カオス応答を示す非線形力学系の一つにベルヌーイシフト写像がある.ベルヌーイシフト写像は,傾きが2の線形写像を組み合わせた区分線形力学系であるが,その記述の単純さにより,様々な場面で用いられている.ベルヌーイシフト写像では,状態値を2倍し,その結果に応じてmod 1演算を施す.そのため,2進体系を用いる現在のディジタルコンピュータでベルヌーイシフト写像の応答を実装する際には注意が必要となる.本稿では,まず,ディジタルコンピュータを用いた数値計算により,ベルヌーイシフト写像の応答を実装する際に生じる問題について述べる.続いて,この問題を解決する方法として,ベルヌーイシフト写像により状態値を更新する際に,写像の傾きの大きさに微小な変位を与える方法と状態値に変位を与える方法を導入し,これらの性能について,解軌道,リアプノフ指数,不変測度に対する実験的な調査を行った結果に基づいて議論する.更に,本稿では,微小変位を与えることで実装したベルヌーイシフト写像を擬似乱数生成器とみなすことでカオス乱数を生成し,得られたカオス乱数の性能という側面からの検討も行う.具体的には,ベルヌーイシフト写像の応答をしきい値を用いて変換した0,1の2値乱数系列に対して,NIST検定による解析を行った結果を示している.
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