ヒノキ飽水材半径方向の曲げ応力緩和を20℃から30~80℃範囲の6条件の各温度へ急上昇, また30~80℃範囲の各温度から20℃へ急下降させ, 温度変化3分後からの応力緩和を3時間測定した。そこで, 木材の流動量を相対緩和弾性率の変化量 (1-
Et /E0) と定め, その量を求めて検討した。得られた結果は以下のとおりである。
1) 20℃から30~80℃範囲の6条件の温度へ急上昇させた試験片は, 急上昇後の各温度に相当する一定温度に長時間保持した試験片に比べて明らかに流動性の増加を示した。従って, 急激な温度の上昇においても不安定状態が生じることが明確となった。
2) 急激な温度の下降と上昇による流動性の増加を比較検討した結果, 温度下降の場合には, 温度変化幅に比例して増加したが, 温度の急激な上昇の場合には, 20℃から50℃, 60℃の温度に上昇する条件で流動量の最大値を示す。特に60℃以上の温度で流動量の減少を示す理由は, 高い温度ほど不安定の解消速度が大きいことによる。
3) 合成曲線から求めた緩和スペクトル分布のピークは, 流動性の大きい不安定状態の試片で安定状態の試片 (コントロール試片) に比べて短時間側に認められた。またシフトファクターと絶対温度の逆数の関係から求めた見かけの活性化エネルギーは, コントロール試片で72.6 Kcal/mol, 温度履歴試片で61.8 Kcal/molとなり, 後者がより小さい。従って, 温度の急上昇によって細胞壁内に緩和を生じる不安定構造が形成されたと言える。
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