ、phot1(N)/phot1(C)の組み合わせ(すなわち内在phot1)でのみ逃避反応が抑制されると考えられる。これらキメラ分子を含めた、phototropinの細胞内局在についても報告する。
  • 鈴木 友美, 長谷 あきら
    p. 0206
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    フォトトロピン(phot)は青色光を感知し、光屈性・葉緑体定位運動・気孔開口を誘引する光受容体である。photは、N末端側の発色団結合に関わるLOV領域とC末端側のSer/Thrキナーゼ領域からなる色素タンパク質である。これまでに単細胞緑藻類から高等植物においてphotの存在が報告され、phot情報伝達系に関与する因子が幾つか取得されているものの、詳細な分子機構に関しては未だ不明である。
    以前我々は、シロイヌナズナphotと相互作用する因子として、小胞輸送に関与する低分子量G蛋白質ARF1を取得した。様々な解析により、photのkinase領域がGTP結合型ARF1と相互作用すること、phot2とARF1の細胞内局在が青色光依存的に変化することを明らかにした。ドミナント変異型ARF1の過剰発現植物体では、芽生えの伸長抑制と、光屈性の低下が観察できた。これらの結果から、青色光依存的なARF1の活性調節と、ARF1よる光屈性制御メカニズムが推測されるが、その詳細は明らかではない。
    今回は、phot応答におけるARF1の関与をより明らかにするため、ARF1との相互作用能を失った変異phot2遺伝子の取得を試みた。その結果、数種類の変異phot2の取得に成功した。そこで、この変異phot2-GFP遺伝子をphot1phot2植物体に導入し、その生理応答とphot2-GFPの細胞内局在について詳しく解析した。今回はこれらの詳細な結果を報告するとともに、フォトトロピン応答におけるARF1の役割に関して考察する。
  • 小塚 俊明, Sam-Geun Kong, 遠藤 求, 長谷 あきら
    p. 0207
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    青色光受容体 phototropin は、モデル植物シロイヌナズナにおいて phot1 と phot2 との二つが知られている。PHOT1PHOT2 の機能欠損型二重変異体では、光屈性、葉緑体定位運動、気孔開口、葉の扁平化が正常に行われない。これまでに、我々は phototropin の関与する新たな形態形成制御を発見した。本葉の柵状組織細胞を本葉断面でみると、厚さ方向へ大きく伸長した細胞が表皮下に並んでいる。ところが、phot1phot2 二重変異体の柵状組織細胞では、野生体と比較して顕著に丸くなっており、phototropin は柵状組織細胞の厚さ方向への極性伸長を促進していることが示唆された。今回、PHOT1PHOT2 との、各単独変異体を用いて解析した結果、phot2 変異の影響の方が phot1 変異より大きいことが示された。さらに、phot1phot2 二重変異体背景において 35S-PHOT2-GFP を発現させると野生体と同様な柵状組織細胞が確認されたことから、主に phot2 の機能が重要であると考えられた。次に、phot2 シグナルの細胞自律性について調べるため、組織特異的発現プロモータに PHOT2-GFP をつないだコンストラクトを作製し、phot1phot2 二重変異体へ導入した形質転換体を作製した。これらの結果をふまえて、phototropin の機能とその生理作用について考察する。
  • 中迫 雅由, 直原 一徳, 松岡 大介, 桂 ひとみ, 徳富 哲
    p. 0208
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    LOVドメインは、タンパク質間相互作用などに関わるPASドメインのサブファミリーの一つで、植物では青色光受容を行うドメインとして知られている。青色光受容体の一つフォトトロピン(phot)は、LOV1、LOV2と呼ばれる二つのLOVドメインをそのN-末端側にもつ。C-末端側はセリン/スレオニンキナーゼになっていてphotは光制御リン酸化酵素として機能すると考えられており、LOV2が光スイッチとして働き、LOV1はその光感度調節を担うことが報告されている。photはダイマーとして働くと考えられるが、LOV1がそのダイマーサイトを形成するという報告もある。
    そこで、シロイヌナズナの2種類のphot(phot1, phot2)のダイマー形成の分子基盤を解析し、以下の二つの結果を得た。1)それぞれのX線結晶構造解析を行い、世界で初めてダイマー構造の解明に成功し、phot1はジスルフィド結合を介してβスカフォールド同士で反平行的にダイマーを形成しているのに対して、phot2では同結合を作ることができず主に水素結合を介して結合していることが解った。2)phot1では還元剤によりジスルフィド結合を切断することによりモノマー化が観測され、phot2では接触面の2カ所のアミノ酸をモノマーとして存在するLOV2の相同アミノ酸と置換することによりモノマー化に成功した。
  • 直原 一徳, 桂 ひとみ, 松岡 大介, 徳富 哲
    p. 0209
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    フォトトロピン(phot)は、植物青色光受容体の一つで、光屈性、葉緑体光定位運動、気孔開口光制御、葉の伸展運動などの光情報受容を担っている。phot分子はN-末端側にLOV(light, oxygen, voltage-sensing)と呼ばれる光受容ドメインを2つもち、それぞれLOV1、LOV2と呼ばれている。また、そのC-末端はセリン/スレオニンキナーゼになっている。同キナーゼは自己リン酸化および基質リン酸化活性をもつことが知られているが、いずれも青色光により活性化される。光制御にはLOV2が活性阻害ドメインとして働き、青色光によりその阻害が解消されることが示唆されているが、その分子機構は大部分が未知である。
    そこで、本研究ではLOV2とキナーゼドメインとの相互作用機構の解明を目指して、LOVとキナーゼドメインの結合シミュレーション計算を行い、LOV2がキナーゼドメインの活性部位に結合して安定な複合体を形成するのに対して、LOV1とキナーゼドメイン活性部位との結合の可能性は低い、と言う結果を得た。このことはLOV2がキナーゼドメインの活性制御に重要な役割をするという報告に一致している。さらに、LOV2・キナーゼドメイン結合モデルから、その相互作用に重要である予測されるLOV2内のアミノ酸に変異を導入し、両者の結合活性への効果も調べたので、その結果も報告する。
  • 岡島 公司, 嶋田 崇史, 松岡 大介, 徳富 哲
    p. 0210
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    フォトトロピン(Phot)は植物において光屈性、葉緑体定位運動、気孔開口などを制御する重要な青色光受容体である。N末端側に光受容ドメインとして、FMNを結合した2つのLOVドメイン(LOV1、LOV2)があり、リンカー領域を介してC末端側にSer/Thrキナーゼドメイン(KD)をもつ。LOVドメインは光を受容すると保存されたCys残基とFMNの間で共有結合が形成し、暗所でもとに戻るフォトサイクルを示す。キナーゼ活性は暗状態で主にLOV2ドメインによって抑制されている。青色光照射でこの抑制がなくなりキナーゼは活性化され、フォトトロピンの自己リン酸化と他の分子をリン酸化することで、青色光シグナルを下流に伝える。しかし、LOV2ドメインによるキナーゼ活性調節機構について詳細はわかっていない。
    シロイヌナズナのPhot1のLOV2-KDペプチドを大腸菌でGST融合タンパク質として発現、精製した。LOV2-KDはLOV2ドメインのみの場合と同様のフォトサイクルを示した(暗回復 t1/2 = 29s)。プロテオリシス解析とマス解析によりLOV2-KDでは光依存的構造変化がリンカー領域で起きていた。このような構造変化はQ575L変異導入ペプチドではみられなかった。さらに、LOV2-KDは大腸菌で発現させたPhot1のN末端側領域のペプチドをリン酸化した。LOV2ドメインに変異導入したペプチドのキナーゼ活性の結果も報告する。Phot1における光依存的な構造変化とキナーゼ活性調節機構について議論する予定である。
  • 井上 晋一郎, 木下 俊則, 土井 道生, 島崎 研一郎
