温帯性落葉広葉樹と針葉樹から主としてなり, 浅裂状, 歯状~歯牙状縁の多様な葉のコナラ属を特徴的に含む漸新世植物相が, 日本, 北朝鮮, ロシヤのプリモリヤ地方に分布する。浅裂状の葉をもつコナラ属の漸新世化石を分類学的に再検討し, Quercus kobatakei Tanai and Yokoyama, Q. kodairae Huzioka, Q. sichotensis Ablaev and GorovoiおよびQ. ussuriensis Kryshtofovichのコナラ亜属に属する4種を識別した。Q. ussuriensisはCerris節に属し, 東アジアよりもむしろヨーロッパ~西アジアの現生種に近似し, 残りの3種はPrinusまたはQuercus節に属し, 北アメリカのPrinus節またはヨーロッパ~西アジアのQuercus節の現生種に似ている。次いで, コナラ亜属の北半球における化石記録を概観して, 上記の4種の植物地理学的な意義を考察した。Cerris節は東アジア及びカザック東部に漸新世初期に出現し, 中新世以降西アジアやヨーロッパに分布を広げたが, アメリカ大陸には及んでいない。一方, PrinusとQuercus節の化石記録は東アジア起源を示唆しているが, この両節は葉のみでは区別が十分ではないので, これらの植物地理的な歴史は必ずしも明らかではない。
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