細胞老化は細胞増殖を停止させることで,がん抑制機構として長らく考えられてきた.しかしながら近年では,細胞老化はがん抑制の他に,発生,組織の老化,損傷修復など,様々な機能があることがわかってきた.驚くべきことに,p53変異,欠失などのある一定の条件下では,細胞老化は分泌因子を介してがん促進に寄与することもわかってきた.老化細胞は炎症性サイトカイン,ケモカイン,増殖因子,マトリックスリモデリング因子などの分泌(senescence-associated secretory phenotype; SASP)を亢進させ,周辺環境を変化させる.そのようなSASP因子は,細胞老化が多面的機能を持つ要因となっている.本総説では,慢性炎症,がん促進に着目した,細胞老化に関する分子,細胞レベルで得られている知見を紹介する.