    p. 0211
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナにおいて、青色光受容体フォトトロピンは光屈性, 葉緑体定位運動, 葉の展開, 気孔の開口等の生理反応を誘導する。フォトトロピンは青色光に依存して顕著な自己リン酸化を示すが、シロイヌナズナのフォトトロピンの自己リン酸化部位は全く同定されておらず、自己リン酸化の生理学的意味も不明であった。本研究では、質量分析等によりシロイヌナズナphot1の生体内の自己リン酸化部位を8箇所同定した。同定したリン酸化部位は、これまでにムギのphot1で明らかにされていたN末端領域とHinge1領域以外に、キナーゼドメインとC末端領域でも見つかった。これらの部位のリン酸化の機能を明らかにするため、リン酸化されるSerとThrをAlaに置換したphot1をphot1phot2二重変異株に導入し、変異phot1がフォトトロピンの生理応答を誘導できるかどうか調べた。8箇所のリン酸化部位の中で、キナーゼドメインのアクティべーションループに位置する851番目のSerのリン酸化のみが生理応答の誘導に必要であった。このSerは、青色光に依存して速やかに自己リン酸化され、暗黒下で脱リン酸化された。以上の結果は、青色光に依存したphot1の自己リン酸化が下流への情報伝達に必須であることを示している。
  • 原田 明子, 島崎 研一郎
    p. 0212
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    青色光による気孔の開口には、孔辺細胞の細胞膜H+-ATPaseの活性上昇を介して膜電位が過分極し、過分極依存的にK+が流入することが必要である。この青色光情報伝達経路にCa2+が関与することが示唆されてきたが、青色光による孔辺細胞内のCa2+濃度変化は調べられていなかった。本研究では、Ca2+結合性発光蛋白質エクオリンをサイトソルに発現させたシロイヌナズナ(野生株と気孔開口に関与する青色光受容体フォトトロピン(phot1, phot2)の欠損突然変異株)から孔辺細胞プロトプラスト(GCP)を調製し、青色光によるCa2+濃度変化を調べた。その結果、GCPでは青色光により一過的なCa2+濃度上昇が見られた。このCa2+濃度上昇のほとんどは、光合成電子伝達系阻害剤DCMUで阻害された。一方、光合成を飽和させるような強い赤色光存在下で青色光を照射したところ、野生株由来GCPでは、青色光によりわずかなCa2+濃度上昇がみられた。このわずかなCa2+濃度上昇は、phot1 phot2二重変異体では観察されなかった。以上より、孔辺細胞では青色光によりサイトソルCa2+濃度上昇がみられるが、光合成とフォトトロピンの両方に依存していることが示唆された。
  • 富田 祥之, 増田 真二, 松岡 大介, 徳富 哲, 太田 啓之, 高宮 建一郎
    p. 0213
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    AppAはリプレッサータンパク質であるPpsRのDNA結合能を光依存的に阻害することで、光合成遺伝子の発現を調節する紅色細菌の青色光受容体である。AppAのN末端側に存在するBLUF(Blue Light Using FAD)ドメインは、発色団としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)を一分子もち、青色光センサーとして働く。
    BLUFドメインの結晶構造はアシルホスファターゼと相同性があり、かつクリプトクロムやフォトトロピンといった他の青色光受容体は、自己リン酸化が自身の活性制御に関わっていることが知られている。そこで、本研究ではBLUFドメインのリン酸化を介した光シグナル伝達機構を検討した。その結果、BLUFドメインも自己リン酸化活性をもち、自己リン酸化は光強度に依存して起こることが明らかとなった。さらに、アミノ酸に部位特異的変異を導入した変異タンパク質での活性測定を行った結果、そのリン酸化部位がT30であり、R32がリン酸基の固定を補助していると考えられた。また、光サイクル反応に必須なQ63の変異体では自己リン酸化の光依存性が見られなくなったことから、光照射によって起こるQ63周辺の構造変化によって自己リン酸化反応の活性も制御されていることが示唆された。これに加え、AppAはリン酸基の受け渡しによってセンサーキナーゼの活性を調節することが示された。
  • 木下 俊則, 小野 奈津子, 井上 晋一郎, 島崎 研一郎
    p. 0214
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    青色光受容体フォトトロピン(phot1, phot2)は、光屈性、葉緑体光定位運動、気孔開口、葉の横伸展等の光受容体として機能することが知られている。青色光による気孔開口において、孔辺細胞で発現するフォトトロピンに受容された光シグナルは、最終的に細胞膜H+-ATPaseを活性化することにより、気孔開口の駆動力を形成することがわかっているが、フォトトロピンから細胞膜H+-ATPaseに至る細胞内シグナル伝達については、不明の部分が多い。本研究では、気孔があまり開いていないフォトトロピン2重変異体に対しEMS処理を行った植物体を用いて、葉の横伸展と気孔開度を指標にスクリーニングを行い、気孔が顕著に開口している復帰突然変異体のスクリーニングを行った。単離した変異体のうち、db10-2と名付けた変異体は、明暗条件下で常に気孔が開口していたが、アブシジン酸に対しては感受性が見られた。また、孔辺細胞プロトプラストにおける細胞膜H+-ATPaseのリン酸化状態及び活性を調べた結果、この変異体のH+-ATPaseは常に活性化された状態であることがわかり、このためdb10-2変異体では気孔が顕著に開口していることが推察された。現在、原因遺伝子の同定に向けマッピングの準備を進めており、この進捗状況も報告する予定である。
  • 上中 秀敏, 門田 明雄
    p. 0215
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    ヒメツリガネゴケ原糸体の分枝形成は光により調節されており、分枝の出現位置は青色光により決定される事が知られている (Uenaka et al., 2005)。植物の光応答は、光強度の変化に伴い異なる反応を示す事が知られているが、分枝出現位置決定における光強度の影響は明らかにされていない。今回、分枝出現位置に対する青色光強度の作用を調べた。その結果、10および30 W m -2 の青色光を細胞の一部のみに照射したとき、照射した領域の内側に分枝が出現したが、200および400 W m -2 の青色光では、照射した領域の外側に分枝が出現した。我々はそれぞれの反応を弱光反応と強光反応と名付けた。興味深い事に、強光反応が誘導される際、候補となる分枝出現位置は青色光照射領域の先端側、基部側の二カ所存在するが、分枝は常に先端側に出現した。この事は分枝出現位置決定に青色光だけではなく、細胞極性も働く事を示している。青色光受容体であるフォトトロピンの遺伝子破壊株を用いて、分枝出現位置決定の光強度依存性を調べたところ、遺伝子破壊株では弱光反応、強光反応誘導の青色光感受性が低下していた。以上の結果はヒメツリガネゴケの分枝出現位置がフォトトロピンと細胞極性により決定される事を示している。
  • 末次 憲之, 山田 岳, 加川 貴俊, 門田 明雄, 和田 正三
    p. 0216
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    葉緑体は光を効率よく吸収するために弱い光の下には集まり(集合反応)、光損傷を避けるように強すぎる光からは逃避する(逃避反応)。我々は近年シロイヌナズナにおいて葉緑体運動を制御する2つの相同遺伝子、KAC1KAC2 を同定した。kac1 変異体では集合反応がほとんど起こらず、また逃避反応時の葉緑体の移動スピードが野生型よりも若干遅かった。kac2 変異体では葉緑体運動の異常が全く認められないが、kac1kac2二重変異体は集合・逃避両反応を欠損していた。野生型ではKAC1 蛋白質とKAC1 mRNA がKAC2 のそれらよりも圧倒的に多く蓄積していた。またKAC1 プロモーターにより発現させたKAC2はkac1kac2の葉緑体運動を完全に回復させた。これらの結果からKAC1とKAC2蛋白質の違いは質的なものでなく量的であり、KAC蛋白質の量が葉緑体運動のスピードを決める重要な要素である事がわかった。
