木材学会誌
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65 巻, 1 号
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総説
  • 梅澤 俊明, 山村 正臣, 小埜 栄一郎, 白石 慧, サフェンドリ ・ コマーラ ・ ラガムスタリ
    2019 年 65 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    リグナンは代表的なフェニルプロパノイド系二次代謝産物である。リグナンの化学構造は多様であり,取分け芳香核のメトキシ基の置換様式の多様性が代謝最終産物の構造多様性賦与に大きく効いている。我々はリグナンのフェノール性ヒドロキシ基のO-メチル化を触媒する,いわゆるリグナンO-メチル基転移酵素(OMT)をコードする 遺伝子(cDNA)を従来6種取得してきた。さらに,近年Podophyllum hexandrumから2種のリグナンOMT遺伝子の取得が報告された。これらのリグナンOMTのアミノ酸配列は多様であり,また反応の基質特異性や位置選択性において多様であることから,リグナンOMTは個々の植物種において収斂進化的に進化してきたことが推定される。このことは,今後,有用生理活性リグナンの合成生物学的生産を含め,より詳細なリグニン生合成研究を進めるにあたり,一つの指針を提供すると考えられる。

カテゴリーI
  • 高澤 良輔, 山内 秀文, 林 知行
    2019 年 65 巻 1 号 p. 13-18
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    本研究では,チップの初期含水率及び蒸煮時間がMDFの物性に及ぼす影響を検討した。予め10,30,60および90%の含水率に調整したアカシアマンギウムのチップを蒸気圧0.7MPaの下,3~18分間蒸煮して解繊した。チップが高含水率の場合,短い繊維が減少し,曲げ強度が改善された。蒸煮時間の経過とともに曲げ強度と剝離強度は減少した。これは蒸煮によるヘミセルロースの分解が原因であると考えられた。アカシアマンギウムを原材料とする場合,高初期含水率チップを用い,短時間の蒸煮で解繊を行うことで高い曲げ強度が得られることが明らかとなった。

  • 金 光范, 翟 睿, 寇 顺利, 吴 安波, 中川 明子
    2019 年 65 巻 1 号 p. 19-24
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    本研究はNaOH・チオ尿素水溶液を用い,-5℃でタケ(モウソウチク:Phyllostachys pubescens)の前処理を行い,アルカリ量,浸漬時間および冷却時間が機械パルプ強度に与える影響を調べた。その結果,アルカリ濃度が6%,浸漬時間15分および冷却時間60分の条件で前処理を行った機械パルプの強度が最も良い結果となった。また,タケの漂白化学機械パルプを調製して比較を行った結果,NaOH・チオ尿素前処理機械パルプは,解繊電力消費が低く,精選収率, 白色度および強度が高かった。しかし,NaOH・チオ尿素水溶液で処理したタケ機械パルプとタケの漂白化学機械パルプ,二種類のX線回折曲線には大きな差は見られず,また,NaOH水溶液処理とNaOH・チオ尿素水溶液処理後のタケチップの表面形態の電子顕微鏡観察では,大きな差は見られなかった。

  • 島田 菜津美, 津山 濯, 亀井 一郎
    2019 年 65 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    非木質材料を含む多種多検体バイオマス試料の迅速なリグニン量評価に向け,本研究ではチオグリコール酸(TGA)法を迅速化した。迅速TGA(rTGA)法は既存法の,1M NaOHでのTGAリグニン抽出時間を16hから1hに,濃塩酸滴下後のTGAリグニン沈殿操作を4℃4hから転倒混和のみに短縮した方法である。rTGA法で得たリグニン量は,様々な試料で従来法と有意差が無かった。さらに,rTGA法で得たTGAリグニン沈殿を凍結乾燥し秤量することでリグニン量を求める,迅速TGA重量(grTGA)法を考案した。木部試料のリグニン含有量はクラソン法とgrTGA法どちらの手法でもおよそ同等であったが,スギ葉のリグニン含有量はクラソン法よりもgrTGA法の方がかなり低かった。組織化学的解析でスギ葉の木化細胞がわずかであったことから,葉のリグニン定量はgrTGA法がクラソン法よりも適することが示唆された。

カテゴリーII
  • 田鶴 寿弥子, 杉山 淳司
    2019 年 65 巻 1 号 p. 33-38
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    歴史的建造物の修理に際して行われる部材の科学的調査の中でも,樹種調査は取り換え材の選択において有効な知見となるだけでなく,建造当時の木材流通や木材選択の情報獲得のためにも有益であり近年より重要度を増している。本研究では,2016年の熊本地震によって倒壊した熊本県指定重要文化財「洋学校教師館」の復旧・再建にむけた調査の一環として部材の樹種調査を行ったので報告する。全壊となった洋学校教師館の破損部材より試料を採取し,プレパラートの作成,樹種識別を行った結果,計8樹種の使用が認められた。今回の調査は17部材の調査に過ぎないが,地震で全壊した文化財の最後の声なき声を拾うものであり,今後の洋学校教師館再建において重要な知見となるものと考えられる。

  • 小島 陽一, 小林 千夏, 庄司 拓磨, 小堀 光, 鈴木 滋彦, 西城戸 邦治, 高橋 一聡
    2019 年 65 巻 1 号 p. 39-45
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    木質パネル類を構造用途に利用する場合,釘接合性能の耐久性が重要となる。本論文では,パーティクルボード(PB)と合板(PW)を用いて,促進劣化処理試験を行う際の釘の打ち込みタイミングによって各釘接合性能にどのような影響を及ぼすのかを検討した。その結果,釘打ちした後に促進劣化処理を施したDry-1と処理後に釘打ちを行ったDry-2において,JIS規格に規定された釘側面抵抗力(Lateral nail resistance:LNR)残存率,および釘頭貫通力(Nail head pull-through:NHP)残存率が同程度になったことから,促進劣化処理前後の釘打ちのタイミングはLNRやNHPに影響を及ぼさないことが明らかとなった。一方,ASTM規格に規定される釘引抜抵抗力(Nail withdrawal resistance:NWR)に関しては,Dry-1の方が明らかに小さな値を示した。

カテゴリーIII
  • 原田 寿郎, 上川 大輔, 宮武 敦, 新藤 健太, 服部 順昭, 安藤 恵介, 宮林 正幸
    2019 年 65 巻 1 号 p. 46-53
    発行日: 2019/01/25
    公開日: 2019/01/29
    ジャーナル フリー

    難燃薬剤を注入した木材(難燃処理木材)で被覆することによりCLTに2時間耐火性能を付与できる技術開発を目指し,研究を行った。壁の加熱試験においては,難燃処理木材(スギ)のパネルを同一層のパネル同士は突きつけにして,2層ネジ留めにより直交積層して,総厚さを90 mmの被覆層とした壁試験体を作製し,2時間耐火試験を行ったが,荷重支持部であるCLTが燃焼し,耐火性能を付与することができなかった。床試験では,厚さ方向は積層接着により一体化し,総厚さを100mmとした難燃処理木材積層パネルとした。パネルの目地の仕様は難燃処理した雇い実または片側スプラインとし,CLTには座掘りをしてネジ留めした。この試験体の2時間耐火試験を行ったところ,発炎燃焼は放冷中に終了し,炭化も被覆層で止まることが明らかとなった。これにより,難燃処理木材を用いてCLTに2時間耐火性能を付与可能な仕様を開発することができた。

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