日本きのこ学会誌
Online ISSN : 2432-7069
Print ISSN : 1348-7388
24 巻, 3 号
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  • 寺嶋 芳江
    2016 年 24 巻 3 号 p. 113-120
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル オープンアクセス
    担子菌チャアナタケモドキは,スギ品種サンブスギに非赤枯性溝腐病を起こす.長年,本病は千葉県特有とされてきた.しかし近年,本菌はスギ他品種,経済的に重要なヒノキ,ニホンナシにも被害を与える.野外観察により,本菌は枯死枝から侵入し,形成層を破壊し,肥大生長を阻害すると推測された.しかし,なぜサンブスギが被害を特に受けやすいかについての説明は明らかではなかった.本菌の生理的性質として木材構成成分である炭素源を資化すること,高いグルコース/イースト抽出物比の培地,および低い水分活性の培地でも成長することが実験的に示された.さらに,生枝樹皮および枯死枝材に比べて枯死枝樹皮と生枝材により多くのグルコースが含有され,生きた材を覆う枯死樹皮からなる「枯死直前の幹に残る枝」はチャアナタケモドキの好適な栄養源である.枯死直前の枝を幹に長期間残すというサンブスギの品種特性が本菌侵入に好条件を提供している.また,罹病部分では本菌侵入に対して本来防御物質として働くポリフェノール含有量が少ない.
  • 高畠 幸司, 五十嵐 圭日子, 鮫島 正浩
    2016 年 24 巻 3 号 p. 121-128
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル オープンアクセス
    ヤマブシタケ,ナメコ菌床栽培において,培地調製時に多糖分解酵素を添加することによる子実体形成,培地中のグルカン類の含量に及ぼす影響を検討した.ヤマブシタケ栽培ではアミラーゼ(中温性:MPA, 耐熱性:HRA)を添加することにより子実体収量は無添加区の1.4 倍に増収した.β-1,3- グルカナーゼ(GLU)の添加はアミラーゼと同様に作用し,無添加区の1.5 倍に増収した.HRA とGLU を混合して添加した場合(HRA+GLU)では,混合による効果を示さなかった.ナメコ栽培では,MPA, HRA を50-500ppm 添加することで子実体収量は無添加区の10-20 % 増収し,発生する子実体は大型化した.GLU は添加効果が認められなかったが,HRA+GLU ではHRA のみの添加より子実体収量が多くなり,相補作用が認められた.MPA,HRAの添加によりヤマブシタケ,ナメコの両培地共に遊離グルコース,低分子α-,β- グルカンの含量が増加した.ナメコ栽培では,GLU の添加により遊離グルコース,低分子α-,β-グルカンの含量に変化はなく,ヤマブシタケ栽培ではGLUの添加によるグルカン類含量の変化はアミラーゼと同様の傾向を示した.これらグルカン類含量の変化は子実体収量の結果と符合した.食用きのこ栽培において,栽培するきのこ種に応じて多糖分解酵素の組み合わせを検討することにより,培地調製時に多糖類分解酵素を添加することは有用な栽培方法になるものと考えられる.
  • 安積 良仁, 土居 香織, 小木曽 加奈, 田口 悟朗, 下坂 誠, 大内 謙二, 稲冨 聡
    2016 年 24 巻 3 号 p. 129-135
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル オープンアクセス
    ヒラタケ属の品種改良で開発された新規菌株(IC1)の嗜好特性についてエリンギおよびヒラタケと対比し,呈味性成分の定量と官能評価を併用して評価した.呈味成分において,旨味を呈するGlu および5’-GMP は,IC1 にヒラタケと同程度含まれ,Gly,Ala および5’-IMP は,ヒラタケおよびエリンギと比べてIC1 で有意に高い値を示した.甘味を呈するトレハロースはIC1 において,ヒラタケよりも有意に高かったが,エリンギよりも有意に低かった.熱水抽出エキスでの官能評価において,IC1 はヒラタケと比べて甘味は強いが苦味が少ない,また,エリンギと比較して旨味が強いという特長がみられ,全体的なおいしさでは,IC1 はヒラタケ,エリンギより有意に高い評価が得られた.主成分分析を実施し,3 種類のきのこの嗜好特性を検討した結果,味の濃さと甘味の強さ,全体的なおいしさで明確に区別することが出来た.その中で IC1 に多く含まれていた Gly, Ala および5’-IMP がIC1 の呈味性に影響を及ぼしている可能性が考えられた.以上から,成分分析と官能評価を併用することによって,ヒラタケおよびエリンギが持つ長所を併せ持つ優良な菌株であることが示された.
  • 有馬 忍, 篠原 弘亮, キム オッキョン, 根岸 寛光
    2016 年 24 巻 3 号 p. 136-141
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/09/22
    ジャーナル オープンアクセス
    黄褐変および腐敗した菌床栽培のヒラタケ,エリンギ,ヤマブシタケおよびエノキタケ子実体からA-D3 培地を用いて分離した細菌は,細菌学的性質および16S rRNA 遺伝子の塩基配列からシイタケ腐敗病菌Ewingella americanaGrimont et.al. (1984) と同定した.分離菌を菌掻き後のヒラタケ栽培ビンに噴霧接種した結果,子実体の菌傘が黄褐色に変色することを確認した.菌掻き4 日目の接種後に20℃で3 日間管理した栽培ビンからは,腐敗を伴う変色子実体が発生した.変色子実体から再分離を行った結果,Ew. americanaを接種した子実体はA-D3 培地上に黄色集落が生育したことから,コッホの原則を確認できた.今回の試験結果からEw. americana は,国内のきのこ栽培環境に広く分布し,子実体の変色や腐敗を引き起こすことが示唆された. 一方,Pseudomonas tolaasii を接種した栽培ビンからは,菌傘上に褐色の斑点が生じた子実体の発生を確認し,Ew. americana を接種した病徴とは異なった.本報告は,原基形成前のヒラタケ栽培ビンにEw. americana あるいはPs. tolaasii を接種する方法で,病徴を再現した初めての報告である.
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