  • 服部 満, 中村 崇裕, 杉田 護
    p. 0217
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    Pentatricopeptide repeat (PPR) タンパク質は、35アミノ酸保存配列(PPRモチーフ)を繰り返し持つタンパク質である。陸上植物に100~500個のPPRタンパク質遺伝子が存在することが知られている。ヒメツリガネゴケに存在する100個余りのPPRタンパク質のうち、11個のPPRモチーフをもつPPR531-11遺伝子をノックアウトした遺伝子破壊株は葉緑体チラコイド膜の発達が不完全で、光化学系II活性が低いことを前年会で報告した。また、遺伝子破壊株においては葉緑体コードのclpP pre-mRNAのRNAプロセシング効率が顕著に低下していることを報告した。そこで、本研究ではPPR531-11がclpP pre-mRNAに直接結合することにより、RNAプロセシングに関与しているかどうかを調べることにした。組み換えPPR531-11タンパク質とin vitro合成したmRNA分子との結合性をRNAゲルシフト法とフィルター結合法で解析した。その結果、PPR531-11がclpP pre-mRNAの特定の領域に特異的に結合することを明らかにした。本発表では、PPR531-11がclpP pre-mRNAのRNAプロセシングにどのように関与しているのかについて考察する。
  • 奥田 賢治, 羽畑 優哉, 小林 善親, 鹿内 利治
    p. 0218
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    陸上植物の葉緑体では、RNA上のCをUへと変換するRNA編集と呼ばれる作業が高頻度に行われている。個々の植物は特有の編集サイトパターンを持つことから、RNA編集は進化の過程で誕生と消失を繰り返してきたと考えられる。タバコN. tabacumは、祖先種と考えられているN. sylvestrisN. tomentosiformisの自然交雑によって生じた異質複二倍体である。そのため、これらタバコ属植物は、葉緑体RNA編集の進化を研究する上で非常に優れた材料として用いられてきた。我々は、これら植物における葉緑体ndhDの開始コドンを作製するRNA編集部位(ndhD-1サイト)のRNA編集を調べた結果、N. tabacumN. sylvestrisに比べて、N. tomentosiformisではndhD発現に影響は与えないもののRNA編集効率が低下していることを明らかにした。シロイヌナズナではndhD-1のRNA編集にはトランス因子として働くPPRタンパク質、CRR4が必須である。現在、N. tomentosiformisにおけるndhD-1 RNA編集効率の低下は、タバコCRR4オルソローグの機能が低下しているためではないかという作業仮説を立て、タバコ祖先種から単離したCRR4の解析を行っている。
  • 楠見 健介, 長野 容子, 後藤 栄治, 津山 孝人, 射場 厚
    p. 0219
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    イネの葉の発生ステージは、茎頂周辺の葉の配置および構造を基にP1~P6の6つに分けることができる。このうちP4ステージは、葉の基本構造が確立するとともに、葉細胞中の葉緑体がBuild upと呼ばれる色素体遺伝子発現装置の活性化プロセスに入る、キーステージである。30℃で生育した第3葉完全展開時のイネからP4ステージの葉を抽出し、2cm以下、2~4 cm、4~6 cm、6~8 cm、8~10cmの長さに分け、それぞれの葉細胞中の生理的挙動と葉緑体の分化状態を調べた。P4ステージ初期の葉は白色であり光合成能はほとんどないが、P4ステージ後期にかけて葉細胞中のクロロフィル含量およびRubisCOの蓄積量はそれぞれ10倍以上に増加し、光合成の量子収率は成熟葉と同程度まで上昇することがわかった。また、核と色素体にコードされる葉緑体RNAポリメラーゼ(NEP, PEP)による転写産物の蓄積の増加が連続的に観察された。その間、組織中の炭素含量はほとんど変化しないが、窒素含量の減少によりC/N比が上昇していくことがわかった。P4ステージ葉は下位葉の幼鞘内にあり光から遮られた状態にあるが、これらの結果は葉が抽出する直前の短い期間に、葉緑体分化が急速に進行し、葉細胞の生理に大きく影響していることを示唆している。葉緑体形成に関与する他の因子の発現パターンや、葉緑体形成不全突然変異株 virescent におけるそれらの変化も合わせて報告する。
  • 明賀 史純, 細田 千恵子, 梅沢 泰史, 飯泉 治子, 永田 典子, 池内 昌彦, 篠崎 一雄
    p. 0220
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    我々は核コードの葉緑体タンパク質が欠損した変異体ラインの表現型スクリーニングにより、Fe-SODの3つのメンバー(FSD1, 2, 3)の内の1つFSD2にトランスポゾンDsが挿入したpale-green変異体を単離した。残りのメンバーのタグラインを入手し表現型を観察したところ、FSD1変異体の3つのアレルは野生型に比べて表現型に異常は見られなかったが、FSD3変異体の2つのアレルはFSD2変異体と同様にpale-greenの表現型を示した。さらにfsd2fsd3変異体は、単独の変異体に比べてより白色化した表現型を示した。FSDとGFPとの融合タンパク質をタバコの葉で一過的に発現させ、蛍光顕微鏡観察によりその局在を調べた結果、FSD1は細胞質に局在し、FSD2とFSD3は葉緑体内でそれぞれ異なる局在を示した。またfsd2fsd3の芽生えは光酸化ストレスへの感受性が著しく高く、暗所下での活性酸素除去能力が低下していることが分かった。このことからFSD2とFSD3は光合成で発生するスーパーオキシドを除去し、生体に極めて有害な活性酸素ラジカルの蓄積を抑えることが示唆された。さらにin vitroin vivo解析によりFSD2とFSD3はヘテロ複合体を形成し、芽生え初期に働くことを明らかにした。このことからFSD2-FSD3ヘテロ複合体は葉緑体の発達の初期に発生する活性酸素の除去を行い、葉緑体の機能維持に重要であると考えられた。
  • 西村 芳樹, 松島 智美, 川合 真紀, 内宮 博文
    p. 0221
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    多くの真核生物の受精において、ミトコンドリアや葉緑体の遺伝子は母親のみから子孫に伝えられる。従来、この現象は父母の配偶子(精子・卵子)の大きさが異なるがゆえに、子孫に寄与されるmt/cpDNA量に差が生ずることが原因であると考えられてきた。しかし実際には、父のミトコンドリア(mt)や葉緑体(cp)のDNAは、受精の過程で積極的に分解され、これが母性遺伝の引き金となることが、クラミドモナスをはじめとする藻類や、高等植物、粘菌、さらにメダカ等の脊椎動物において明らかになってきている。それでは雄のDNAはどのようにして選択的に認識され、そして分解されるのか。また雌のDNAはどのようにして保護されるのか。こうした疑問を解くために、我々は緑藻クラミドモナスの葉緑体母性遺伝をモデルとし、母性遺伝変異体のスクリーニング及びRNAi法による逆遺伝学的解析及び変異体の単離を進めている。本発表では、接合子特異的遺伝子ezy1のRNAiによる逆遺伝学的機能解析について最新のデータを交えてご紹介したい。
  • 柿崎 智博, 松村 英生, 中山 克大, 寺内 良平, 稲葉 丈人
    p. 0222
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    葉緑体における光合成装置の構築には、核および葉緑体ゲノムにコードされた遺伝子群の協調的な発現が必要である。この様な協調的遺伝子発現を行うため、核コード葉緑体タンパク質遺伝子群の発現を制御するシグナル伝達経路が存在している。この葉緑体から核へと伝達されるシグナルはプラスチドシグナルと呼ばれ、その伝達経路は複数存在しているとされているが、その実態が明らかになった経路は一部にすぎない。
