様々な木質構造用新部材の開発が進んでいる昨今,ビスによる木材と木質面材料の接合部においても,長期的なせん断力が掛かることが想定されるようになっている。これを踏まえて,ビス接合部のせん断におけるクリープ特性を把握する必要があると考え,せん断クリープ試験を実施した。主材をヒノキ,側材を構造用針葉樹合板としたビス接合部試験体を用いて,室温20℃,湿度65%に制御された恒温恒湿室にて,40000時間を超えるせん断負荷を与えた。応力レベルは,降伏耐力を基準値として39.0~70.2%とした。せん断負荷時間の増加にともなって変位が増加する挙動を示した。本研究では,測定された変位-時間関係をもとに,クリープ限度を推定する方法を提案した。提案した方法を用いると,本試験でのビス接合部のクリープ限度は,応力レベル27.6%であることが推定された。
世界貿易機関の協定により国が直接的に国産製品を優遇することはできず,国産材の利用拡大に関する施策は県産材等として地方行政が担っている。各県は主要な木材の需要先である住宅建築に助成しており,秋田,岐阜,奈良県は県外の住宅施主へも助成している。県産材の県外利用促進は販路拡大の観点から重要であるが,県予算の他県への支払いには県民や県議会の理解を得る必要があり,その方策として当該制度による県内への便益を定量的に示すことが有効である。そこで,上記3県の助成制度によって生じた木材需要に対する経済波及効果を推計した。生産誘発倍率はそれぞれ1.44,1.47,1.37,費用対効果は4.88,8.85,6.70,事業予算に対する税収効果の比は0.129,0.345,0.255となった。また,奈良県が実施した施主の意識調査から助成制度により県産材需要を喚起できることが示される等,施策の有効性が確認された。
塗装による可視光反射率変化のメカニズムを明らかにする目的で,1回塗り0.05gの塗料を,最大4回塗布した柾目と木口のヒノキ (Chamaecyparis obtusa) に対して,X線CTによる材料内部の組織構造観察および分光光度計による可視光の光学特性測定を行なった。X線CT画像の観察から,柾目面サンプルでは,材料内部への塗料浸透が確認できなかったのに対し,木口面サンプルでは,材料内部への塗料浸透が確認された。また木口面サンプルの塗料浸透性を定量化したところ,塗布量と正の相関にあった。光学特性測定から,中~長波長域で吸収率ではなく透過率の増加によって反射率が低下していること,および,浸透量が増すほど透過率が上がり反射率が下がっていることが明らかとなった。以上の結果より,透明塗装による明度低下のメカニズムには,塗料の浸透量の増加に伴う中~長波長域の透過率増加の影響が示された。
通直なスギの試験体を用いて逆対称4点曲げ試験を実施してせん断強さを測定した。試験体形状は一定とし,支点および荷重点の位置を様々に変化させた。一方,試験体の上下に切り欠きを導入した試験体についても逆対称4点曲げを実施してせん断強さを測定し,通直な試験体から得られたせん断強さの値と比較することで支点および荷重点の位置の影響について検討した。その結果,支点と荷重点の位置を適切に決定することにより,切り欠きを導入した試験体と同等な結果が得られる可能性が示唆された。
北海道産カラマツ及びトドマツの5層5プライCLTについて,中央集中荷重法及び逆対称4点荷重法によってせん断試験を行い,面外せん断強度を評価した。また,試験時のスパン条件がせん断強度に与える影響を検証するために,複数のスパン条件で試験を行った。試験の結果,(1) トドマツCLTにおける面外せん断強度はカラマツCLTの概ね7割程度となること,(2) 破壊形態は,集中荷重法によるせん断試験では,カラマツCLTの約半数で最大荷重時に曲げ破壊を示したが,逆対称4点荷重法においては全条件でせん断破壊を示すこと,(3) いずれのせん断試験方法においても,せん断スパンが長くなるに従ってCLTの面外せん断強度はべき乗則に沿って漸減し,一定値に収束する傾向が示された。逆対称4点荷重法においては,収束値は圧縮型ローリングシアー試験によるせん断強度に近い値となることが明らかとなった。
集成材の耐久性に関する知見蓄積のために,30年間シンボルタワーの部材として屋外使用されていた構造用湾曲集成材について,腐朽の発生状況を調べるとともに,見掛け上健全部分の接着せん断強さおよび木部せん断強さを測定した。腐朽は,タワー上部および中部には発生していなかったが,下部では発生していた。見掛け上健全部分の接着せん断強さおよび木部せん断強さは,下部が上部,中部よりも小さかった。また,木部せん断強さと試験片密度との間には正の相関があったが,接着せん断強さと試験片密度との間には相関が認められず,接着せん断強さは木部せん断強さより小さかった。集成材の積層方向の中央付近において幅方向の差を比較した結果,木部せん断強さに差はなく,接着せん断強さは端部で低い数値が出現した。端部では,乾湿繰り返しに伴う木材の膨潤収縮により,接着層付近に繰り返し応力が発生したため,接着せん断強さが低下したと考えられた。
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