顎関節は側頭骨に接しており,近接臓器である耳鼻咽喉科領域の疾患と同様の症状が,顎関節疾患として表出される。そのため歯科医と耳鼻咽喉科医は顎関節周囲に共通する症状や互いの疾患に関して認識をもつ必要がある。両科おのおのによる近接領域の疾患への理解がプライマリーケアの観点からも重要である。耳鼻咽喉科の視点で顎関節周囲に関連する症状として考えられるのは耳痛,耳閉塞感,耳の中の違和感,難聴,耳鳴,聴覚過敏,めまいから近接部位である頸部の痛み,咽頭違和感,頸部腫脹などが挙げられる。急性外耳道炎,急性中耳炎,慢性中耳炎(真珠腫),突発性難聴,慢性副鼻腔炎,アレルギー性鼻炎,急性扁桃炎,急性耳下腺炎,頸部腫瘍,咽頭喉頭酸逆流症が主な鑑別疾患として重要と考える。今回,歯科医が顎関節疾患と耳鼻咽喉科疾患を鑑別するために必要であると考えられる疾患の特徴を提示する。
歯科医師は,日常診療で咬合の違和感を愁訴とする患者に対して,口腔顎顔面領域の診察と検査から,咬合状態,補綴装置,顎関節などの異常を見いだし,それらを除去することで症状の改善に繋げている。しかし,一部で,他覚所見が見つからない患者や,原因と判断した異常を除去しても改善できない症例に遭遇し難渋している。一方,患者のなかには,複数の歯科医療機関で治療を受けても緩解せず,苦悩している者がいる。
こうした症例は,Phantom bite syndromeやOcclusal dysesthesiaなどと呼ばれてきた。また,日本補綴歯科学会は,2013年により広い概念として咬合違和感症候群(Occlusal discomfort syndrome)を提唱した。これは,咬合違和感を呈する複数の疾患の総称である。また,狭義と広義に仮分類されており,狭義が前述の概念に類似している。
今回われわれは,はじめに,咬合違和感症候群の患者をbio-psycho-social modelの観点から捉えるための,病態分類(2021),専用問診票および2軸評定票(2021)を作成した。そして,これらの情報を基に,一般歯科医師が咬合違和感症候群患者を診療する際の指針となる,「咬合違和感症候群の診療フローチャート(2021)」を作成した。
フローチャートの目的は,診療指針として用いることで,患者の健康向上に資することである。
オーラルアプライアンス(OA)は,顎関節症(TMD)および睡眠時ブラキシズム(SB)の治療に広く用いられているが,そのエビデンスは不十分である。そこで本研究では,ランダム化比較試験によりOAの治療効果を調査し,TMDとSBの相互関係を調べることを目的とした。九州大学病院を受診したTMD患者のうち,咀嚼筋痛およびSBを有する者16名を対象として,OA装着群と非装着群(各8名)に無作為割付を行った。各群において6週間にわたり咀嚼筋痛の程度,口腔関連QoL(Oral Health Impact Profile-49,OHIP-49),SB(携帯型筋電図)の記録を行い,比較検討した。また,治療効果に関連する因子とそれらの関与程度を調査するため,心理学的因子とダイアリーの記録を行った。咀嚼筋痛に関して,VASによる痛みの主観的評価では群間に有意差は認められなかったが,筋圧痛スコアおよびOHIP-49スコアにおいてはOA装着群のほうが有意に改善していた。また,SBはOA装着直後において有意に減少したが,1,4,6週後には差はみられなかった。SBと咀嚼筋痛との間に相関関係は認められなかった。OA治療は,咀嚼筋痛の緩和に有効であること,また1週間程度ではあるがSBの減弱にも効果があることが明らかとなった。
われわれはEhlers-Danlos症候群(EDS)による習慣性顎関節脱臼に対して,関節隆起切除術を行った1例を報告する。患者は34歳の女性,当院整形外科より左側顎関節の脱臼と疼痛の加療を目的に当科紹介受診された。中学生時よりほぼ毎日左側顎関節が脱臼し,自己整復していた。現在も1日に2,3回程度症状が発現する。エックス線画像では左側関節隆起関節面の一部は平坦化を認め,MR画像では閉口位で関節円板は前方および内側転位しており,開口位でも関節円板の復位は認めなかった。2019年5月に左側関節隆起切除術を施行した。手術後2年経過しているが左側顎関節脱臼の症状は消失し,良好な顎運動が保たれている。