    我々はこれまでに、シロイヌナズナの葉緑体タンパク質透過装置であるToc159タンパク質が欠失した変異体 (ppi2変異体) では、一部の核コード葉緑体タンパク質遺伝子発現の発現が変化していることを見いだした。つまり、ppi2変異体では葉緑体へのタンパク質輸送が失われることにより、プラスチドシグナル伝達経路に異常が生じているものと考えられた。本研究では、ppi2変異により発現変動がみられる遺伝子群の包括的理解のため、SuperSAGE法を用いてppi2変異体における遺伝子発現プロファイリングを行った。その結果、ppi2変異体において遺伝子発現が減少する遺伝子の多くは葉緑体にターゲットされるタンパク質をコードしており、中でも光合成関連タンパク質をコードする遺伝子が大多数を占めることがわかった。加えて既知のプラスチドシグナル伝達経路であるGUN-ABI4経路とは異なるプラスチドシグナルの存在が示唆された。
  • 中山 克大, 柿崎 智博, 稲葉 丈人
    p. 0223
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物固有のオルガネラである葉緑体は、光合成細菌の細胞内共生により生じたオルガネラである。進化の過程で葉緑体ゲノムの遺伝子のほとんどは宿主の核ゲノムに移行したため、核と葉緑体はクロストークすることにより厳密な遺伝子発現制御を行っていると考えられる。核から葉緑体への情報伝達(タンパク質輸送)に関してはこれまでに多くの報告がなされているが、葉緑体から核への情報伝達(プラスチドシグナル)に関する知見は少ない。
    我々は、葉緑体タンパク質透過装置構成因子Toc159を欠失したシロイヌナズナppi2変異体では、タンパク質輸送の低下に伴う葉緑体の状態変化により、何らかのシグナルが核へ伝達され遺伝子発現に影響していることを明らかにしてきた。今回、ppi2及び他の変異体を用いて、プラスチドシグナルについてさらに詳細な解析を行った。野生株とppi2をノルフラゾン処理したところ、ppi2変異体のほうが非感受性であることが分かった。また、ppi2では光合成関連遺伝子の核での発現が恒常的に抑制されているが、他のタンパク質輸送変異体においても同様に核遺伝子の発現が影響を受けていることが分かった。現在、葉緑体・核間の双方向のシグナル伝達系間の遺伝学的相互作用についても解析を進めており、これについてもあわせて報告する。
  • 望月 伸悦, 田中 亮一, 田中 歩, 長谷 あきら
    p. 0224
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    核にコードされた葉緑体関連遺伝子(LhcbRbcSなど)の発現は、葉緑体の機能・分化状態に応じて協調的に調節されることが知られている。この協調的遺伝子発現制御には、葉緑体から核に伝達される「プラスチドシグナル伝達系」が関わっている。このシグナル伝達に異常を示すgun突然変異体の解析から、葉緑体で合成されるテトラピロール中間体(MgProtoIX)がシグナル因子の一つであると提唱されているが、その調節・認識機構は明らかになっていない。既報では、MgProtoIX蓄積量はプラスチドが光酸化を受けるとコントロールに比べ10数倍上昇すると報告されているが、我々の結果では1/100に低下することが分かった。しかし、MgProtoIXは蓄積しないにもかかわらず、MgProtoIXを含む中間体の合成能は数倍亢進している事が分かった。すなわち、光酸化を受けた植物では、中間体は活発に合成されても蓄積せず、直ちに代謝・分解されていると考えられる。本発表では、MgProtoIXなど中間体の分解とプラスチドシグナルの関係について考察するとともに、gun1およびMg-chelatase サブユニット変異体(gun4gun5)における中間体合成能の比較を報告する。また、新規突然変異体の単離・解析を進めており、本発表でその一部を紹介したい。
  • 宇野 康之, 加藤 裕介, 松島 良, 坂本 亘
    p. 0225
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    斑入りの白色セクターは、プラスチド分化が異常な生細胞で構成されている。近年の分子遺伝学的研究から、様々な斑入り変異の原因遺伝子が明らかにされる一方で、斑入りの形態形成機構については未知の部分が多い。以前に私たちは、シロイヌナズナの斑入り変異体<I>var2</I>の白色セクターが未分化なプラスチドを持ち、加えて葉緑体への分化過程に見られる特徴的な核様体構造を持つことを明らかにした。このことは、DAPI染色などによる核様体の形態変化により斑入り組織におけるプラスチドの分化状態を比較的簡易に区別出来る可能性を示している。そこで本研究では、まず葉緑体分化過程における普遍的なプラスチド核様体の形態変化を把握し、次に様々な植物の斑入りにおける核様体の形態をこれにあてはめることで斑入りを分類することを試みている。テクノビット樹脂薄切片とDAPI染色法を用いた顕微鏡観察により、野生型植物(シロイヌナズナ、オオムギ)でのプラスチド核様体の変化を葉の生育過程で解析した。その結果、未発達なプラスチドでは核様体はプラスチドの周囲を覆うように局在し、その後プラスチドが葉緑体に分化するのに伴い核様体は包膜近傍で肥大し、やがて葉緑体分化の後期には核様体は収縮し、分散することが観察された。これら葉緑体分化過程で観察された核様体の変化と、斑入り植物で観察される核様体の構造変化による分類を現在進めている。
  • 千代田 将大, 石崎 公庸, 大和 勝幸, 河内 孝之
    p. 0226
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    プラスチドDNAの複製と遺伝は植物にとって必須のメカニズムである。本研究では、陸上植物の間で高度に保存された遺伝子構成のプラスチドDNAを持つ苔類ゼニゴケを材料に、プラスチドDNAの複製と遺伝様式を明らかにすることを目的としている。基盤技術として、ゼニゴケの培養細胞と植物体の高効率なプラスチド形質転換系を構築し、ホモプラズムな植物体プラスチド形質転換株を短期間で確立することができた。プラスチド形質転換株と野生株との交配によって得られた胞子が、母方のプラスチドの遺伝子型に依存してマーカー遺伝子の発現による薬剤耐性を示したことから、ゼニゴケのプラスチドDNAは母性遺伝することが示された。一方、プラスチドDNAの複製様式を調べるために、増殖の盛んなゼニゴケ培養細胞のプラスチドDNAから一本鎖DNAを調製してサザン解析を行った。逆位反復配列中の23S rRNA遺伝子付近が一本鎖DNAに富んだ領域であることが示唆されたため、その近傍領域の複製中間体DNAの構造をアガロースゲル二次元電気泳動によって解析した。小単一コピー領域から進行する複製フォークが逆位反復配列との境界付近で停止した複製中間体DNAが見出された。これは、複製フォークがrRNA遺伝子オペロンの転写装置と衝突することを防ぎ、逆方向の複製フォークが到達するまで複製フォークを停止させる領域をプラスチドDNAが持つことを示唆する。
  • 酒井 敦, 澤井 優, 田草川 真理, 高野 博嘉
    p. 0227
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    我々はタバコ培養細胞BY-2からバクテリアDNAポリメラーゼIホモログのcDNAを2種類単離し、対応する遺伝子をNtPolI-like1およびNtPolI-like2と名付けた。両遺伝子はアミノ酸および塩基配列レベルで97-98%と、実質的に同一といってよいほどの高い相同性を示す。遺伝子産物はDNAポリメラーゼ活性をもち、色素体とミトコンドリアの両方に輸送され、色素体核およびミトコンドリア核の両方に存在すること、その分子量や生化学的性質はオルガネラ核に含まれるDNAポリメラーゼ活性のそれと一致することが明らかになっていた。さらに、オルガネラDNA合成が一過的に活発化する時期にNtPolI-like転写産物が一過的に増加することも分かっていた。今回、転写産物レベルだけではなく、単離オルガネラ核中に含まれるNtPolI-likeタンパク質量も、植え継ぎ直後の細胞増殖ごく初期に一過的に増加することを確認したので報告する。NtPolI-likeタンパク質量の変化は、オルガネラのDNA合成活性やDNAポリメラーゼ活性量の変化と極めてよく一致しており、NtPolI-like産物が細胞増殖初期に見られる一過的なオルガネラDNA合成の活性化に関与するDNAポリメラーゼであることを強く示唆する。現在、NtPolI-likeの発現とオルガネラDNA合成活性との関係についてさらに検討中である。
  • 山岡 尚平, Leaver Christopher J.
