同期タイミングの不確実性や時間方向に対し変化を伴う雑音を有する通信・記録システムは,シンボルの挿入と削除に代表される同期誤りにより,その信頼性や効率性が大きく損なわれる.本稿では,疎行列と確率推論に基づく符号化法を扱い,同期誤りが発生する通信路の確率モデル,確率推論に基づく復号問題の定式化,及び確率伝搬法による復号アルゴリズムを解説する.その後,既存の同期誤り訂正符号を幾つか紹介する.最後に,レーストラックメモリで生じる特殊な同期誤りに焦点を当て,筆者らが提案した空間結合符号化法を解説する.
スーパーコンピュータ「富岳」は2020年6月に計算性能を競うTOP500で世界最高性能を達成した.この記録は,論理・半導体回路及び試作機・量産製造の全ての面において様々な施策,例えば高速に浮動小数点演算を実行するための複雑な論理,その性能を最大限に引き出す高密度集積回路,そしてラック内にできる限り多くのCPUを搭載するための電気と冷却水のコネクタを一体化させた高密度ラック実装部品などによって支えられている.本論文では,これら施策を確実にするために「富岳」の開発において実際に活用された品質保証技術として,①大規模複雑な論理を小規模な検証環境においても短時間で確認する論理検証技術,②テスト回路部分の面積を削減しても必要な半導体故障診断を行う半導体テスト技術,③「富岳」の高密度実装を達成するために新規に開発された実装部品の設計品質を確認する試作機試験技術の紹介を行う.
超音波あるいは強力短パルス光の照射により発生する光音響波を用いたイメージングは,波長にほぼ反比例する分解能を有する.医学・生物学領域に限っても,使用周波数は数MHzからGHz帯域に達するために,十数cmから数μmに達するスケーラブルなイメージングが実現している.本稿では,筆者らのグループの研究成果を中心に,これらの画像技術について紹介し,その将来展望について言及する.
胆道閉鎖症の早期発見,治療を促す便色カードは,母子保健法施行規則の一部を改正する省令(平成23年12月28日厚生労働省令第158号)により,母子健康手帳に掲載することが義務付けられた.2021年で省令施行10年,本年2022年で配布10周年となる.本稿では,分光スペクトルデータに基づいた便色の分析結果や,分光レタッチを用いた便色カードの制作手順に加え,省令に採用された印刷色の仕様を示す.また実際に配布された数種類の便色カードの印刷色の評価結果を紹介する.
物流・空撮・点検・農業・災害対応などの分野において,山間部や離島,更には都市上空を目視外でたくさんのドローンが飛び交う時代がすぐそこまで来ている.しかし,その安全を確保するためにはドローン自体の信頼性の向上や運航管理システムの整備と並び,無線通信技術が重要な役割を果たす.本記事では,NICTで取り組んできた見通し外通信技術や機体間通信技術について紹介するとともに,来たる6G時代での実現が期待される超カバレッジ技術の一つとして研究開発が始まっている高高度プラットホーム(HAPS)を中継したドローンとの広域通信手段確保についての取組みにも触れる.
送受信に複数のアンテナを用いて同一周波数で異なる信号を多重送信するMIMO (Multiple-Input Multiple-Oputput) 伝送が実用化されている.本解説ではその発展形として無線端末が連携することにより等価的なアンテナ数を拡大し通信路容量を向上させる端末連携MIMO受信技術を紹介する.端末間の連携通信には高速かつ低遅延な高周波数帯の伝送技術の活用を想定している.連携通信トラヒックや空間相関と伝送容量の関係を解説した後,京都市郊外で実施したフィールド実験の結果を紹介する.
近年ではICTの普及に伴い,様々な情報システムやクラウドサービスの構築が容易になってきたものの,防災・減災分野に対しては,完全な要件定義が難しく,いまだ研究途上にある.筆者はアクションリサーチの手法で,被災地における支援活動を通してシステムやサービスの設計・開発・実証を進めてきた.また,実証によって得られた実災害のデータを分析し,データサイエンスとしての新たな知見抽出を行ってきた.本稿ではこれまでの活動をふりかえり,ディジタル化やDX化が進む次世代社会における「ディジタル防災」の必要性について言及する.
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