    p. 0228
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ミトコンドリアは、分裂・融合・移動を繰り返し、その形態と細胞内での分布を頻繁に変化させる極めてダイナミックな細胞内小器官である。このダイナミクスの制御は細胞の生存に必要不可欠であるが、その分子機構と植物の発生・成長における重要性は未だ不明な点が多い。本研究では、進化的に保存されたミトコンドリア局在型GTPase、Miroの植物の発生における寄与について解析した。シロイヌナズナで見い出されたMiro遺伝子のひとつAtMIRO1は、さまざまな組織で発現し、その遺伝子産物はC末端膜貫通領域を介してミトコンドリアに局在していた。AtMIRO1のホモ挿入変異株は胚発生の極めて初期の段階で致死となり、またヘテロ変異株由来の花粉では花粉管の発芽と伸長が抑制された。この変異型の花粉では、異常に肥大化した形態を示すミトコンドリアが観察された。これらのことから、AtMIRO1により制御されるミトコンドリアのダイナミクスは、正常な胚発生と花粉の機能に重要であることが示唆された。
  • 田草川 真理, 林 朋美, 酒井 敦
    p. 0229
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ミトコンドリア核は、ミトコンドリアのもつ独自のDNAとタンパク質との複合体であり、保存、複製、分配、転写といったゲノムの機能が営まれる場である。ミトコンドリア核内で、DNAはタンパク質により高度に圧縮されながらも、ゲノム機能を適切に発揮できる様式で組織化されている必要がある。このため、ミトコンドリアゲノムの機能制御機構を理解するには、ミトコンドリアDNAの組織化に関与するタンパク質の種類と結合様式を明らかにする必要があると考えられる。そこで我々は、タバコ培養細胞BY-2を用いて、ミトコンドリアDNAがどのように組織化されているのかを検討すると共に、ミトコンドリア核の組織化をもたらすタンパク質の探索を行った。
    単離ミトコンドリア核を様々な酵素/塩で処理した際の形態変化やDNAの分析から、ミトコンドリア核はDNAとタンパク質との静電的な相互作用により組織化されていること、細胞核で見られるヌクレオソームに類似した構造をもつことが推察された。塩処理では、ミトコンドリア核の構造が塩濃度依存的に解体していく様子が観察され、同時に多数のタンパク質がDNAから解離し可溶化されることを確認した。組織化に関わるタンパク質はNaCl可溶性のタンパク質の中に含まれ、DNA結合活性をもつと想定されるため、その中からDNA結合タンパク質の検出を行った。現在、質量分析によりそれら候補タンパク質の特定を進めている。
  • 高梨 秀樹, 大西 孝幸, 茂木 美来, 岡本 龍史, 堤 伸浩
    p. 0230
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物において通常、栄養細胞でのミトコンドリアの形態は小型・粒状であることが知られている。一方で、これまでにゼラニウムやトウモロコシの卵細胞では巨大な釣鐘状・環状のミトコンドリアが観察され、またゼラニウム卵細胞ミトコンドリアは大量のミトコンドリアDNA(mtDNA)を保持しているとの報告があった。
    本研究では、イネ卵細胞ミトコンドリアの形態、特徴を明らかにするため、固定・酵素処理等を行わずに生細胞の状態でイネ卵細胞を単離し、ミトコンドリアとmtDNAを同時に染色して観察を行った。その結果、イネではゼラニウムやトウモロコシとは異なり、卵細胞ミトコンドリアは小型・粒状の形態を取っていることが明らかになった。また、mtDNAの染色結果から、イネ卵細胞ミトコンドリアはイネ根由来プロトプラストミトコンドリアと比較して大量のmtDNAを保持していることが示唆された。さらに詳しい解析を行うため、リアルタイムPCRを用いて、ミトコンドリアゲノム上にコードされているcobCox2について、イネ卵細胞とイネ緑葉由来プロトプラストを用いた定量PCRを行った。その結果cobCox2共に、イネ卵細胞はイネ緑葉由来プロトプラストと比較して数十倍に及ぶコピー数を保持していることが明らかになった。
  • 有村 慎一, 藤本 優, 洞庭 葉子, 角谷 直紀, 坂本 亘, 堤 伸浩
    p. 0231
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ミトコンドリアの分裂は、ダイナミン様タンパク質が細胞質から分裂部位へとリクルートされて、遂行される。シロイヌナズナでは、DRP3A、DRP3B(旧名ADL2a, ADL2b)がこのオルソログとして機能しているが、その他の周辺因子についてはほとんど情報がない。我々は、ミトコンドリアの形態が長大化した突然変異体のスクリーニングとマッピングから、ミトコンドリア分裂にかかわる新規因子ELM1を同定したのでこれを報告する。elm1 (elongate mitochondria) 変異体は、細胞内に著しく長く枝分かれしたミトコンドリアを持ち、また細胞あたりのミトコンドリア数は減少している。この表現型はdrp3a変異体に極めてよく似ている。クローニングされた責任遺伝子ELM1は既知のドメイン構造を持たず、また高等植物からのみ全長の相似配列が見出された。ELM1:GFP融合タンパク質の観察などの結果からELM1はミトコンドリアの外膜外側に一様に局在していると考えられる。elm1変異体の細胞内では、DRP3A:GFPはミトコンドリア分裂部位には見出されず、細胞質に存在する様子が観察された。さらに、この変異体にELM1遺伝子を誘導発現させることによって、DRP3A:GFPが細胞質からミトコンドリアへと局在していく様子と、ミトコンドリアの形態が野生型へと復帰することを確認した。これらの結果から、ELM1はDRP3Aが細胞質からミトコンドリアへとリクルートされるために必要な因子であると考えられる。
  • 藤本 優, 有村 慎一, 中園 幹生, 真野 昌二, 近藤 真紀, 西村 幹夫, 齊藤 知恵子, 中野 明彦, 堤 伸浩
    p. 0232
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    高等植物のミトコンドリア分裂には、DRP3AとDRP3Bという2つのシロイヌナズナダイナミン様タンパク質の関与が明らかである.さらに、このうちDRP3Aについてはペルオキシソーム分裂への関与も報告されている.しかし、これらDRP3A、DRP3Bの細胞内における関係や両遺伝子の機能分化については未解明な点が多い.そこで本研究では、まずDRP3AとDRP3Bの相互作用と詳細な細胞内局在について調査した.Yeast two hybrid法による解析から、DRP3AとDRP3Bが直接相互作用することが示唆された.また、別々の単量体蛍光タンパク質で標識したDRP3A、DRP3Bをそれぞれのプロモーターを用いて植物体で同時に発現させ、その局在様式を比較したところ、DRP3A、DRP3Bは細胞内で共局在することが分かった.次に、DRP3ADRP3BそれぞれのT-DNA挿入変異体及び二重変異体におけるミトコンドリア、ペルオキシソーム形態をそれぞれ比較した.その結果、ミトコンドリア分裂にはDRP3ADRP3Bが重複した機能を持つが、ペルオキシソーム分裂に関してはDRP3Aが主に機能的であり、2つの遺伝子間には機能的な差異が認められることが示唆された.
  • 大森 伸之介, 木水 真由美, 杉田 麻衣子, 内田 英史, 宮尾 安藝雄, 廣近 洋彦, 長戸 康郎, 吉田 均
    p. 0233
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    イネの花器官形成には多くのMADS-box遺伝子が関与し、シロイヌナズナ等で提唱されているABCDEモデルに概ね一致することが知られているが、未解明な部分も多く残されている。我々は、イネのMADS-box遺伝子の中で機能未知であるクラスGに分類されるOsMADS6OsMADS17に注目し、その花器官形成における役割を報告してきた。
    今回、OsMADS6に変異を持つ新たな突然変異体(fm50)の解析を行った。fm50では、OsMADS6のMADSドメイン内の1塩基置換によるアミノ酸置換が起きており、その表現型は、我々がこれまで解析したアリルやRNAiを使用した組換え体よりもシビアだった。これまでの比較的弱いアリルでは、内穎の変化、鱗被の増加と伸長、雄ずいの減少、雌ずいの増加が主な表現型であったが、fm50ではこれらに加えて穎の異所的な形成や穎花のwhorl構造の混乱、分裂組織の有限性の喪失等が観察された。
    また我々は、osmads6の弱いアリルに、RNAiによってOsMADS6OsMADS17の両方をノックダウンできるコンストラクトを導入して組換え体を得た。この系統ではOsMADS6OsMADS17の発現が強く抑制されており、その表現型はfm50と類似のものになった。これらの実験から、イネの二つのクラスG MADS-box遺伝子の関係を考察する。
  • 木水 真由美, 大森 伸之介, 吉田 均
    p. 0234
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    花の器官形成におけるABCモデルは,その後の研究によりABCDEモデルへと発展した. Dクラス遺伝子はCクラスのサブファミリーに属し,胚珠で発現するMADSボックス遺伝子である.イネには2つのDクラス遺伝子 (OsMADS13, OsMADS21) が存在するが,詳細な機能は不明である.そこで我々は,イネの花器官形成におけるOsMADS13の機能を明らかにすることを目的に実験を行った.
    in situハイブリダイゼーション法による発現パターンの解析では, OsMADS13は胚珠分化予定域で発現を開始し,胚珠分化後は胚珠(珠皮,珠心)および心皮の向軸側で強く発現していた.
    OsMADS13をRNAi法によって発現抑制した形質転換イネは,栄養成長期の成長や花器官の外観が野生型と同様であった.しかし,雌ずいの組織学的観察において,珠皮が厚くなり,胚のうが形成されないなど胚珠のみに形態異常が見られた.また,OsMADS13遺伝子内にTos17トランスポゾンが挿入された系統の胚珠は心皮様器官に変換していた.以上よりOsMADS13は正常な胚珠の形成に必須であると考えられた.
    OsMADS13を過剰発現させた形質転換イネの解析結果と併せ,雌ずい形成におけるOsMADS13の機能について考察したい.
  • 岩崎 晃, 松本 任孝, 槻木 竜二, 岡田 清孝
    p. 0235
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    花弁形成機構について、これまでに花弁原基形成やアイデンティティの確立などのメカニズムが遺伝子レベルで明らかにされつつある。しかしながら、花弁原基形成後に花弁がどのような機構で成熟し、一定の形態をとるようになるのかはほとんど知られていない。シロイヌナズナの花弁原基はがく片原基の内側に雄ずい原基の間の位置に形成される。形成された花弁原基は雄ずい原基とがく片原基の間隙を抜けて伸長し開花に至る。私たちは、花弁原基の伸長成熟過程を明らかにするために、花弁の成熟過程に異常のある突然変異体の単離と解析を行っている。folded petals2 (fop2)突然変異体では成熟した花弁に屈曲が見られる。fop2 の花弁原基の伸長過程を観察したところ、がく片原基と雄ずい原基に接するステージ以降において花弁原基の屈曲がみられた。このステージ以前のつぼみからがく片原基を切除すると花弁の屈曲はみられなくなった。一方、屈曲部分を伸ばして、成熟した花弁の大きさとかたちを比較すると、fop2 と野生型で顕著な差はみられなかった。これらは、fop2 ではがく片原基と雄ずい原基が花弁原基伸展の物理的障壁になっていることを示唆している。クローニングの結果、FOP2 はABCトランスポーターをコードすることがわかった。花弁の成熟過程にFOP2 がどのように関わっているかについて、花器官原基間の物理的相互作用という観点から考察したい。
  • 笠原 竜四郎
    p. 0236
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    雌性配偶体は被子植物の生殖に関するほぼすべての段階で重要な働きをもつことが明らかにされてきている。雌性配偶体のもつ重要な機能のうちの一つに、花粉管ガイダンスがある。東山ら(2001)は花粉管ガイダンスには雌性配偶体内の助細胞が必要であることを突き止めた。このように、助細胞の機能的な知見は広がってきているとはいえ、どのような遺伝子産物がこの助細胞の機能に関与しているのかという分子生物学的な知見はほとんど存在しない。そこで、演者はReverse Geneticsの手法を用いて助細胞の遺伝子制御ネットワークを同定するというプロジェクトを米国のユタ大学で開始した。 このようにして演者によって同定された遺伝子がMYB98である。MYB98遺伝子は助細胞のみで発現が見られ、myb98変異体は花粉管を誘導できない表現型を持っていることがわかった。このことにより、MYB98が花粉管ガイダンスに必要であることが判明した。助細胞のみで発現し、かつ機能している転写因子として世界で初めて同定されたMYB98は多くの重要な機能をもつ助細胞の遺伝子制御ネットワーク解明への突破口となるものである。そこで演者は、様々な遺伝学的アプローチによりMYB98周辺遺伝子の解析に着手することになった。今回はそのアプローチ方法についても発表の予定である。
  • 岡田 ひとみ, 古賀 智味, 近藤 仁志, 高橋 卓
    p. 0237
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    シロイヌナズナの茎頂L1層に特異的な遺伝子の発現には,ホメオドメインを持つ転写因子PDF2とATML1が関わり,これら両方の遺伝子機能が低下した二重変異体pdf2-1 atml1-1は,地上部の表皮細胞が正常に分化しない。また,強い機能欠損の二重変異体pdf2-1 atml1-2は胚致死になる。PDF2とATML1はいずれもHD-ZIP IVと呼ばれる遺伝子群に属し,シロイヌナズナのゲノムにはこのメンバーが16遺伝子存在する。これらの遺伝子の多くはpdf2-1 atml1-1二重変異体において発現が低下することや,GUSレポーターを用いた発現解析の結果から,主に表皮細胞で発現していることが示唆された。本研究者らは,HD-ZIP IV遺伝子群の全ての遺伝子について,T-DNA挿入変異体を得てその表現型を調べたが,gl2anl2の既知の遺伝子変異の表現型とhdg11のトライコームの分枝増加の表現型を除いて,各変異体の成長や形態に異常は認められなかった。
    本研究では,表皮細胞分化において中心的な役割を果たすと考えられるPDF2とATML1の変異体と,HD-ZIP IV遺伝子群のその他のメンバーの変異体の交配からそれぞれ二重変異体を作成し,その影響を調べた。その結果,いくつかの組み合わせでは稔性の低下が認められた。
  • 橋田 慎之介, 高原 健太郎, 高橋 秀行, 川合 真紀, 内宮 博文
    p. 0238
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    多くの顕花植物では、水分含量の低下に伴い代謝活性が低下した休眠状態で花粉は放出される。休眠状態の花粉は低湿度条件下で長期生存(保存)可能であり、顕花植物における自然交雑の成否は花粉寿命によって決定される場合が多い。近年、シロイヌナズナにおいて花粉休眠変異体が多数同定されたが、その分子機構は未だ明らかになっていない。我々のグループではシロイヌナズナを実験材料に用いて、ニコチンアミド補酵素群<NAD(P)(H)>生合成の鍵酵素であるニコチン酸/ニコチンアミドモノヌクレオチドアデニル基転移酵素(NMNAT)遺伝子の欠損花粉(nmnat花粉)では野生型と比較して花粉寿命が低下する事を見出した。蛍光試薬を用いたトレーサー実験によって、葯裂開直後のnmnat花粉からは残留水分が検出され、花粉発達過程最終段階における脱水反応が不十分であることが明らかとなった。変異体を高湿度条件下で育成した場合、nmnat花粉特異的に葯室内部での花粉発芽および花粉管伸長が検出された。以上の結果は花粉が乾燥耐性を獲得して休眠状態へ移行するにはNAD生合成が必須である事を示す。
  • 山岡 靖代, 溝井 順哉, 西田 生郎
    p. 0239
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ホスファチジルセリン(PS)は、通常の植物組織では少量(<2 %)しか含まれないが、花では<10 %と含量が高い。植物におけるPSの機能を明らかにするためには、植物のPS 生合成を遺伝学的に抑制する必要がある。PSは、大腸菌や酵母ではセリンとCDP-ジアシルグリセロール(CDP-DAG)を基質とするCDP-DAG経路で合成され、動物細胞ではホスファチジルコリンまたはホスファチジルエタノールアミンを基質とする塩基置換経路(BE経路)で生合成される。シロイヌナズナにはBE型のPS合成酵素遺伝子(PSS1; At1g15110)が存在するがその働きは現在のところ不明である。本研究では、シロイヌナズナPSS1のT-DNA挿入変異株pss1-1について、pss1-1ホモ接合胚が受精後四細胞期までに致死となることを明らかにした。また、PSS1/pss1-1植物体の雄性配偶子形成の観察から、pss1-1花粉では細胞核を消失する割合が高くなることを明らかにした。PSS1-Enhanced Yellow Fluorescence Protein (EYFP)融合タンパク質を発現する形質転換シロイヌナズナでは、EYFP蛍光は花粉内に網目状構造として観察された。以上の結果は、植物の雄性配偶子の発達においてPSの生合成が重要な役割を担っていることを示唆している。
  • 風間 裕介, 藤原 誠, 山中 香, 西原 潔, 小泉 綾子, 阿部 知子, 河野 重行
    p. 0240
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
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    シロイヌナズナの突然変異体には雌雄異株植物の雄花(♂)や雌花(♀)のような表現型を示すものも多い。例えば、superman (sup)変異体では、第3 whorlが拡大し雄蕊(♂)の数が通常の6本から10本近くに増え、逆に雌蕊(♀)の発達が抑制されるのであたかも雄花(♂)のようになる。ナデシコ科の雌雄異株植物ヒロハノマンテマの雄花(♂)は発達した10本の雄蕊(♂)と抑制された細い棒状の雌蕊(♀)からなっていて、その表現型はシロイヌナズナsup変異体によく似ている。ヒロハノマンテマで、SUPとの同一性がアミノ酸レベルで38%、Zincフィンガードメインでは87%になるSUPホモログ(SlSUP)を同定した。SlSUPはシロイヌナズナのsup変異体の過剰雄蕊表現型を相補した。SlSUPはY染色体コードではなく、雌花で発現しているが、雄花では発現していなかった。in situ ハイブリダイゼーションでは、SlSUPは雌花のつぼみの雄蕊原基でシグナルが検出された。マンテマの雌花では、SlSUPが雄蕊原基の細胞増殖を抑制することで、雄蕊原基が伸長せずに雌花になると考えられる。SUPERMAN はマンテマの雌性決定遺伝子である可能性が高い。これを確かめるために黒穂菌感染によって雄(♂)化され擬似雄蕊(♂)を形成するようになった雌花(♀)でSlSUPの発現を調べたところ、雌花(♀)であれば本来抑制されるべき雄蕊原基でステージ8以降シグナルが検出されないことがわかった。
  • 山口 暢俊, 鈴木 光宏, 米田 好文
    p. 0241
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物では小花柄と節間の伸長によって多様に分化した花序が形作られている。我々は散房花序様変異体corymbosa1 (crm1)/bigに注目し、CRM1/BIG遺伝子はオーキシンを介して小花柄と節間の細胞伸長を制御していることを明らかにした。花序形態形成機構をより明らかにするため、crm1変異体のサプレッサーやエンハンサーを探索した。サプッレサー変異体の一つにleafy (lfy)変異体があり、crm1変異体の花茎伸長停止が早くなる表現型を抑圧することがわかった。経時的な発現解析の結果、crm1-1変異体でのLFY遺伝子の発現量は発生段階の後期に野生型よりも多くなることがわかった。発生段階後期に35S::LFY-GRの小花柄をDEXで処理した場合、小花柄は下向きに伸長した。この結果から、LFY遺伝子は茎の伸長過程では小花柄の伸長方向を制御することで、crm1変異体の散房花序様の表現型を引き起こす原因になったと考えられる。そのため現在、LFY遺伝子とCRM1/BIG遺伝子の関係を調べている。
  • 吉田 明希子, 寿崎 拓哉, 平野 博之
    p. 0242
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    花序や花の形態は植物種により多様である。花器官のアイデンティティーの決定にはABCモデルが提唱され、真正双子葉植物に広く当てはまることが示されている。しかし、単子葉植物の花序や花は、真正双子葉植物とは大きく異なるため、その発生には独自の制御システムも機能していると考えられる。そこで、イネ科植物における花の形態形成とその発生機構について解析し、植物花器官の進化に関わる新たな知見を見出すことを目的として本研究を行った。イネの小穂には、一つの完全な小花とその外側に一対の護穎が形成される。護穎は、本来この位置に作られるべき二つの小花が退化して、唯一残された外穎の形態が変化した器官であると考えられている。そこで、護穎の発生とその進化的な意義を探る目的で、護穎が長くなる一因子劣性突然変異体g1に着目して研究を行った。まず、表現型の解析を行ったところ、g1変異体の護穎の表皮細胞や内部構造は、野生型の外穎の特徴を持っていた。従って、g1変異体では単に護穎が長いだけではなく、護穎のアイデンティティーが外穎様に変化している可能性が考えられる。次に、詳細なマッピングを試みた結果、第7番染色体の短腕末端部にゲノム欠失を見出し、g1変異体の原因遺伝子をほぼ特定した。その遺伝子は、護穎で特異的に発現していた。以上の結果より、G1遺伝子は外穎の特徴を抑制することにより、護穎のアイデンティティーを制御していると考えられる。
  • 山崎 広顕, 小林 善親, 鹿内 利治
    p. 0243
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    銅は全ての生物において必須な微量金属である。高等植物において銅は、光合成電子伝達、活性酸素消去、呼吸、エチレン感受等に関与する。しかし過剰な銅は生物にとって有毒であるため、銅過剰条件下で植物は厳密な銅輸送や銅タンパク質の蓄積を上昇させることにより銅過剰による害を回避している。
    一方、銅欠乏条件下においては活性酸素消去に関与する銅タンパク質であるCu/Zn SOD (CSD1、CSD2: それぞれ細胞質型、葉緑体型)の発現抑制が起こる。我々はこれまでにmicroRNAのmiR398がこの調節に関与していることを証明した。miR398は銅欠乏条件下において特異的に発現しCSD1CSD2 mRNAの分解に関与する。失われた活性酸素消去機能は同じく銅欠乏時に特異的に発現するFeSODによって補われる。このように植物は銅タンパク質への銅の分配を制御することで銅欠乏環境に適応する。この他にも植物は銅欠乏時には根に局在する銅トランスポーター群の発現を上昇させる。このように高等植物は銅欠乏環境に適応するための様々な戦略を有している。
    本研究において私はmiR398の転写活性化因子と推測されるSPL7を同定した。さらにSPL7は銅欠乏時にFeSOD、また銅トランスポーター群の転写も同時に上昇させたことから、複数の銅欠乏に応答する遺伝子の転写活性化因子であることが示された。これらの結果はSPL7が高等植物の銅欠乏環境への適応機構を同時に制御する重要な因子であることを示唆する。
  • 永江 美和, 中田 克, 高橋 陽介
    p. 0244
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Superoxide dismutase (SOD) は,活性酸素の一種スーパーオキシドを除去する酵素である。葉緑体には FeSOD と Cu/ZnSOD が存在する。我々は,コケ植物蘚類ネジクチゴケの葉緑体において銅濃度の上昇により FeSOD 活性が減少すること,逆に Cu/ZnSOD 活性が増加すること,その制御が転写レベルで行われていることを見出した。
    本研究では FeSOD 遺伝子の銅による転写制御の解明を目的とした。コケ植物形質転換体を用いた詳細な FeSOD プロモーターの解析から,複数の GTACT 配列が銅応答抑制シス因子であることを明らかにした。GTAC を結合配列とする転写因子に SBP (SQUAMOSA promoter binding protein) family がある。そこで,ヒメツリガネゴケ PpSBP 遺伝子群に着目し,これらが GTACT 配列を含む FeSOD プロモーターと in vitro で特異的に結合すること確認した。また,コケ植物 FeSOD プロモーターを導入したタバコ形質転換体でも銅応答性を示した。更に,シロイヌナズナ FeSOD プロモーターは,複数の GTACT モチーフをもち,このプロモーターを導入したシロイヌナズナとタバコ形質転換体も同様に,銅応答性を示した。これらの結果は,GTACT モチーフが銅応答抑制シス因子としてコケ植物から高等植物まで保存されている可能性を示唆している。
  • 小林 高範, 小郷 裕子, 板井 玲子, 中西 啓仁, 高橋 美智子, 森 敏, 西澤 直子
    p. 0245
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    植物は鉄欠乏条件下で鉄の吸収・利用機構に関与する遺伝子群の発現を誘導するが、この遺伝子制御の分子メカニズムはほとんど解明されていない。そこで我々は、これまでに同定した鉄欠乏応答性シスエレメントIDEに特異的に結合する転写因子の探索を行った結果、イネの新規転写因子IDEF1(IDE-binding factor 1)の同定に成功した。IDEF1は植物固有の転写因子ファミリーABI3/VP1の未だ解析されていないサブグループに属し、IDE1内のCATGC配列に特異的に結合するという新規の配列認識特性を持つことが明らかになった。IDEF1の転写産物はイネの根と葉で恒常的に発現していた。35Sプロモーターの制御下でIDEF1を恒常的に高発現させた形質転換タバコでは、鉄欠乏根のみでIDE1を介した発現が活性化された。さらに、鉄欠乏誘導性IDS2プロモーターの制御下でIDEF1を発現させた形質転換イネは、鉄欠乏水耕液で鉄欠乏クロロシスの進行が遅く、石灰質アルカリ土壌で発芽させると良好な初期生育を示した。この形質転換イネは鉄欠乏条件下で二価鉄トランスポーター遺伝子OsIRT1と、鉄欠乏誘導性転写因子遺伝子OsIRO2の発現を促進させた。これらの結果から、IDEF1は鉄欠乏応答に関与する多段階の遺伝子制御ネットワークの初期段階を担うことによって鉄欠乏応答性と耐性を制御することが明らかになった。
  • 臼田 華奈子, 和田 泰明, 高橋 美智子, 石丸 泰寛, 中西 啓仁, 長戸 康郎, 森 敏, 西澤 直子
    p. 0246
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    ニコチアナミン(NA)は調べられた限りすべての高等植物に含まれるアミノ酸で、植物体内での金属移行に重要な役割を果たしている。またホ乳動物においてNAは、血圧降下作用を示す。我々は、主食のNA含量を高めれば日常の食生活において高血圧症予防ができると考え、高機能性食品としてコメのNA含量を高めることを目指した。
    イネの可食部にあたる種子内胚乳で強い発現を誘導する、イネ種子貯蔵タンパク質グルテリン遺伝子のプロモーターpGluB-1下で、オオムギのNA合成酵素遺伝子HvNAS1を発現させた。また、イネへの遺伝子導入用ベクターとして、遺伝子導入確認に用いた抗生物質耐性遺伝子を形質転換後の植物体から除去できる、マーカーフリーベクターpBIMFNを用いた。形質転換体イネT1世代22系統について、HPLCを用いて種子中NA含量を測定し、含量が高い3系統を選抜した。これらの系統ではT4世代でもNA含量は非形質転換体の4倍以上であったことから、NA含量が高いという形質が保持されていると確認された。さらに本研究では作出したNA高蓄積米を、閉花性受粉突然変異体と交配させ、環境中に花粉が拡散しないイネを選抜した。このイネの種子中のNA含量は非形質転換体の約2倍であった。このように本研究では血圧降下作用をもつNAを種子中に多く蓄積し、かつ、社会に受け入れられやすい遺伝子組み換え作物の作出に成功した。
  • 増田 寛志, 臼田 華奈子, 小林 高範, 高橋 美智子, 中西 啓仁, 森 敏, 西澤 直子
    p. 0247
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    鉄欠乏と亜鉛欠乏症の人々は、世界中でそれぞれ20億人いると言われ、ヒトにおける微量栄養素欠乏症の中で特に深刻である。そこで、遺伝子組換えの手法により、種子における鉄や亜鉛含有量を高めたイネを創製すれば、鉄欠乏や亜鉛欠乏の改善に大きく貢献すると考えられる。ニコチアナミンは高等植物の体内において鉄や亜鉛とキレートし、種子などのシンク器官への金属栄養の供給において非常に重要な役割を担っていることが知られている。そこで我々は、オオムギのニコチアナミン合成酵素HvNAS1 をイネのActin プロモーター制御下で過剰発現させ、植物体内における鉄、亜鉛の転流効率を高めることにより、種子中の鉄、亜鉛含有量を増加させることを試みた。形質転換イネを作出し解析した結果、T1種子の白米中の鉄、亜鉛含有量は、非形質転換体に比べてそれぞれ3倍以上、2倍以上に増加していた系統が得られた。また、T1植物体における地上部のニコチアナミン含有量は、非形質転換体に比べて 5倍から 20倍に増加していた。形質転換体の根、地上部における鉄、亜鉛含有量に顕著な増加が見られなかった。これらの結果から、種子中の鉄、亜鉛含有量の増加は、土壌からの吸収が強化されたことよりも、体内における転流が促進されたことによる寄与が大きいと考えられる。
  • 渡辺 明夫, 清水 都乃, 高橋 秀和, 桜井 健二, 服部 浩之, 赤木 宏守
    p. 0248
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    Cd汚染土壌のファイトレメディエーションの実現には、植物がCdに応答する機構を理解することが重要である。演者らは植物のCd応答を分子レベルで解明するために、培地中にCdの濃度勾配を持つCd濃度勾配培地を考案し、これを用いてシロイヌナズナのCd応答変異体を単離し、解析を行ってきた(第47、48回大会)。これまでに得られたさまざまな変異体のうち、今回報告するT-26変異体は、根から吸収したCdを地上部へ輸送できなくなった変異体候補として選抜されてきた。すなわち、この変異体では、Cd濃度勾配培地上では培地中のCdのために根の伸長は阻害されるものの、対照的に地上部は健全に展開するという特徴を示した。そこで、播種後約2週間のT-26変異体に30μMのCd溶液を根から与え、24時間後に地上部を収穫しCd濃度を測定した。その結果、同様の処理を行ったWTの地上部に比べ、T-26変異体では、乾物重あたりで約3分の1程度の濃度にしかCdを蓄積していないことが示された。このことからT-26変異体では、EMSにより誘発された変異のために、Cdを根から地上部へ輸送する経路のどこかに異常が生じていることが強く示唆された。どのような分子機構により、T-26変異体では根から地上部へCdが輸送されにくくなったのかを解明するために、現在、解析を進めている。
  • 浦口 晋平, 森 伸介, 荒尾 知人, 石川 覚
    p. 0249
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    作物のCd汚染に対する社会的関心が高まるなか,イネのCd吸収・蓄積に関わる要因の解析は、コメのCd濃度を低減させる技術を開発する上で重要な課題である。これまでに我々は,玄米のCd濃度には大きな品種間変異が存在すること,コシヒカリとカサラスを用いたQTL解析により玄米のCd濃度には遺伝的要因が関与することを明らかにした(Arao・Ae,2003; Ishikawa et al., 2005)。本報では,亜種の異なるササニシキとハバタキの2品種を用いて,Cd蓄積性を支配する要因を解析した。
    水田の土壌溶液(節水時)で認められるレベルのCd(20μg/L)濃度に調製した水耕液を用いて,両品種の実生を2週間栽培した。地上部へのCdの蓄積は,濃度・蓄積量ともに曝露期間を通じてハバタキにおいて優位であった。蒸散量と導管液の解析から,ハバタキは,導管を介した地上部へのCd輸送量がササニシキより高いことが示された。ABA処理により蒸散量を品種間で同程度に抑制した条件下においても,導管液のCd濃度と地上部のCd濃度はハバタキで高かった。よって,ハバタキの高いCd蓄積性は導管へのCd積み込み能に起因すると考えられた。水田土壌を用いたポット試験の結果は,水耕栽培の結果を支持し,ハバタキの導管液,茎葉部そして玄米に高レベルのCdが認められた。以上の結果から,イネ地上部へのCd蓄積性に関わる要因として,導管液への積み込み能および蒸散を介した輸送能の重要性が示唆された。
  • 伊藤 貴之, Waditee Rungaroon, 平田 絵美, 日比野 隆, 田中 義人, 高倍 昭洋, 寺倉 伸治
    p. 0250
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/12/18
    会議録・要旨集 フリー
    カルビンベンソンサイクル、解糖、あるいはペントースリン酸経路で生じる3-ホスホグリセリン酸は、3-ホスホグリセリン酸脱水素酵素(PGDH)とそれに続く2つの反応によりセリンになる。セリンはセリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼによりグリシンになる。ベタインは植物が塩・乾燥ストレスに曝されたときに作られる重要な適合溶質である。多くの生物ではベタインはコリンの2段階の酸化により合成されるが、耐塩性ラン藻 Aphanothece halophytica ではグリシンの3段階のメチル化反応によって合成される。これまでの研究の結果、ベタインの蓄積には、エタノールアミン、セリン、グリシン等の供給が重要であることが示されている。そこで、今回ベタインの蓄積に及ぼすPGDHの効果について、1)耐塩性ラン藻、2)グリシンの3段階のメチル化に関与するグリシンサルコシンメチルトランスフェラーゼ(ApGSMT)およびジメチルグリシンメチルトランスフェラーゼ(ApDMT)遺伝子を導入したアラビドプシスを用いて、そのベタイン蓄積に及ぼす前駆体の効果について検討した。これらの結果について報告する。
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